挫・人間|現実世界で笑いあうために

挫・人間が11月7日に4thアルバム「OSジャンクション」をリリースする。

ハードコアチューン「webザコ」や夏目創太(G, Cho)が作詞した「カルマポリスII」といった挫・人間にとって新機軸の楽曲と共に、「笑いあうために」や「約束の青」といった真面目な歌モノも並ぶ本作。それら歌モノには、6月に行われた東京・LIQUIDROOMでのワンマンライブを経て、もっと挫・人間の音楽を多くの人に届けたいと思ったという下川リヲ(Vo, G)の意志が反映されている。音楽ナタリーでは下川本人にインタビューを行い、現在の思いと共に個性豊かな楽曲群の制作エピソードを語ってもらった。

取材・文 / 石橋果奈 撮影 / 草場雄介

teacup.掲示板だったら一瞬で死んでたよ?

──4thアルバム「OSジャンクション」を聴かせていただきましたが、今回も挫・人間にしかできないバランスのアルバムだと思いました。下ネタ満載の「カルマポリスII」と温かみのある歌モノ「笑いあうために」が同じアルバムに入っているという。

恐ろしいですよね。意味不明ですもんね。

──「OSジャンクション」というタイトルだったので、インターネット感がある作品なのかなとは思ったのですが、1曲目のタイトル「webザコ」はすごいですね(笑)。

下川リヲ(Vo, G)

僕、普段オタクとばっかり話していて。その界隈……と言うか3人なんですけど(笑)、その“アジール”での日常用語なんですね、もはや。僕らの中では日常会話で普通に意味が通じる言葉なんですけど、よく考えたらほかの人にはわからないですよね。

──3人の中で「webザコ」とはどんな言葉なんですか?

わりとよくSNS上に現れる「あ、こいつインターネット歴浅いな」っていう、ネットリテラシーの低い人のことです。バンドマンに多いんですよ。僕がインターネットを始めた小学生の頃は、ネチケットが大事とされていた時代で。

──ネチケットと言えば、まっ先に思い浮かぶのが電子掲示板ですね。

そうなんですよね。teacup.掲示板を使ってた僕からしたら、「当時インターネットでそんなこと言ってたら一瞬で死んでたよ?」と。そういうやつらを「webザコ」って僕らは呼んでます。インターネット上のコミュニティって昔はもっと閉鎖的だったのに、今は開放的になっていて。そこに対して悲しい気持ちもあるからこそ、「俺はインターネット好き」って言ってるwebザコを見て「大したことねえな」って思っちゃう。だからただの老害なんですけど(笑)。単純に僕らが今のSNSに向いてないという。

30分のライブで30曲演奏するバンドをやりたかった

──「webザコ」がハードコアチューンなのは、そんな怒りから?

実はハードコアの曲だけ先にあったんです。曲名を「webザコ」と決めた瞬間に5秒ぐらいで歌詞ができました。

──相当思いが溜まっていたんですね(笑)。曲はどういう経緯でできたんですか?

下川リヲ(Vo, G)

なんか速い曲が欲しいなと。僕、もともとファストな曲が好きで、本当は30分のライブで30曲演奏する、みたいなバンドをやりたかったんです。フィジカルの面で無理だったんですけど。

──それはいつ頃ですか?

挫・人間を結成するときに、町田町蔵さん(現:町田康)のバンド・INUのコピーをやろうとしてて。INUはそんなに速くないですけど、IdolPunchやMELT-BANANAも好きなんです。うちの初代ドラムも、そういう系のグルーヴが得意だったんですよ。いまだに一緒に遊ぶと2人でずっと速い曲聴いてます(笑)。夏目(創太 / G, Cho)も激しいバンドが好きで。だからアベ(マコト / B, Cho)くん以外はそういうの好きなんじゃないかな。

──アベさんはどんな音楽が好きなんですか?

アベくんはもともと中学時代にJamiroquaiにハマりまして。あと渋谷系ですね。ピチカート・ファイヴが好きです。

──では「可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた」(2015年発売の2ndアルバム「テレポート・ミュージック」収録曲)のような渋谷系を意識した楽曲には、アベさんの素養が反映されてるんですか?

そうですね。実は僕もすごい渋谷系が好きで、アベと2人で「あのカップリングのあれいいよね」みたいな話をよくしてて。ニッチな方向に話が進んでいくにつれて盛り上がっていって、そのうち曲ができるという。

「宝島」を読んでYouTubeで検索する少年時代

──下川さんは音楽的に雑食なんですね。

そうですね。ジャンルにとらわれず、面白いことをしてる人は面白いですから。僕、中学のときにはYouTubeがあったので、そこで筋肉少女帯のミュージックビデオを観ていたんです。今と比べると動画のサイズはちっちゃかったですけど、音もちゃんと再生されるし「すげえ時代が来たぜ」と思って。それで、古本屋で「宝島」を買ってきて、そこに載ってたバンドの楽曲をYouTubeで検索して聴いてました。バックナンバーも飛び飛びだったので、歴史的つながりを全部無視して。当時、そういうリテラシーが全然なかったから、家の同じ棚に筋肉少女帯とTHE BLUE HEARTSのCDが並んでいたり、かと思いきやゴアトランスを聴いたりとか。

──へえ。

下川リヲ(Vo, G)

「これは音がカッコいい」とか「これは言ってることがカッコいい」とか、とりあえず“カッコいいアンテナ”にばっかり引っかかるんですよ。逆に「これはカッコ悪い」ってジャッジできるようなアンテナがなかったので、今でも文化的差別はあんまりないですね。あとアングラなものばかりが好きなわけでもなく、BUMP OF CHICKENも好きでしたし。

──BUMP OF CHICKENはドンピシャの世代ですよね。

そうなんですよ。小学生の頃、インターネットでFlash動画が流行りましたけど、そこにもBUMP OF CHICKENのFlash動画がいっぱいあったので。オタクもみんなBUMP OF CHICKENは聴いてましたよね。

──BUMP OF CHICKENが流行っていて、「宝島」を読んで気になった音楽をYouTubeで調べられるような少年時代で。それらの影響が、下川さんのミクスチャーな音楽を作ってるんですね。

それがそのまんまバンドに出ちゃってますね。