米津玄師|123で遊ぼうぜ?どうかしてる世界に“POP SONG”を

変身→セーラームーン→POP SONG

──「POP SONG」はPlayStation側からCMソングを作ってほしいという話を受けて書き下ろした楽曲ですよね。作り始めたのはいつ頃でしたか?

去年の秋頃に着手しました。小学生の頃からPlayStationでずっと遊んでいたし、自分の人生の一部にあるものだから、このオファーは願ってもない話というか、面白くやれそうだなという印象でした。で、書き始めたのが映画をめちゃめちゃ観ていた時期と重なるんです。だから、その頃の体験が「POP SONG」を作るにあたって大きな影響を及ぼしている気がします。

──ロマ音楽のようなこれまでにないテイストを取り入れた楽曲になっていると思いましたが、曲調やサウンドについてはどんなイメージでしたか?

PlayStationのCM曲という前提で、この曲をどんなものにするべきかを考えたんですね。PlayStationは名前の通り、遊ぶものじゃないですか。だから曲の中でもいっぱい遊んでやろうという気持ちがあった。実はミュージックビデオのイメージありきで作ったんですよ。MVの中で“変身したい”という思いがあったので、変身が1つのキーワードとしてありました。

──CMとMVの映像では兵士が米津さんに変身しますが、あのアイデアは米津さん発案だったんですか?

先導したのは自分です。具体的な部分や技術的な部分はもちろん児玉(裕一)監督が考えたものですけれど、身なりやコンセプトは自分のアイデアです。

──そのコンセプトからどのようにこの曲調にたどり着いたのでしょうか?

「変身したい」というのが最初にあって、そこから小さい方法論を膨らませていった感じです。「変身」というところから「(美少女戦士)セーラームーン」が思い浮かんで、変身シーンの効果音を曲にちりばめるというアイデアが出てきました。その音源をどうしようか悩んで、歴代の「セーラームーン」の音響制作をしている会社に依頼し、新しくあの変身シーンの音を再現した音源を作ってもらって使っています。そのほかに、いい意味でのチープさが欲しかったので、YouTuberがよく動画に使っているような歓声、心音、鳩時計などのSEなんかも作ってもらって、ちりばめました。曲の中にそういうものを落とし込んだらどうなるかという、小さい方法論から膨らませて坂東(祐大 / 「海の幽霊」より共同で編曲をしている音楽家)くんとバランスをとっていったら、最終的にこういう形になったという感じです。

変身はある種の開き直り

──そもそも変身をしたかったのはなぜですか?

開き直ったんだと思います。……開き直ったというと語弊があるかもしれないですけれど、自分がデザインした仮装をしているというのは、自分自身の体がキャンバスになっただけとも言えるわけで。子供の頃から紙の上とかパソコンの中で絵を描いていたので、そういう回路は持っていたんです。その回路が今まで自分の肉体に向かなかっただけ。でも齢30になって、ある種の開き直りのおかげで、そういうことが可能になった。5年前や10年前だったら自分の身体性にそれがそぐうわけがないと思って、絶対にそんなことをやらなかったはず。実際にやってみたらそんなに大したことじゃなかったなという感じですね。

──この姿の米津さんは、普段の自分とは違うペルソナですか?

どうなんでしょう。これが自分のなんらかのペルソナであるという意識はないですね。もしかしたらベロベロに酔っ払っている俺に近いのかもしれない。パブリックには見せていなかったけれど、自分の中には昔からあって、それを表現する回路が歳を取るにつれて明確になっただけなんじゃないかと思います。

──この変身は、やってみて気持ちよかったこと、心地よかったことでしたか?

気持ちいいというよりは、違和感がなかったです。初めての体験だったので、どうなるかと思ったんですけれど、普通に楽しかったです。

──米津さんからのアイデアに対して、CM制作側はどういうリアクションでしたか?

こういう形にしてくださいというオーダーもなかったですし、やりやすいようにさせてくれるありがたい環境だったので自由に作らせてもらいました。自分にとって楽しいと思えることを今の自分のモードでやるのが一番似つかわしいという感じでした。

所作も表情も自分自身の中から出てきたもの

──大勢の兵士たちが出てきて、米津さんが現実世界ではできないような動きを繰り広げるMVは、まるでゲームの世界に入ったようなインパクトのある映像でした。撮影は相当大変だったんじゃないでしょうか?

3日間くらいかけて撮ったんですけど、今までのMV撮影の中で一番時間がかかりました。

──映像の中での米津さんの振る舞い方や表情演技は、監督や制作側と話し合いながら決めていったんでしょうか。

そこは自分のやりたいものが明確にあったので、あまり制作陣とは話さなかったですね。強いて言うならば、いつもお願いしているダンスの師匠の辻本(知彦)さんに教えてもらえるところは教えてもらいつつ、基本的には自分の中で考えているものだけで完結させるつもりでやっていました。それで、実際にやってみてわかったこともたくさんあって。

──わかったこと、というと?

ワンピースにカラータイツとヒールのある靴を合わせて着たんですけど、ああいう服装をすると、身体的な表現も自然としなやかになることを辻本さんに教えてもらいました。最初はもっと力強い感じでやりたかったんですけど、実際に動いてみたらダンスを踊るにしても、ああいう服装に合った所作や美しく見えるラインがあるということがよくわかったんです。ちなみに撮影のとき、3針縫う怪我をしたんですよ。

──え? そうなんですか?

MVのラストカット、兵士が歓喜してワーっと外の世界に出ていくシーンで。その撮影が最後のほうで、兵士を演じてくれた皆さんは重い鎧を着ているし、剣を持っているしで、みんなヘトヘトになっていて。これは俺がどうにかその場を司らないといけないと思って、大声を出して、手をガッと上げて盛り上げてたら、手をクレーンカメラにぶつけていたんです。みんな盛り上がってくれて、その勢いのまま次のテイクに行こうと思ったら、向こうからスタッフが飛んできて、気付いたら血が流れていました。それで最終的に3針くらい縫うに至りました。