音楽ナタリー Power Push - 挫・人間

下川リオが語る、マニアックとポップの間

孤独に共感して「ウオー」ってなってくれれば

──ここで、始めのほうに話していた話とつながるんですけど、その地獄絵図を音楽で共有することで、「世代を引き受けようとはしてるんじゃないかな、この人」っていう感じがしたんですよね。

やっぱり、そうありたいとは思います。

──特殊な25歳、1個のアイコンとしてちゃんと存在しようとしてるんだなろうあと。

下川リオ(Vo, G)

そうですね。僕って昔のインターネットの人なんですよね。「昔のインターネット」って言葉がしっくりきて最近よく使うんですけど。なんか今さら言うのも恥ずかしいんですけど、僕の中には“バンドをやってる自分”とは別に“オタクの自分”がいるんです。第1にオタク。しかもうざいオタク。「ヤシマ作戦で何がいい?」って話になったときに、友達が「引き金をロボットが1回弾くだけのところ」って答えると、それに対して「いや2回だよ!! 2回弾くじゃん。1発外すでしょ?」みたいな。エヴァの話をし出すと本当にめんどくさいオタクになっちゃうんです。で、そういう人たちって孤独なんですよ。

──でしょうね。

で、結局バンドやっててもいつの間にか孤立してて。「共有するっていうことが嫌で、音楽もアニメもマンガも個人で楽しむもんだ」みたいな気持ちがあったんですけど、ライブハウスに集まって大勢の人間が世代を超えて「念力」とか言ってる姿を見て、楽しいなと思った結果、これを使って遠くに行きたいみたいな気持ちがさすがに湧いた。だから自分の作ったものを共有したいし、聴いてほしい、けど、本質的には共有したくないっていう気持ち。それがこの曲の歌詞には表れてます。だから「わかる人だけがわかる」みたいな単語を使っちゃうんですよね。共有してみんなで楽しくやりたいんだったらもっと別の歌詞書けよって話なんで。

──じゃあわかるやつだけがわかればいい、同じ時代を共有してるやつだけに伝わればいい?

いや、これがわかる、わからないは別にして、きっと伝わると思うんですよ、「この人孤独なんだな」っていうのが。孤独っていうのはジャンルを超えて共有できるもので「この人寂しい人だな、俺と同じだ。モテなそう」って思ってくれた人が挫・人間の音楽を聴いてわけわかんないけど「ウオー」ってなってくれることを望んでます。その孤独の形が、今回の作品になっただけっていう感じですね。

女性になった僕の続き

──順番が前後しちゃうんですけど、3曲目「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」についても聞かせてください。

今回のミニアルバムはそもそもシングル用に「テクノ番長」と「ゲームボーイズメモリー」を作ったことから始まったんです。けど、そのほかにも数曲できたのでこれはもう5曲入りくらいのCDにしようと思って。で、何かパンチある曲を作ろうと考えた結果、楽器を置くのが一番面白いなと。

──ははは(笑)。

バンドとしてステージに出てきて、そいつらが楽器置いたらみんな「おい!」って怒ると思うんですよ。で、この曲が始まったら面白いだろうなと。俺ポップアイコンやし、今のうちにアイドルっぽい曲作っとかなきゃと思って、思い付いたのがPPPH(※オタ芸の1つ)。あとこれまでコール&レスポンスって苦手で入れてなかったんですけど、今作で解禁して。一番凶悪に出てるのがこの曲ですね。

──コール&レスポンスで「変体!」って言わせるなんて(笑)。

下川リオ(Vo, G)

僕、よく「変態」って言われるんです。僕はそんな自覚はまったくないんですけど。で、じゃあ「アイドルと変態」をどう組み合わせてやろうか?と考えたときに、「バタフライ」って言葉が浮かんで。

──アイドルに「バタフライ=きれいな蝶々」はわかるんですけど、下川リオのどこにバタフライ感が?

前作収録曲「お兄ちゃんだぁいすき」を書いたときと同じテンションで書いてるうちに、僕が砂糖菓子の世界へと……。

──「お兄ちゃんだぁいすき」は自分が幼女になった気持ちで書いたとおっしゃってました。ということは、自分がアイドルなんですね、もはや。

そうです。「僕はアイドルなんで、バタフライです」って言ってる。しかも、バタフライって言葉を考えているうちに「そう言えば、さなぎが羽化することを『変体』って言うんだったな」と気付くわけです。漢字は違うんですけど、これは俺が使うべき言葉だなと。

──「お兄ちゃんだぁいすき」のときみたいに「女の子になりたい、女の子の皮をかぶりたい」みたいな欲求って、今回で言うと「アイドルになりたい」ということではない?

これは前作で“幼女になった僕”の続きなんですよ。「お兄ちゃんだぁいすき」は前のアルバムの最後の曲なんですけど、「テレポート・ミュージック」が2ndアルバムなので、それを僕のエピソード2だとすると、エピソード2のラストで僕は幼女になってるので、今作では僕はもう女性なんですよ。だから女性になりたいっていう意志もない。で、女性になった僕が何をしてたかっていうと、車の助手席に乗ってハイウェイを走って……気付いたら。

──気付いたら大人の女になってましたか。

そうなんです。でも僕の中での少女感みたいなものは強くて、最終的に悟りを開くんです。「天国は地獄であり……」みたいな。わりとエモい曲ですね。

ミニアルバム「非現実派宣言」2016年9月21日発売 / 1836円 / redrec / sputniklab inc. / RCSP-0073
「非現実派宣言」
収録曲
  1. テクノ番長
  2. ゲームボーイズメモリー
  3. ☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆
  4. 人生地獄絵図
  5. 愛想笑いはあとにして
公演情報
挫・人間 りりぱ・つあー “ちょおじつりょくはせんげん”
  • 2016年10月9日(日)福岡県 UTERO
    <出演者>
    挫・人間 / 空狐3000 / 神はサイコロを振らない / ダム狂い
  • 2016年10月10日(月・祝)熊本県 NAVARO
    <出演者>
    挫・人間 / ベランパレード / and more
  • 2016年10月12日(水)愛媛県 松山サロンキティ
    <出演者>
    挫・人間 / プププランド / The Straws / and more
  • 2016年10月13日(木)広島県 BACK BEAT
    <出演者>
    挫・人間 / 空きっ腹に酒 / Droog
  • 2016年10月22日(土)宮城県 enn 2nd
    <出演者>
    挫・人間 / ソンソン弁当箱 / 有馬和樹(おとぎ話) / 僕のレテパシーズ / プリマドンナ
  • 2016年10月28日(金)東京都 WWW
    <出演者>
    挫・人間(ワンマン)
  • 2016年11月10日(木)愛知県 APOLLO BASE
    <出演者>
    挫・人間 / the coopeez / 鈴木実貴子ズ / and more
  • 2016年11月11日(金)新潟県 CLUB RIVERST
    <出演者>
    挫・人間 / プププランド / memento森 / and more
  • 2016年11月16日(水)北海道 Spiritual Lounge
    <出演者>
    挫・人間 / THE BOYS&GIRLS / さよならミオちゃん
  • 2016年11月23日(水・祝)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
    <出演者>
    挫・人間(ワンマン)
挫・人間(ザニンゲン)
挫・人間

下川リオ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月、2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を発表。2016年9月に5曲入りCD「非現実派宣言」をリリースする。