クリエイターの創作はどこから始まっているのか? 実は、台本執筆や稽古場に入るずっと前、普段の“頭の中”ですでに始まっているのではないか? 目の前の作品のことだけじゃなく、作り手の普段の頭の中を覗いてみたい。そんなクリエイターたちの頭の中を、クリエイターたちのトークによって垣間見せてもらおうというのが本連載だ。
最終回はBaobabの北尾亘、ロロの三浦直之、範宙遊泳の山本卓卓が登場。1987年生まれの同い年で以前から交流のある彼らだが、この3人だけで集まるのは数年前に飲んで以来だと話す。劇作家、演出家としてお互いを強く意識してきたと語る三浦と山本、そして両者の作品に振付家や出演者として携わってきた北尾。三十代を迎え、ますます活躍が期待される彼らに、これまでのこと、そして、これからのことを聞いた。
取材・文 / 川口聡 撮影 / 三浦一喜
三浦くんは理数系で、卓卓は文系(北尾)
山本卓卓 (北尾)亘と僕は桜美林大学の同期でした。
北尾亘 当時、教室の端で(山本)卓卓が別の友達とふざけ合ってて、「何してんの?」って話しかけたら、「“嘘の話”をしてる」って言うんです。「今からする話は、全部“嘘”なんだけどね」というやり取りを延々としてて、「ヤバいやつだな」って思った(笑)。
山本 覚えてる(笑)。亘は社交的で人当たりが良くて、腰が低いって第一印象だった。
三浦直之 亘くんは今も変わらない印象だね(笑)。俺は卓卓くんが演出した「三五大切」(2010年)を観に行って、その終演後に卓卓くんと初めて会った。卓卓くん、あのとき坊主だったよね(笑)。
山本 坊主だった(笑)。
北尾 三浦くんと最初に会ったのは、ロロと範宙遊泳が参加した「20年安泰。」(編集注:東京芸術劇場が若い才能を紹介する「芸劇eyes」の番外編として11年に行われた企画)の打ち上げで、がっつり話したのは「KYOTO EXPERIMENT 2012」に参加したとき。そのあと三浦くん演出の「ロミオとジュリエットのこどもたち」(14年)で振付を担当させてもらいました。
三浦 俺は亘くんが所属してるさんぴんの「NEW HERO」(15年)に演出監修として参加したとき、亘くんの立ち居振る舞いや場の整理の仕方が良いなと思って。「ロミジュリ」では時間も足りなくてがっつりクリエーションできなかったのが心残りでもあったので、ロロの「BGM」(17年)が全体的に音楽を使う作品だったから、また振付をお願いしたんです。
北尾 三浦くんと卓卓って作り方が対照的で。三浦くんは理数系な感じがして、描きたいものに対して向かっていく工程が計算式みたいで、ロジックが見えやすい。だから振付もかなり整理してから提案するとスムーズにいった。
三浦 へえー、理数系か。意外だな。
北尾 卓卓は文系な印象があって、システムも見えない。特に卓卓のソロプロジェクトのドキュントメント「となり街の知らない踊り子」に出演したときは、振付も演出も並行して手がけたし、稽古も完全に1対1だったから、舵取りや表現の膨らませ方をこっちから持ちかけたり、身を委ねてみたり、どんなレベルでも伝えられた。
山本 お互いに明確なビジョンがあったから、建設的な駆け引きができたよね。亘とはクリエイターとしての絆も生まれて、今は“戦友”に近い感覚です。
大前提として2人のことをリスペクトしてる(北尾)
三浦 何年か前に「卓卓くんがこうしてるから、自分はこうしよう」みたいなのを無意識レベルでやってることに気付いたんだよね。同世代の作家・演出家の中でも特に卓卓くんの動向は気にしてる。
北尾 卓卓は三浦くんを意識するの?
山本 もちろんするよ。三浦くんと俺は、最近特にフィールドも違ってきてて、三浦くんはどんどんポップにいくし、俺はポップじゃないほうにいってるかもしれないって思う。でも俺にもポップな精神はあるし、「こいつどんどん気難しいやつになっていくぞ」って思われるのも嫌だ。だから三浦くんは自分を見つめ直す存在でありつつ、邪魔な存在でもある(笑)。
三浦 わかる(笑)。俺は卓卓くんが海外でやってることに対して劣等感を感じることがある。自分はサブカルチャーの共通言語を持ってる人たちの中だけでやってるんじゃないか?って。卓卓くんが文化も言語も違う人たちとコミュニケーションを取りながら作ってることに尊敬も嫉妬もあるし、同じことが自分にできるかな?とも思う。
北尾 僕はジャンルも闘う場所も違うけど、大前提として2人のことをリスペクトしてます。作品に携われば、もちろん自分にフィードバックできることがたくさんあるし。作品に対する考え方にしても、ダンスより演劇のほうが進んでるなと常々感じるんですね。だからダンサーに演劇を観ることを勧める。僕は僕で、自分が演劇に関わって吸収したことを自分なりに咀嚼して、ダンスに携わる人たちに渡していきたい。まずはBaobabを良き場にして、シーンを活性化させていくことを使命に置き換えてます。
次のページ »
劇団を続けること自体が大きな演劇活動なんじゃないか(三浦)
- 北尾亘(キタオワタル)
- 1987年兵庫県生まれ、神奈川県育ち。2009年にBaobabを立ち上げ、全作の振付・構成・演出を担当するほか、ダンスフェスティバル「DANCE×Scrum!!!」を主催。振付家として柿喰う客、範宙遊泳、ロロ、木ノ下歌舞伎などの作品の振付を手がけ、ダンサーとして近藤良平や多田淳之介の作品、俳優としても中屋敷法仁、杉原邦生、山本卓卓の作品に出演している。トヨタコレオグラフィーアワード2012 オーディエンス賞、第3回エルスール財団新人賞 コンテンポラリーダンス部門、横浜ダンスコレクション2018 コンペティションI ベストダンサー賞などを受賞。9月1日から4日まで東京・吉祥寺シアターでBaobab2年ぶりの新作本公演「FIELD-フィールド-」を上演し、9月16日に行われる「東京キャラバン in 高知」に参加する。
- 三浦直之(ミウラナオユキ)
- 1987年宮城県生まれ。2009年にロロを立ち上げ、全作の脚本・演出を担当。多彩なポップカルチャーをサンプリングしながら異質な存在の“ボーイ・ミーツ・ガール=出会い”を描き続けている。15年からは高校生に捧げる「いつ高」シリーズを始動。外部作品の脚本、演出、映画やMVの監督を務めるなど、ジャンルを飛び越えて活動している。「ハンサムな大悟」で第60回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。8月2日から13日まで、東京・早稲田小劇場どらま館で「ロロが高校生に捧げるシリーズ いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校 vol.6『グッド・モーニング』」、8月24日から29日まで東京・オルタナティブシアターで朗読劇「恋を読む『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』」を上演。
- 山本卓卓(ヤマモトスグル)
- 1987年山梨県生まれ。2007年に範宙遊泳を立ち上げ、全作の脚本・演出を担当。投影したテキストと俳優の身体を組み合わせた演出や観客の倫理観に問いかける脚本で国内外で作品を発表。近年はマレーシア、タイ、ニューヨーク、シドニーなどで海外公演を行い、インド、シンガポールの劇団とそれぞれ共同制作の末、新作を発表した。「うまれてないからまだしねない」で第59回岸田國士戯曲賞最終候補、「その夜と友達」で第62回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。10月13日から11月18日まで開催される「フェスティバル/トーキョー18」ではドキュントメント名義で映画作品「Changes」を創作するほか、11月23日から28日まで東京・吉祥寺シアターで範宙遊泳「#禁じられたた遊び」を上演。