ローソンチケットpresents「ここだけの話 ~クリエイターの頭の中~」最終回 三浦直之×北尾亘×山本卓卓|リスペクトも嫉妬もある、気になる存在

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劇団を続けること自体が大きな演劇活動なんじゃないか(三浦)

山本 2人は結婚願望とかあるの?

北尾 唯一の既婚者から質問が(笑)。俺はいつか結婚したいし、命を繋いでいきたいって思いもあるから子を持ちたいね。三浦くんは?

三浦直之

三浦 ちょっと前まで「子供欲しい」と思ってたんだけど、今はそこにたどり着く前の前の前の段階みたいな感じで(笑)。まず恋愛がわかんないし、「果たして俺は恋したいのか?」みたいな。8月に「恋を読む『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』」という朗読劇の脚本・演出をするんだけど、「なんでこんなセリフ書いてるんだろう」って悩みながら書いてます(笑)。

山本 (笑)。俺は娘が生まれてから生活が大きく変わって、“私とあなた”が、一気に“私たち”になった。範宙遊泳もそのつもりでやってきたところがあって、“私たち”にしていくために立ち上げたつもりなんだけど、やっぱり劇団は血では繋がれない。メンバーも価値観が変わっていくし。でもそれを1つにしようと思わないし、考え方は違って全然OKだけど、じゃあ繋ぎとめるものってなんだろう?と思ったりもする。

三浦 作品だけじゃなくてコミュニティや場を作るのも演劇の大事な行為だよね。すごい地味だけど、劇団を続けること自体が大きな演劇活動なんじゃないかって最近思う。

北尾 自分は生涯創作を続けるつもりがあるから、屋号をBaobabと名付けたことはすごく重要で。バオバブって巨大な木だから、人が集まる待ち合わせ場所になったり、遠くに去っていった人が振り返ったときもそこにあり続けるもの。そんな場所を育て続けたいなと思ってやってます。最近増えたメンバーがダンサーじゃなく、映像兼ドラマトゥルクや制作者だったりして、緩やかに変化していってる。自分が創作意欲をかき立てられたものとその都度、身体で向き合うことは変わらないけど、いろんなセクションの仲間による視点が増えたことで「人々にどれだけアクセスできるか?」という使命感は大きくなってきた。

山本 なるほどね。範宙遊泳は立ち上げて10年経ったけど、「20年安泰。」や14年の「TPAM」への参加とか、3年周期ぐらいで自分のビジョンを一気に変えられる出来事が起きて、気付いたら海外で公演するようになってたし、自ら環境を変えたというより、出会いや偶然が重なって今に至る。

三浦 ロロはメンバーも三十代に入って、年齢の問題が出てきた。最初から“ボーイ・ミーツ・ガール”を掲げて活動して来たけど、二十代が演じる“少年少女”から、三十、四十代が演じる“少年少女”にシフトしていくかもしれない。でも最近ニュースで“少年おじさん”みたいな人のセクハラ問題とかを見てて、「それもどうなんだろう?」と思うようになった。少年性を保ったまま、どうやって歳をとれるかを考えていたけど、そのまま大人になった人がヤバいことしてるのを知って、どうしていくべきか悩んでて(笑)、もしかしたら“ボーイ・ミーツ・ガール”というテーマを変えていく可能性もあるかもしれないな。

東京なら東京、インドならインドの、その土壌でしか生まれ得ない演劇を(山本)

山本 三浦くんの書く言葉は三浦くんという人間にすごく近くて、地続きな感じが本当にピュアだなと思う。どの役者がしゃべっても三浦くんが書いたセリフってわかるし、それは作家として尊敬してる部分。言葉に“三浦印”が付いてるっていうのは重要なことだよ。

北尾亘

北尾 うん。振付で関わったから何回も観させてもらったんだけど、「BGM」はパンチラインの応酬だった。冒頭に出てくる「あちぃー!」ってセリフが、なんでかよくわからないけど素敵で、毎ステージ“三浦印”の「あちぃー!」を待ってる自分がいた(笑)。卓卓は海外との繋がりができる前とあとで扱う言葉の質が変わったよね?

山本 変わったね。「幼女X」(13年)あたりからプロジェクターで言葉を投影し始めたときも思ったけど、多言語を同時に扱うことについても「パンドラの箱を開けちゃったんじゃないか?」って。どこまで追求してもキリがない領域に身を投じてしまってる。

三浦 卓卓くんの作品は、どんどん言葉を削ぎ落としてる印象があって、それはちょっとした言葉だったりするのに、そこに詩情が宿ってる。過剰にエモーショナルにしないで、シンプルなのに紋切り型じゃない言葉を書いてる気がするな。

山本 海外の劇団とコラボするときは特に、日本語の言語感覚で書いてしまうと、翻訳したときに意味がズレるから、言葉を飾ってもニュアンスが乗らないんだよね。だから最初からシンプルに書くようになった。11月にやる「#禁じられたた遊び」は、日本語以外の言語を話せる俳優たちと作るんだけど、東京にいるとコンビニに入ったら外国人が普通に働いてるよね? 街を歩いててもすれ違う外国人が増えてる。当然ハーフやクォーターの人たちの存在もあるし、その日常を無視して芝居を作ることが恥ずかしくなってきた自分がいて。

北尾 Baobabはずっと国内でやってたんだけど、今年の6月にサンフランシスコのフェスティバルに参加して、初めて海外公演ができた。僕は関東を離れて他地域の人と出会って一緒に作ることも好きで、別の土地に立って、空気を吸ってみるのは超重要だなって思う。それは身体にもダイレクトに影響を与えてくれるから。だから9月に「東京キャラバン」で高知に行くのも楽しみ。卓卓は海外公演を経て何を感じる?

山本 作品は農作物と同じだと思ってて、東京なら東京、インドならインドの、その土壌でしか生まれ得ない演劇が絶対あるし、そうあるべきだなと。来年、半年ニューヨークに滞在することも大きな経験になると思う。ニューヨークはこれまで2度訪れていて、そこで感じたのは「異物でいられる」という心地良さがあること。そもそもアメリカなのに英語を話せない人がいっぱいいるし。正直言って、東京に住んでいても自分は許されてない、みたいな息苦しさを感じることがよくあるんだけど、ニューヨークは多様性を許容する感じが、ほかの都市とは格段に違った。

三浦 俺は東京が好きじゃないって気持ちが強くて、予定が空くとすぐ実家の宮城に帰ってる。ロロをやってるから東京にいるし、もし自分1人でやってたら、とっくに拠点を移してたと思う。あと自分の中では、福島(いわき総合高等学校)や、大阪(追手門学院高校)で高校生たちと創作したことは大きな経験だな。普段誰かに愛情を伝えるとき、自分でも「これ本当かな? 変な邪心がまじってるんじゃないかな?」とか思うけど、高校生に対しては、「マジでこいつらのこと100パーセント愛してる!」って思えて、演出してても「どうかこいつらが、舞台上で輝いてくれますように!」って純粋に思うことができて感動した。

左から三浦直之、北尾亘、山本卓卓。

環境や次の世代に繋げるところまで意識を向けたい(北尾)

三浦 俺は固有名詞で繋がれる空気感と言うか、例えばバラエティ番組の「めちゃ×2イケてるッ!」をどう受け止めて来たか?みたいな、共通認識を持ってる同年代と作品を作るのが好きで。でもそれを共有できる人とだけ、ぬくぬくし続けてていいのかな?とも思ってて。この先、コミュニティの外側にいる人からは理解されないかもしれないって問題はある。

山本卓卓

山本 1987年生まれに共通することで言うなら、“ゆとり世代”(編集注:小中学校では02年度、高等学校は03年度に施行された学習指導要領による教育を受けた世代)というレッテルがある。なぜ土曜日が休みになるのか理由も聞かされず、“ゆとり教育”という言葉があとから付いてきたことは精神形成の上ですごく大きかった気がしてて、「土曜日休みなんだって、ラッキー!」ってただ喜んで普通に暮らしてただけなのに、あとから「あれは失敗だった」とか言われると、過去を否定された気持ちになる。世間的に押された烙印に対しての怒りがあるし、それを動機にして作品を作ってるところがある。

北尾 「キレなかった14才♥りたーんず」(編集注:09年、柴幸男、篠田千明、中屋敷法仁、神里雄大、白神ももこ、杉原邦生という同世代の演出家が集まった企画公演)がうらやましかった。横の世代間でムーブメントが起きたのはすごく良いことだと思うし、同世代との結び付きは、関係を結べば結んだだけ強くなると思ってる。その出来事がそれぞれの歴史の基点になって、変化も距離も認識できるから。だからBaobabで若手を集めた「DANCE×Scrum!!!」を企画したんだよね。ダンスを取り巻く環境や次の世代に繋げるところまで意識を向けたいと思ってる。

北尾亘(キタオワタル)
1987年兵庫県生まれ、神奈川県育ち。2009年にBaobabを立ち上げ、全作の振付・構成・演出を担当するほか、ダンスフェスティバル「DANCE×Scrum!!!」を主催。振付家として柿喰う客、範宙遊泳、ロロ、木ノ下歌舞伎などの作品の振付を手がけ、ダンサーとして近藤良平や多田淳之介の作品、俳優としても中屋敷法仁、杉原邦生、山本卓卓の作品に出演している。トヨタコレオグラフィーアワード2012 オーディエンス賞、第3回エルスール財団新人賞 コンテンポラリーダンス部門、横浜ダンスコレクション2018 コンペティションI ベストダンサー賞などを受賞。9月1日から4日まで東京・吉祥寺シアターでBaobab2年ぶりの新作本公演「FIELD-フィールド-」を上演し、9月16日に行われる「東京キャラバン in 高知」に参加する。
三浦直之(ミウラナオユキ)
1987年宮城県生まれ。2009年にロロを立ち上げ、全作の脚本・演出を担当。多彩なポップカルチャーをサンプリングしながら異質な存在の“ボーイ・ミーツ・ガール=出会い”を描き続けている。15年からは高校生に捧げる「いつ高」シリーズを始動。外部作品の脚本、演出、映画やMVの監督を務めるなど、ジャンルを飛び越えて活動している。「ハンサムな大悟」で第60回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。8月2日から13日まで、東京・早稲田小劇場どらま館で「ロロが高校生に捧げるシリーズ いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校 vol.6『グッド・モーニング』」、8月24日から29日まで東京・オルタナティブシアターで朗読劇「恋を読む『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』」を上演。
山本卓卓(ヤマモトスグル)
1987年山梨県生まれ。2007年に範宙遊泳を立ち上げ、全作の脚本・演出を担当。投影したテキストと俳優の身体を組み合わせた演出や観客の倫理観に問いかける脚本で国内外で作品を発表。近年はマレーシア、タイ、ニューヨーク、シドニーなどで海外公演を行い、インド、シンガポールの劇団とそれぞれ共同制作の末、新作を発表した。「うまれてないからまだしねない」で第59回岸田國士戯曲賞最終候補、「その夜と友達」で第62回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。10月13日から11月18日まで開催される「フェスティバル/トーキョー18」ではドキュントメント名義で映画作品「Changes」を創作するほか、11月23日から28日まで東京・吉祥寺シアターで範宙遊泳「#禁じられたた遊び」を上演。