音楽ナタリー Power Push - 挫・人間

下川リオが語る、マニアックとポップの間

挫・人間が新作ミニアルバム「非現実派宣言」を9月21日にリリースする。

本作には彼らのルーツであるテクノサウンドをフィーチャーした全5曲を収録。下川リオ(Vo, G)が“ナゴム的自分”と「開けていきたい」という思いのバランスを取りながら制作していったと語るアルバムについて、下川に話を聞いた。

取材 / 成松哲 文 / 小林千絵 撮影 / 山川哲矢

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ギリギリのポップアイコンとして

──最初に、“最近の挫・人間の愛され方”について話を聞かせてください。7月にBELLRING少女ハート主催のイベントに出演していましたよね。そのラインナップがベルハーのほかに、挫・人間、DOTAMA、校庭カメラガールツヴァイで。「そこと並ぶんだ」という驚きもありつつ、腑に落ちた部分もあって。

下川リオ(Vo, G)

ありがたい話ですよね。ベルハー、DOTAMA、挫・人間、校庭カメラガールツヴァイって、おそらく各ジャンルの極北が集められてる(笑)。

──逆に言うと“極北”というカテゴリで、DOTAMAやベルハーと同じ位置にいると思われてる。とすると、バンドを取り巻く状況ってだいぶ変わりましたね。ギリギリのポップアイコンになってきてる。

そう。ギリギリじゃないと嫌なんですよね(笑)。

──「ポップアイコンでーす! テレビ出まーす!」っていうテンションではないんだけど、ちゃんと開いた存在ではある。

死ぬほどセルアウトもしたいんですけど、でもやっぱ今作の「テクノ番長」みたいな歌詞を書いちゃうし。テクノ好きのおっさんを「あら!」と導いてきちゃうみたいな。

──そうそう、いろんな世代のツボを押さえてくるんですよね。

最近はいわゆる元ナゴムギャルだったような方がけっこうライブに来てくださって。片や10代の子が親子でライブに来てくれたりとかもしてる。そういう状況を見て「あ、これはなんかうれしいな」と思ったんですよね。童貞らしい、モテなくてどこにも居場所がないみたいな男の子と、偏屈な音楽オタクのおっさんが、同じ空間に集まって「念力」だとか、わけのわからないことを叫んでる空間を見て「あ、これは面白いぞ」と思いました。

──“ギリギリのポップアイコン”として成立するに至ったのには、何かきっかけはあったんですか? ライブとリリースを重ねて今の立ち位置まで来たのか、それとも何かのイベントに出たことがきっかけだったのか。

あんまり意識したことなかったですけど、気付いたら……っていう感じですかね。バンド名がそもそもですし、アー写もこんなだし、まあずっとテロリスト的な活動を続けてきたから。バンド組んだときから「もののけ姫」の猩々たちみたいに「人間の肉食う」「人間の力手に入れる」みたいなモチベーションで、活動を続けてるうちに、みんなが「今日、挫・人間出るやん。頭おかしいバンドやろ、1回観とこうか」みたいな顔して観に来てくれるようになりました。で、そういうアイコンとして活動している以上、意識して曲はポップにしようと思っていて。

──はい、すごくポップです。今回の新作は特に。

下川リオ(Vo, G)

ありがとうございます。そう、歌えなきゃ嫌だし。僕、やっぱり筋肉少女帯が好きなんですよ。筋肉少女帯のライブで「踊るダメ人間」のときみんながXジャンプしちゃうのって狂信的なんですけど、それを全員でやる面白さに惹かれるんですよね。そういうことをやるためには曲のポップさは必要で。「頭おかしいバンドやろ、1回観とこうか」って言ってライブを観てくれた人が「えげつないバンドだと思ってたけど、意外とポップで面白かった」って思ってくれたらうれしい。僕らは怪我させないことしか考えてないんで(笑)。

──あはは(笑)。

まあ、バンジージャンプみたいな感覚ですよね。劇薬みたいな存在であれたら。みんな、意外と日々つまんないと思ってるんですよ。「そういう人たちのために新しい刺激を」という感じですね。

──ではここからは「非現実派宣言」の話をさせてください。聴いてみて一番びっくりしたのはサウンドで。これまでとはまたガラッと変わりましたね。

今までと同じものを作りたくなかったんですよね。「この曲とこの曲似てるな」っていうのが嫌で。で、何を作ろうかと自分の好きな音楽を聴いてる中で「俺、こういうのドキドキするなあ」って思うのが、結局、奇妙なオムニバスアルバムとかだったんですよね(笑)。

──前作「テレポート・ミュージック」では意図的に四つ打ちを取り入れたり、ボサノバっぽくしたり、やたら長いタイトルを付けたりしているとおっしゃっていましたけど(参照:挫・人間「テレポート・ミュージック」インタビュー)、今作は単純に好み?

そうですね。っていうか前回のアルバム、いいのができたなと思って。

──すごくよかったです。

ありがとうございます。なんかピュアっちゅうか……きれいだったんですよね、あのアルバム。じゃあ、1stアルバム「苺苺苺苺苺」、2ndアルバム「テレポート・ミュージック」の次に何を出すかと考えたときに、2枚のよさは損なわずに、それでいてわかりやすく楽しいものを作ろうと。

好きな単語を使いたいと思って出てきたのがテクノとアニメ

──「わかりやすく楽しいもの」という視点で見ると、1曲目「テクノ番長」は“わかりやすさの権化”みたいな曲ですよね。歌詞にしても「ローランド」「デリック・メイ」あたりは、きちんと1980年代終わりまでのテクノの楽曲から引用して。かと思えば「ATフィールド」は「新世紀エヴァンゲリオン」からでしょう?

はい。「テクノ番長」っていうタイトルが先に自分の中であって、「で、『テクノ番長』って一体なんなんだ?」って考えてるうちに、とりあえず「ラップしたいな」と思って。ラップというか、早口で歌うというか。で、好きな単語を使って、それをしたいと思ったときに、テクノとアニメしか出てこなかった。ロックバンドなのに(笑)。

──なるほど、気持ちよさ優先だったんですね。にしても挫・人間のメインリスナーは10~20代前半の若い人なわけで。「808のせがれ」から始まっても、おそらくまず読めないし、なんの話かわからないですよね。アニメにしたって一番新しいのが「エヴァンゲリオン」。20年前ですよ(笑)。

下川リオ(Vo, G)

どっちかといえば、アニメとかテクノとかそういうの知らない人にこそ聴いてほしい気持ちがあるんです。例えば平野耕太の「以下略」っていうマンガがあるんですけど、この作品にはマニアックなクソゲーの話が大量に出てくるんですよ。マニアックすぎて、話は全然わからないんだけど、わからなすぎて面白い。それが理想です。とはいえ、あの……ときどき、わけわかんないこと歌う人っているじゃないですか、雰囲気あるわけわかんないこと歌う人。でも僕はそうなりたくないんです。わけわかんないことは歌いたくない。自分の中で意味の通ったことしか歌いたくないんですよ。

──下川さんの中での「マニアックなこと」の結果が、テクノとアニメだったんですね。

はい。なんかいいかなと思って。おそらくほかのバンドの曲では聴けないであろう言葉だらけだし。

──歌詞の内容からすると、「テクノ番長」は“僕や君を救済してくれる存在”ですよね。下川さんって、今もまだテクノに救われたいですか? バンドを取り巻く環境もすごくいいし、今作を聴かせてもらうと、ドラマーがいない状況すらも楽しめちゃってる感じがするんですが。

まあバンドをやることは楽しいですけど、言っても僕ら孤立してるんで(笑)。仲いいバンドもいますけど、そういう人たちもわりと孤立してるし。なんかやっぱり、孤立してないと嫌だと思う気持ちもあるんですよね。

──「じゃあ、どこかに混ざりたいか?」って言ったら……。

そうなんです、混ざりたくないなと思って。だからなんかもう、下北とか行くとホント腹立ってくるんですよ。いやあ、ナタリーが移転してくれてホントによかった!

──あはは(笑)。

バンドはすごく楽しいんですよ。ただこれが果たして「救われたか?」というとですね……。

──そういうことでもないんですよね、きっと。

ということなんだと思います。

ミニアルバム「非現実派宣言」2016年9月21日発売 / 1836円 / redrec / sputniklab inc. / RCSP-0073
「非現実派宣言」
収録曲
  1. テクノ番長
  2. ゲームボーイズメモリー
  3. ☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆
  4. 人生地獄絵図
  5. 愛想笑いはあとにして
公演情報
挫・人間 りりぱ・つあー “ちょおじつりょくはせんげん”
  • 2016年10月9日(日)福岡県 UTERO
    <出演者>
    挫・人間 / 空狐3000 / 神はサイコロを振らない / ダム狂い
  • 2016年10月10日(月・祝)熊本県 NAVARO
    <出演者>
    挫・人間 / ベランパレード / and more
  • 2016年10月12日(水)愛媛県 松山サロンキティ
    <出演者>
    挫・人間 / プププランド / The Straws / and more
  • 2016年10月13日(木)広島県 BACK BEAT
    <出演者>
    挫・人間 / 空きっ腹に酒 / Droog
  • 2016年10月22日(土)宮城県 enn 2nd
    <出演者>
    挫・人間 / ソンソン弁当箱 / 有馬和樹(おとぎ話) / 僕のレテパシーズ / プリマドンナ
  • 2016年10月28日(金)東京都 WWW
    <出演者>
    挫・人間(ワンマン)
  • 2016年11月10日(木)愛知県 APOLLO BASE
    <出演者>
    挫・人間 / the coopeez / 鈴木実貴子ズ / and more
  • 2016年11月11日(金)新潟県 CLUB RIVERST
    <出演者>
    挫・人間 / プププランド / memento森 / and more
  • 2016年11月16日(水)北海道 Spiritual Lounge
    <出演者>
    挫・人間 / THE BOYS&GIRLS / さよならミオちゃん
  • 2016年11月23日(水・祝)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
    <出演者>
    挫・人間(ワンマン)
挫・人間(ザニンゲン)
挫・人間

下川リオ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月、2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を発表。2016年9月に5曲入りCD「非現実派宣言」をリリースする。