岡田利規×瀬戸山美咲×楫屋一之が語る「かながわ短編演劇アワード2022」|この時代を乗り切った人たちの表現を

2020年にリニューアルしてスタートした、神奈川県が主催する「かながわ短編演劇アワード」が、3回目を迎える。「演劇コンペティション」と「戯曲コンペティション」から成る本アワードでは、30分以内の短編作品がジャンルやスタイルを問わず全国から募集され、2022年3月に行われる「演劇コンペティション」での最終上演審査、「戯曲コンペティション」での公開審査会を経て、受賞作が決定する。

募集期間が始まった10月上旬、ステージナタリーでは、岡田利規・瀬戸山美咲・楫屋一之の座談会を実施。岡田は第1回から3度目の「演劇コンペティション」審査員を、瀬戸山は第1回に続き2度目の「戯曲コンペティション」審査員を、楫屋は本アワードのプロデューサーで「演劇コンペティション」の一次審査員を務めている。座談会では、“審査員”として作品をジャッジするときの“基準”や3人が応募者に期待することなどが明かされたほか、自身の作品観も語られた。

取材・文 / 熊井玲構成 / 櫻井美穂撮影 / 藤記美帆

「かながわ短編演劇アワード2022」募集要項

「演劇コンペティション」

募集内容:30分以内の短編演劇作品

審査委員(五十音順):岩渕貞哉、岡田利規、笠松泰洋、スズキ拓朗、徳永京子

募集対象:全国公募

「戯曲コンペティション」

募集内容:30分以内での上演を想定した短編戯曲

審査委員(五十音順):稲葉賀恵、大池容子、瀬戸山美咲、西尾佳織、松井周

テーマ:「ともに生きる~多様性の時代に生きるということ~」

募集対象:全国公募

「演劇コンペティション22世紀飛翔枠選抜大会(県内高校生選抜大会)」

募集内容:30分以内の短編演劇作品

審査委員(五十音順):池田亮、楫屋一之、山田由梨

選抜大会日程:2022年1月9日(日)

募集対象:神奈川県内の高等学校に在籍する生徒のみにより構成される団体

募集期間:2021年10月1日(金)~11月24日(水)

引き受けたきっかけは「かながわ戯曲賞」

──岡田さん、瀬戸山さんは第一線で活躍する作り手で、非常にお忙しい毎日を過ごされていると思います。そんなお二人が、時間と手間のかかる“審査員”というお仕事を引き受けられたのはなぜですか?

岡田利規

岡田利規 僕は、かつて神奈川でやられていた「かながわ戯曲賞」の下読みをやっていたことがあるんです。実はその下読みのほうが大変だったんですけど……(笑)。

楫屋一之 「かながわ戯曲賞」は「かながわ短編演劇アワード」の前身ですね。

岡田 「なぜ審査員をやっているのか」という問いに対する答えとしては、このようなコンペティションに応募して自分たちの表現を問おうとしている人たちの切実さに応答するというのは責任ある、光栄な仕事だと思うからです……とすごく優等生的な発言ですけど(笑)、でも本心です。審査って、審査する人間も問われるんですよ。「私はこの作品を良いと思いました、この作品は良くないと思いました、なぜならば」と発言していくことは大層な責任です。“常に”というのはしんどいですが、こうして“ときどき”そういう責任を負うのは、自分にとって良いことだと思っているからでもあります。

瀬戸山美咲 私も昔、「かながわ戯曲賞」に1回応募したことがあって。本当に荒削りなものを送ったので一次か二次で落ちたんですが、結果と一緒に県の方がお手紙を書いて送ってくださったんです。「あなたの戯曲には何か気になるところがある、面白いところがあるような気がする」というようなことだったんですけど、初めて出した戯曲賞で丁寧にお手紙をくださってとてもうれしかったし、励みになりました。また、実は私が楫屋さんとお会いしたのは、楫屋さんがまだ世田谷パブリックシアターにいらっしゃった頃で、そのとき私は、世田谷パブリックシアターが実施する、シアタートラム ネクスト・ジェネレーションというコンペティションに3回目の応募でようやく上演する機会をいただいたところだったんです。

楫屋 2011年ですね。

瀬戸山 そうですね。その上演によって私の演劇の世界がガラッと変わりました。それまでは別の仕事をしながらだったし、演劇が仕事になるというイメージが全然なかったんですけど、ネクスト・ジェネレーションに選出されたことで、シアタートラムという当時の私にしたら大きな劇場で作品を上演でき、たくさんのお客さんに観てもらって、あの公演で仲間も増えたんですよね。もちろんそのあとすぐ食べていけるようになったわけではないんですけど、それでも「何とかやっていける気がする」と自分の中の覚悟が決まったというか。なので、コンペティションのような機会はすごく大事だなと思い、自分も関わりたいと思いました。あとはやっぱり楫屋さんがこの戯曲賞を、今までの戯曲賞と違うものにしようと思ってらっしゃるのを最初に感じて。とにかく審査員の顔ぶれが……。

岡田 そう、すごいですよね。

瀬戸山 そうなんです! びっくりしました。「戯曲コンペティション」の第1回審査員は女性だけだったんですけど、市原佐都子さん、北川陽子さん、矢内原美邦さんと私って、この顔ぶれでは私が一番オーソドックスな演劇をやってるほうっていう(笑)。どんな審査会になるか想像もつかないから、すごく楽しかったんですけど、最終選考に残ってる戯曲がまた面白かったんです。私が所属している日本劇作家協会の新人戯曲賞にも200以上の応募がありますが、たくさんの目で選ぼうとするとどうしても総合的に良いものが残っていく感じがあります。でも「かながわ短編戯曲賞」の「戯曲コンペティション」は、けっこうハチャメチャというか物議を醸すような作品ばかりで(笑)、「荒削りでも書きたいものがあるんだな」と感じられる戯曲が集まったのは面白いなと思いました。第2回はスケジュールの都合上残念ながら参加できなかったんですけど、今回また参加できることをすごく楽しみにしています。

楫屋一之

──「戯曲コンペティション」第2回では市原佐都子さん、北川陽子さん、西尾佳織さん、矢内原美邦さんが審査を行い、今回は瀬戸山さんのほか、稲葉賀恵さん、大池容子さん、西尾さん、松井周さんが審査員として参加されます。また、「演劇コンペティション」の審査員には、岡田さんのほか、「美術手帖」総編集長の岩渕貞哉さん、作曲家の笠松泰洋さん、ダンサー・振付家のスズキ拓朗さん、演劇ジャーナリストの徳永京子さんが、第1・2回に続いて名を連ねています。第一線で活躍する多彩な舞台人が、本アワードに関わっていますね。

楫屋 ええ。「かながわ短編演劇アワード」にリニューアルする際に一番意識したのは、審査員の顔ぶれです。演出家や作家だけに限定せず、美術の人や音楽の人、ダンスの人など、いろいろな見方ができる人に“演劇的なもの”をジャッジしてもらいたいと思って。まずはそこから変えようと思いました。

短編なら今からでも間に合う

──また本アワードは、“短編”にフィーチャーしているという点も大きなポイントです。岡田さんと瀬戸山さんは、ご自身が作品を手がけられる際に、短編と長編で作り方や書き方に違いはありますか?

岡田 あんまり意識してないですね。「よし、何か作るぞ」となって、作ってみたら2時間だったとか15分だったってことはまずないです。というのも、それは最初からわかってることなので……。だから制作上での短編と長編の違いは、僕はあまりわかりません。

瀬戸山美咲

瀬戸山 「かながわ短編演劇アワード」は30分という時間的制約がありますが、30分って短いようでいて、ある程度展開がないと持たない尺だから、実はそんなに短くないと思うんです。自分の中の最短作品は15分ぐらいなんですが、そのくらいだと短編だなと思います。ただ、長編と短編では、単純に執筆に必要な時間が違うとは思います。今回の応募締切はいつですか?

楫屋 11月24日ですね。

瀬戸山 だったら、短編ならギリギリ書けるかもしれないですよね。