挫・人間|人類へ贈る苦言と賛歌

挫・人間が5月23日にニューシングル「品がねえ 萎え」をリリースする。表題曲に加え「多重星」「ダンス・スタンス・レボリューション」の全3曲が収められる本作からは、前作「もょもと」(2017年9月リリースの最新アルバム)で初めて“バンドらしさ”を意識した挫・人間のさらなる進化を垣間見ることができる。このインタビューでは、フロントマンの下川リヲ(Vo, G)に楽曲の制作秘話と共にバンドの近状について語ってもらった。

取材・文 / 石橋果奈 撮影 / 後藤壮太郎

“ツアー全通”という愛情のかけ方

──「品がねえ 萎え」というインパクトのあるタイトルのシングルが発売されます。表題曲は1曲目ではなく3曲目に収められるんですね。

シングルって、1曲目にタイトル曲が来るのが一般的だと思うんです。でも今回はどれを表題曲にしてもいいような気持ちで作りまして。おそらく「品がねえ 萎え」が1曲目に来てしまうとそれ以外がカップリングに聴こえてしまうだろうなと思ったので、3曲目に持ってきたんです。

──確かにそれぞれの楽曲がとても濃いですね。本作はさわやかな夏の恋の歌「多重星」で幕を開けます。

下川リヲ(Vo, G)

「短くてポップな歌ものを作りたい」という思いからできた曲です。僕、夏の曲はパッと終わったほうがいいという、変な考えがあって。それでメンバーにも「とにかく駆け抜ける感じで」とイメージを伝えました。

──夏目(創太 / G, Cho)さんのギターソロもかなりエモーショナルですね。

そうなんですよ。「駆け抜ける感じで弾いて」って伝えたらしれっとああいうのを作ってきて。彼、意外にできるんですよね。ただのバカじゃないんだなと。

──(笑)。歌詞は純粋なラブストーリーを描いたものかと思ったのですが、途中で「快楽天」というワードが出てきます。

最初、そこは「快楽天」じゃなかったんですよ(笑)。何を入れてたんだっけな。この曲では女性が男性を追いかけていく様を描いていて……ロックバンドとかヴィジュアル系バンドのファンで、ツアー全通する方とかっているじゃないですか。

──いますね。

僕らのファンにそういう人がいるかどうかは置いといて、大槻ケンヂ(筋肉少女帯)さんの小説にそういうモチーフがあったんですね。で、全通するという愛情のかけ方、みたいなところを考えていって。例えば東京から金沢とか福岡とか沖縄とか、ひいては宇宙まで行っちゃったら、帰って来れないじゃないですか。でも宇宙まで行った瞬間に地球を振り返って寂しくて泣いたら、無重力なんで涙が浮き上がっていく、みたいな。そういう想像をそのまんま書いてたんですけど、個人的に面白くなかったので、一部のワードを「快楽天」にすり替えまして。一瞬で変な曲になってしまったっていう(笑)。

人からの紹介で誰かとお酒を飲んだとしても好きにならない

──では「多重星」は本質としてはラブソングと捉えていいんですね。

そうですね。僕、最近友達に「ロマンチストだよね」と言われまして……。

──確かにこの曲といい、「チャーハンたべたい」(2017年10月発売の3rdアルバム収録曲「もょもと」収録曲)といい、下川さんの書くラブソングはロマンチックですよね。

だから現実世界で恋ができないんですよね(笑)。宇宙まで行くとか、ひいては世界を救うか君を取るか、みたいな世界観で脳内が動いてるので、人からの紹介で誰かとお酒を飲んだとしても相手を好きにならないんですよね。

──そんな簡単なものじゃないと(笑)。しかも「チャーハンたべたい」では「この恋がそんなに 長くないかもしれないと、君も 感じてたらいーな」と言っていたり、「多重星」では「2人恋におちたんなら 恋が終わるの」と言っていたりと、どちらも切ない結末が待ち受けています。

下川リヲ(Vo, G)

そもそも僕、人生で恋愛がハッピーエンドになったことがないですからね。でも恋愛って結局、2人が向き合うところにしか生まれないと思うので……僕が恋愛語るなって感じですけど(笑)。

──いやいや、語ってください(笑)。

やっぱり本気で向き合ったとき、誰もがやってる幸せの形にどうしても自分は当てはまらないんですよね。恋愛をテーマにしたマンガを読んでも、自分が心惹かれるのは叶わない恋愛だし。例えば恋人が突然ポケットサイズにちっちゃくなっちゃって……。

──内田春菊さん原作の「南くんの恋人」ですね。高校3年生の南くんと、突然身長が16cmになってしまったちよみの恋を描いた作品です。

そうです、そうです。あれの結末とか、すごく心に残ってまして。僕にとっての恋愛は、たぶんそういうものなんですよね。休日に彼女とアイスクリームを食べたとか、そういうことにはきっと幸せを感じられない。なんか、無視できないんですよね。

──無視できない?

「南くんの恋人」みたいな、世にはばかられる恋愛の形がありますけど、それって恋愛が簡単なことじゃないからで。おそらく恋愛はそうやって人の心を狂わせるものなんで、世にはばかられるぐらいが当たり前なんだと思ってまして。だから僕がラブソングを書こうとするとおかしなことになるんですよ。僕にとっては社会に認められない、親にも認められない、友達にも変だと言われる、それでも好きだった場合だけが“恋愛”になっていくので。

──なるほど。「多重星」という言葉は、いわゆるバンギャがバンドマンを追いかけて宇宙に行っちゃう、みたいなイメージから生まれたんですか?

そうですね。バンギャじゃなくてもよかったんですけど、女の人が誰かを追いかけていくところ。多重星って、遠くから見ると1つだけど、実は別々の星が重なってる状態のことを指すそうなんです。そういうことって、世の中にたくさんあるだろうと思いまして。片方は気持ちが重なっていると思っていても、実際は重なってないっていう。たぶん、彼氏彼女とラブラブ、みたいな人もそういう状態だったりすると思うんです。お互いは1つだと思ってても実はすっごい離れてるっていう……やっぱ僕、ネガティブですね(笑)。

「Dance Dance Revolution」はメタル

──2曲目は「ダンス・スタンス・レボリューション」。タイトルからしてきっとユーロビート系だろうと思って聴き始めたら、ゴリゴリのメタルでびっくりしました(笑)。

まずそこがオチです(笑)。

──とんでもない速弾きが入ってますね。

BPM200ですからね。速弾きしようって決めて、菅さん(サポートドラマーの菅大智[ゴールデンシルバーズ、電化アベジュリー、ex.ドレスコーズ])とアベ(マコト / B, Cho)と夏目で1人ずつピロピロピロピロ弾いて(笑)。

──菅さんまで弾いたんですか?

菅さん、しれっとなんでもできるんですよね。でも速弾きができたときはさすがに「なんでできるんですか?」とも聞かなかったです。“おもいきりあけた左耳のピアス”みたいな、笑えないエピソードがそこから出てきたらちょっと嫌だなと思って(笑)。

──「そばかす」的なエピソードですね(笑)。ちなみに、タイトルのモチーフになっているであろうゲーム「Dance Dance Revolution」はやってましたか?

下川リヲ(Vo, G)

もちろんやってました。実家にゲーム用のマットがあって「Butterfly」(スウェーデンの2人組ユニットSMiLE.dkが歌う「DDR」シリーズの看板曲)とか踊ってました。オタクにフィジカルを使わせるゲームってすごいですよね(笑)。僕、友達に秋葉原でラップをしてるオタクがいまして。そいつがなぜか「Dance Dance Revolution」にハマったことがあったんです。

──へえ。

オタクって、やっぱり自己を追求していくんですよね。1人用のゲームじゃないのに(笑)。そいつは難易度を“ベリーハード”に設定して、目隠ししながら左足で1P、右足で2Pを操作するみたいな、すごいプレイをしてまして。ゲーセンでギャラリーがめちゃくちゃ集まるぐらい。

──すごい人なんですね。

そうなんですよ、それやって骨折したんですよ。

──え?

骨を折るまでやってもゴールできないなら、「Dance Dance Revolution」の世界観ってもうメタルだなと思って(笑)。

──このメタルサウンドはそのエピソードから来てるんですね(笑)。

そうです。僕、そのオタクを尊敬してまして。バカとしか思えないんですけど、本人はバカだと思ってないっていう。素晴らしいですよね。

挫・人間「品がねえ 萎え」
2018年5月23日発売 / redrec/sputniklab.inc
挫・人間「品がねえ 萎え」初回限定盤

初回限定盤
(※タワーレコード限定) [CD+DVD]
2484円 / RCSP-0088

TOWER RECORDS

挫・人間「品がねえ 萎え」通常盤

通常盤 [CD]
1080円 / RCSP-0090

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. 多重星
  2. ダンス・スタンス・レボリューション
  3. 品がねえ 萎え
初回限定盤DVD収録内容

2017年11月10日 渋谷CLUB QUATTROワンマンライブ

  • テクノ番長
  • よくないんです
  • おしゃれメロス
  • ハヤオ
  • ゲームボーイズメモリー
  • 明日、俺はAxSxEになる......
  • クズとリンゴ
  • 絶望シネマで臨死

ライブ情報

挫・人間 東名阪ツアー2018~人間合格~
  • 2018年6月21日(木)大阪府 Shangri-La
  • 2018年6月22日(金)愛知県 APOLLO BASE
  • 2018年6月24日(日)東京都 LIQUIDROOM
挫・人間(ザニンゲン)
挫・人間
下川リヲ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月に2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を、2016年9月に5曲入りCD「非現実派宣言」を発表。2017年10月4日には3rdフルアルバム「もょもと」をリリースし、2018年5月にはニューシングル「品がねえ 萎え」を発売する。