音楽ナタリー Power Push - 挫・人間

“超人”にして“美少女”下川リオの考えるバンドの今

挫・人間がフルアルバム「テレポート・ミュージック」を8月26日にリリースする。

2008年、当時高校1年生だった下川リオ(Vo, G)を中心に“全人類への復讐”を旗印に熊本で結成され、以降、1980年代ニューウェイブの影響下にあるサウンドに乗せて、社会とうまく折り合えない自身の姿と、折り合わせてくれない社会へのルサンチマンを歌い続けてきた挫・人間。そんな彼らの2枚目のアルバム「テレポート・ミュージック」は、バンド本来の色合いをたたえつつも、パブリックイメージをいい意味で大きく覆す、開放感にも充ち満ちている。

平均年齢24歳、「最後のナゴムの遺伝子」とも称される彼らに何があったのか。メインソングライター・下川に話を聞いた。

取材・文 / 成松哲 撮影 / 佐藤類

体臭がキツいイメージを変えたかった

──「テレポート・ミュージック」、すごくいいアルバムになりましたね。

下川リオ(Vo, G)(撮影協力:原宿シカゴ 下北沢店)

ありがとうございます! ラッキー(笑)。

──あはははは(笑)。ただ、2009年の「閃光ライオット」の決勝で挫・人間が歌った曲は「ひきこもりのぼくだから 友達もいませんよ」から始まる「土曜日の俺はちょっと違う」。で、2013年の初の全国流通盤「苺苺苺苺苺」も周囲と自身とのズレと、そのズレが生んだルサンチマンについて爆音に乗せてラジカルな言葉で叫ぶアルバムで。

そうですね。「苺苺苺苺苺」には放送できない曲もありましたし。それに歌詞については「閃光ライオット」の頃から言われてましたから。「その曲はラジオで流せないので本番ではやらないでください」って(笑)。

──そして下川さんはナゴムレコード周辺のアーティストや、1970~80年代のサブカルチャーに傾倒してもいる。だから大衆的なもの、メインストリームにあるものは苦手なのかな?と思っていたんです。

今もそのきらいはありますけど、「苺苺苺苺苺」の頃までは特にそうでした。

──でも今回のアルバムには外に開かれている印象がある。世間とのズレをきちんと認めて向き合おうとする自身の姿を歌ってるし、サウンドもイマドキのロックシーンのトレンドをにらんだものになっています。

「アルバムを作ろう」っていう話が持ち上がってから2カ月で30曲くらい作って、その中から収録曲を決めたんですけど、そのとき「今回はさわやかというか、みんなに聴いてもらえるものにしたいな」って思って。アングラバンド、体臭のキツいバンドだと思われてるのは知ってる……それは間違いじゃないし、そういう扱いが心地よかったりもするんですけど、でもあるじゃないですか。気持ち悪いヤツなりにさわやかな心持ちになる瞬間って(笑)。ここ最近は特にそういう心境だったから、体臭がキツいバンドっていうイメージをちょっと変えたかったんです。バンドをやっている以上、やっぱり売れたいし、自分たちのことをわかってもらいたいし。

──これまでは思いの丈をぶちまけられさえすればよかった?

下川リオ(Vo, G)

いや、サブカル的な自意識とかプライドもあって「わかってもらいたい」なんて言えはしなかったものの、高校生の頃から“体臭がキツい”と思われてることに違和感はありました。結成当初から挫・人間の活動には「この表現がみんなにとっての正解であってくれ」っていう祈りみたいなものを込めていたつもりですし。ただ、どれだけ祈ってみたところで、結局のところ学校のクラスにいるときと同じ。ライブハウスの控え室からすらもハミ出しちゃってたから、せめて自分で自分を肯定してあげようと思って、より体臭のキツい表現、ハミ出した表現に走っていった感じだったんです。だから「苺苺苺苺苺」の頃までは「殺す!」「いやむしろ死にてえ」っていう曲が多かった。……まあ、その頃も「この表現で売れる」「イケる」ってどこかで思ってたんですけど(笑)。

──実際にその表現で「閃光ライオット」では特別審査員だったジュニアモデルの夏未エレナさんから賞をもらえたし、ライブハウスに居場所がなかったとは言うものの、ズットズレテルズやGLIM SPANKYなんかとは仲良くしていて、一緒に10代バンドシーンの一角で存在感を示せていたし。

だからその道を邁進していた、みたいな部分があったんですけど、今となっては「あの頃の挫・人間ってマイナス方向に刺激が強すぎたから目立ってただけだよな」って思っていて。今回曲を書いてるときも「『殺す』ばっかり言ってるのも性格が悪いな」「ちゃんとアイラブユーって言えないとダメだな」って思っていたし、苦手な人たちとわかり合いたいと改めて思えるようになってたんですよね。

ニューアルバム「テレポート・ミュージック」 / 2015年8月26日発売 / 2700円 / redrec / sputniklab inc. / RCSP-0061
ニューアルバム「テレポート・ミュージック」
収録曲
  1. 念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ
  2. セルアウト禅問答
  3. 土曜日の俺はちょっと違う(Memory Ver.)
  4. オー!チャイナ!
  5. 可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた
  6. 十月の月
  7. 下川 vs 世間
  8. もう四日もしてない
  9. 過呼吸です。
  10. 今までお世話になりました 
  11. ロンググッドバイ
  12. 下川最強伝説
  13. お兄ちゃんだぁいすき
挫・人間 インストアライブ
2015年8月29日(土)東京都 タワーレコード渋谷店 4Fイベントスペース
挫・人間「あなたの心にテレポート~アルバムの曲全部やるまで帰れま10~」
2015年9月12日(土)東京都 新宿red cloth
2nd Album「テレポート・ミュージック」発売記念TOUR
2015年10月25日(日)愛知県 池下CLUB UPSET <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
2015年11月7日(土)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
2015年11月8日(日)福岡県 Queblick <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
挫・人間(ザニンゲン)

挫・人間

下川リオ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月、2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を発表する。