吉田山田|10周年を経て、まだまだ続く物語

吉田山田がニューアルバム「証命」を11月6日にリリースした。

2019年10月21日にメジャーデビュー10周年を迎えた吉田山田。新作「証命」は、彼らが2017年から活動10周年に向けてリリースを展開してきた“アルバム3部作”の完結編として制作された。3月からは47都道府県を回るツアーを行い、8月に毎年恒例のワンマンライブ「吉田山田祭り」を開催、そして11月には東京・中野サンプラザホールにて「大感謝祭」と呼ばれるイベントを行うなど、アニバーサリーイヤーでさまざまな展開を見せる2人に、吉田山田の“これまで”と“これから”を聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 星野耕作

吉田山田を演じていた10年前

──アルバムの話に入る前に、3月から開催された47都道府県ツアーの話を聞かせてください。今回のツアーは47都道府県を回る中でこれまで発表したアルバム6作品の収録曲をすべて披露するという、お二人にとっては10年の活動を振り返る意味合いもあったと思います。

吉田 振り返ってみて、僕ら2人共変わったところと、変わってないところがハッキリあることに気付いたんですよ。例えばデビューシングルの「ガムシャランナー」は、10年経っても自分が曲に込めた思いにグッとくるんですよね。ただ曲によっては「今ならこの言葉使いをしないだろうな」と思うこともありました。

山田義孝(Vo)

山田 デビューしたばかりの頃の僕ら2人は、吉田山田を演じていた感覚があったんです。「吉田山田でいなきゃいけない」と思って気を張ってたというか。でも10年もやってると吉田山田であることが自然になってきたんですよね。吉田結威と山田義孝の2人がそのままでステージに立って吉田山田になれるようになった。

吉田 具体的に言うと、昔は理想を歌にしてたんですよ。でも10年という時間の中で、描いていた理想を叶えられたこともあれば、叶わなかったこともある。思い描いていたことと現実がちょっと違ってガッカリすることもあったけど、理想じゃなくて現実の中にだって素敵なことがあることを知ることもできた。ただ、今の僕たちはわかりやすく現実を歌うようになったわけでもなくて、現実の中にある手の届く理想をちゃんと歌えるようになったんです。

──タイミング的には、ツアーで過去を演奏しながら最新作「証命」の曲を作ってきたわけですよね。過去の曲と向き合うことで、新曲作りにはどういう影響がありましたか?

吉田 ライブが終わってから山田と話している中で「今日はここがうまくいかなかった」みたいなことがあるんですけど、そういうところにヒントが詰まっていることに気付いて。今までのライブと同じようにやっても感動しないときって、自分たちの心が変化しているからなんですよね。だから今の自分たちが感動すること、歌いたいことが自然と見えてきていた。

山田 昔作った曲を歌っていると、発表当時の心情がいろいろよみがえってくるんですよ。で、今の僕らがどんな曲を歌いたいか改めて考えたとき、ギター1本で演奏できて、すごくシンプルな言葉を歌う曲がいいなあと思ったんです。「証命」の曲作りはいい意味で肩の力が抜けていて、シンプルに難しい詞が書けたと思います。

──前作「欲望」でもシンプルさは1つのテーマになっていましたよね。

吉田 「欲望」のときは僕と山田で「それ、作為的じゃない?」みたいに注意し合うことが多くて。作為的な表現……つまり大げさだったり、わざとらしかったりする表現を極限までそぎ落として曲を作っていたんです。そういう「欲望」を経ての「証命」なので、今回は本当に余計なもののない、ありのままの命の形を曲にできたと思っています。

左から吉田結威(G, Vo)、山田義孝(Vo)。

最初のテーマは遺書

──最新アルバム「証命」は、2017年発表のアルバム「変身」、2018年発表のアルバム「欲望」に続く3部作の完結編として作られたものです。約3年にわたる大きな構想の完結編になるわけですから、プレッシャーもあったと思います。

吉田 自分たちで課したものなんですけど、これまでアルバムを3部作のように作ったこともなかったし、10周年のタイミングで発表する大事な作品を時間をかけて用意するわけですから、すごくハードルが上がった状態での制作だったんですよね。だからプレッシャーはもちろん感じていました。こんなことを言うとレーベルの方に怒られるかもしれないんですけど、「変身」「欲望」「証命」の3部作に関しては“伝える”より“残す”ということに気持ちが強く向いていて、売れるか売れないかはそこまで強く意識していないんです。これは「証命」の制作に入ってから気付いたことでもありますけど、結局のところ僕らが残したかったものって、ありのままの自分たちの姿なので、曲作りが始まってしまえば変なプレッシャーは感じなくなっていて。ただひたすら自分自身と向き合えるかどうかに集中していましたから。

山田 実は「証命」というタイトルができる前、テーマとして“遺書”という言葉が出ていたんですよ。3部作の終わりを意識していたのと、吉田山田の10年の活動に1つ区切りを打つ意味もあって。ただ、結果としてできあがったアルバムには「証命」というタイトルが付いて、僕ら2人共「音楽を続けたい」という明確な答えが見つかった。だから、今作はすごく前向きな曲、希望を感じる曲が多いと思います。

吉田結威(G, Vo)

──“完結”や“遺書”という言葉が出てきていたということは、もしかしたら10周年のタイミングで音楽活動を辞めてしまう可能性もあったということでしょうか?

吉田 明確にそうだとは言い切れないんですけど、もしかしたら僕ら2人に音楽よりも大事なものができる日がくるかもしれないことはなんとなく想像していて。今までの僕らには音楽と同じくらい大事なことってなかったんですよ。だから何歳まででも2人でやれると思っていた。でもある程度年齢を重ねていって、音楽と同じくらい大事な夢ができたときに両立できなくなってしまったら、そのときはどちらかを選ばなきゃいけない。でも選ぶとなったら、1回ケジメを付けないと気持ちが悪いから、10周年のタイミングまでやり切って、そのときの気持ちでもう1回考えようと、山田とは話していたんです。

──その気持ちが、「音楽を続けたい」だったわけですね。

山田 はい。10周年に向けて3部作を完結させることにすごく意識が向いていたから、本気で自分を出し切るつもりで制作していたんですけど、結局作り終わってみると「まだ作りたい」「まだ歌いたい」と思った(笑)。その気持ちは、よっちゃんも一緒だったんです。だからまだ吉田山田の物語は続くのかなって、今は思っています。