マルチアングルで観る青年団「眠れない夜なんてない」座談会|観たい気持ちがかき立てられる!豊岡演劇祭2020 スペシャル配信

マルチアングル動画に向いている青年団作品は?

──これから演劇の配信がさらに増えていくと思いますが、今後もし青年団の作品がマルチアングル動画として配信されるとしたら、「この作品が向いているのでは」というオススメはありますか?

東京で座談会に参加する山内健司(左)、井上みなみ。

河村 今回、このマルチアングル動画についてKDDIさんとブレストしたときに感じたのは、既成の作品じゃなく、新作がいいんじゃないかなってことで。オリザさんも前々から、例えば大型客船のような空間で同時多発会話が展開するような芝居を作りたいと言っていて、それくらい複雑な作品世界であればお客さんが好きな場所を見て楽しめる。マルチアングル動画の特徴が生きてくるんじゃないかと思いました。

島田 僕は「科学シリーズ」(編集注:平田の初期代表作「カガクするココロ」「北限の猿」「バルカン動物園」など、生物学実験室を舞台にした研究者たちを描くシリーズ)とか、いいんじゃないかなって思います。めちゃくちゃ空白が多い芝居だからそれをいろいろな角度から見せたら面白いんじゃないかなって。

河村 確かに今のこの技術に、一番合ってるかもね。

井上 私は「東京ノート」(編集注:平田の第39回岸田國士戯曲賞受賞作。近未来の東京の美術館を舞台に、ロビーを行き交うさまざまな人の物語が紡がれる)かな。「科学シリーズ」は1幕1場の芝居だけど、「東京ノート」は美術館のロビーを舞台にしつつも、ロビーの外にイメージを飛ばす時間が長い作品という感じがしてて。登場人物の出入りも激しいし、外につながる場所というイメージがあると思うんですよね。だから美術館のロビーをさまざまな角度から見せれば、そこがどういう空間なのかを連想させやすいのかなって。

河村 そうだね。「東京ノート」は芝居やセリフがあるところとないところ、オンオフがあって、オフの見せ方が切り取り方で変わってくるような気がする。先輩は?

山内 “先輩”はあえて裏をいこうかな?(笑) 例えば「ヤルタ会談」(編集注:第二次世界大戦の終焉間際、スターリンとルーズベルト、チャーチルの対話をコメディタッチで描いた青年団のレパートリー演目)のように、3人くらいのお芝居で、俳優の目の当たりにカメラをつけて……。

「眠れない夜なんてない」より。©︎igaki photo studio
「眠れない夜なんてない」より、島田曜蔵。©︎igaki photo studio

一同 ああ!

島田 え、それは例えばチャーチルカメラで観る人はチャーチルになれる、みたいな感じですか?

山内 でもいいし、逆にチャーチルだけを映すとかでもいいよね。ほかの人の会話を聞いているときのチャーチルの表情もずっと見られたら面白いし、3人くらいの会話なら常に全体が見えてなくても、物語の整合性は取りやすい。そうやって観るぜいたくもあるような気がします。一方で、コロナ禍でZoomなどのインフラが一般的になって今一番感じているのは、時間は共有できるけど場所は共有できないということで、今後演劇の生配信が続くことによって、演劇が変わる可能性があるなとは思います。

──今後5Gの拠点が増えていけば、配信やVRも録画でなくライブがベースになる可能性は高いですし、離れた場所での通話もタイムラグなくできるようになるそうですが……。

山内 それはすごいですね。タイムラグの問題で、今はまだオンラインでの稽古がすごく難しくて、いろいろ諦めながら稽古してるんですけど、そこがスムーズになったらうれしいですね。

豊岡を新たなトライアルができる場所に

──青年団は豊岡に拠点を移され、今後はさらにさまざまな技術を使って各地に演劇を届けることが増えていくのではないかと思います。その点について可能性を感じていることはありますか?

井上 今回マルチアングル動画のお話を聞いて、音楽のことをすごく考えたんです。音楽って、楽曲という作品があり、それをCDやデータにしたり、さらにミュージックビデオにしたり、ライブで演奏したり……1個の音楽に対してすごくいろいろな楽しみ方がありますよね。でも演劇の場合は、ライブで上演する以外に何があるだろうと思って。その点、マルチアングル動画は、作品を楽しむ1つの方法として面白い可能性を持っているんじゃないかと思います。

上から井上みなみ、島田曜蔵、山内健司、河村竜也。

河村 大前提として、“今あるこの技術を使いこなしたい”という作家や演出家の欲求がまず重要ではありますが。豊岡が新しい技術を気軽にトライアルできる場であってほしいと思っているので、さまざまな技術を試してみたいと思うアーティストや技術者がいれば、ぜひ豊岡に中・長期滞在して、新しいものを生み出してほしいです。またそういう気運を牽引する劇団でありたいですね。

島田 今後豊岡で実験的な試みをどんどんやっていって、「これはさすがにダメだったね」という事例も出てくると思うんですけど、ぜひやっていったらいいんじゃないかと思います。例えば全然別の場所にいる人たちが、ホログラムで一緒に芝居することができたら面白そうだなと思いますし……。ちなみにVRって今は観るだけですけど、今後触覚的な部分は開発されるんですか?

──KDDIの方によると、開発はいろいろ進んでいて、でも現在はまだあまり汎用的にはなっていないそうです。

島田 そうなんだ。でも今後、舞台を観ながら役者の顔が触れちゃうような日が訪れるってことですね。それまでがんばりましょ。

一同 あははは!

山内 コロナによって、オンラインでコミュニケーションするというリテラシーが始まって約半年。今、すごい時代にいると思うんですけど、このリテラシーの行方が僕はすごく気になっていて。オンライン上で一緒に稽古できるくらい、技術的にミーティングの質が上がってほしいという思いはありつつ、同時に作り手として興味があるのは、場所は共有できないけれどオンラインにも人が集まっているという、その感覚なんですね。人が集まっているという感覚があれば、それをテコに、作品の可能性はドカンと広がると思うし、世界中でものが作れるなって。そこに期待してます。

「豊岡演劇祭2020 スペシャル配信」
配信中 ※2021年1月28日(木)まで
青年団「眠れない夜なんてない」より。©︎igaki photo studio
青年団「眠れない夜なんてない」

作・演出:平田オリザ

出演:猪股俊明、羽場睦子 / 山内健司、松田弘子、たむらみずほ、秋山建一、渡辺香奈、小林智、島田曜蔵、能島瑞穂、井上三奈子、村田牧子、井上みなみ、岩井由紀子、吉田庸

2020年9月17日収録 / 上演時間1時間58分

岩井秀人(WARE)「いきなり本読み!in 豊岡演劇祭」より。(撮影:三浦雨林)
岩井秀人(WARE)「いきなり本読み!in 豊岡」

企画・演出・進行:岩井秀人

出演:古舘寛治、藤谷理子、猪股俊明

音楽:種石幸也

2020年9月12日収録 / 上演時間2時間12分

Q「バッコスの信女ーホルスタインの雌」より。©︎igaki photo studio」
Q「バッコスの信女─ホルスタインの雌」

作・演出:市原佐都子

出演:川村美紀子、中川絢音、永山由里恵、兵藤公美 ほか

2020年10月12日収録 / 上演時間2時間28分

※マルチアングル動画の視聴には、「auスマートパスプレミアム」への加入とアプリのインストールが必要(auユーザー以外も加入可能)。


2020年11月20日更新