文学座附属演劇研究所 / 文学座9月アトリエの会「かのような私」|戦後日本の歴史と文学座の演技史を振り返る

文学座9月アトリエの会「かのような私‐或いは斎藤平の一生‐」稽古場レポート

文学座9月アトリエの会「かのような私‐或いは斎藤平の一生-」稽古より。

緻密な取材に基づいた社会派作品を多く発表してきた劇団チョコレートケーキの古川健が、9月に上演される「かのような私‐或いは斎藤平の一生-」で文学座アトリエの会に初登場する。今作で古川が描くのは、皇太子(今上天皇)の誕生日であり、東条英機をはじめとするA級戦犯が処刑された1948年12月23日に生まれた斎藤平の一代記だ。

全6幕構成で送る本作は、1幕ごとに10年あるいは20年刻みで物語が展開。第1幕では終戦間もない48年、第2幕では安保闘争に揺れる68年、第3幕では昭和末期の88年、さらに第4幕では2008年、第5幕では18年、終幕では28年12月23日の様子が切り取られ、昭和と平成を生き抜いた平の80年におよぶ人生が壮大なスケールで描かれる。

演出を手がけるのは、水戸芸術館ACM劇場プロデュース「斜交(しゃっこう)~昭和40年のクロスロード」でも古川とタッグを組んだ高橋正徳。劇中では斎藤平役を亀田佳明、平の祖父・智夫役を関輝雄、平の父・信一役を大滝寛が演じるほか、平の母・伸子役を塩田朋子、千坂多佳子役を大野香織、平の長男・学役を池田倫太朗、宇佐美真理役を梅村綾子が務める。また信一の友人・大熊誉役に川辺邦弘、平の友人・安田誠役に萩原亮介、同じく平の友人・吉江恵二役に江頭一馬、そして真理の連れ子である翔太と菜緒役には、文学座附属演劇研究所 研修科1年の川合耀祐と田村真央がキャスティングされた。

顔合わせを終え、稽古は7月下旬にスタート。8月上旬、稽古場でもあり本番の会場でもある文学座アトリエを訪れると、劇場内にはすでに舞台美術が組まれ、舞台上には昭和の一般家庭を思わせる空間が立ち上がっていた。この日行われたのは、平と彼の学友らが斎藤家に集う第2幕第2場の稽古。高橋の合図で、各キャスト、そしてプロンプター(編集注:セリフを忘れた俳優にセリフを伝える役割)の田村がそれぞれの配置につき、稽古は静かに始まった。

田村真央

高橋は上演台本にふせんを貼りつつ、平役の亀田、大熊役の川辺の掛け合いを眺めながら、時折ストップをかけて自身も台本を手に舞台に上がり、2人の会話のトーンを細やかに調整していく。稽古がテンポよく進む中、客席前方に控えたプロンプターの田村は、台本上の文字列を必死に追いかけていた。

第2幕第2場の後半部分では、平とその友人である多佳子、安田、吉江の4人が斎藤家の居間に集結し、学生運動について熱い議論を交わす。このシーンで高橋は、キャストの亀田、大野、萩原、江頭の4人に「この場面における斎藤家は、ユニークな人たちが集まる場所にしたい」と指示する。また安田が当時のアングラ演劇に言及するシーンで、高橋が安田役の萩原に「舞踏っぽい動きをしながら登場してみて」と演出を付け、萩原が両手を広げながらグニャリ、グニャリと踊ってみせると、稽古場は和やかな雰囲気に包まれた。

高橋正徳

さらに学生同士の抗争に巻き込まれた吉江が負傷する場面では、吉江役の江頭に「自分のほかにも血を流している同志がたくさんいるから、『自分は大丈夫だ。戦おう』という空気をこの場に持ち込んでほしい」、吉江の身を案じる平の母・伸子役の塩田には「若者たちを心配させないように、けっこうなケガであるという事実を直接伝えず、それを飲み込みながら演技をしてほしい」と演出意図を伝える。このように高橋は当時の情景を想像しながら、学生運動に力を注ぐ若者たちの熱を舞台上に具現化させていった。

文学座9月アトリエの会
「かのような私‐或いは斎藤平の一生-」
2018年9月7日(金)~21日(金)
東京都 文学座アトリエ
「かのような私‐或いは斎藤平の一生-」
スタッフ / キャスト

作:古川健

演出:高橋正徳

出演:関輝雄、大滝寛、川辺邦弘、亀田佳明、萩原亮介、池田倫太朗、江頭一馬、川合耀祐、塩田朋子、梅村綾子、大野香織、田村真央

文学座附属演劇研究所
1961年、文学座創立25周年の記念事業の1つとしてスタートした文学座附属演劇研究所。授業では文学座座員たちによる演技実習をはじめ、各専門家を招いての音楽、体操、ダンス、アクション、能楽、作法のレッスンや、演劇史を学ぶ座学もあり、広く舞台で活動していくための基礎教養を学ぶことができる。
2019年第59期本科入所試験
第1次試験:2019年1月6日(日)
第2次試験:2019年1月8日(火)・9日(水)
入所案内・願書請求:2018年10月9日(火)~12月20日(木)
願書受付:2018年12月15日(土)~22日(土)必着
高橋正徳(タカハシマサノリ)
1978年東京都出身。東京学芸大学教育学部中退。2000年、文学座附属演劇研究所に第40期生として入所し、05年に座員に昇格。文学座アトリエの会「TERRA NOVA テラ ノヴァ」(04年)で文学座初演出を手掛ける。以降、川村毅、鐘下辰男、佃典彦、東憲司、青木豪など多くの現代作家の新作を演出する傍ら、文学座附属演劇研究所の発表会の演出も多く務める。11年には文化庁新進芸術家海外研修制度により1年間イタリア・ローマに留学した。
川合耀祐(カワイヨウスケ)
1997年岐阜県出身。文学座附属演劇研究所研修科1年(57期生)。
田村真央(タムラマオ)
1998年長野県出身。文学座附属演劇研究所研修科1年(57期生)。