音楽ナタリー Power Push - 挫・人間
下川リオが語る、マニアックとポップの間
忘れてほしくないんですけど、でも「忘れてくれ」って言いたい
──2曲目は「ゲームボーイズメモリー」です。
この曲は今流行ってるオシャレな音楽を意識して作りました。悔しいんですけど、オシャレな音楽、好きなんですよ。
──前の「テレポート・ミュージック」のときからシティポップや、ちょっと洒落たソウルミュージックに対して、色気は見せてましたよね。
はい。ただ、好きなんですけど、それを最近のシティポップをやっているバンドのようなきれいな方々がやってしまうと、僕らは立つ瀬がないんですよね。でもやっぱりやりたいみたいな気持ちがあって。で、曲が先にできて、歌詞をどうするかと考えた結果が、「ポケモン言えるから」だったんです。タイトルにしようと思ってました。
──さすがにダメでしょ(笑)。
もともと僕らの小学生、幼稚園くらいのときに「ポケモン言えるかな?」って曲があって。それに対して「ポケモン言えるから」って曲を作ることで、「幼少期の自分に戻りたい気持ちがありつつ、体は無駄に大きくて」っていう25歳の今の自分のリアルを書いてやろうと。ジャンル問わず、自分のリアルを歌う人って多いじゃないですか。で、僕も「25歳になって今俺どう?」みたいなことを歌詞にしようと思ったんですね。特に考えずにバーッと歌詞を書くんですよ、喫茶店で。そうするとですね「あっ! 満たされてない!」と気付くんですね。
──そうなんですね。逆だと思ってました。前回のインタビューで話していた、Facebookで発見したら交際中になってて、かつRADWIMPSのコピバンの人と付き合ってた女の子とか、過去とそろそろ決別しなきゃって思ってるのかと。だから「あの子がずっと忘れない サヨナラがしたい」、でも「届きませんように」と歌ってるんだろうなあと思ってました。
僕も最初はそういうふうに書こうと思ってたんです。
──だから「いいラブソングだな」と思って聴いてましたけど。
決別してやろうと思って、「オラァ! 俺はまだポケモン言えるぜ! 俺がガッチリ生きてるから決別も簡単にできるぜ!」って気持ちを、流行ってるオシャレな曲で書いてやるぞ、と思って書き始めたら、これが、必死に素の自分とバトルしてるみたいなことになって……。
──あははは(笑)。
ポケモンの「めざせポケモンマスター」っていう曲の歌詞にもあるんですよ。「いつもいつでもうまくゆくなんて 保証はどこにもないけど いつでもいつも ホンキで生きてるこいつたちがいる」っていう。でもダメだった。さっき言われた「あの子がずっと忘れない サヨナラがしたい」っていうフレーズも、わりと決別する意志を込めたんです。
──そう、だからちゃんと落とし前つけにいってる感じがしたんですよ。
ただそれ「ずっと忘れないサヨナラ」っていうのは、忘れてほしくないってことなんですよね。
──そうか、そこに未練があるんですね。
そうそう。ずっとその人の中に残ってたい。初期の曲で「タマミちゃん」っていう曲があるんですけど、その曲でも「遺恨にしてほしい」みたいなことを歌ってて。忘れてほしいのか忘れてほしくないのかわからないんですよね。結局忘れてほしくないんですけど、でも「忘れてくれ」って言いたいんですよ。「さよならがしたいんだ、俺は」みたいな。そういう歌詞を書いてしまって「うわあ、青いな」と思って(笑)。そんなこと歌ってる場合じゃないんですけど、つい出てしまった。
──でもそこをちゃんと言えるのはむしろ潔いですよね。カッコつけもしないし、未練タラタラでもないし、カッコつけたくもあるし、未練もある“中途半端な私”みたいなものをちゃんと表現するってむしろ勇気のいることだと思います。本当はだいたいの人がこういうもので。完璧に右か左かを選択することなんてできやしないですから。
できない。でもやっぱそれを迫られてるみたいな圧迫感みたいなのはみんな感じてるはずなんですよね。
──まさにこの「ゲームボーイズメモリー」で歌ってる通り、年齢が上がれば上がるほどその選択は迫られがちですよね。
シティポップっぽい曲なんですけど、感覚が完全に田舎者。「25歳なら結婚しろよ」みたいな(笑)。でも僕の地元では本当にみんなもう結婚してるんですよ。
──あ、リアルでした?(笑)
はい。結婚してて、ミニバンの黒の軽に乗ってて。
──週末になったら国道沿いのTSUTAYAで。
そうです、そうです。でもその中で僕1人だけ、「ポケモンが今年で20周年だ!」とか言ってる。みんなはちゃんと仕事持って、車持って、家庭持って、子供も持ってみたいな生活してる中で「俺、まだ小学生のときと同じこと言ってる」みたいな。
──その疎外感や逡巡は歌詞に反映されてますよね。
自分の世代特有の目線でラブソングを書こうと思って書いたらこうなったんですよね。結局まだ満たされてないってことなんでしょうね。
俺、こういう人生の歩み方してねえな
──下川さんの世代特有という話でいうと4曲目「人生地獄絵図」は特に世代感が出ています。2000年頭の「フラッシュ」を見てないと何もわからないっていう歌詞ですよね。
ホントにわかんないの作っちゃった、ついに(笑)。これ「オニギリ」とか言ってもなんのこっちゃっていう。
──「ミコミコナース」って言われましてもっていう話なわけでしょう(笑)。
そう(笑)。「ウォーリーを探さないで」とか。
──当時の下川さんは当然、エロゲーを満喫できる年齢でもなければエロゲーを買える経済力もないから、フラッシュなんだろうなと。
そうなんです。完全にフラッシュで。この曲のサウンドは基本的に夏目(創太 / G, Cho)が作ったんですけど、それに載せる歌詞をバーッて書いて、読んだときに「ああ、もうダメだ」って思いました。やっぱり、歌詞は過去からしか出てこないんですよね。それに気付いたときに、流行りの音楽とか売れてるアーティストの歌詞を読んで「こういう人生の歩み方してねえな」と。で、もう一度自分が書いた歌詞を読んで「これ、俺ダメだ」って。その瞬間、サビができました(笑)。
──「人生地獄絵図だ」と。
はい。「俺の人生は地獄絵図だなあ」と思って。でも25歳になると覚悟が決まるんです。「もう戻れねえ」みたいな。最初から戻るところはなかったんですけど、もう戻れないんで、「俺は挫・人間で生きるしかないんだ」みたいな。挫・人間やめても俺は「挫・人間」として扱われるんだから。もう就職とか無理なんですよ。普通の人生はもう歩めないとわかって、俺はもう開き直って挫・人間をやるぜって気持ちになったらそこに迷いはなくなっちゃいましたね。
──だったらこの調子で生きてた自分の過去の地獄ももう歌ってもいいかと。
やっぱり“10代の自分 VS 今の俺”みたいなところがあるんで、その10代の自分が喜ぶものを作らなきゃいけない。だからできるだけ10代の子とかに聴いてほしいですけどね。
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収録曲
- テクノ番長
- ゲームボーイズメモリー
- ☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆
- 人生地獄絵図
- 愛想笑いはあとにして
公演情報
挫・人間 りりぱ・つあー “ちょおじつりょくはせんげん”
- 2016年10月9日(日)福岡県 UTERO
<出演者>
挫・人間 / 空狐3000 / 神はサイコロを振らない / ダム狂い - 2016年10月10日(月・祝)熊本県 NAVARO
<出演者>
挫・人間 / ベランパレード / and more - 2016年10月12日(水)愛媛県 松山サロンキティ
<出演者>
挫・人間 / プププランド / The Straws / and more - 2016年10月13日(木)広島県 BACK BEAT
<出演者>
挫・人間 / 空きっ腹に酒 / Droog - 2016年10月22日(土)宮城県 enn 2nd
<出演者>
挫・人間 / ソンソン弁当箱 / 有馬和樹(おとぎ話) / 僕のレテパシーズ / プリマドンナ - 2016年10月28日(金)東京都 WWW
<出演者>
挫・人間(ワンマン) - 2016年11月10日(木)愛知県 APOLLO BASE
<出演者>
挫・人間 / the coopeez / 鈴木実貴子ズ / and more - 2016年11月11日(金)新潟県 CLUB RIVERST
<出演者>
挫・人間 / プププランド / memento森 / and more - 2016年11月16日(水)北海道 Spiritual Lounge
<出演者>
挫・人間 / THE BOYS&GIRLS / さよならミオちゃん - 2016年11月23日(水・祝)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
<出演者>
挫・人間(ワンマン)
挫・人間(ザニンゲン)
下川リオ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月、2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を発表。2016年9月に5曲入りCD「非現実派宣言」をリリースする。