米津玄師|123で遊ぼうぜ?どうかしてる世界に“POP SONG”を

米津玄師がポップソングを愛する一番の理由

──今回の「POP SONG」は、そもそも曲の発想にも、ビジュアルのイメージや映像での振る舞い方にしても、既存の常識を撹乱する、ある種のトリックスター的な存在感があると思います。それは米津さんが先ほど言った“楽しさ”に結び付くものとしてありますか?

ポップソングほどラジカルなものはないと思うんですよ。言い方が難しいんですけれど、ポップソングには自分を出さなくて済むというか。もちろんこれまで作ってきた曲は自分の精神や技術によるものだし、自分の人生で培って生まれてきたものであるという意識はあるんですけれど、同時に自分のものでない感じもある。そこがポップソングのよさの1つだと思っていて……というのも、自分は地域性みたいなものが苦手で。

──地域性?

要は故郷とか、ローカルであるということ。帰属意識と言ってもいいかもしれない。それが自分にはあまりないし、どこかに属したくないと思う部分がすごくある。それを可能にしてくれるのがポップソングなんです。どこまで行っても自分のことを韜晦できるもので、そこに心地よさを感じるんです。

──“ポップ”なものには、1つの場所のローカルルールや慣習に縛られない普遍的なものでつながることのできる強さがあると思います。そういうものへの思いが「POP SONG」という曲名を付けた理由である?

そうですね。そういうものを作るためには、適性もあるとは思うんですけれど、非常に複雑な手順を踏まなければいけないと思っていて。ポップなものにたどり着くためのやり方は、時代によっても違うし、そもそも自分のコントロールだけでどうにかなるものではない。だからそれに挑むほどラジカルなものはないと思うし、やり甲斐もある。俺がポップを愛する一番の理由はそれなんじゃないかと思います。

米津玄師

ゲームで得た世の中を捉えるための解像度

──今回はPlayStationのCMソングということもあるので、ゲームとの関わりについても聞かせてください。小さな頃からゲームに親しみが深かったと思いますが、米津さんがゲームカルチャーから受け取ったものって、どんなものですか?

人間をざっくりとヤンキーとオタクという2つのジャンルに分けるならば、自分はオタク側の人間であって、生まれたときからそういう魂の形をしていた実感があって。なんでこうなったかというと、何かにつけて想像していたことが大きかったと思うんです。自分の今生きている現実から遠く離れた、どう足掻いても起こり得ないようなファンタジックなことが巻き起こる世界というものを常に思い描いていた。ファンタジーは小説にもマンガにも映画にもありますけれど、そういうことを自分に最初に教えてくれたのがゲームだったんです。目に見えないものやこの世に存在しないもの、存在しないと思われているけど本当は存在しているかもしれないもの……そういうものを感じることで、現実が拡張するというか。コントローラーを通してゲームの世界に没入していく体験によって、こういう世界が本当にどこかにあるのかもしれないという実感を得てきた気がします。例えばRPGのようなファンタジックな世界に、キャラクターを動かすことによって没入する。その世界から帰ってきたあとには、現実を生きる解像度が上がっていて、なんの変哲もない道の先にそういう世界が広がっているんじゃないかと思えるし、その片鱗を見つけられるような気がするんです。それはこの世の中を捉えるための解像度が上がるということだし、生きるうえでものすごく重要なことだと思う。ゲームにはそういうことを教えてもらいました。

──いろんなジャンルがありますが、米津さんはどういうジャンルのゲームが好きですか?

基本的にはRPGですね。1人でじっくりやって物語の中に没入していくゲームが一番好きです。

──以前、音楽ナタリーでは10代の頃にプレイしていたという「ワンダと巨像」のインタビューに答えていましたが(参照:「ワンダと巨像」×米津玄師インタビュー)、ほかに好きなタイトルを挙げるなら?

「ファイナルファンタジー」は小学生の頃からずっとプレイしていて好きですね。あとは「女神転生」シリーズや「アークザラッド」シリーズにもハマりました。「UNDERTALE」も好きなタイトルです。

──米津さんがもしゲームクリエイターだったら、どんなゲームを作ってみたいですか?

群像劇みたいなものは作ってみたいですね。「サガ」シリーズみたいないろんなキャラクターの視点を通して物語が浮かび上がってくるものはいいなと思います。「オクトパストラベラー」というゲームは8人のキャラクターがみんな主人公で、その1人ひとりに独立したストーリーがあって、それが緩やかに絡み合いながら、最終的に1つの結末にたどり着いていく作品で。ああいうものは面白いなと思います。

──わかりました。では最後にシンプルな質問をさせてください。2022年はどういうことをしたいですか?

うーん、なんだろうな。引き続き楽しく生きられたらいいなとは思っています。だんだん、やりたいことのバランスが自分の中で変わってきているし、同じことをやっていてもしょうがないと思う。1つ挙げるならば、歌い方を変えたいです。実はこれまでも5年単位くらいで緩やかに歌い方を変えているんですよ。声は楽器であるけれど、1つしか持てないから、どうしても飽きてくる。ギターを持ち替えるような感じで歌声を持ち替えるような。30代になってもう少し違った歌の聴かせ方ができたらいいなとここ最近はすごく思っています。

米津玄師
米津玄師(ヨネヅケンシ)
1991年3月10日生まれの男性シンガーソングライター。2009年よりハチ名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。楽曲のみならずアルバムジャケットやブックレット掲載のイラストなども手がけ、マルチな才能を有するクリエイターとして注目を浴びる。2018年3月にリリースしたTBS系金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」は自身最大のヒット曲に。「Lemon」も収録した2020年8月発売の5thアルバム「STRAY SHEEP」は、200万セールスを突破する大ヒット作品となった。同年の年間ランキングでは46冠を達成。Forbesが選ぶ「アジアのデジタルスター100」に選ばれ、芸術選奨「文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)」も受賞した。2022年2月にPlayStationのCMソング「POP SONG」を配信リリースした。