吉田山田がベストアルバム「吉田山田大百科」をリリースした。
昨年デビュー10周年を迎え、数々のアニバーサリープロジェクトを展開してきた吉田山田。本作はその一環として作られもので、「約束のマーチ」「日々」「未来」をはじめとするシングル曲のほか、「Color」「赤い首輪」といったライブの定番曲、2人が選曲した「花鳥風月」「もやし」、書き下ろしの新曲「いくつになっても」などを収録。さらに“アニバーサリー盤”には、1stアルバム「『と』」から6thアルバム「欲望」までのアルバム収録曲すべてを網羅したライブCD6枚に、ライブBlu-ray2枚とMV集を収めたBlu-rayが付属するなど、吉田山田の10年の活動が集約された作品となっている。音楽ナタリーでは彼らがベスト盤に込めた思いや、2人にとって新境地となる新曲の制作について話を聞いた。
また特集後半では、ベストアルバムを記念して橋口洋平(wacci)、コショージメグミ(Maison book girl)、志麻(浦島坂田船)など吉田山田と親交のある著名人たちにアンケートを実施。いち“ランナー”(吉田山田ファンの呼称)として好きな楽曲やデビュー10周年を迎えた吉田山田へのメッセージを寄せてもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 星野耕作
吉田山田の第1部完結
──昨年はこれまで発表したすべてのアルバム収録曲を披露する47都道府県ツアーを行ったり、11月の「大感謝祭」(参照:吉田山田「大感謝祭」で10周年をファンと祝う「これが僕らの10年のすべて」)ではファン投票で上位を獲得した曲を披露したりと、既発の楽曲と向き合う機会の多い1年だったと思います。
吉田結威(G, Vo) ライブでほぼすべての曲を網羅できたのは大きかったですね。自分たちで作った曲ではあるんですけど、なかなか全曲を振り返る機会はないので「あ、そういえばこんな曲あったな」というものもありましたし、「昔の自分、いいこと言ってるな」みたいな発見もあって(笑)。ライブをする中でアルバムを発表した当時のことを思い出すこともありましたし、十分にキャリアを振り返ることができたあとでベストアルバムを作れたのは大きかったです。
山田義孝(Vo) 10周年を迎えるまでは、振り返るよりも新しいものを作りたいという気持ちのほうが強かったです。10年やってきてようやく「よくがんばってきたな」と自分たちを褒めたい気持ちになって、この気持ちをファンの方々とも分かち合えるものを作りたかった。それに僕らは今、吉田山田の第1部が完結したような気持ちになっていて。節目のタイミングでこれまでの活動を総括するようなものとして、ベストアルバムを出すタイミングはここしかないなと。
吉田 実はデビュー5周年のタイミングでもベスト盤を作ろうというお話はあったんですよ。でも当時はベストアルバムという言葉が僕らにはちょっと重たくて、シングルコレクション(2014年12月発売の「吉田山田シングルズ」)をリリースさせていただいたんです。それから5年経って、去年は47都道府県ツアーや「大感謝祭」という10周年をお祝いするイベントを開催させてもらって、自分たちがちゃんと10年間活動できたという実感があった。今の僕らならベストアルバムという名を冠した作品を発表してもいいんじゃないかと、ようやく思えたんです。
──世の中にはさまざまなベストアルバムがありますが、お二人はどんな作品にしようと考えたんですか?
吉田 ベストアルバムを作る前に同じような質問をスタッフさんからされて、僕は驚いたんですよ。自分が学生時代に買っていたベスト盤はシングルのA面集的な作品……要は1曲目から最後まで全部どこかで聴いたことがある曲というようなイメージなんです。そこには僕らアーティスト側の好みが入る隙間がないと思っていて。
山田 「自由に作っていい」と言われると逆に難しいですね。100曲近くある中から僕らで14曲は選べないなって。だからいろんな人に「吉田山田のベストアルバムに入っていてほしい曲は何?」と聞いてみました。
吉田 僕らからすると意外な曲が挙がることも多々ありました。例えば「Color」。この曲はシングル曲でもないし、何かのタイアップ曲でもないんですよ。ただ言われてみれば、「Color」は僕らのライブの定番曲になっていて、ベストアルバムに入るのにふさわしい曲なのかなと。
──周囲からの意見を取り入れつつも、お二人のこだわりが反映された曲も入っているわけですよね?
吉田 おそらくファンの方も驚いていると思うんですけど、「花鳥風月」は僕が提案して収録した楽曲です。僕らは「ガムシャランナー」というわかりやすい応援歌でデビューしているので、吉田山田のイメージがそこで止まっている人たちもいると思うんです。「花鳥風月」は「ガムシャランナー」と一緒に1stアルバム「『と』」に収録されているんですけど、のちに僕らの代表曲となる「日々」に通じる部分もある。もっと多くの人に聴いてもらいたい曲なんです。でもこの曲を入れたいと提案したときは、スタッフさんにも驚かれました。
山田 僕は「もやし」ですね。いろんなテーマの曲を歌ってきたんですけど、「もやし」や「しっこ」のような曲は自分の10年を総括する中で外せないと思って。「もやし」はもやしを切り口にしながらちゃんと自分の中の人生観も込められているし、すごく気に入っている曲なので、ベスト盤の差し色として外せない1曲でした。
吉田 全部で14曲という限られた曲数ではあったんですけど、お互いに選曲でぶつかり合うことはなかったです。山田が「『もやし』か『しっこ』を入れたい」と言うのはなんとなくわかっていたし、「『もやし』か『しっこ』で選ぶなら『もやし』だよね」というのもお互いわかっていたみたいで。僕ら2人の中でも納得した14曲がベスト盤には入っていると思います。
──タイトルの「吉田山田大百科」というのも、すごくらしいタイトルですよね。
吉田 これは吉田山田の1つの個性だと思うんですけど、作品のタイトルに関して僕らはあまり肩に力を入れたくないんです。今回も変に凝ったものではなく、「タイトルだけで内容がわかるものにしよう」みたいな考え方が2人の中にあって。でもちょっとは吉田山田らしい感じにしようと思って言葉を出していったら「大百科」とか「辞典」という言葉がしっくりきたんです。
山田 僕ら「キテレツ大百科」をアニメで観た世代でもありますし、吉田山田の名前だけ聞いたことがある人がこの「吉田山田大百科」というタイトルを見たら、きっと総集編のような内容をイメージしてくれると思うんです。
吉田 アニバーサリー盤にはライブ音源6枚とBlu-rayが3枚入っているので、まさに大百科的な内容なんですよ。これから吉田山田を知る人にも、すでに知っている人でより深く知りたい人にも伝わるいいタイトルになったと思っています。
火サス感がある新曲
──ベストアルバムには既発曲のみならず「いくつになっても」と「微熱」という2つの新曲も収録されています。
山田 10周年を迎えた僕らの新しい一面を早く見せたくて、ベスト盤に「いくつになっても」と「微熱」という2つの新曲を入れることにしたんです。
吉田 振り返るだけじゃなくて、今の僕らにしか歌えない曲も一緒に聴いてもらいたかったんです。特に今回の収録曲はリリース順に並べているので、最後に新曲が入るのがすごく収まりがよくて。ここ最近のアルバム曲はどちらかが先頭に立って曲を作ることが多かったんですけど、「いくつになっても」はひさびさに2人で一緒に作った曲です。
山田 よっちゃんの家にアレンジャーの涌井(啓一)くんと一緒に行って、いろんな話をしながら作ったのが「いくつになっても」で。いろんな話をしながらというのは、本当に言葉通りの意味で、曲にまつわることはもちろん、同級生の友達の話とかくだらない笑い話なんかも交えながら曲作りをしたんです。
吉田 僕らも歳を取ったからこういうメッセージを入れよう、とかそういうことは全然考えてなくて。単純に僕らが今歌いたくなった言葉を詰め込んだのが「いくつになっても」という曲なんです。今の僕ららしい1曲になったと思います。
──「いくつになっても」には去年リリースされたアルバム「証命」と地続きのものを感じたんですが、もう1つの新曲「微熱」はこれまでの吉田山田にない要素を感じました。まず歌い方が全然違いますよね。
吉田 おっしゃる通りで、これまでの曲とは一線を画すものになりました。吉田山田史上、最も“火サス”(日本テレビ系のドラマ枠「火曜サスペンス劇場」)感あるよね。
山田 「この感じもいけるんだ」みたいな発見はありました。
吉田 ここ数年は決まったアレンジャーさんにお願いして、自分たちの個性で曲の違いを出していくことをテーマにしていたので、あえて新しいアレンジャーさんやプロデューサーさんには声をかけずに曲を作り続けていたんです。ただ10周年を迎えてひと段落付いて、今まで培ってきたものをいい意味で壊すチャレンジをしてみたくなって。初めてのプロデューサーさんと一緒に作ったのがこの「微熱」なんです。
山田 自分たちでもいろんなことを試してきたし、変化も成長もしてきたつもりだけど、今までの常識が塗り替えられるような衝撃がありました。例えば節回し。「微熱」のレコーディング中、「もっとクセ付けていいよ」と言われて、これまで言葉が伝わりやすいようシンプルに歌っていたということに初めて気付いたんです。クセを意識して付けたことがあまりなかったから、レコーディング中はすごく違和感があったんだけど、自分の歌声を聴いてみると、クセを付けることで言葉がスッと入ることもあるんだと気付いて。すごく勉強になりました。
吉田 今までだったらNGのテイクがOKになったのは衝撃でしたね。それと、これまではコーラスラインも2人で全部考えていたんですけど、今回初めてコーラスを考えてもらったんです。僕らでは思い付かない声の重ね方を提案してもらったりもして。「証命」まではひたすら自分を磨く時間だったんですけど、この曲を作っているときは完全に学ぶ時間になっていたのが面白くて。もし5年前だったらこういうことができていなかったと思うんです。
──それはなぜですか?
吉田 20代の頃の自分って、いろんなことをろくに知りもしないのに自分を通したがっていたなと思い返して。何年もかけて培ってきた自分らしさに固執してしまいがちだったんですよ。でも10年活動してきたことと、ここ3年くらいは根を詰めて音楽を通じて自分とひたすら向き合ってきたからこそ、一度自分らしさを手放してみる楽しさがあることに気付いたんです。デビューから10年で自分たちで限界までやりきった経験があったから、それを壊すことも厭わない境地にまで達せられたのかなって。
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アルバム6枚分のライブ盤
2020年4月9日更新