2023年2月、シルク・ドゥ・ソレイユが5年ぶりに日本に帰ってくる。世代や地域の違いを超え、広く共感を呼ぶストーリー、身体の可能性をとことん追求したパフォーマンスと、サーカスの概念を覆すような挑戦を続けてきたシルク・ドゥ・ソレイユは、1992年の「ファシナシオン」から2018年上演の「キュリオス」まで、13作品が2・3年に1度のペースで来日し、公演を行ってきた。
今回、久々の日本公演で上演されるのは、「アレグリア-新たなる光-」。シルク・ドゥ・ソレイユが世界進出するきっかけとなったアイコニックな作品「アレグリア」をベースにした本作は、“歓喜”をテーマに、かつての輝きを失った王国で、変化や希望を求める若者たちが立ち上がる様が、息をのむようなアクロバット、鮮やかな照明、風や雪吹雪といったスペクタクルを交えて描かれる。
期待が高まる「アレグリア-新たなる光-」の日本上演に向け、ステージナタリーでは、作品の魅力や、披露される全演目を紹介。特集後半では、公演のスペシャルサポーターである小倉智昭、サンドウィッチマンの伊達みきおと富澤たけし、伊藤沙莉が来日公演に向けた期待を語る。
取材・文 / 大滝知里演目紹介 / 櫻井美穂記者発表・スペシャルサポーター撮影 / 藤田亜弓
生まれ変わった「アレグリア」
スペイン語で“喜び”や“歓喜”を意味する「アレグリア」は、1994年に誕生。以降、世界255都市、40カ国以上で上演され、シルク・ドゥ・ソレイユを代表する演目となった。その初演から25年を記念し、2019年に誕生した「アレグリア-新たなる光-」は、「アレグリア」の舞台装置や衣裳、メイクアップ、アクロバットを変更・進化させ、新たなビジュアルスタイルを打ち出した。貴族たちの羽やレースの付いた衣裳は古ぼけた風合いがデジタルプリントされたものに変わり、王権の象徴である巨大な王冠にはツタがからんで、輝きを失った玉座にはゆがみも。それらは、旧体制と拮抗する若者たちとのコントラスト、やがて国にもたらされる光の輝きを一層強くさせる。さらに、「アレグリア」ではサーカス作品としては異例の、サウンドトラックがグラミー賞にノミネートされるという快挙を成し遂げたが、聞きなじみのあるテーマ曲は壮大さをそのままに、現代的な解釈としてエレクトロニックサウンドやロックの要素が盛り込まれた。
今、新たに届けたいもの
サブタイトルの“新たなる光”には、この2年間、シルク・ドゥ・ソレイユが直面した厳しい現実とそれに対する願いが込められている。というのも、2020年、新型コロナウイルスのパンデミックによって舞台公演の中止が相次いだシルク・ドゥ・ソレイユは、一時期、活動休止の危機に陥った(参照:シルク・ドゥ・ソレイユが「WE WILL SEE YOU SOON!」再建の道探る)。本作は、その難局を乗り越え、海外テント公演復活の第一歩として上演されるもので、“光と調和”を迎え入れるというテーマは、彼らの再生に向かう姿にぴたりと重なるのだ。
アーティスティック・ディレクターのマイケル・G・スミスは、海外テント公演復活に際し、「パンデミックでライブエンタテインメントとのつながりを絶たれたあと、観客は何を求めているのかを考えた」と言い、公演中止期間に作品をブラッシュアップする過程でたどり着いたのは、「『アレグリア』を作ったフランコ・ドラゴーヌの思い、“世界はJoyとHappinessの中にある”ということ。初演から25年の“歴史”が込められたこの作品に、“Joy”を手がかりに変更を加えました」と振り返る。そして「新バージョンでは、王位継承者と思い込んで王権を行使しようとするミスター・フルールが、ハッピーな存在になって観客を劇世界に誘います。“Joy”は私たちからのプレゼント。ぜひアーティストから受け取って、皆さんで味わってください」と見どころを語った。シルク・ドゥ・ソレイユからの“祝祭”の波が押し寄せる「アレグリア-新たなる光-」を、会場で体感しよう。
シルク・ドゥ・ソレイユと言えば、パフォーマーのしなやかで強靭な肉体から繰り出される数々のアクロバットが魅力。ここでは、「ダイハツ アレグリア-新たなる光-」の演目ラインナップを紹介する。
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ハンド・トゥ・ハンド
若さと純粋さの象徴・ニンフに扮した、2人の女性アーティストが登場。2人は、シンガーの歌声に合わせて息ぴったりに踊りつつ、片方のニンフがパートナーの手や肩、脚だけを支えに逆立ちするなど、次々とポーズを決めていく。ポーズが決まった瞬間、支えていたもう一方のニンフが相手を放り投げ、観客がハッと息をのんだ次の瞬間、再びキャッチ。まるで重力を感じさせない2人の、流れるような見事なコンビネーションが魅力のパフォーマンスだ。
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ハンドバランシング&コントーション(ローテーション演目)
本演目では、王国と住民の守護者・エンジェルに扮した女性アーティストがバランス芸を繰り出していく。エンジェルは優しげな笑みを浮かべながら、床から伸びる3本の細い杖の上で逆立ちをし、軟体生物のような動きで踊る。また杖の上という頼りない足元にも関わらず、安定したY字バランスを披露。身体の柔らかさと卓越したバランス感覚で観客を魅了する。
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アクロ・ポール
ショーの幕開けを飾る演目。棒高跳びで使うポールを使い、まるでトランポリンのようにアーティストが高く飛び跳ねるロシアンバー、そして複数人のアーティストが、息がそろった群舞と“人間ピラミッド”などの超人技を決めていくバンキンを組み合わせた、世界初のパフォーマンスを披露する。
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ジャーマン・ホイール
世界にかすかな希望の光をもたらすキャラクター・ブロンクスに扮したアーティストが、巨大な車輪を回転させ、舞台上を駆け巡る。またジャーマン・ホイールの内部や周囲で力強いアクロバットを繰り広げる。
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シンクロナイズド・トラピス・デュオ
エンジェルに扮した2人のアーティストが空中ブランコに乗り、ダイナミックなスピンや跳躍を行う。本演目に登場するのは、高難易度の技・サルトを演じられる、世界で唯一のペア。
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ファイヤーナイフ・ダンス
ファイヤートーチや炎のナイフを使ったパフォーマンス。照明が落とされた舞台で、徐々に数を増していく炎の熱気に、会場は興奮と緊張感で包まれる。アーティストが炎を口に含み、吹き出す姿にも注目だ。
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クラウン・スノーストーム
クラウンに扮したアーティストが、孤独、失恋、絶望の物語を詩とフィジカルコメディで表現する。クライマックスでは、雪吹雪が会場いっぱいに広がっていく。
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エアリアル・ストラップ
ブロンクスとエンジェルに扮した2人のアーティストがリボンにぶらさがり、テーマ曲に合わせて、舞台上空へと舞い上がる。2人は上空で時に離れ、時に抱き合い、ロマンチックなパフォーマンスを見せる。
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フラフープ
幾重にも連なったフープを利用した、見どころいっぱいのパフォーマンス。ブロンクスに扮したアーティストが、身体全体でフープを回転させ、軟体芸と共に技を披露していく。
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パワートラック
ブロンクスに扮した14名のアーティストが、トランポリンを駆使したパワフルなパフォーマンスを展開。空中高く飛び上がるほか、体操技やタンブリングを見せる。
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フライング・トラピス
舞台となるのは、ステージ上空10mの高さにセットされた4つのブランコ。恐れを知らないアーティストたちは、ブランコからブランコへとジャンプし、飛び交っていく。