“少年ジャンプハート”を忘れていくにつれて、品性も失われていく
──この曲には「悪いことしたときの 逃げ口上 ロックンロール」「無意味に中指立てるアイドル」といったインパクトのあるワードが並びます。
リスペクトのない不誠実な行為を明け透けにやれる人のことを、僕は「品がないな」と常々思っておりまして。ロックンロールに感動してバンドを始めた人が、適当な自分の不義だとか荒れ狂った行動を“ロックンロール”っていう理由で片付けるのは乱暴がすぎるし、ロックンロールが誤解されてしまうんじゃないかと思ったんです。
──はい。
THE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」に「弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく」っていう歌詞があるんですね。あれ、すごくいい言葉だなあと思って。今バンドをやってる人の中にはこの歌詞に感動した人も多いと思うんですけど、それに感動した人たちが“さらに弱いものを叩いてない”とは言えないと思うんです。なぜその感動を忘れてしまうのかが僕には理解できないんですよ。そういう行動を取るほうが楽な生き方ではあるんでしょうけど、そういう楽さは品がないし下劣だなって。
──そういうものを目にすると傷付いてしまう?
傷付くし、怒りますね。例えば小学生のときに一緒にポケモンを交換してた仲良しの友達が別の中学校に行って、再会したらめちゃくちゃヤンキーになってて両膝に女を乗せてるところを見た、みたいな感覚になります。
──裏切られた気分?
はい、そいつからカツアゲされてるみたいな気持ちになるんですね。「リヲじゃん、金貸してくんね? 友達じゃん?」みたいな。「もうお前なんか友達じゃない!!」って(笑)。“少年ジャンプハート”を忘れていくにつれて、品性も失われていくような気がします。
──そう言えば「品がねえ 萎え」に「少年ジャンプを読む中年」という歌詞がありますね。そこに続く「大人達はって言うのめっちゃ怖え」という歌詞が気になりました。
「少年ジャンプを読む中年」って、まさしく僕の未来だと思っていて。「少年ジャンプ」が好きなら好きでいいんです。でも「大人達は」って、中年なのに少年側になって言うのは違うなと。“少年ジャンプハート”を持ってても少年ではないので、いつまでも被害者意識があるのは違うと思うんです。
「品がねえ 萎え」という名の“Shimokawa's Sorrow”
──では「自称変態のサブカルたち」という歌詞はどういう思いから出てきた言葉なんですか?
僕らですね、よく変態って言われるんですよ。でも変態だと思ったことがなくて、自分のこと。とても伸び伸びと九州で過ごして、おいしい野菜を生でかじって育ってきた男の子が変態なはずないんですよ。
──その話だけ聞くとかなり健全ですね。
いまだに視界いっぱいのひまわり畑とか見て泣いたりしますからね。でも変態だと言われるポイントがどこにあるのか、薄々気付きはじめまして。それはたぶん、「お兄ちゃんだぁいすき」(2015年8月発売の2ndアルバム「テレポート・ミュージック」収録曲)とか、そういうのがよくないんですよ。「そういうものがピュアネスの中から出てくる人間は危険だ」という意味で変態って言われてるんだと思ったんです。
──なるほど。
ただ「私は変態なんです!」みたいな、バーっとズボンを脱いだりパンツを脱いだりして自分の過激さをアピールすることによって注目を集める人は、普通に下品じゃないですか。でもそういう人たちは自分のことを下品じゃなくて変態だと自称するんですよね。僕らが変態と言われることに関しては甘んじて受け入れますが、そういう人たちと一緒にされると僕らが日常的にパンツ脱いでるみたいになる。それは困るので。
──そういう人たちを指した「自称変態のサブカルたち」ですか。この曲には下川さんの「品がない人が嫌だ」という思いがいろんな言葉でつづられているんですね。
そうです、そうです。もうできるだけ偏屈な曲は書くまいと思ってるんですけどね。いかに自分が偏屈な人間か、この曲を聴けば一発でわかるんじゃないかと(笑)。もう“Sorrow”ですよね。「品がねえ 萎え」に英語版タイトルを付けるとしたら「Shimokawa's Sorrow」です。
──あははは(笑)。
「品がない人たちが嫌だな」って思ってる人は必ず僕以外にもいまして。でもその人たちは、おそらく弾圧されてます。品がない人たちに。それで苦しいことになっていても、「あんなヤツら!」っていちいちヘイトを表すのも品がないと思って黙ってるんですよ。そういう、言えないことを言うのがロックですから。「お前らは間違っていない」と。我々は我々で品を保って天涯へと向かいましょうと。
みんなで“人間合格”したい
──「品がねえ 萎え」は下川さんの脳内がギュッと詰まったような濃い作品になりましたね。
3曲入りのわりには文句の多いCDですよね、ホントに(笑)。どんだけ怒るんだろうって感じですよね。
──ライブで同じ気持ちを共有できるファンの方が増えたにも関わらず、怒りは収まらないんですね。仲間が増えたことが逆にパワーになっているんでしょうか。
そうですね。なんらかに対して深い愛情を抱くと、それはおのずと新しい敵を生み出すもので。仕方がないんですよ。戦争をやめない人間と同じ。手塚治虫とかがマンガに書くテーマ。
──普遍的なものだと。
とは言えいい気持ちもあるので、次の作品に生かせたら。でもいつでも、今まで聴いていた人も初めて聴く人もびっくりするようなものは作ろうと思ってます。
──楽しみにしています。6月からは挫・人間史上最大規模の会場となる東京・LIQUIDROOM単独公演を含む東名阪ツアー「人間合格」が行われますね。
タイトルはとある文豪の方の私小説にかかっているんですが、失格する人がいるのは構わないけど僕は合格したいと(笑)。みんなで合格したいですね。「やった! 人間になれたよ!」って、掲示板の前で胴上げできるようなツアーにしたいです。
- 挫・人間「品がねえ 萎え」
- 2018年5月23日発売 / redrec/sputniklab.inc
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初回限定盤
(※タワーレコード限定) [CD+DVD]
2484円 / RCSP-0088 -
通常盤 [CD]
1080円 / RCSP-0090
- CD収録曲
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- 多重星
- ダンス・スタンス・レボリューション
- 品がねえ 萎え
- 初回限定盤DVD収録内容
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2017年11月10日 渋谷CLUB QUATTROワンマンライブ
- テクノ番長
- よくないんです
- おしゃれメロス
- ハヤオ
- ゲームボーイズメモリー
- 明日、俺はAxSxEになる......
- クズとリンゴ
- 絶望シネマで臨死
ライブ情報
- 挫・人間 東名阪ツアー2018~人間合格~
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- 2018年6月21日(木)大阪府 Shangri-La
- 2018年6月22日(金)愛知県 APOLLO BASE
- 2018年6月24日(日)東京都 LIQUIDROOM
- 挫・人間(ザニンゲン)
- 下川リヲ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月に2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を、2016年9月に5曲入りCD「非現実派宣言」を発表。2017年10月4日には3rdフルアルバム「もょもと」をリリースし、2018年5月にはニューシングル「品がねえ 萎え」を発売する。