オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」中村獅童×赤堀雅秋 対談|天王洲の倉庫、新宿歌舞伎町のライブハウスで産声を上げる“傾奇芝居”

2019年5月、天王洲アイルの倉庫、新宿歌舞伎町のライブハウスから、オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」が赤堀雅秋の手により世に送り出される。「倉庫で歌舞伎をやってみたい」。そんな中村獅童の思いをきっかけに立ち上がった企画が、この「オフシアター歌舞伎」だ。本公演について、「2時間でも3時間でも語れますよ」と気合十分な獅童、そして“殺しを描く名手”である赤堀が、今回の挑戦について語った。

取材・文 / 川添史子 撮影 / 沼田学

「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」とは?

近松門左衛門が書き下ろした世話浄瑠璃。歌舞伎としては1909年に二世實川延若により初演された。複雑な家庭環境により荒んだ生活を送る大坂天満の油屋河内屋の息子・与兵衛の哀感と狂気、同業者である豊嶋屋七左衛門の女房・お吉の、与兵衛に対する思いやり、与兵衛を勘当するも心配でならない継父・徳兵衛と実母・おさわの情愛が巧みに描写されており、借金に苦しむ与兵衛が油まみれになりながらお吉を殺害する場面が大きな見せ場となっている。なお獅童は、2006年の「三越歌舞伎」で与兵衛を勤めた。

中村獅童×松竹が仕掛ける新たな試み オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」

オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」メインビジュアル

会場にプロジェクションマッピングを投影して来場者を迎え、舞台がスタートすればどっぷり古典「女殺油地獄」の世界へ。オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」では、ハイテクとアナログのギャップを楽しんでもらうべく、観客に“現代の歌舞伎”を感じてもらえる趣向を多数準備中。若者に人気のブランドNEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)とのコラボTシャツを枚数限定で販売するなど、歌舞伎初心者がライブ気分で楽しめる仕掛けが満載だ。

中村獅童×赤堀雅秋 対談

歌舞伎はストリートな芸能(獅童)

──記者会見(参照:中村獅童、オフシアター歌舞伎の構想明かす「“獅童ならでは”の作品に」)で、ついに「オフシアター歌舞伎」の内容が明らかに。斬新な趣向の数々に、ワクワクしています。

中村獅童

中村獅童 まだ僕が二十代の頃、ニューヨークのラ・ママ実験劇場でパーカッションの演奏に合わせて獅子の毛を振ったことがあるんです。劇場の天井裏で役者さんたちが普通に生活しているのを見て、世界にはいろいろなスタイルの演劇があるんだと知り、長年「日本にもこういうアンダーグラウンドな劇場があってもいいのにな」と思っていました。歌舞伎ってあくまで大衆のものでファッショナブルなものであり、反社会的でアナーキーな部分もある。ロックやパンクと一緒で、ストリートな芸能でもあるんだということを伝えたいし、その場として倉庫や歌舞伎町はぴったりだと思いますね。セリフのテンポも息遣いも大劇場とは変化するでしょうし、歌舞伎が本来持っているリアリティを赤堀さんがどう引っ張り出してくれるか、僕たちも楽しみです。

──脚本と演出を手がける赤堀さんは、どういった方向性を目指していますか?

赤堀雅秋

赤堀雅秋 コクーン歌舞伎「四谷怪談」(2016年)で演出助手をした際、至近距離で懸命にものを作る役者さんたちを見て、アホの子みたいに「歌舞伎ってカッコいいな」と(笑)、理屈ではない迫力を感じました。その体験を観客の方に伝えることが自分の使命。だから突飛なことを持ち込むつもりはなくて、原作に忠実に、極めてアナログな方向性でいくことを考えています。ただ、歌舞伎の素養がない自分にとってもスッと入ってくる言葉かどうかは冷静に見極めたいし、今の言葉に直すなどの工夫は必要だと思っています。お客様に「自分たちとは違う世界」と思われないよう、生々しい感覚のお芝居にしたいですね。

オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」
  • 2019年5月11日(土)~17日(金)東京都 寺田倉庫 G1-5F
  • 2019年5月22日(水)~29日(水)東京都 新宿FACE

作:近松門左衛門

脚本・演出:赤堀雅秋

出演:中村獅童、中村壱太郎、上村吉弥、嵐橘三郎、赤堀雅秋、荒川良々

中村獅童(ナカムラシドウ)
1972年生まれ。81年に歌舞伎座「妹背山婦女庭訓」で初舞台を踏み、二代目中村獅童を襲名した。歌舞伎俳優として活躍する傍ら、2002年に公開された映画「ピンポン」にドラゴン役で出演し、注目を浴びる。15年に市川海老蔵と「六本木歌舞伎」を立ち上げ、また同年には絵本を原作とした新作歌舞伎「あらしのよるに」を上演。翌16年には、バーチャルシンガーの初音ミクとコラボした超歌舞伎「今昔饗宴千本桜」を発表したほか、「渋谷・コクーン歌舞伎 第十五弾『四谷怪談』」に出演した。また19年4月と8月には超歌舞伎の公演が控えている。
赤堀雅秋(アカホリマサアキ)
1971年生まれ、千葉県出身。劇作家・演出家・俳優・映画監督。96年にSHAMPOO HATを旗揚げし(99年にTHE SHAMPOO HATに改名)、2012年に「一丁目ぞめき」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞した。映画監督としても活動しており、12年に公開された映画「その夜の侍」で新藤兼人賞 金賞、ヨコハマ映画祭 森田芳光メモリアル新人監督賞を獲得。16年には映画「葛城事件」を発表した。16年の「渋谷・コクーン歌舞伎 第十五弾『四谷怪談』」(演出:串田和美)で演出助手を務め、今回のオフシアター歌舞伎「女殺油地獄」が歌舞伎初演出となる。