藤澤経清×毛利亘宏×西田大輔、薄ミュを作った男たちがたっぷり語り尽くす!10周年記念鼎談 (2/2)

同じレールの上にいる同志たち

藤澤 僕、この薄ミュを作り上げる中で毛利さんや西田さんとお話ししていてすごくありがたいなと思うのは、自然と“新選組”とか“春”とか“桜”とかに対する共通認識がすごく被っているところで。お二人がすごく深く理解してくれているので、こちらがちょっと言うと「あ、あれだよね」って感じで大体察してくれちゃう(笑)。資料や参考画像を用意して……というのもまったくなく、打てば響く、みたいに同じビジョンを描けるんですよ。それは僕、「志譚 風間篇」のときから強く思っていました。「あ、僕らは同じ『薄桜鬼』というレールの上にいるんだ」って、ちょっとうれしくなりました。

西田 僕は今、演出・脚本・作詞をやらせてもらっていますけど、この薄ミュシリーズにおいては常にお二人の存在が大前提にある。今でこそこれだけアニメ、ゲーム、マンガ原作の舞台がたくさんできるようになりましたけど、毛利さんが薄ミュを始めた頃なんてまだ2.5次元という呼び方もなかったし、いわゆる2.5次元のような作品ってほとんどなかったでしょう?

西田大輔

西田大輔

毛利 ですね。僕もそれまで2.5次元作品の演出・脚本をほとんどやったことがなく、ミュージカルの経験も数えるほどしかなくて、作詞も実は初めてだったんですよ。「これはどうするんだろう?」って思いながら(笑)、楽曲に関してはもう(音楽の)佐橋(俊彦)先生に導かれるままに……。

──薄ミュは曲先ですか? 詞先ですか?

毛利 曲先です。それは佐橋さんが最初に「曲先のほうが良い曲ができるんだよ」って、ご自身がそうしたかったんじゃないかという感じも多少ありつつ(笑)。僕はそこで何度も失敗しながら作詞のルールを必死で覚えました。最初に書いた歌詞が「ヤイサ!ヤイサ!ヤイサ!」で、その「ヤイサ!~」とか「流儀~don't forget my Style」とか「SAMURAI future」のあたりでけっこう綺麗に言葉がハマっていって、すごく気持ち良かったなあ(笑)。それでミュージカルの楽しさを覚えていったのもあったし、ホントに初演は手探りだったのでほかにも「こういうことなんだろう」と思ってやったことがうまくハマっていったなあという感じがしましたね。

──「ヤイサ!~」はシリーズを象徴するナンバーになりました。そして“殺陣で踊る”というスタイルも薄ミュがその先がけに。

毛利 今でこそ「刀剣乱舞」のように殺陣もダンスもあるような作品がガンガン生まれていますけど、あのときはやっぱり刀を持って踊るなんて「合わねえだろ」って、相当言われましたからね。

藤澤西田 (うなずく)。

毛利 「土方歳三 篇」くらいまではかなり叩かれてたと思う。ホントに。風当たりが強かったです(笑)。

──賛否両論。実際、好きになってくれた人は本当に好きだし、一方でやはり「何やってんだ」という声もあって。そこに対しては役者もクリエイター陣も跳ね返していく信念、続けていく強い思いなどがあったのでは?

毛利 ありましたね、やっぱり。しかも「薄桜鬼」はすごく自分たちを投影しやすい題材だったんですよ。多摩の田舎の若者が京都に出て「本物の武士になる」という志を抱いて進んで行くっていうのが。西田さんがおっしゃったように、まだ2.5次元というジャンルの舞台のランクが低かったというか、「ほかの演劇とは違うでしょ」って思われている時期だったから。そういう意味では新選組同様、みんなで「ふざけんなよ!」みたいな反骨精神で生み出していった作品群でした。物語というものがちゃんとあったうえで、役者との絆じゃないですけど、役者から立ち上がってくるイメージを作品とどう一致させるか。そのキャラのイメージ=役者のイメージで「薄桜鬼」という物語を“本物の芝居”として再構築することに、僕はすごくこだわっていたなあと思います。

毛利亘宏

毛利亘宏

幸せな気分になる毛利版、“新選組感”の強い西田版

──原作の持つ強度がクリエイターと役者と観客に確実に響き、長く愛される作品として存在し続ける証になっているんですね。また、隊士たちの会話の中にも細かな歴史のリアルさや丁寧さを感じます。そうした漢たちの物語をたっぷりと見せてもらい、「ここぞ」というところで女性向け恋愛ゲームならではのキュンとしたシーンがやって来る。このタイミングでしかこの恋愛は成立しない、という高まりに「これが『薄桜鬼』だ」と唸ります。2.5次元作品では女性キャラクターの描き方の難しさもあると思いますが、薄ミュに関しては観客にとってそこが大きな楽しみにもなっているのではないでしょうか。その点について、演出するうえで心がけてきたことはありますか?

毛利 あくまでも男たちが真っすぐ夢に向かっていく中、千鶴というキャラクターが握っている運命に自ずとクロスオーバーしていくので、男女というよりは人と人としてしっかり立って時代と向き合った結果、恋が生まれたということが大事。初めから恋愛ありきで何か作ろうということは避けていましたね。

西田 藤澤さんといろいろ話してみると、歴史や登場人物1人ひとりの物語をものすごく細かく考えていらっしゃって、そこが面白いなあ、その考え方自体が良いなあって感銘を受けるんです。僕自身でいえば、新選組って本当に輝いた時間が少ないというか、こんなに脚光を浴びるはずがない、功績も特にないような、ま、多少はあるのかもしれないけれど、だからこその在り方にはかなさを感じていて。毛利さんも言っていた“自分たちと重なる感覚”とちょっと似ていますよね。僕らは彼らの最期を知っているけれども、彼らは別に最期と思っていない。あくまでも物語の中で瞬間瞬間を精一杯生きているから、その様を僕らがどう切り取って、千鶴に託すか。……いや、もしかしたら千鶴って誰よりも武士なんじゃないですか。

毛利 そう!

西田 っていう意味で千鶴にもすごく共感できるところがある。たった1人で生きているところも僕の好きな美学に通ずるところがあるから、どうしても自分はそこに意識が行くんだろうな。とにかく彼らの生きた風景を美しく切り取ってあげたい、とは思っています。

──藤澤さんは、毛利さんと西田さんそれぞれの作風の違いについてどうご覧になっていますか?

藤澤 まず原作の話になるんですが、僕が作る「薄桜鬼」って歴史厨というか非常に男臭さが出るんですよね。そのポイントを女性のライターさんや監修のスタッフがチェックして、思いもよらぬ要素が加わったりしながら作ってきたわけなんですけど、薄ミュの脚本やできあがった舞台を観ていて思うのは、毛利さんのときは「『薄桜鬼』ってものすごくワクワクするな」「すごく楽しいな」って幸せな気分になる感じ。一方、西田さんのほうはより“新選組感”が強いというか、とってもカッコいいんですよ。同じ原作のシナリオをベースにしているのに印象がまったく違って、「あ、“恋愛ゲーム”と“新選組”の違いってこんな感じなんだ!」って。

藤澤経清

藤澤経清

毛利西田 (笑)。

藤澤 面白いですよね。毛利さんは恋愛ゲームや女性に対するリスペクトを持って、ふんわりした部分をとても大事にされているなあという印象で。

毛利 うん。

藤澤 西田さんはキャラクター自身の思いや、志の強さを最後まで持っていくことを大事にされている。

西田 そうかもしれないですね。その違いは僕ら自身、すごくわかります……よね?

毛利 わかる。

藤澤 西田さんのはずっとヒリついているんです。だから最後まで目が離せない。西田さんの舞台を観て、これまでの毛利さんの作品と比べることができて、つくづくそう感じました。お二人それぞれの「薄桜鬼」の見方、すごいなあって。何をもってそういう描き方をされているのか、ぜひ伺いたいですね。

毛利西田 (目を合わせて)………(笑)。

藤澤 どうですか?

毛利 作風、ですかね。

西田 ですよね。そうとしか言えない。ただ僕はやっぱり、薄ミュはこのお二人のタッグで作られたミュージカルだっていう思いが常にあるので、そこに対しては真っすぐに向き合っていたいですね。あとはもう「薄桜鬼」の世界観をどれだけ壊さずにいられるかというのがやっぱり一番にあると思います。

10年経ってもまったく色褪せない

──前回の「真改 相馬主計 篇」に続き、次の「真改 斎藤一 篇」も西田さんが演出・脚本・作詞のすべてを担当されます。いよいよお稽古がスタートしますが(取材は3月に行われた)、今作に向けた意気込みをお聞かせください。

西田 初演は近藤さんがいない「斎藤篇」でしたが、今回は近藤さんもいてくれますし、まずは「薄桜鬼」という原作に真っすぐに向き合いたい。脚本の段階で藤澤さんにもアドバイスをいただいて、必要以上にものを語らなかった斎藤がどういう思いを持って生きているのかを大事に描いていきたいですね。本当にシンプルに、奇をてらったことは何もなく、原点に返って作っていければと思っています。また、初演の「斎藤 一 篇」でやっていなかったところを丁寧に描けるという喜びも大きいし、何より斎藤一役の橋本祥平がものすごい気合いで来るでしょうから、それを真っすぐに受け止めて、新鮮に……透き通った水のようなまま、舞台に上げたいですね。

──薄ミュ10周年を飾る1作。幕開けが楽しみです。

藤澤 ミュージカル、アニメ、ドラマといろいろな形で「薄桜鬼」をメディアミックスしていただいていることもあり、僕は振り返る時間もないままここまで来てしまいました。いつも京都でバタバタしている新選組と同じような感覚で、日々事件が起こり(笑)、気が付くと10年経っていたっていうのが正直な感想です。今では一世代前のファンの方が親子で薄ミュを観に来てくださってるっていうのを知って、改めて「ああ、そんなに長い時が経ったのか」と感じていますし、何だか自分だけ取り残されていたような気すらしています(笑)。でも、こうしてお二人と薄ミュの歴史をひもといていくと、「積み上げてきたものがあるんだなあ」「毎年毎年上演し続けてこられたのはすごいことだなあ」と実感しますね。薄ミュ、これはもう、1つのジャンルです。自分もそこに関われたことがうれしいし、ありがたい。10年という時の流れを感じながら、薄ミュを好きな皆さんとこれからも楽しんで観続けたいなと思っています。

毛利 なんだろう。未練がないといえばうそになるけれども、現に西田さんと役者たちが死に物狂いで作ったものが今ここにあると思うと、「俺は俺で負けないぞ」っていう気持ちで観るしかないですね(笑)。薄ミュは10年経ってもテーマがまったく色褪せないというか、今でもストレートに胸に刺さるお話ですので、これからもずっと続いていってもらえると良いなと思います。これからもより一層のご声援をお願いしたいです。

西田 薄ミュを応援してくださっている皆さんそれぞれに、“自分にとってベストな「薄桜鬼」”があるんじゃないかあと思っているんです。それがあることを絶対に忘れず、リスペクトし続けたい。そして、この先も形を変えて続いていく薄ミュを観に劇場へ足を運んでもらえたらとてもうれしいです。

左から毛利亘宏、藤澤経清、西田大輔。

左から毛利亘宏、藤澤経清、西田大輔。

プロフィール

藤澤経清(フジサワツネキヨ)

1969年生まれ。ゲームプロデューサー。デザインファクトリー株式会社所属。ゲーム「薄桜鬼」シリーズの総合プロデューサーを務め、原案・構成監修などを手がける。

毛利亘宏(モウリノブヒロ)

1975年生まれ。脚本・演出家。少年社中主宰。「ミュージカル『薄桜鬼』」では、2012年の「斎藤 一 篇」から2017年「原田左之助 篇」まで演出を担当し、2019年の「志譚 風間千景 篇」まで脚本・作詞を手がけた。

西田大輔(ニシダダイスケ)

1976年生まれ。劇作家・脚本家・演出家・映画監督・俳優。AND ENDLESS主宰、DisGOONie代表。「ミュージカル『薄桜鬼』」では、2018年の「志譚 土方歳三 篇」から演出を担当し、2021年の「真改 相馬主計 篇」から演出・脚本・作詞を手がけている。