ローソンチケットpresents「ここだけの話 ~クリエイターの頭の中~」02. 上田大樹×ムーチョ村松|お客さんが感動するのは、テクニックじゃなくてもっとシンプルなこと

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クリエイターの創作はどこから始まっているのか? 実は、台本執筆や稽古場に入るずっと前、普段の“頭の中”ですでに始まっているのではないか? 目の前の作品のことだけじゃなく、作り手の普段の頭の中を覗いてみたい。そんなクリエイターたちの頭の中を、クリエイターたちのトークによって垣間見せてもらおうというのが本連載だ。

今回は、近年の舞台映像界を牽引する映像作家・上田大樹とムーチョ村松が対談。ナイロン100℃や劇団☆新感線の舞台などでスタイリッシュな映像を繰り広げる1978年生まれの上田と、「ポリグラフ-嘘発見器-」やハイバイ作品などで強烈なインパクトを与え続ける74年生まれのムーチョ。まさにずっと“ガラス越し”の関係性だったと言う2人は、顔を合わせるなり握手を交わした。その様子から、舞台映像界の獣道を切り拓いてきた同志としての、強い思いが伝わってくる。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 平岩享

コンピューターの発展と共に映像の世界へ

上田大樹 お互い存在は学生時代から知ってたけど実際に会ったのはけっこうあとだったよね。

ムーチョ村松 ある舞台監督さんの結婚式で。いつだろう、10年くらい前かな。以来、会うのは今日が2回目です。

上田 そんなことない!(笑) だってムーチョと俺、いきものがかりのライブに行ったことあるもん。

ムーチョ あ、行ったね。当時、僕はいきものがかりのことを知らなくて。

左からムーチョ村松、上田大樹。

上田 そうだった。俺はそのあと、いきものがかりのライブ映像を担当するんだけど……ムーチョとは、これまで仕事で絡んだりしたことはないね。

ムーチョ ないね。僕が映像を始めた動機は大学時代の交通事故で、当時演劇界ではわりと期待されていたんだけど(笑)、体が悪くなって演劇ができないんじゃないかと思って、映像を始めたんです。もともと自分の作品でも映像を使ってたんですけど、そのころ奥(秀太郎)くんというパイオニアがHIGHLEG JESUS(1992年から2002年まで活動した劇団。主宰は河原雅彦)とかで映像をやり出していて、僕はカラオケの後ろで流れている映像とかも好きだったので、退院したあと、すぐに映像を作ろうと思って。

上田 そもそもは作・演出だったよね。「あれ? 映像担当になったんだ」と思った記憶がある。作・演出をやってたのは僕も一緒なんだけど。

ムーチョ だよね。でも気付いたらそのまま時代がわーっとなって、コンピュータの発展と共に連れて行かれた(笑)。

上田 世代的にはそういうところがあるね。PCの進歩のおかげで、スタジオにこもらなくても誰でも自宅で映像を作ることができるようになって、新しい映像表現が生まれてきた時期だったので。

ムーチョ ただ、当時のコンピューターで上田くんのクオリティのアニメーションを作るのって並大抵の精神力ではできなくて、はっきり言って狂ってる!(笑) 「何これ」って思ったんです。舞台映像を作ってる人たちの発表会みたいなものがあったときに、僕はアイデアが面白いものを作ろうってタイプなんですけど、上田くんはガチアニメーションで(笑)。でも上田くんは今見てても思うけど、あまり変わってないよね。世の中としてはテクノロジーが進化してすごいところに行ってるけれど、上田くんは半端なく弱いマシーンで作ってるときと、本質的には変わらないと思う。

上田 あははは(笑)。でもムーチョもネタ勝負みたいなところは変わってない(笑)。

ムーチョ あははは(笑)。僕なんでも逆を考えるので、上田くんは字を動かすから僕はやめようとか、上田くんがこうやってるなら僕はやめようって、そのおかげで助かってる部分もあるんです(笑)。

20年で変化した舞台映像のポジション

ムーチョ そこから比べると、いろいろ変化はあるよね。

上田大樹

上田 あるね。映像って変化球だから、以前なら映像を使うか使わないかってけっこう演出家も迷ってたけど、今はそんなに大きくフィーチャーされなくて、特別視しないと言うか、普通に使う感じになっていますね。作り手の変化もあって、舞台となじみやすく、シームレスになってきたんですよね、プロジェクションマッピングとかもそうですけど。

ムーチョ プロジェクションマッピングって言葉ができたのは大きいよね。とは言え、映像って壁や何かに映さないといけないわけですけど、ただスクリーンがあって画が映るというのは、ちょっと僕としては物足りなくて。見えないものが見える、視覚的でなく現象として見えるのが一番の楽しみだし、映像が投影された物や人を動かせるのが舞台のだいご味。今関わっている作品ではレーザーを使ってるんですけど、公演が終わったときにレーザーの見方が変わる、みたいなことができたらいいなと思ってて。

上田 機材的な話になるけど、この何年かでプロジェクターが明るくなったことも大きくて、作ってるのは映像だけど、舞台美術と照明と特殊効果の中間みたいな、よくわからない領域に入ってるのが面白い。だから、各セクションとの住み分けみたいなことで、微妙なときあるじゃない? 僕たち。

ムーチョ うん、照明さんとかに差し入れするもん(笑)。

上田 ね(笑)。壁に模様を映しちゃったりするから、美術家さんとも相談したり。そうやってみんなで話し合うから、昔よりスタッフみんなで一緒に作ってる感じがします。

ムーチョ村松

ムーチョ 真面目な話、ピンスポ(ピンスポット)ができ、テープレコーダーができ……っていう舞台の技術的な歴史を考えると、映像はその最先端じゃないですか。映像を使った舞台は、フィルムを除けば20、30年前にはなかったものだし、最近ますます演劇表現の中に映像が入ってきて、現代演出のリフレクションになってる。今、来年の6月に初演されるロベール・ルパージュの新作「Flame by Flame」のクリエーションに関わっているんだけど、ルパージュのビデオデザイナーの人とも、まずそこから考えていく、という話をしていて。そんな中で、僕はなるべく“生カメラ”を入れたいと思ってます。でもばれないように、こっそりブースの横に置いてCGに変換してから、バックプロジェクションに出したりしてますね。

上田 カメラを使うのはルパージュの影響?

ムーチョ そもそもは吹越(満)さんですね。そのあとフィリップ・ドゥクフレに出会い、ルパージュ。プロジェクションマッピングは、便利にはなってきたけど、僕らは初めからやっていたと言うか……。

上田 Dumb Type(1984年に創立され、現在は海外公演を中心に活動しているアートパフォーマンスカンパニー)とかそれ以前からやられてはいたよね。僕はムーチョのようにそこまでこだわるものはないんですけど、ライブカメラはやっぱり面白いと思います。あとはライティングに近いものが面白いかな。Dumb Typeもプロジェクターを照明として使っていたけど。

ムーチョ 上田くんの場合は作ったものがもう作品になっていると言うか、そこが僕とは違うものっていう感じがする。上田くん自身がアーティストと言うか。

上田 いや、でもけっこういろいろな仕事があるので、器用にやってる部分もあるんです(笑)。

お客さんの目線をシュミレーションする

ムーチョ どのくらいのサイズ感で映像を観せるかは、僕のほうから演出家や美術家に提案するときもあります。大きさのバランス感って言うんですかね。と言うのはプロセニアムアーチの中で、視線をどうコントロールするかというのは作品にとって大事なことなので。いくら技術が進化しても、人間の視力の限界と劇場のサイズの関係性は変わらないですしね。

上田 ムーチョはどういうサイズ感で考えるの?

ムーチョ 例えば銀河劇場だと舞台から客席の最後部まで15m、映写室から20mじゃない? 文字をストレスなく認識できるサイズが12㎝、10㎝だとちょっとキツイ。

上田 へえ。って、単純に知りたかっただけなんだけど(笑)。

ムーチョが映像を担当した「いやおうなしに」。(2015年、撮影:引地信彦)

ムーチョ 聞いていろいろ!(笑) 「いやおうなしに」(2015年上演)のときは、小さなLED画面に全20曲の歌詞を出したいというアイデアがまずあって、LEDだから8bitとかの、町看板より低いレベルの、古い画面ですよね。でもそこに何を映すかで4人が1カ月間知恵を絞って(笑)。と言うのも、以前から字幕ってなんでみんな適当にするのかって思ってたんですよ。字幕はみんなが一番観るものだし、そこで作品を伝えるわけなのに。

上田 うん、そう思う。

ムーチョ でしょ? だから「いやおうなしに」のときは文字をどのタイミングでどう出すか、お客さんの視線をシュミレーションしながら考えて。そうやって1カ月、ただ字幕のことだけ4人が考えるって普通はやらないだろうと思うし、そうやってること自体が面白いなと思って。

上田が映像を担当した「髑髏城の七人 Season風」。(©︎2017『髑髏城の七人』風/TBS・ヴィレッヂ・劇団☆新感線、撮影:田中亜紀)

上田 へえ。サイズという点では、360度回転舞台で上演中の「髑髏城の七人」は、映像的には回ることだけじゃなく視界が広いことがキモだったりするので、VRじゃないですけどアミューズメントパークと舞台の中間みたいな見せ方にできたらいいなと思って。客席は横に回転するだけだけど、奥行きとか高さとか、普通は考えない知覚に訴えかけるようなものにしようと考えましたね。とは言え最初は手探りで、どのセクションもやりながら理解していく感じだったから、1本目のSeason花はがんばりすぎたところがあり、2本目の鳥でだいぶ慣れて、3本目のSeason風で力が抜けて観やすくなってきたんじゃないかと思います(笑)。

ムーチョ Seasonごとに全部作り変えてるの?

上田 いや、演出は変わるけど基本のお話は同じだから、半分くらい作り変えて、あとはブラッシュアップしたりとかしてますね。回転する機構と映像を組み合わせていく作業は、楽しいけど、複雑なパズルを作ってるみたいで、なかなか大変なんです。それと、近付いて観ても画が細かく見えるように作っているので、ちょっと直しを入れたときにその修正が反映されるまでの(コンピュータの)処理時間が長い。でも、8Kのすごく高画質な映像が、機構とうまく連動することが、この演目にとって大事なポイントなので、普通の劇場でやろうとすることの何倍かの労力がかかります。なので……大変。

ムーチョ あははは(笑)。でもSeason花、鳥、風とやってノウハウができて、もう大変じゃないでしょ?

上田 ノウハウはできても大変なのは変わらないかな……(笑)。いのうえ(ひでのり)さんはやっぱりシーンとシーンをシームレスにつなげたがるから、それをつなぐ映像も、途切れない連続したものになって、だから分業しづらいっていう。本当は僕が監修とかになって、Seasonごとに分業できたら大人数で作るプロジェクトになったかもしれないんだけど、結局ほとんど1人で作ってる。

ムーチョ 確かに上田くんがやると違うしね。それにたぶん早いんですよね。1人でやるには負担が大きすぎるけど。

上田が映像を担当した「プルートゥ PLUTO」。©︎浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース 監修・手塚眞 協力・手塚プロダクション/小学館 鉄腕アトム「地上最大のロボット」より『プルートゥ PLUTO』(2015)Bunkamuraシアターコクーン(撮影:小林由恵)

上田 あははは(笑)。でも1月に再演される「プルートゥ PLUTO」も「髑髏城~」も、最初の上演では映像が出すぎる感じがあって。もちろん舞台の全面にどーんと映像を出すととってもいい瞬間があるんですけど、役者とのバランスで、いつ映像を出して抑えるのか、より有機的なつながりをもっと考えたいなって思ってます。

上田大樹(ウエダタイキ)
1978年生まれ。クリエイティブスタジオ「&FICTION」代表。早稲田大学在学中より劇団の主宰を経て、映像制作を始める。NYLON100°C、劇団☆新感線、大人計画、阿佐ヶ谷スパイダースなどの劇中映像や、MVおよびCMのディレクション、TVや映画のタイトルバック、CHANEL銀座ビルのファサードアニメーション、LIVEの演出映像、ショートフィルム、グラフィックデザインなどを手がける。第23回ぴあフィルムフェスティバル 準グランプリ受賞、第25回ぴあフィルムフェスティバル グランプリ受賞。近年の仕事にシディ・ラルビ・シェルカウイ演出「TeZukA テ ヅカ」、スーパー歌舞伎II「ワンピース」、映画「バクマン。」オープニング映像&プロジェクションマッピング、東京・IHIステージアラウンド東京での劇団☆新感線「髑髏城の七人」など。2018年1月に「プルートゥ PLUTO」の再演を控える。
ムーチョ村松(ムーチョムラマツ)
1974年生まれ。トーキョースタイル代表。明治大学在学中に演劇サークル・騒動舎にて演劇活動を開始し、映像制作を始める。「フキコシ・ソロ・アクト・ライブ」シリーズ、ハイバイ「霊感少女ヒドミ」「ある女」、「ポリグラフ-嘘発見器-」のほか、これまでに大人計画、ウーマンリブ、ジョビジョバ、阿佐ヶ谷スパイダース、森山開次作品、城山羊の会、TEAM NACS、地球ゴージャス、劇団四季、イキウメ、HIGHLEG JESUS、劇団鹿殺しなどの映像を手がけている。「中丸君の楽しい時間2」が11月18日まで東京・東京グローブ座、11月21日から25日まで大阪の梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演。また2018年6月にカナダにてロベール・ルパージュの新作「Flame by Flame」がワールドプレミアを迎える。