唐津絵理と山本麦子が語る、“実験と出会いの場”としての愛知県芸術劇場「ミニセレ2022」

愛知県芸術劇場のプロデューサーたちが、小ホールを会場に「今観てほしい」と感じる選りすぐりの作品を届けるミニシアターセレクション、略して「ミニセレ」。音楽・演劇・ダンス・美術と多彩なアートを紹介する同劇場ならではの、多様で先駆的・実験的なラインナップが魅力だ。2022年度には5作品が登場。それぞれの作品の見どころと「ミニセレ」に懸ける思いを、同劇場エグゼクティブプロデューサーの唐津絵理、演劇担当プロデューサーの山本麦子に聞いた。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 中垣聡

「ミニセレ」では、実験的で新しいものを多角的に紹介したい

──「ミニセレ」は、小ホールという空間性とジャンル横断を意識した愛知県芸術劇場のシリーズ企画です。プロデューサーのお二人は、「ミニセレ」のラインナップを考える際にどんなことを意識していますか?

唐津絵理 「ミニセレ」という名前で開催するのは今回が8年目ですが、愛知県芸術劇場の小ホールが30年前に実験的な小劇場としてオープンしたときから、ミニセレ的なコンセプトでキュレーションしてきています。また愛知県芸術劇場は、愛知芸術文化センターという複合施設の中にあるということもあって、例えばジャンルを越境したり、多角的なアプローチをすることで現代的かつ実験的な取り組みを行うことも可能です。企画を考えるときはそういう視点もあります。そしてその考えをさらに発展させて、1つのシリーズ企画として見せていくものとして「ミニセレ」を立ち上げました。ジャンル分けをすることによってこぼれ落ちてしまうような、先駆的・実験的で新しい試みをなるべくすくい上げていきたいと、私たちプロデューサーも視野を拡げて、柔軟かつ寛容に取り組もうと考えているシリーズです。

山本麦子 通常、劇場のラインナップは、演劇・音楽・ダンスというようにジャンル分けで組まれていたり、誰かが立てたテーマのもとに作品が並ぶことが多いですが、「ミニセレ」のラインナップを考えるときはあえてそういう形で絞らずに、年間を通して、ジャンル横断した多様な作品が並ぶようにしています。なので、「ミニセレ」の中のある作品を観て面白いと感じたら、別の「ミニセレ」作品にも視野を広げて観てもらいたいなと思っています。

──2021年度は9作品がラインナップされ、7作品が上演されました。新型コロナウイルスの影響で上演がままならない中、かなり多くの作品が上演されたのではないでしょうか。

唐津 コロナになって感じたことは、外出や観劇を我慢した生活を送りつつも、もし公演があるなら観に行きたいと思っている方がたくさんいらっしゃるということなんですね。こういう状況下でも「舞台作品に触れることで元気になりたい」という方が一定数いらっしゃるのであれば、例えば客席を1席空きにするなど、さまざまな感染症対策を講じて開催することで、お客様が少しでも安心・安全に作品を観られる状況を作りたいと私たちは考えてきました。

山本 観客の方には「やっぱり劇場で観劇するのはまだ怖い」という方もいらっしゃるし、「こういうときだからこそ劇場に来たい」という方もいて、どちらの考え方もあるなと。アーティストと話していても判断は多様なので、私たちはできるだけ臨機応変に対応していくという姿勢を取ってきました。結果、ギリギリまで粘って実現した公演もありますし、ギリギリまで調整し続けて最終的に形態が変化した公演もあり、「これまでこうだった」という枠を一度外して、今何ができるかを考え、模索し続けてきた1年だったなと思います。

左から山本麦子、唐津絵理。

左から山本麦子、唐津絵理。

世界で活躍する三東瑠璃率いる、Co.Ruri Mitoが登場

──そんな試行錯誤を経て、2022年度の「ミニセレ」には5作品がラインナップされました。

唐津 2022年度は国際芸術祭「あいち2022」が開催されるので、夏から秋にかけての劇場主催公演が通常の年より少なくなっていますが、その分、密度は濃いです(笑)。例えば、ダンスであっても物語をベースにしていたり、AAF戯曲賞の受賞者公演も振付家に演出をお願いしていたりと、今年度はさらにジャンルの“相互乗り入れ”が激しくなっていると思います。

──まずは6月に上演されるCo.Ruri Mito 2022「ヘッダ・ガーブレル」について教えてください。こちらは今、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の、三東瑠璃さんが昨年上演された作品です(参照:三東瑠璃がダンス・映像・音楽で紡ぐイプセン作品、映像出演に森山未來)。唐津さんが感じる三東さんの魅力とは?

唐津 身体の強靭さと異形としての身体ですね。三東さんの身体性は、その質感までも自身のカンパニーのダンサーたちともシェアされていますが、アンサンブルになったときには、モノ化した身体の塊が出現して、人間とはまた別の世界の生物がうごめく別次元の位相が立ち現れます。実はこれまでも三東さんとはご相談をしてきているのですが、彼女は海外でも大活躍なので、なかなかタイミングが合わなくて実現しませんでした。そんな中、昨年上演された「ヘッダ・ガーブレル」は、身体が移動するだけで空気が変容するような彼女の作品世界が、これまでのように抽象的な表現から、物語をベースにした作品の中でより熱量や質感などの実感を伴って感じられて、またいつもの作品とは違う見え方をして面白かったんです。物語の本質を身体と映像で探求するパフォーミングアーツ作品としても秀逸でした。それで今回、「ミニセレ」のラインナップとしてこの作品をご紹介するのも良いのではないかと思って上演を決めました。

Co.Ruri Mito「ヘッダ・ガーブレル」より。©︎matron2021

Co.Ruri Mito「ヘッダ・ガーブレル」より。©︎matron2021

──初演は客席数100程度の東京の小劇場、シアター風姿花伝でした。今回は空間がかなり変わるのではないでしょうか。

唐津 そうですね。傾斜舞台で、映像も非常に効果的に使われている作品ですが、小ホールではよりスケールが大きく見えるのではないかなと思います。また再演にあたって、ダンス的な要素を強化するようです。