参加者の好きなものがじわじわと伝わってくる喜び
──若鍋さんと伊神さんは、2023年度から「共生共創事業」のプログラムとして、打楽器を中心とした音のワークショッププロジェクト「音の探検隊」を実施しています。特に若鍋さんは、「共生共創事業」に携わる以前から“障がいと表現”に関する活動をライフワークにされていましたが、「共生共創事業」に参加して新たな気づきはありましたか?
若鍋久美子 これまでのワークショップでは子どもたちとの活動が中心で、特別支援学校卒業後の大人の方々と取り組むのは、「共生共創事業」が初めてでした。参加メンバーには、自分より年上の方もいらっしゃいます。歳を重ねているぶん、その方の好みやこだわりもよりはっきりしていて、何度もお会いして一緒に音を出していると、それぞれの“生き方”のようなものが音に乗って、じわじわと伝わってくるんです。その時間が本当に尊いなと感じました。
伊神柚子 これまで施設に伺うのは訪問演奏が中心で、「音の探検隊」がほぼ初めてのワークショップでした。ワークショップの回数を重ねるごとに、参加者の方々と私たちの距離が自然と近くなり、どんどん味が出てきて、それをかみ締めて参加者の方々とシェアする時間がとても心温かく、たまらない瞬間でした。
若鍋 同じ施設で継続してワークショップを行う中で、同じメンバーでも会うたびに新しい一面を見せてくださったり、興味が広がっていったりして、場の雰囲気も少しずつ変化していきます。だからこそ、ワークショップのやり方を固めすぎず、その場のやり取りの中で生まれるものを大事にしたいと思っていて。また、興味や楽しみ方は人それぞれで、打楽器を演奏することが好きな方もいれば、ギターの響きを聴くことが好きな方、一緒に歌うことを楽しむ方、音だけでなく触覚で味わう方もいます。そうした違いに応えられるように、さまざまなミュージシャンやダンサーの方に関わってもらい、自分たちの表現の幅を広げていきながら、参加者それぞれの“好き”にフィットするポイントを増やしていけたらいいなと思っています。
私たちの“探検”はまだまだ終わらない
──多機能型事業所LEOで2月下旬に行われた3回目のワークショップを見学させていただき、若鍋さんと伊神さんが参加者の皆さんに寄り添いながら、ワークショップの環境作りをされている姿を拝見しました。「音の探検隊」では2025年度もさまざまな活動を展開してきましたが、特に多機能型事業所LEOを訪れて感じたことを教えてください。
伊神 LEOが民家を利用した施設であることからワークショップのイメージを膨らませることができたので、満場一致で「LEOへ行ってみたい!」ということになったんです。「ぜひあの場所でチェロの温かい音色を聴いてもらいたい」という思いがあり、12月に行った1回目のワークショップには、チェリストの袴田容さんに参加していただきました。子どもたちに、楽器を演奏するだけでなく、楽器の音色にじっくりと耳を傾けてもらう機会を持てたのが大きな収穫だったと思います。
また、2023年度はスプラウトに7回伺い、2024年度は毎回違う場所でワークショップを行ったのですが、2025年度はソーレ平塚とLEOにそれぞれ3回ずつ行かせていただきました。特にソーレ平塚のワークショップには、3回ともほぼ同じ方が参加してくださったので、お会いするたびに関係性を深められたと思います。私たちも「あの方にはあの楽器が合うんじゃないかな」「あの方にはああいったアプローチの仕方が良いんじゃないかな」といったように、1人ひとりの顔を思い浮かべながら準備をすることができました。
若鍋 LEOには医療的ケアの必要なお子さんがいるので、「ワークショップで布を使っても大丈夫かな?」といった安全面について心配していました。これまであまり意識できていなかった部分でもあったので、職員の方にお話を伺いながら連携して活動できたことは、とてもありがたく感じています。
これはまだ考え中で、答えは出ていないんですけど、「ワークショップを単発のイベントとしてだけで終わらせていいのか」という思いが強くなりました。というのも、もともとその施設にある日常や空気感を、こちらが受け取ることも大事だと感じていて。日常があって、ワークショップがあって、また日常に戻る。その流れの中で関わりが続いていく。それを想像すると、ワークショップの中で偶然生まれる関わりが、その後の日常を少し変えることもあるのかもしれないと思いました。また、LEOでのワークショップに参加したお子さんのお母さんが、とても楽しんでくださっていた姿が心に残っていて、今後は親子で参加できる機会を作るのも楽しそうだなとも考えています。
──「音の探検隊2025」を通して学んだことで、今後の「音の探検隊」に生かしたいことを教えてください。
若鍋 今年に限らず、ワクワクすることを自分自身で見つけることは、これからも大事にしていきたいと思っています。2024年度の施設ワークショップに参加してくださった方が、「(ひらしんホールでの)イベントに行きたいけれど、サポートしてくれる方がいないと行けないんだ」と話してくれたことが、ずっと心に引っかかっていて。自分で選択できる機会を増やすことはもちろんですが、それをどうやって実現していくのか、具体的な方法も含めて、一緒に考えていきたいです。
伊神 2025年度の「音の探検隊」は終了しましたが、私たちの“探検”はまだまだ終わっていません。今後もワークショップを行うそれぞれの場所で、参加者と共に試行錯誤を続けていきたいです。
プロフィール
若鍋久美子(ワカナベクミコ)
千葉県生まれ。東京藝術大学打楽器科卒業。フリーランスの打楽器奏者としてオーケストラ、吹奏楽、打楽器アンサンブル、現代音楽などクラシック音楽を中心とした演奏活動のほか、ブラジル音楽やオリジナル曲を演奏するバンド・Coro do Picapauのメンバーとしても活動中。作曲やアレンジ、またダンサーとのコラボレーションや即興セッションなど幅広い表現を追求している。音やリズムであそぶワークショップ、アウトリーチの活動にも力を入れており、“音と身体をつないでいくこと”を大切にさまざまな角度からアプローチしている。NPO法人芸術家と子どもたち、NPO法人ARDA「ふれあいアート」、神奈川県立音楽堂アウトリーチほか、各種イベントを通して、大人も子供も障がいの程度や状態も関係なく、1人ひとりの表現をお互いに楽しみ交流している。また、認定NPO法人ミュージック・シェアリング「楽器指導支援プログラム」にて特別支援学校の楽器指導も行っている。
伊神柚子(イカミユズ)
東京都生まれ。洗足学園音楽大学管楽器科トランペット専攻卒業。幼少からミュージカル、ピアノ、バレエに触れ、中学から高校時代は吹奏楽部に所属し、トランペットを担当。大学時代は、副科で声楽、ジャズボーカルも学ぶ。卒業後、吹奏楽部指導やトランペットの個人レッスンを行うほか、フリーのボーカリストとして、東京都内を中心に活動。




