「ふじのくに⇄せかい演劇祭」ラインナップ
「ふじのくに⇄せかい演劇祭」は4月29日から5月7日まで、静岡芸術劇場、静岡芸術公園、駿府城公園などで開催される。ここでは各作品を、会見時に宮城とウォーリーが語った言葉も交えながら上演順に紹介。「XXLレオタードとアナスイの手鏡」については、演出のチョン・インチョルからのメッセージも届いている。
なお作品ラインナップのほかに、トーク企画やお茶摘み体験など多彩な関連企画も用意されているので、来場の際はぜひ参加してみては。
「アインシュタインの夢」
若い観客を中心に前衛的な演出が人気を博している、中国の演出家・孟京輝。代表作「恋愛的犀牛」は2500回以上も上演を重ねるなど圧倒的な人気を誇る。本作ではアインシュタインが残した手紙や会話の記録、カフカの「田舎医者」などに着想を得て、映像やライブ演奏、アクロバティックな身体表現、スピーディな掛け合いでアインシュタインの夢の中がダイナミックに描き出される。
宮城は「孟さんは前衛として知られていて、同時に中国を代表する演出家というポジションにいる、権威を逆さまにしていくようなアーティスト。オリヴィエ・ピィさんは孟さんを『自分の分身のような存在』と語っています」と紹介した。
「ハムレット(どうしても!)」
2月にシャトレ座ディレクターの就任が発表された、現代フランスを代表する劇作家、演出家、俳優のオリヴィエ・ピィ。これまでもSPACで多数の作品を発表しているピィが、今回はシェイクスピアの「ハムレット」をモチーフにした作品を披露する。今作では、“善と悪”“自我”“時間”などのテーマに則って、「ハムレット」を10作にわたって翻訳・演出。アビニョン演劇祭の市民参加型シリーズ作品としてリーディング形式で上演した。今回上演されるのは、それら10作のエッセンスを凝縮した作品となる。
宮城はオリヴィエ・ピィの存在や作品を常に意識してきたと言い、「ピィさんは演劇は魂に直接結びついた神聖な仕事だと考えている。その点で僕にとって近しい感覚の人」と期待を込めて語った。
「XXLレオタードとアナスイの手鏡」
シアター・カンパニー・ドルパグを主宰する韓国の演出家チョン・インチョルが2015年に発表した本作は、2014年に起きたセウォル号沈没事件をきっかけにして創作されたもの。大学入試への不安と焦りから、ジュノは女性用レオタードを着て自撮りをするようになる。ある日、その自撮り写真が流出してしまい……。過酷な学歴社会やジェンダーを巡る問題など、韓国の若者の“今”に迫る。なおチョン・インチョルは2019年に東京で上演された「ボッコちゃん」の演出を手がけている。
またこのたび、インチョルからメッセージが届いた。
チョン・インチョルより日本公演に向けたメッセージ
韓国・ソウルで活動している演出家のチョン・インチョルです。2015年の初演以来多くの韓国の観客たちに楽しんでいただいている私どもシアター・カンパニー・ドルパグの代表作「XXLレオタードとアナスイの手鏡」が、5月に開催されるSPACの「ふじのくに⇄せかい演劇祭2023」に招待される運びとなりました。今作が日本の皆様にどのように受けとめられるのか、今からとても楽しみにしています。演劇祭にお招きいただき、ありがとうございます。
私の作品の日本での上演は今回が2度目となります。2019年6月に東京芸術劇場で上演された星新一氏の小説をもとに創った「ボッコちゃん~星新一 ショートショートセレクション~」が初めての上演でした。
ここ数年、私は自身の創作の源として“科学、宇宙、多様性”に注目し続けてきました。その点において、テクノロジーについての鋭い視点を持ち、人間という存在への深い思いを有し、ひねりの効いた短編として刺激的で大胆なストーリー展開のある星新一氏の作品は卓越しています。だから私は星新一さんの作品が大好きなのです。
「XXLレオタードとアナスイの手鏡」は“大型アパートキッズ”たちの話です。ジュノの不安は彼が秘密にしている趣味に関わる過剰な内的せめぎ合いにより生まれます。もう一方で、この劇ではジュノの趣味の唯一の理解者であるヒジュによって異なった社会階級に属する人たちの間で起こる衝突や理不尽な競争についても語られることとなります。そんな衝突のすべては“大型アパート団地の中にある”学校で起きます。そこは子供たちが親から詰め込まれた凝り固まった価値観を持ち、常に落ちこぼれることを恐れながら、それぞれに自立した判断をしながらも生まれついた家庭環境の中に収まっているような場所なのです。親が子供たちに成功するための基準や方法を押し付けることで、結果的に子供たちを社会的にひ弱な人間にしてしまうのです。
「XXLレオタードとアナスイの手鏡」は個人の趣味が尊重されないこと、そして理不尽な競争に関しての劇です。この劇を持って5月に日本の観客の皆様に会えることをとても楽しみにしています。
「パンソリ群唱 ~済州島 神の歌~」
朝鮮の民俗芸能パンソリの若き旗手であるパク・インへが、済州島に伝わる“家の神々の起源譚”を音楽劇として立ち上げる。本来は独唱であるパンソリを6人の群唱としたり、神話を家族の再生の物語として編み直したり、パク・インへならではのアプローチに注目だ。
宮城はパンソリについて、“一人芸”である能と歌舞伎の違いに擬えながら「シテ1人主義のパンソリをアンサンブルとして捉えてみようという点で新しい世代だということを感じます」と話した。
「Dancing Grandmothers ~グランマを踊る~」
韓国を代表する振付家アン・ウンミによる作品。1990年代にニューヨークに渡り、ピナ・バウシュとの交流を深めるなど海外での活躍も多い彼女は、故郷を巡る旅で出会った“グランマ”たちが自由に踊る姿を映像に収めてきた。その映像と共に、鍛え抜かれたダンサーたちが舞台に登場し、今回は静岡に暮らす“グランマ”たちと共演する。
宮城は「ウンミさんは巨匠……韓国ダンス界のゴッドマザーとも言われていますが(笑)、今作で彼女は今の時代に大きな意味を持つ創作をしていると感じます。他者の文化へのリスペクトを持つことにより、断絶を縫合することを、ダンスの形で実践しているからです」と述べた。
ふじのくに野外芸術フェスタ2023
東アジア文化都市2023静岡県 春の式典上演作品
「天守物語」
「せかい演劇祭」と同時期に、広場や公園、路上などでアートに出会える「ふじのくに野外芸術フェスタ」が開催される。今年は、駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場と浜松城公園 中央芝生広場 特設会場にて、宮城聰の代表作「天守物語」を上演。アジアの多様な伝統芸能を織り込んだ本作は、これまで国内外30都市で上演されており、「東アジア文化都市2023静岡県」春の式典上演作品としてぴったりな作品といえる。
宮城は1996年の初演時、当初は“日本文化のオリジナリティ”について考えていたが、途中で“文化芸術は混淆(こんこう)から成る”と考えが変わったと言う。「天守物語」を通じて、アジアの脈々とした文化的つながりを体感してみては。
「ストレンジシード静岡2023」ラインナップ
2016年にスタートした、ストリートシアターのフェスティバル「ストレンジシード静岡」。8年目となる今年は、「ストレンジシード静岡」がプロデュースする作品も含んだ全体のコアになるような作品群【コアプログラム】、国内で活躍するアーティストとタッグを組んだ【オフィシャルプログラム】、公募による【オープンコールプログラム】の3つの枠組みで、駿府城公園、静岡市役所・葵区役所ほかにて展開される。なお今回はCreative Dandiを除き、全ての団体が新作を披露する。
「ストレンジシード静岡」フェスティバルディレクターのウォーリー木下は「今年は『ストリートシアターってなんだ?』をテーマに、僕らなりのストリートシアターを考える始まりの年にできれば」と思いを語った。
【コアプログラム】「χορός / コロス」
「ストレンジシード静岡」フェスティバルディレクターのウォーリー木下が作・演出・構成・美術を手がける新作劇。タイトルの“コロス”にはギリシャ演劇の群衆としてのコロスと、“殺す”と2つの意味が込められており、70名近くの公募から成る出演者といいむろなおき、金井ケイスケ、黒木夏海、冨田昌則らが創作に挑む。
作品についてウォーリーは「朝11時に開幕する、フェスティバルの始まりを告げるような作品なので、祝祭感のある楽しいものにできればと思っていますが、そこに少し毒が入っているというような、観客の想像力を使った作品にしたいと思います」と語った。
【コアプログラム】Creative Dandi「Woman with Flower」
空中パフォーマンスを繰り広げる韓国のカンパニー、Creative Dandiがビルの壁を使ったバーティカルダンス(クライミング用のロープとハーネスと使ったダンス)を披露する。
ウォーリーは「ゴッホの絵を手がかりにして、ビルの壁面に絵を描くような、そして空想に飛んでいくような作品です」と作品の見どころを明かした。
【オフィシャルプログラム】
【オフィシャルプログラム】には5団体による5作品がラインナップされた。辻本知彦と森山未來らによるユニット・きゅうかくうしお「素晴らしい偶然をつないで」、近年は劇場以外での上演も多い江本純子「おでミずむ(仮)」、藤田貴大率いるマームとジプシー「break-fast」、亀山達矢と中川敦子によるユニット・tupera tuperaの、いえやすんぷ プロジェクト「フラワー家康と いっしょに ちょんまげ行列」、長谷川優貴が主宰を務めるエンニュイ「平面的な世界、断片的な部屋 ストレンジシードver.」が上演される。
【オープンコールプログラム】
【オープンコールプログラム】には5団体が参加。群馬県高崎市を拠点に活動する60歳以上のシニアパフォーミングアーツグループTACT(TAkasaki Community Theater)「スパイダーの糸の件」、振付家・田村興一郎によるプロデュースカンパニー、DANCE PJ REVO「STUMP PUMP SHIZUOKA」、京都の気鋭の劇団・安住の地「わたしが土に還るまで」、木皮成率いるダンスカンパニーデペイズマン「ギガ超獣ギガ」、戯曲・衣裳・対話など多方面から演出を立ち上げていく京都の団体・お寿司「怪獣回しし」が参加する。
-
東アジア文化都市2023静岡県
-
[ふじのくに⇄せかい演劇祭2023]
委託:令和5年度日本博2.0事業(委託型)
主催:SPAC-静岡県舞台芸術センター、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
ふじのくに芸術祭共催事業
[ふじのくに野外芸術フェスタ2023静岡]
[ストレンジシード静岡]
主催:ふじのくに野外芸術フェスタ実行委員会