EPAD 2023年の取り組み[前編] EPAD作品データベースの公開から協力団体との協働事業まで

EPADは、「保存・継承」「情報の整理・権利処理サポート」「作り手と観客の新たなマッチング」「教育・福祉などへのパッケージ提供」「ネットワーク化と標準化」という5つの柱をより具体的に実現するべく、2023年にさまざまなアクションを起こした。①EPAD作品データベースの公開、②ポータルサイトのリニューアル、③権利処理やサポートを含む舞台作品の収集、④協力団体との協働事業、⑤アクセシビリティ事業、⑥多言語字幕事業、⑦教育利用、⑧上映会、⑨鑑賞ブースという、大きく9つの取り組みになる。本特集ではまずその前半、EPAD作品データベースの公開、ポータルサイトのリニューアル、権利処理やサポートを含む2023年度の収集、協力団体との協働事業について、EPADの各担当者の振り返りを紹介する。

構成 / 熊井玲

①EPAD作品データベースの公開

2023年度の大きな事業のひとつに「EPAD作品データベース」の公開があります。

それまでは、EPADが収集した作品のラインナップ、権利処理の状況、どこで視聴可能か、といった情報がすぐに確認できる状態になっていませんでした。そこで、EPADが保有するデータ構造を再整理したうえで、「EPAD作品データベース」として一般向けに公開。一般公開にあたり、画面の見せ方を整え、検索機能を充実させるなど、UI/UXデザインも検討しました。

「EPAD作品データベース」は、ビジュアルを大きめに打ち出したTOPページから始まり、関係者や上演団体単位でリンクをたどっていけます。楽しく周遊する中で気になる作品と出会っていただけたらと思います。

②ポータルサイトのリニューアル

これまでのポータルサイトは情報が漫然としており、EPADとは何か?が伝わりづらい状況でした。そこで、EPADに興味を持った人が、EPADの活動内容や意義をすぐに理解できるようポータルサイトを刷新しました。

「デジタルアーカイブを活用して、舞台芸術を未来と世界へ」

このEPADのコアコンセプトを、サイトを訪れた人がすぐにキャッチしてくれることが狙いです。EPADとはのページでは一目で目指す姿やこれまでの活動を見ていただけるかと思います。

EPADを知っている人でも、“EPAD=舞台芸術作品の映像を集めている”という印象にとどまっていることが多いのではないでしょうか。舞台芸術を個人の記憶に留めるのではなく、ひらかれた財産として保存・継承していくための活動は、映像収集以外にも多岐にわたります。

EPADの意義や活動の幅広さなど、ポータルサイトを通じてお伝えできたらと思います。

③権利処理やサポートを含む舞台作品の収集

舞台作品の収集事業は、舞台作品映像の利活用をサポートし、団体の活動支援になること、またアーカイブが次なる観客・クリエイターの土壌となることを目指しています。

2023年度は、EPAD自身が舞台映像の収集を進めるほか、2022年度から始めたセレクション(公募)も継続しました。採択団体には、映像とメタデータ(作品情報)を提供していただき、EPAD事務局の権利処理チームが、配信化までサポートします。許諾が必要な権利者のリストアップや各プランナーとの同意書のやり取りなどです。また、楽曲の権利処理に関しては、EPADが協働している日本レコード協会などを通じて、権利処理チームが各レコード会社に許諾申請をしています。配信処理の完了後は、EPADデータベースへのアーカイブ化のほか、各団体が任意の配信サイトで映像を公開します。

また、2023年度はより高画質な舞台映像の収録を推し進めるため、収録のサポートを行ったケースもあります。作品の収集において、採択団体へは、対価をお支払いしています。

セレクションでは、本年度は499件の応募に対し、137作品を採択、権利処理の過程で配信が難しくなった作品もあり、最終的に配信可能となった作品は121件です。

事業の年数を重ね、システムや権利処理の煩雑さに対する課題が、より明確になりました。今後に向けて、団体への負荷がかかりすぎないような工夫をしていきたいと思っています。

④協力団体との協働事業

EPADは、多数の団体に協力いただいて事業を継続しています。2023年度の舞台映像収集の面では主に早稲田大学演劇博物館、日本劇団協議会、ダンスアーカイヴ構想、日本2.5次元ミュージカル協会と協働しました。本年度は特に「磁気テープのデジタルデータ化」を大きな目的とし、テープで保存している舞台映像が消失しないようにするため、デジタルデータ化、保存を進めました。本年度はこれら協力団体のお力添えもあり、1052本の舞台映像作品を収集することができました。収集した作品のうち490件が、早稲田大学演劇博物館が運営する公演情報の検索サイト「Japan Digital Theatre Archives」へも追加され、AVブースでの視聴が可能となりました。

また、日本舞台美術家協会と舞台美術資料のデータベースの構築や、ポスターハリス・カンパニーと、ポスターのデジタル化も行いました。主に60年代から80年代の紙で現存するポスターのデジタル化を行い、これらを公開することでまたひとつ、日本の演劇の保存・研究などにも役立てると幸いです。また、戯曲のアーカイブの点では、日本劇作家協会と協働し、2020年度に「戯曲デジタルアーカイブ」のWebサイトを構築し本年度も新たに353本の作品を収集しています。「戯曲デジタルアーカイブ」では、過去の名作から最新作まで、多数の戯曲が無料で閲覧できます。

EPADでは今後も各団体と、アーカイブや利活用を通じて、舞台業界の発展に寄与していきたいと考えています。

2023年度、EPAD事業の協力団体の一部。

2023年度、EPAD事業の協力団体の一部。