“ウィズコロナ”の新しい生活様式が広まりつつある今、エンタテインメントにも新たな形が求められている。そこでスカパー!では、エンタテインメント業界を支援する取り組み「スカパー!オンデマンド エンタメ応援プラン」の提供を開始。同プランでは、コンテンツの配信手数料や回線費用などをスカパー!が負担し、クレジットカード決済手数料を除く、各コンテンツの売り上げをイベント主催者に還元する。
このたびステージナタリーでは、「スカパー!オンデマンド エンタメ応援プラン」の開始を記念し、コロナ禍で積極的に映像配信を行ってきたクリエイターにインタビューを実施。第2回には、いち早くリモート演劇に取り組み、シアタークリエ発の新作オリジナルミュージカルプロジェクト「TOHO MUSICAL LAB.」で作品を発表したロロの三浦直之と月刊「根本宗子」の根本宗子が登場。試行錯誤を繰り返し、悩みながら駆け抜けた2人がこの半年間のクリエーションを振り返る。
取材・文 / 興野汐里 撮影 / 草場雄介 衣装協力 / LEMON(根本宗子)
「スカパー!オンデマンド エンタメ応援プラン」とは?
演劇や音楽、伝統芸能など、さまざまなステージイベントの主催者を対象としたエンタテインメント業界向けの支援施策。コンテンツの配信手数料や回線費用などをスカパー!が負担し、クレジットカード決済手数料を除く各コンテンツの売り上げをイベント主催者に還元する。
生配信・収録配信どちらも対応可能で、販売価格はコンテンツ提供者が決定できる。スカパー!での放送がないコンテンツも販売可能。視聴者は無料の会員登録をするとコンテンツの購入が可能になり、決済方法はクレジットカードのみとなっている。
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対象期間:2020年8月から12月31日受付分まで(配信・放送は2021年3月頃まで)
利用対象:ステージ主催者(音楽、演劇、伝統芸能などのコンテンツ)
配信手数料:0%(別途、クレジットカード決済手数料2%)
回線費用(ネット回線):スカパー!負担
やっぱり生にこだわりたい(三浦)
──新型コロナウイルスによる公演延期や中止を受けて、さまざまなカンパニーが配信劇に挑戦しましたが、中でも三浦さんや根本さんは時流をいち早く読み、4月にリモート作品の配信を開始しました。ロロは連作の“通話劇”「窓辺」シリーズを(参照:ビデオ電話する人々の“通話劇”、ロロが連作短編をYouTubeで生配信)、根本さんは“リモート芝居”「超、リモートねもしゅー」の第1弾「『あの子と旅行行きたくない。』」を配信し(参照:根本宗子の“リモート芝居”「あの子と旅行行きたくない。」音楽はチャランポ小春)、劇場へ足を運ぶことが難しくなった演劇ファンに希望を与えました。
三浦直之 「四角い2つのさみしい窓」の延期が決まったあと、3月末くらいにメンバーと「リモートで作品作ろうか」っていう話をして、「窓辺」シリーズを作り始めたんです。「ああ、劇場で演劇やりたいなあ……」ってくじけながら作り続けていたところに「TOHO MUSICAL LAB.」(参照:無観客のクリエから生田・木村らが歌声届けた、「TOHO MUSICAL LAB.」配信)のお話をいただいて。
根本宗子 ロロとうちはほぼ同じ時期に動き出しましたよね。そう言えば「保母、超ウソツキ♡」に出てもらった長井短から(参照:根本宗子の“リモート芝居”第2弾、合唱シーンの参加者を募集中)同時期に旦那さん(ロロの亀島一徳)も稽古してたって聞いて。画面からはけて待機してるとき、旦那さんがすぐ隣にいて気まずいって言ってました(笑)。
三浦 ああ! そうだそうだ! 言ってたな、亀島も。2人には気遣わせちゃいましたね(笑)。
根本 我々がそうさせちゃってたんですね(笑)。
──ご夫婦共に演劇をされているとそういうご苦労もあるんですね(笑)。これまでの演劇作品はカンパニーが稽古場に集まって制作されることが多かったですが、リモートでの作品制作は従来のクリエーションとどのような違いがあったのでしょう?
三浦 やっぱりコミュニケーションを取るのが難しいなって思いました。6月に、いわき芸術文化交流館 アリオスとロロの共同企画「家で劇場を考える」で若い子たちとオンラインで作品を作ったとき(参照:稽古・本番を生配信、ロロ×いわきアリオス「家で劇場を考える」始動)、「大学のオンライン授業が始まったけど、まだ一度も同級生に会えてない」って話を聞いて、10年前、もしも今と同じような状況だったら、自分は演劇を始めなかったし、ロロもやらなかったんじゃないかな、っていう気がしたんです。これってすごくまずいことですよね。僕より若い人たちが演劇をやりたいと思える環境を作るために、もう少しがんばらなくちゃと思うようになりました。
──根本さんは、月刊「根本宗子」の新作となる「もっとも大いなる愛へ」を11月に本多劇場で無観客上演・生配信しますが(参照:月刊「根本宗子」新作を本多劇場から無観客配信、主題歌は大森靖子)、本作では完全リモートで稽古が行われ、キャスト陣は初日前夜に初めて直接顔を合わせることになります。上演決定の報を受けて、非常に根本さんらしいユニークな発想の企画だと感じました。
根本 そのときの状況を逆手に取るっていうイメージを持っていただくことがあると思うんですけど、手探りでやってみたら結果的にそうなっていた、っていうことが多くて。リモートになってから特に苦労したことの1つは、俳優さんへの出演依頼ですね。実際にお会いすると表情で伝わることがあると思うんですけど、今は直接コミュニケーションを取れないから、「今回の作品にはこういう意図があって、こういうことに挑戦してみたいです」ということをいつも以上にしっかり説明しないといけない。メールの文面だけだと「きつく思われてしまっていないかな?」って心配になって。そもそも、新しい試みって会って説明しないと伝わらないことが多いのに。
三浦 すごくわかります。リモートが主になってから、空間を共有するってやっぱりすごく重要なことだったんだなっていうのを実感しました。
──生配信演劇もある意味、観客と時間を共有しているということになりますよね。
根本 演劇を生配信することに関してはやっていくうちに考え方が変わって、「事前収録してベストな状態に仕上げたものを配信するのも悪くないかも?」と思い始めるようになったんです。
三浦 そうなんですよね。この前「いつ高」のときに自前で回線を準備して生配信に挑戦したんですけど、結局トラブっちゃったんですよ(参照:ロロいつ高シリーズ最新作「心置きなく屋上で」開幕、映像配信も)。まだちゃんと言葉にできてないんですが、「生である必要ってどこにあるんだろう? でもやっぱり生にこだわりたい」っていう気持ちもあって……。
根本 お客さんからすると、「今、同じ時間を共有してるんだ」っていうドキドキとワクワクがもちろんあると思うんですけど、作り手としては、ベストな状態でストレスなく観てほしいという思いもある。私は、自分の劇団で生配信をするのは次の作品が初めてなので、どっちが良いっていうのはまだ言い切れないんですけど。
三浦 「もっとも大いなる愛へ」で、終演後の稽古の様子まで生配信してみようと思ったのはどんな理由からだったんですか?
根本 「俳優って稽古中に相当すごいことをやってるんだよ」っていうのを見せたいんですよね。「演劇ってなんで1カ月も稽古するの?」「コスパ悪いよね」みたいなことを言われると、なんだか悔しいじゃないですか。いや、本当そう。コスパが悪いって思うところもあるし、でも、言われるたびに「1カ月稽古しなきゃ積み上げられないからやってるんだよ!」って思う自分もいて。毎公演、俳優たちがディスカッションしてブラッシュアップしていく様子を配信したら、稽古期間がどれほど大事かわかってもらえるんじゃないか、トラブル込みでも面白いっていうパッケージにすれば、自分の中で生である意味が得られるのかなって思ったんです。
──9月に配信された「超、リモートねもしゅー3 配信版『超、Maria』」もドキュメンタリー性がある作品で、1台のカメラで撮り下ろされた臨場感あふれる映像で観客の心をつかみました(参照:超、リモートねもしゅー第3弾は1台のカメラで撮影した「超、Maria」)。
根本 今回の「もっとも大いなる愛へ」も「超、Maria」と同じく二宮ユーキさんが撮影してくれるんですけど、二宮さんって私の意図を理解したうえで、お客さんが観たい画をしっかり撮ってくれるんですよ。演出は私だけど、監督は二宮さんって言うのかな。次の「もっとも大いなる愛へ」は2人で分担しながら演出しているような作品になると思います。
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可能性を広げてくれる音楽(根本)