串田和美×コンスタンティン・キリアックが語る「スカーレット・プリンセス」&映像で観る太陽劇団とITA「WORLD BEST PLAY VIEWING」 (2/2)

太陽劇団とITAを映像で
「WORLD BEST PLAY VIEWING ワールド・ベスト・プレイ・ビューイング」

10月5日から5日間にわたり開催される、「WORLD BEST PLAY VIEWING ワールド・ベスト・プレイ・ビューイング」。上映作品は、フランスを拠点に活躍するテアトル・デュ・ソレイユ(太陽劇団)「モリエール」と「最後のキャラバンサライ(オデュッセイア)」、そしてオランダのインターナショナル・シアター・アムステルダム(ITA)の「ローマ悲劇」だ。ここでは、各作品を手がけたアーティストのコメントを交えながら作品の注目ポイントを紹介する。

「モリエール」より。©Michèle Laurent

「モリエール」より。©Michèle Laurent

「最後のキャラバンサライ」より。© Michèle Laurent

「最後のキャラバンサライ」より。© Michèle Laurent

「ローマ悲劇」より。©︎Jan Versweyveld

「ローマ悲劇」より。©︎Jan Versweyveld

パリ郊外で生み出される想像を超えた世界、テアトル・デュ・ソレイユ(太陽劇団)

1964年にパリ郊外の旧弾薬倉庫の廃屋で活動をスタートさせた太陽劇団は、演出家のアリアーヌ・ムヌーシュキンを中心に、舞台表現の最先端を目指し続ける唯一無二の存在感で、世界の演劇シーンを牽引してきた。今回は、同劇団の2作品が上映される。1本目は劇作家モリエールの生涯を描き、1983年に岩波ホールで公開された長編映画「モリエール」。もう1作品は、難民問題に焦点を当て、布を使った大胆な演出などが印象的な舞台劇「最後のキャラバンサライ(オデュッセイア)」だ。

今回の上映に向けてムヌーシュキンは、「私は舞台演出家で、映画について多くを語れるわけでもありません。でも監督するたびに、映画のつくり方を再発見します。演劇を映像にするとき、カメラは、観客の空間的な位置ではなく、観客の想像力の場所にあるべきなのだと思います」と言い「舞台を見る観客は編集を行い、フレームを定め、視点を移動させ、視角を変化させている。未完成の舞台装置を仕上げたり、木が1本しかないところに森を見たり、ある特定の俳優にフォーカスしたり、ときに演出家の意向に左右されるものの、観客はきわめて自由に作品をつくり上げるのです。舞台を撮影するカメラは、上演中に観客が行なっていることを代行せねばなりません。今回ご覧いただく映画の撮影時には、私はそのことを意識して監督していました。日本の観客の皆さんとは、実際の舞台でもすぐにお会いできますように!」と語っている。

アリアーヌ・ムヌーシュキン ©︎Jacques Grison

アリアーヌ・ムヌーシュキン ©︎Jacques Grison

オランダから世界へ発信、インターナショナル・シアター・アムステルダム(ITA)

2001年にITAの芸術監督に就任し、世界を股にかけて活躍するイヴォ・ヴァン・ホーヴェ。シャープさと大胆さを持ち味とする彼が2007年に手がけたのが、上演時間5時間40分の“超大作”「ローマ悲劇」だ。シェイクスピアのローマ劇三部作「コリオレイナス」「ジュリアス・シーザー」「アントニーとクレオパトラ」を原作にした本作では、舞台を現代に移し、スーツ姿の英雄たちがそれぞれの思いをぶつけ合う。なお本作は2020年に来日予定だった作品だ。

上映に際しホーヴェは、「アムステルダムの私たちの劇場で日々作られる作品を皆様と映像で共にすることができうれしく思います。私たちのステージをどうぞスクリーンでお楽しみください」とコメントした。

イヴォ・ヴァン・ホーヴェ ©︎Jan Versweyveld

イヴォ・ヴァン・ホーヴェ ©︎Jan Versweyveld

芸劇プロデューサー・立石和浩が語る、
「WORLD BEST PLAY VIEWING」のPOINT OF VIEW

演劇を映画館のスクリーンで観るというスタイルも、ナショナル・シアター・ライブの人気ぶりからも随分と定着してきたように思います。舞台の撮影技術も進化し、斬新なカメラワーク、多彩なアングル、絶妙なカット割りなどなど、こうした映画的テクニックに舞台演出家によるセンスが加われば、演劇×映画の新たなハイブリッド表現として楽しみ方も倍増します。翻訳においても演劇的な修辞に映像視認性を重視した字幕テクニックが加わって、作品理解もより一層深まるというメリットがあります。
そして何より多くのオーディエンスと共有する劇場体験! これは演劇ファンにも映画ファンにも応えられない魅力です。劇場のシートにみんなで座って長時間、ここではもちろん早送りすらできませんが、スクリーンという“窓”を通して新たな“世界”に出会うことは、皆さんの人生にとってもかけがえのない時間となることでしょう。
今回上映する太陽劇団もITAも、それぞれ拠点とする劇場に豊かな才能が集い、至高の表現を生み出してきた集団です。コロナ禍もあって現地に赴くことが以前より難しくなりましたが、いつか再びチャンスは来ます。それに備えるという意味でも、まず映像を通して彼らの作品に触れてみてください。
太陽劇団の拠点、パリのカルトゥーシュリは劇場、アトリエ、食堂などが一体となった演劇のユートピアと言われています。集中して創作できる環境から、難民問題に真摯に向き合う作品(「最後のキャラバンサライ」)や、演劇革命児の波乱の人生に迫った作品(「モリエール」)が生まれました。また舞台での実演と映像を巧みにハイブリッドすることでは他の追随を許さないITAは、シェイクスピアのローマ劇の舞台を現代に置き換え、観客も巻き込んでの実況演劇を作りました(「ローマ悲劇」)。“映像は越境し、革命は実況され、演劇は事件となる!”まさに胸騒ぎする作品がそろった今回の「WORLD BEST PLAY VIEWING」。世界を席巻したスペクタクルとの出会いにどうぞご期待ください。