「フィーバー・ルーム」|アジアの矛盾や曖昧さを、強烈な身体的体験に

劇場でしかありえない「ライブシネマ」

「フィーバー・ルーム」より。(Courtesy of Kick the Machine Films)

アピチャッポン自身はこの作品を「ライブシネマ」と呼んでいる。確かにこれは舞台上に俳優が登場し、なんらかの物語を演じる「演劇」ではない。だが、考えれば考えるほど、このライブシネマは、「劇場」でなければ生まれ得なかったものだとも感じる。映画と演劇、劇場、その枠組みを、あらためて俯瞰し、強烈な身体的体験に変換し、観客に植えつける──「フィーバー・ルーム」は、紛れもなくライブ、上演だからこそ可能な作品だ。

「正直に言って、この作品を最初に招聘するのにも、コストパフォーマンスや技術、いろいろな面で大変なハードルがありました。でも、世界中で舞台を観ていても、そういいものは次々とは出てこないし、優れた作品は観客に届けなければならない。どんな作品も上演しなければ観られないわけだし、世界の最前線で起こっているチャレンジを、今、知ってほしいと思います」。

国内ではおよそ2年半ぶりとなる今回の再演。上演そのものに立ち会えることはもちろん、そこに湧き上がるだろう多くの驚き、戸惑い、疑問も含めた現象を目の当たりにできる日を心待ちにしている。

丸岡ひろみ(マルオカヒロミ)
丸岡ひろみ
国際舞台芸術交流センター理事長、TPAM - 国際舞台芸術ミーティング in 横浜のディレクター。2003年ポストメインストリーム・パフォーミング・アーツ・フェスティバル(PPAF)を創設。08年・11年TPAMにてIETMサテライト・ミーティング開催。12年、サウンドに焦点を当てたフェスティバル「Sound Live Tokyo」を開催、ディレクターを務める。舞台制作者オープンネットワーク(ON-PAM)副理事長。

東京で体感するアジアのアート─「響きあうアジア2019」のこちらもcheck!

「響きあうアジア2019」は、国際交流基金アジアセンターが主催する、日本と東南アジアの文化交流事業を広く紹介する祭典だ。ここでは舞台芸術、映画、美術部門の7プログラムをピックアップ。アジア文化の“響きあい”をぜひ体感してみては。

  • 「プラータナー:憑依のポートレート」
    「プラータナー:憑依のポートレート」より。(Photo: Tananop Kanjanawutisit)
    タイの作家ウティット・ヘーマムーンの小説を、チェルフィッチュの岡田利規とcontact Gonzoの塚原悠也が舞台化した本作では、1990年代初頭から2016年のタイに生きる芸術家が体験した国家の動乱と、彼が結ぶ性愛の関係が重ねて語られる。18年8月にタイ・バンコクで世界初演、同年12月には「ジャポニスム2018」の一環でフランス・パリでも上演され、今回が日本初演となる。

    2019年6月27日(木)~7月7日(日) 東京都 東京芸術劇場 シアターイースト

    • 原作:ウティット・ヘーマムーン
    • 脚本・演出:岡田利規
    • セノグラフィー・振付:塚原悠也
    • 演出助手:ウィチャヤ・アータマート
    • 出演:ジャールナン・パンタチャート、ケーマチャット・スームスックチャルーンチャイ、クワンケーオ・コンニサイ、パーウィニー・サマッカブット、ササピン・シリワーニット、タップアナン・タナードゥンヤワット、ティーラワット・ムンウィライ、タナポン・アッカワタンユー、トンチャイ・ピマーパンシー、ウェーウィリー・イッティアナンクン、ウィットウィシット・ヒランウォンクン
  • 「響きあうアジア2019ガラコンサート」
    「響きあうアジア2019ガラコンサート」イメージ。
    インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、ミャンマーの東南アジア5カ国から約80名の演奏家が来日。日本の演奏家を交え多国籍オーケストラを編成、小林研一郎の指揮のもと一夜限りの特別コンサートを開催する。

    2019年7月1日(月) 東京都 東京芸術劇場 コンサートホール

    • 指揮:小林研一郎
    • ヴァイオリン:瀬﨑明日香
  • 「『サタンジャワ』サイレント映画+立体音響コンサート」
    「『サタンジャワ』サイレント映画+立体音響コンサート」より。(Photo:Erik Wirasakti)
    ジャワ島に根付く神秘主義を軸に、格差社会における男と女の恋愛、そしてサタンによる誘惑とカオスを描く「サタンジャワ」は、インドネシアの巨匠映画監督ガリン・ヌグロホによる、生演奏付きで上映するために作られたサイレント映画。今回の公演では森永泰弘が音楽・音響デザインを担当し、ボーカルとしてコムアイ(水曜日のカンパネラ)が舞台に登場。そのほかの出演者と共に、“立体音響”として映画の音楽を拡張する。

    2019年7月2日(火)14:00~ / 19:00~ 東京都 有楽町朝日ホール

    • 映画監督:ガリン・ヌグロホ
    • 音楽・音響デザイン:森永泰弘
    • 舞台出演:コムアイ(水曜日のカンパネラ)、ルルク・アリ・プラセティオ、ヘル・プルワント、ドロテア・クイン、グナワン・マルヤント、テグー・プルマナ、アクバル・ネンディ、ハイディ・ビン・スラメッ、アンドリ ほか
  • 「東南アジア映画の巨匠たち」
    「東南アジア映画の巨匠たち」より。
    地域を越えて世界に挑戦し映画ファンを魅了し続ける東南アジアの巨匠たちの原点から最新作、注目の若手監督の意欲作を一挙上映。「フィーバー・ルーム」のアピチャッポン・ウィーラセタクンも参加したオムニバス作品「十年 Ten Years Thailand」や、「『サタンジャワ』サイレント映画+立体音響コンサート」のガリン・ヌグロホ監督の最新作「メモリーズ・オブ・マイ・ボディ」(ジャパンプレミア)など全10プログラム。上映に合わせて、豪華顔ぶれが来日し、シンポジウムや連日トークを実施。

    2019年7月3日(水)~10日(水)
    東京都 有楽町スバル座(上映:7月4~10日)東京都 東京芸術劇場 ギャラリー1(シンポジウム:7月3日)

  • 「舞台芸術における国際協働をめぐって―見えないものを伝え、見られなくなるものを残す」
    「舞台芸術における国際協働をめぐって─見えないものを伝え、見られなくなるものを残す」ビジュアル
    舞台芸術における国際協働のプロセスと経験を広く共有し、“残す”意義と方法を考えるシンポジウム。第1部「プロセスを伝える、共有する」、第2部「舞台芸術を残す」、パネルディスカッションの3部構成となっており、舞台制作者・ドラマトゥルク・演出家・振付家・プロデューサーなど国内外の実践者が登壇。それぞれが行ってきたこれまでの取り組みの紹介と、今後についての議論が繰り広げられる。

    2019年7月4日(木)12:30~17:00 東京都 東京芸術劇場 ギャラリー1

    • 登壇者:滝口健、ショーネッド・ヒューズ、長島確、ユディ・アフマッド・タジュディン(オンライン参加)、ショーン・チュア、久野敦子、中村茜、齋藤啓
  • 「呼吸する地図たち」
    「呼吸する地図たち」より。(©︎Yasuhiro Tani Courtesy of the Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM])
    展示、レクチャー・パフォーマンス、トーク、シンポジウムを通じて、東南アジアの芸術・文化と、アジア太平洋地域の現代美術の“今”と“未来”を考える6日間。2018年12月から2019年3月にかけて山口・山口情報芸術センター[YCAM]で開催された同名事業を再構成し、映像アーカイブの展示と、日替わりのレクチャー・パフォーマンスが行われる。なお13日には国際シンポジウム「エキシビジョン・メイキング:文脈を繋ぐ、作る、届ける現代美術」を開催。

    2019年7月10日(水)~15日(月・祝)東京都 東京芸術劇場 ギャラリー1

    • インスタレーション&映像記録展示 参加アーティスト:ホー・ツーニェン、ファリッシュ・ヌール、ジャネット・ピレイ、オクイ・ララ、チ・トゥー、カルロス・セルドラン、西尾佳織、小原真史
    • レクチャー&レクチャー・パフォーマンス&シンポジウム 参加作家・キュレーター:ホー・ルイアン、マーク・テ、井高久美子、トンチャイ・ウィニッチャクン、イルワン・アーメット+ティタ・サリナ 、アデ・ダルマワン、ジーベシュ・バグチ、飯田志保子、崔敬華、アンドリュー・マークル、小原真史、志賀理江子+清水チナツ+長崎由幹、古市保子
  • 「DANCE DANCE ASIA―Crossing the Movements 東京公演 2019」
    「DANCE DANCE ASIA─Crossing the Movements 東京公演2019」より。(©︎Yosuke Kamiyama)
    独自の発展を遂げるアジアカルチャーを背景に、ストリートダンスを通じてパフォーミングアーツの可能性を追求する「DANCE DANCE ASIA」。5年目を迎える東京公演は、世界のダンスシーンで活躍するアジア気鋭の振付家・ダンサーなど総勢48名が集結。国境を超越した発想やテクニック、身体能力から生まれるリアルタイムの先端表現を通して、ストリートがもたらすシナジーが発揮される。

    2019年7月12日(金)~14日(日)東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト

    6週間のクリエーションによる共同制作2作品

    「What if…Just dance それでも僕はダンスを続けていく」

    • 振付・演出:3T(ベトナム)
    • 振付・演出補佐:KATSUYA(日本)
    • 音楽:SNG(日本)
    • 出演:CANCEL(ベトナム)、Cheno(タイ)、C-Lil(ラオス)、GEN ROC(日本)、Sakyo(日本)

    「Inception―夢のまた夢のまた夢のまた夢…」

    • 振付・演出:Nikii(タイ)
    • 振付・演出補佐:スズキ拓朗(日本)
    • 出演:GAMEZ(タイ)、KEIN(日本)、MC Buck(ベトナム)、Topiek SmallBlack(ラオス)、VI VIEN(マレーシア)、Wadafu*k(タイ)

    日本×アジア スペシャルユニット3作品

    「Non-fiction」

    • 振付・演出:Crazy Rollers(日本)
    • 出演:KITE(日本)、FISHBOY(日本)、Marzipan(シンガポール)、MTpop(ベトナム)、HIRONA(日本)、Kru Add The Salor(タイ)、雅勝(日本)

    「GANMI GAKUEN」

    • 振付・演出:GANMI(日本)
    • 出演:GANMI(日本)、Les Paul Sañez-MVMEANT(フィリピン)、Melrein Viado - MVMEANT(フィリピン)、Kyle Collantes-MVMEANT(フィリピン)

    「free-style」

    • 振付・演出:kEnkEn(日本)
    • 出演:kEnkEn(日本)、Liang(シンガポール)、JUMPEI(日本)、RenZ(フィリピン)、Te Double Dy(マレーシア)

    ※上記5作品の内、各回3作品を上演。