音楽ナタリー Power Push - 米津玄師

“アンビリーバーズ”の代弁者

果物と人間はどこか似てる

──3曲目の「こころにくだもの」。これはどういうところから? ちょっと童謡っぽい感じの、かわいい歌詞ですけれども。

これはめちゃくちゃすぐできた曲なんですね。そのわりに自分ではものすごく気に入っていて。自分の個人的な思い出を掘り起こしながら作った曲です。ここ最近、昔のことをよく思い出すんですよ。子供の頃の出来事とか子供の頃住んでた街とか、そういうものを夢で見たりもして。いろんなことがあの頃とは変わってしまったって思うんです。子供の頃は見るものすべてが新鮮だったし、住んでる世界が狭いから、周りのものに対する好奇心もすごくあった。でも今はそういうものがどんどん少なくなってきて、新しく手に取るものを見ても「これは昔のものの繰り返しだな」とか共通するものが透けて見えるようになってきた。そういうことを思って作りました。

──果物の名前が歌詞に入っているのがいいですよね。「りんご レモン ぶどう メロン いちご バナナ みかん キウイ」という。

果物って、どこか人間に似てる部分があるなと思うんです。皮と肉と種がある。人間の身体も同じような構造になっているなとも思いました。

人の気持ちを代弁する役割を担うべきと考えるようになった

──最後にもう一度「アンビリーバーズ」の話に戻るんですが、歌詞でいうと、もう1つ重要なポイントがあると思うんです。この曲では主語に「僕ら」という言葉を使っている。「僕はアンビリーバー」ではなく「僕らアンビリーバーズ」となっている。ここは大きなポイントだと思うし、「サンタマリア」以前の米津さんは選ばなかった言葉だと思います。

米津玄師

そうですね。なんて言ったらいいんだろう。「僕ら」っていう言葉自体は「YANKEE」のときもあったんですけど、さっき言ったように、自分はもともとすごく孤独な人間だと思うんですね。昔から人に対して共感することも少なければ、自分が言ってることが理解してもらえないって経験も多かった。そういう経験がどんどん積もり積もって、沈黙が好きな人間になったなっていうふうに自分では思ってるんですけど。でも昔は想像もしてなかったけれど、自分と似たような境遇の人っていうのは確かにいるんですよね。インターネットを見ててもそうだし、自分はそれほど特殊な存在でもないと今は思う。自分と共感してくれる人間がたくさんいる。

──そういう実感がある?

ありますね。それにそういう人たちの気分とか意思みたいなものを、自分なら何か代弁できるんじゃないかと。一歩間違えるとおこがましい考え方になると思うんですけど、自分ならそれがやれるんじゃないかって思うんです。自分には少なくとも音楽を作る適性がある。自分は人よりもうまくメロディを紡ぐことができる。で、人よりうまく言葉を紡ぐことができる。だからそういうものを1つ背負うようなことがやれるのではないかと最近はどんどん思うようになってきていて。「僕ら」という言葉を選んだのは、それの1つの表れなのかもしれない。

──僕が思うに、米津さんは「誰かに手を差し伸べる曲」というものを意識して作ってきたと思うんです。「サンタマリア」もそうだし「アイネクライネ」や「Flowerwall」もそう。でもこの「アンビリーバーズ」という曲は「背中を見せる曲」なんだと思うんです。背中を見せて旗を掲げる。聴き手とそういう関係をとるタイプの曲を作ったという意味で、1つの転機になったんじゃないかと。

そうですね。昔なら口が裂けても言えなかったようなことが、この曲にはすごくたくさん詰まってるなと思います。そうやって聴く人に寄り添ってくれる音楽に自分は救われて今まで生きてきたし。曲を作る人、周りにいる大人、いろんな人間の背中を見て「ああいうふうになりたい」と思いながら生きてきて。で、自分が24歳になって、ある程度世の中のことがわかってきて。じゃあ自分がこれからはそういう役割を担っていくべきなんじゃないかと、そういうことを考えるようにはなってきてますね。

ニューアルバム「Bremen」/ 2015年10月7日発売予定 / UNIVERSAL SIGMA
「Bremen」
画集盤 [CD+画集] 4212円 / UMCK-9772
映像盤 [CD+DVD] 3564円 / UMCK-9773
通常盤[CD] 3240円 / UMCK-1522
米津玄師(ヨネヅケンシ)

男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は800万回を、「パンダヒーロー」の再生回数は400万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。同年10月にメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」、ハチ時代のアルバム「花束と水葬」「OFFICIAL ORANGE」の再発盤をリリースした。2014年4月、米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表。同年6月には初ライブとなるワンマン公演を東京・UNITで開催した。2015年1月にシングル「Flowerwall」をリリース。4月には全国ツアー「米津玄師 2015 TOUR / 花ゆり落ちる」を開催し、10公演を行った。同年8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」で野外フェス初出演を果たす。9月にシングル「アンビリーバーズ」を発表。10月にはアルバム「Bremen」をリリースし、2016年1月からワンマンツアー「米津玄師 2016 LIVE TOUR / 音楽隊」を実施する。