2016年初演のミュージカル「ALICE~不思議の国のアリスより~」(以下「ALICE」)が、2024年11月に新たな顔ぶれで上演される。
本作は、西田直木が上演台本・音楽・演出を手がけ、11月4日の青森公演を皮切りに全国13カ所を巡るミュージカル作品。今回は、「学生時代に2016年公演を観ていた」という田中夢羽がアリス役を務め、ハートの女王役でミュージカルに初挑戦する池上季実子らと共に、アリスと小説家チャールズの“摩訶不思議な冒険劇”を披露する。
ステージナタリーでは、田中、池上に加え、帽子屋ハッター役のROLLY、白ウサギ役の吉田要士による座談会を実施。歌稽古が始まり、本格的な稽古を前にワクワクした様子の面々が、和気あいあいと公演への期待を語った。
取材・文 / 大滝知里撮影 / 平岩享
私が観ていたアリスになれる!田中夢羽が感じた運命
──「ALICE」の出演オファーがあったとき、皆さん、どのような思いが巡りましたか?
田中夢羽 実は高校生のときに、前回の「ALICE」(2016年公演)を観ていたんです。当時、妹がアリスの格好をして、家族で一緒に劇場へ行ったことをすごく覚えていて。自分がそのときに観たアリスになれる!と思ったら、運命を感じました。
池上季実子 私は今回、初めてミュージカルに出演させていただくんです。数年前に病気をして、復帰したときに、別のミュージカル作品のオファーをいただいたんですが、とても歌える状態ではなくて。その1年後くらいにこのミュージカルのお話をいただいたので、「これは私にやれってことね?」と使命感に似た感覚でお受けしました。ミュージカルは、私は大好きで、チャンスがあれば飛びつきたいくらいのお仕事なんですが、これまで機会がなくて。今回は何の役をやるのかと聞くまでもなく、ハートの女王が頭に浮かんで、オファーが来たことに妙に納得しました(笑)。
ROLLY ミュージカルという点では、僕はこれまで「ロッキー・ホラー・ショー」という作品には関わっているんですが、「あれはやらないのか?」と周りから言われる役がいくつかあって。1つは「チャーリーとチョコレート工場」のウィリー・ウォンカ。もう1つが「アリス」の帽子屋ハッターだったんです。あまりにも言われるものだから「死ぬまでにきっと1度はやるんだろう」くらいに思っていたら、今回のお話をいただいて。“人生で必ずやらなければならないことの1つ”だと考え、61歳にして帽子屋ハッターを演じさせていただきます。とても光栄です。
吉田要士 西田直木さんが手がける「ALICE」に出演するのは、実は2回目なんです。前回は、田中さんが観てくれたという2016年の公演で、そのときは、今回河相我聞さんが演じるチャールズ役を務めました。でも、前から白ウサギがやりたかったんですよ!(笑) もちろん、チャールズのときはチャールズが大好きで、目いっぱい演じさせていただきましたが、8年経って白ウサギへの思いが募っていたところ念願かない、季実子さんにお仕えする白ウサギを演じられることがうれしいです。
セリフのトーンと歌のギャップ…池上季実子は自分の中のパンドラの箱を開けている
──“誰でも知っているアリスの誰もが知らなかった物語”というキャッチコピーが示す通り、劇中ではルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」が書かれる以前の世界を舞台に、穴に落ちたアリスが不思議な国で体験するさまざまな出来事がつづられます。それぞれ、演じるキャラクターのどこに魅力を感じていますか?
ROLLY 「不思議の国のアリス」は昔からある作品ですが、僕にとってはジョニー・デップが演じた映画「アリス・イン・ワンダーランド」のマッドハッターが決定的で。ジョニー・デップが好きなんですよ。映画「シザーハンズ」、映画「エド・ウッド」……ジョニー・デップが好きなのか、ティム・バートンが好きなのかわからなくなってきましたけど(笑)。今回、ジョニー・デップとは違ういやらしさを役に加えることができたら良いなと思っています。
池上 先ほど、オファーを受けたときに「女王が浮かんだ」と言いましたが、今までの私の役で皆さんが「大好きだった」とおっしゃってくださるのが、「おんな太閤記」の淀殿や「陽暉楼」の桃若といった個性が強い女性なんです。だからハートの女王役が腑に落ちたんですが、ハートの女王って、何かというと「首をはねてしまえ!」と命令する理不尽なイメージがあるでしょう? なぜそうなってしまったのかというと、愛する者を失ったからなんです。この作品ではその背景が掘り下げられています。寂しさや悲しさの裏返しが怒りになり、人を寄せ付けなくなることって、私たちが生きる社会でもよくあること。そういった感情が芝居のしどころで、楽しみなところだと思っています。
なのですが、ミュージカルはセリフのあとに歌があり、歌のあとにセリフがあって、私には50年間培ってきたセリフのトーンというものがあるから、あとに来る音がイメージと違ったときにとても戸惑うんです! 芝居の感情をコントロールしたり、アリスの高い声に引っ張られないようにしたりするために、今は身体を慣らす時間だと思って、自分の中の新しいパンドラの箱をいろいろと開けている気分です。
吉田 こんなふうにおっしゃっていますが、とっても素敵に歌っていらっしゃって。初めてのミュージカルとは思えませんよ。
池上 先生(吉田)の教え方がお上手なんですよ。「音を伸ばして」と言われてもどんなふうに伸ばすのかわからないじゃない。でも、「カーリングの石が、氷の上をスーッと滑っていく感じ」とおっしゃられて。なるほど!と。
田中 確かに、それはわかりやすいですね!
ウサギらしくなるため、身体作りをする吉田要士
──吉田さんは「白ウサギを演じたかった」とおっしゃられていましたが、それはなぜですか?
吉田 僕がこの作品の白ウサギをやりたかった理由の1つには、アリスが穴に落ちて最初に歌う「ワンダーランド」という曲があって。白ウサギが不思議の国に皆さんをご案内するという、とても華やかなダンスナンバーなんですが、その曲を歌って踊りたかったんです。それに、小さくて、ちょこまかしているところとか、「女王様ー!」と慕う感じとか、三男で甘えて育ってきたから、自分の中にあるものが白ウサギに近い気がしていて。出演が決まってから、ウサギらしく軽やかに舞台を駆け回りたいと思って、この歳でアクロバット教室に通い始めました。ロンダートやバク転ができたら最高だな、なんて考えていたんですが、衣裳に大きな耳が付いているから難しくて。でも、少しでも身体を使ってウサギを表現できたらと思っています。
──田中さんが今回、アリスを演じるうえで大切だと感じている部分はどこですか?
田中 原作のアリスは少しかわいらしくて、天真らんまんなイメージですが、今回のアリスは芯が強いところがあるので、アリスの女性らしい部分を表現できるんじゃないかなと思っています。お客様から観るとアリスは不思議の国に迷い込んでいく側で、私もそんなふうにアリスを観ていたんですが、今回はお客様も“迷い込んだ仲間の1人”だと感じてもらえるような演じ方ができれば。不思議の国でアリスと一緒に旅をするチャールズは、原作にはないキャラクターですが、旅の過程で2人がどう影響し合い、成長していくかというところもポイントだと思っています。私自身もその化学反応を楽しみたいです。
吉田 原作ではアリスは“少女”と言えるような年齢ですが、この作品では、比較的お姉さんの“ハイティーン”なイメージですよね。だから、しっかりとした自分の意見を持っている。
田中 思ったことがすぐ口に出てしまうところは、自分と似ているかなと思います(笑)。
──ROLLYさんは昨年と今年、「ものがたりの劇場『不思議の国のアリス』」という「不思議の国のアリス」のリーディングコンサートをされ、原作に対する解像度も高いのではないかと思います。帽子屋ハッターの役作りで何か準備されていることはありますか?
ROLLY リーディングコンサートでは僕がギターを演奏しながら全部の役を読むんですが、けっこうな時間がかかるので、昨年は3章まで、今年は7章くらいまでと分けてやることになったんです。それで、白状しますと、僕は適当に生きてきましたので、実は何もできることがないんですよ。強いて言えば、ちょっとギターが弾けるくらい(一同、総ツッコミ)。だから帽子屋ハッターで、もしギターを弾かせてもらえる瞬間があれば、うれしいなと思いますね。曲を聴いていても、「ここにこんなエレキギターが入ったら良いのになあ」とか思うことがあるので。いや、思っているだけですよ?
池上 できるかもしれませんよ! オリジナル作品だから。私が「ハッター、音楽が聴きたくなった。ギターを弾け!」って言えば良いんじゃないかしら。
吉田 そんなに自由な作品ではないんですけどね(笑)。
一同 あははは!