吉祥寺シアターのオリジナルダンス企画・吉祥寺ダンスLAB.の第3弾に、大園康司と橋本規靖のダンスユニット・かえるPが登場。“そろっているようでそろってない、真剣に踊っているようでどこかヘン、そしていつの間にか取っ組み合い”を続けて早10年。今回、かえるPは“公園”をテーマに、久々の劇場公演に臨む。吉祥寺シアターとかえるPが立ち上げる「PAP PA-LA PARK/ぱっぱらぱーく」へ、いざ行かん!
取材・文 / 熊井玲 撮影 / 川野結李歌
今後のために、“超個人的”な公演を吉祥寺シアターと
──かえるPは今年、10周年を迎えました。今回、久々の劇場公演となりますが、どのような思いで臨まれますか?
大園康司 実はもともと、12月に自分たちの主催で「スーパースーハー×2」の3都市ツアーをやる予定だったんです。吉祥寺シアターさんから今回のオファーをいただいたのが7月上旬で、ちょうど「スーパースーハー×2」をやるかどうかの判断に迷っている時期だったので、非常に悩んで……。結局主催公演のほうは延期となりました。というのも、「スーパースーハー×2」では2017年に上演した「スーパースーハー」を、ツアーしながらブラッシュアップしていく予定だったので、ツアーして上演を重ねることに意味や価値があったんです。でも現在の状況ではそれは難しいだろうと考えて。延期という決断をしたからには、今回の吉祥寺ダンスLAB.ではどのような公演ができるか、きちんと考えなければいけないだろうと思って、結果、自分たちが今後5年、10年と活動を続けていくために、劇場空間でダンスを踊ることと観ることの意味を考えられる、ある意味“超個人的”な公演にしてみたいなと。そのほうが今の僕たちにとって意味があるし、劇場と一緒にそのようなチャレンジができるのは大事だと感じたので。
橋本規靖 僕はかえるPを結成したときから「いつか北海道に帰ります」と宣言していて、「そのときがきたら解散しましょう」と言っていたんですね。で、最初の頃は1年契約で、その後3年契約になり、更新制になったんですけど(笑)、なんだかんだと10年になりました。と言っても、ダンスの仕事がないときは僕たちまったく会ったり連絡を取ったりしてなくて、いつも言ってるんですけど「僕はこの人と友達ではない」んです。
大園 ちょっと語弊がある気もするけど、熟年夫婦みたいな感じなんですよ(笑)。
橋本 そうだね(笑)。スタートから熟年夫婦っぽくて、イチャイチャした時期があまりなかった。クリエーションに関しても、最初のうちはそれぞれがお互いのやりたいことに従うルールにして、交代制で振付を考えていたんです。でも2012年に吉祥寺シアターでやった「ダンス・インパクト吉祥寺vol.3 ~入手杏奈・かえるP・サラダラ」が終わったあとの作品から、「試しに一緒に振りを考えてみよう」ってことになって……で、なんの話でしたっけ?
大園 なぜ今回の公演をやることにしたかってこと!(笑)
橋本 あ、そうだ(笑)。で、今年いよいよ僕が北海道に帰ることになって、今後どうするかという話をしたときに、普段からダンスの仕事がなければ3カ月とか半年とか会ったりしてないし、必要がなければ連絡も取ったりしない関係なので、だったら僕が北海道に行っても活動が続けられるんじゃないかという話になって。……と言っていたらコロナの問題が起き、僕たちだけじゃなくて周囲でもオンラインで振付が行われるようになってきたんですよね。そんなときに吉祥寺シアターからお話をいただいて、「10分程度のショーケース作品ならオンラインでも作れるだろう」と思ったんですが、ショーケースじゃなくて1本の作品を作ることになり、結局今回はオンラインではなく、お互いが北海道・東京に滞在制作する形で作ることになりました。
大園 11年目のスタートで2人の物理的な距離が離れて、もちろん不自由なこともありますけど、現在の状況下で距離はあんまり関係ないっていうか、Web環境もどんどん整えられていますし、インターネットを使うことに僕らだけじゃなくいろいろな方のハードルが下がってきたと思うので、それをうまく組み合わせてやっていきたいなという思いはあります。
──ただそれは、10年分の関係の蓄積があればこそできるやり取りかもしれませんね。
大園 確かにそれはありますね。
橋本 オンラインで伝わらない領域もあるけど、10年もやってると、確かに相手がどういうことをするだろうかって予想できる部分もあるし、こうしたらもっと面白くなるということも見えたりしますね。
テーマは公園、でもそれぞれがイメージする公園は……
──美術プランを拝見すると、客席を取り払い、2階の回廊部分も使って大胆に空間演出されるとのことで、非常に楽しみです。
大園 いろいろ変遷はありましたが、やっぱり劇場の良さ、劇場でできることとできないこと、劇場でダンスをやる意味を考えていった結果、現在のような形になりました。
──劇場での公演は久しぶりになります。
大園 自分たちの趣味趣向とタイミング、あとリソース的な問題も大きいと思うんですけど、確かに久々ですね。普段は劇場で作り込むというより、いろいろな環境やものと出会いながら、それらに影響を受けて作品を作っていることが多いんですけど、そういった環境がすごく魅力的に思えることもあれば、「これが劇場だったら」と思うことももちろんあるので……って、今こう話してることと、(橋本が)考えてることは全然違うんですよ。
橋本 確かにね。「へー」って思って聞いてました(笑)。
大園 僕たち、どこまでいっても平行線なので。
一同 あははは!
──今回の作品は、“公園”がテーマになっています。一口に公園といってもいろいろなタイプの公園があると思いますが、お二人がイメージしている公園とは?
大園 そもそも公園って言い出したのは僕なんですけど、最初は室内で親子が遊べるプレイパークのようなイメージだったんです。親子で遊べるアトラクションがいっぱいあって、それらで遊んでいると近くでダンスも上演されている、というようなイメージ。ただ今年9月に多摩川の河川敷の兵庫島公園でショーケースをやったんですけど(参照:SooNによる水辺のダンスショーケース「Chap-chap」ライトアップイベントに参加)、そこから少しイメージが変わって。兵庫島公園って、河川敷という特性もあって、昼間は子連れが多いけど、夜はちょっとやんちゃなやつらがいるっていう、時間帯によって表情が変わる公園だったんですね。で、プレイパークという人工的に遊びが作られた場所から、ただただ人がいられる場所というふうな公園のイメージに変わって、今はそのバランスを迷っているところです。
橋本 でも公園というテーマが決まってから、僕らと演出協力の林あきのと具体的に内容を詰めていくときに、正直僕は、2人の会話についていけないなって思ったんです。先ほどお話しした通り、最近は周囲の環境から影響を受けることで動きを作っていて、テーマに沿って作るというやり方をしていなかったので。そこで、(大園に)相談したところ、「今までやってきたように、“その場所で遊ぶ”って考えるといいのでは」と言われて、そこからいろいろな公園を見て回りました。そうしたら、例えば盆栽みたいな木がいっぱい植えてある公園とか、掃除されすぎてて人工物の塊のような公園とか、北海道だったら本当に自然と一体になった公園とか……いろいろな公園があって。その印象を参考に、シーンごとにさまざまな公園をイメージして動きを考えていこうと思うようになりました。
──同じ作品を作りながら、公園のイメージさえ別々なんですね(笑)。
大園・橋本 あははは!
大園 だから最終的にできたものに対しても、感じてることが全然違うんだと思います。
橋本 そうそう(笑)。でもお互いに相手の考えについては否定せず受け入れることにしているので。
大園 「イエス、アンド」ということだけは意識してるかな。
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この空間でゆったりと過ごしてほしい