吉田山田の新作EP「家族写真」が配信リリースされた。
「家族についての曲を作るのが得意なわけではない」と言いながらも、これまで「日々」「母のうた」「化粧」「赤い首輪」などの楽曲を通じて、さまざまな視点で家族を表現してきた吉田山田。そんな吉田結威(G, Vo)と山田義孝(Vo)の2人が、家族をテーマにした「家族写真」を表題曲とした新たなEPを完成させた。デビュー15周年の集大成とも言える本作には「家族写真」に加え、さまざまな愛や恋の形を表現した全6曲が収められている。
今回のインタビューでは、吉田山田にEPの各曲の制作エピソードはもちろん、活動の原動力たり得るものやライブに対する思いなどを聞いた。
取材・文 / 倉嶌孝彦
子供の目線から親の目線へ
──デジタルEPのタイトルが「家族写真」だと聞いたとき、今年の「吉田山田Tour2024 一期ツアー」で「家族」をテーマにした楽曲を披露するコーナーがあったことを思い出しました(参照:吉田山田、15周年に向けた一期ツアー終幕「一生忘れないツアーの1つに」)。「家族」は今の吉田山田のキーワードなのかなと。
山田義孝(Vo) これまで150曲近く作ってきて、いろんな場所で数えきれないくらいライブをしてきて改めて思ったことがあったんです。それは僕らの曲の中でも特に家族にフォーカスした曲がお客さんに響いているな、ということでした。ただ家族のことを歌った曲がたくさんあるから勘違いされやすいけど、家族の曲を作るのが得意なわけではないんですよ。
吉田結威(G, Vo) 僕らの代表曲として「日々」(2013年12月リリースの9thシングル)を挙げてくださる方は多いと思いますが、当時の僕らは「家族をテーマにしよう」という思いから曲を作り始めてはいなくて。当時たまたま“とある家族”にフォーカスした曲を作ってみたら、それが脚光を浴びることになった。
──「得意ではない」と言いますが、「日々」のほかにも「母のうた」「化粧」「赤い首輪」など吉田山田の楽曲には家族をテーマにしたものが多くあります。
山田 僕らから自然と出てきたものももちろんありますが、「日々」が導いてくれた部分が大きいのかな。「日々」を含めて僕らの楽曲は自分たちの生い立ちや人との出会いを歌った曲が多くあるけど、あるときから「日々」を聴いてくださった方々がご自身の家族のエピソードを僕らに話してくれるようになって。それをきっかけに新しい家族の曲が生まれることがたくさんあったんです。10年後、20年後もこうやって曲を作り続けられたらいいな。
──「日々」「母のうた」といった家族の曲はこれまでもライブでたくさん披露されてきましたが、コーナーの中で歌うということはなかったわけですよね?
吉田 はい。吉田山田のライブは2部に分けるようなことはこれまであったけど、「このブロックは◯◯のコーナー」と明言したことはあまりなかったかもしれないですね。表現者の端くれとしてステージに立つのであれば、自分たちのテーマや意志がしっかりないと観てくれる人に伝わらないのかもしれない、と常々思っていて。特に僕がそうなんですよ。誰かのライブを観に行ったときは、ステージに立つアーティストの人となりを知りたくなる。観る側に立ったときは、みんなで一緒に何かをシェアする感覚よりも、アーティストの思いを受け止めたい気持ちが強くなるのかな。だから自分がステージに立ったとき、逆に明確に何かテーマがあったほうがお客さんが受け止めやすいのではないか、と考えるようになって。それで「吉田山田Tour2024 一期ツアー」では家族をテーマにした曲をまとめて披露するコーナーを作ってみました。
山田 「日々」のリリースから10年以上経って、結婚もして子供も生まれ、今度は自分たちが家族を持つようになったことで、家族の捉え方が変わったんですよね。これまではどうしたって子供の目線で親のことを歌った曲が多かったけど、今では僕らが親なわけだから。そうなった今の僕らが改めて歌う家族の歌がどう響くのか、知りたい気持ちもあったかな。
吉田 音楽って面白いですよね。例えば「母のうた」だったら、歌ってるときの母に対する思いがリリース当時と今で違うんですよ。「赤い首輪」も当時飼っていた犬のチャーリーはもう亡くなってしまったから、曲を作ったときとは違う思いになる。生み出した楽曲は作った当時のまま真空パックされているけど、それを今歌うと当時の思いと今の思いが混ざり合うような感覚もあって。山田が言った通り、改めて家族のことを歌ったら僕らの中にどんな気持ちが湧くのか、すごく興味があった。だからコーナー化しました。
惚れ込んだ理由は「暗いから」
──今語っていただいた“家族の歌”への思いが「家族写真」の制作につながったんでしょうか?
吉田 意識せずに家族というテーマが浮かんでいたのかもしれないんですが、ツアーで「家族」のコーナーを用意したのと、EPのタイトルが「家族写真」になったことに直接的な結び付きはないんですよ。「家族写真」という曲をそのままEPのタイトルにしたのは、単純に僕が山田の作ったデモに惚れ込んで「この曲でいこう」と決めたから。
山田 「いつか『家族写真』という作品を作りたい」という構想だけはこのEPを作るずっと前からありました。構想だけはボンヤリある状態で何年も経って寝かせてたところで、数年前から自分の生い立ちについて知りたいと思う機会が増えてきて。当時通っていた小学校とか、親がよく行ってたお店に足を運ぶ中で、昔よく遊んでいた公園を訪れたときに、昔の思い出と「『家族写真』という曲を作りたい」という思いがバチッとリンクした。
──「家族写真」という曲は、ただ幸せな家族のひと幕を歌ったものではないですよね。「写真にはお父さんが写っていない」「覚えていない」というような、喪失感も1つのテーマとして描かれている。
山田 思い出の公園でたくさん写真を撮ったけど、写真を見るとお父さんが写ってないものが多い。それは父親がいつも写真を撮ってくれるからで、一緒に自転車の練習をした記憶はあるけど写真には写っていない。その意味が、今自分が父親として写真を撮るようになってようやく理解できたというか。今の自分と結び付けられた。
──吉田さんは先ほど「『家族写真』という曲に惚れ込んだ」と話していましたが、どういう部分に惹かれたのですか?
吉田 暗いところですね。家族の温かみも描かれているし、幸せな記憶を歌った曲ではあるものの、ただそれだけではなくて、誰しもに必ず訪れてしまう別れや、家族ならではの問題もちゃんと含まれて「家族写真」として記録されている。家族の生活の中に酸いと甘いがあるとして、いいところだけを歌うっていうのはちょっと嫌なんでしょうね。“酸い”の部分の奥にほんのりとある密度の高い出来事とか、温かい“何か”が表現されている曲だと思うので、すごく好き。
山田 僕が曲を作り続けているのは、消化できない気持ちがたくさんあるからなんですよ。家族との生活でも、恋愛でもなんでも。歳を重ねれば重ねるほど、昔の気持ちが消化されて薄れることもあるけど、いつまでも消化できないこともある。父親に対しても母親に対してもある“つっかえているもの”がいいものとは限らない。そのつっかえが取れない限り、きっと僕は曲を作り続けるんだろうなあ。
吉田 「家族写真」もそうだし、新しいお父さんが来たときの子供の目線で描かれた「化粧」とか、本当にすごいと思う。そういう曲がたまに山田から出てきて、車の中でデモを聴いていると鼻の奥がツンとしてきて、1人で泣いちゃうときがあるんですよ。その感覚を覚えていて、今回は「家族写真」を表題曲にしようって決めました。盛り上がる、元気で明るい曲ではないけど、誰か聴いてくれた人の支えになることを願っています。
陽キャだから作れたラジオの曲
──2曲目の「銀河ラジオ」は「ラジオ」をテーマにした楽曲です。お二人は「オールナイトニッポン」のパーソナリティだった時期もありますし、今でもCBCラジオ「吉田山田のネガティブ押し出せ!!!!!! Season2」に出演していたり、YouTubeでラジオ風コンテンツを配信したりしていますから、吉田山田にとっては大事なテーマですよね。
吉田 デモをもらったとき、無性にうれしくなったのを覚えています。これは山田に対してマウントを取るわけじゃなく、僕は中学生の頃からラジオが大好きで、思春期の孤独を抱えた“吉田少年”はラジオに救われてここにいるわけですよ。高校時代の山田にもラジオを薦めたことがあるけど、当時の山田には刺さらなかったのか、そのときは全然聴いてくれなくて。その山田がですよ、ラジオの曲を書いてきたんだからビックリして。どうしていきなりこのテーマで曲を書いたの?
山田 伊集院(光)さんのラジオを聞いているときに、ふと感動したことがあって。ただ話が面白かっただけじゃなくて、このラジオを日本全国のみんなが部屋で1人で聞いてて、リスナーがメールを送ったりして、パーソナリティとコミュニケーションを取っている。誰かの孤独がこの番組によって救われるかもしれないし、全国に届いている電波は宇宙まで飛ばすこともできるはずだし、宇宙のどこかでラジオの電波を拾って聞いてる何者かがいたら面白いだろうなと思ったんです。そんなことを考えながら書いたのがこの曲でした。
──「ラジオの曲なら吉田が書くべき」とはならなかったんですね。
吉田 むしろ逆ですね。僕はラジオへの思いが強すぎて曲にできないんですよ。もちろんラジオへの思いは人一倍あるから曲にして歌いたい気持ちもあるけど、どう書いていいかわからない。山田がいつの間にかラジオを聞くようになってくれたこともシンプルにうれしかったし、山田がラジオというコンテンツの素晴らしさをちゃんと書いてくれたことも超うれしかった。理由はそれだけじゃなくて、シンプルに曲のパワーも感じたから、EPの1曲として収録しました。
山田 ラジオが大好きなよっちゃんを納得させられるものにできたことはめちゃくちゃうれしいですね。
吉田 吉田山田って2つに分けるとするならば、吉田が陰キャで山田が陽キャなんですよ。これは決めつけるわけではないですが、ラジオはどちらかと言えば陰キャの趣味と言えると思っていて。で、僕みたいな陰キャがラジオに対して何かを歌うのはとてもハードルが高くて、まっすぐに「ラジオいいよね」と歌ったら「また陰キャが」って言われてしまうんじゃないか、と考えてしまう。そういうときに陽キャがさっそうと現れて「ラジオいいよね」と僕のような陰キャが言えなかったことをサラっと言っちゃう。こういう構図って今回に限らず、日常でもよくあるんですよ。
山田 僕が本当に陽キャなのかどうかという疑問はありますが、感動したらすぐ表現したくなるタイプなのは間違いないですね。ジャッキー・チェンの映画を観たらすぐ筋トレし始めるのと同じで、すぐ感化されちゃう。
吉田 物作りにおいて影響されやすいことはすごく大事だよ。感動したらすぐ何かにしようという原動力が音楽活動におけるすべてだから。
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当たり前なのに、大人ができないこと