ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ
ティッシュ箱を直す男たちの“会心の一撃”
タイミングが生んだ「会心の一撃感」
──グルーヴ感ももちろん気になったんですけど、もうひとつ、メンバー3人ともすごくテクニカルにプレイしてますよね。
ああ、そう思ってもらえるのはうれしいな。はっきりと意識していたわけじゃないんだけど、たぶん1stで本当はやりたかったことっていうのもこのアルバムには入ってるんじゃないかな、とは思います。1人ひとりのプレイもそうだし、アレンジにしても、音像というか音作りにしても。1stっていい意味でも悪い意味でも途上の作品ですから。もちろんその途上のよさっていうのはあるとは思うんですけど。
──新人ならではの若書きの魅力ってありますよね。
ええ。ただ経験を積んだ上でのテクニックっていうのはやっぱり魅力的であって、オレらもそれなりに経験を積ませてもらう中で、ある程度の果実を実らせられた気はしてるんです。だから気持ちが音に反映された理由は3つあるのかもしれない。アイゴンさんが教えてくれたことと、ライブで機能するグルーヴをフェスで探れたことと、オレらなりの経験。この3つがうまく交差したから1stではできなかったことがやれちゃったのかもしれない。
──意図的にやったわけではなく「やれちゃった」っていうのもすごいですよね。
なんかやれちゃったんですよね(笑)。だからオレら的にもこのアルバムには会心の一撃感があって。バンドだけじゃない、いろんな人たちの事情があって10月16日に発売することになってるんだけど、実はそれがすごくタイミングがよかったというか。オレらがちょうどいいコンディションのときに録ることができたって感じはありますね。
テクニカルな作詞と感覚的な作詞
──作詞、作曲ってスムーズでした?
メロディではほとんど悩まないんですよ。パッとできちゃうんだけど、歌詞にはムラがあって。「バンドワゴン」とか「戦う時はひとりだ」はオケを録って軽くミックスしたものをスタジオでみんなで爆音で聴いてるときに「うわあ、きたきたきた!」ってなってその場でバーッと書けたんですけど、「夜間飛行」とかはマジで出なくて……。
──それはなぜ?
「はじめの一歩 Rising」のオープニングテーマになることが決まってて「勝負の曲だ!」ってオレが勝手に身構えちゃったんです。「刺さる歌詞、刺さる歌詞……なんだ? なんだ? なんだ?」って必死になっちゃって。もうそれって完全に自分を見失ってるじゃないですか。「バンドワゴン」とか「戦う時はひとりだ」のときとはまったく違うことを考えてるし、しているわけだから。結局歌録り当日、アイゴンさんを3時間待たせながら(笑)、1人レコーディングブースに篭もってひたすらオケを爆音で聴いてたら、だんだん左脳的なところが麻痺してきて、ようやくその曲が求めている風景みたいなものが見えてきて。で、「じゃあこの風景を描くための言葉はなんだ?」って考えた結果、やっとできたって感じでした。
──でもかなりテクニカルな詞ではありますよね。「最初の一歩」ってフレーズが入っていたり「飛んでいくんだ」「一等星が 見えた」と、チャンピオンを目指す幕之内一歩に寄り添った内容になっていたりして。
それは悩みまくったおかげなのかもしれない。結局感覚的なものを駆使して書いたんだけど、ずっと「はじめの一歩」のことを考えていたから無意識的に思考がそっちに向かってたのかも。
死神はなぜパンクしたチャリのチューブをあさるのか?
──基本的に作詞するときはそういう感覚的なものを信じてます?
いや、曲によります。さっき話したみたいに「戦う時はひとりだ」はテクニカルに書いてるし、「バンドワゴン」のサビの「クソ野郎に」も「絶対に忘れらんねえよのファンは好きだろうな」っていう言葉だし。もちろんウケを狙っているわけじゃないんだけど、みんな、オレが普段から「うっせえ、ボケ!」なんて言ってることを知ってるわけだから。ただ、そうやってオレだけにしか言えなくて、しかもみんなが振り向いてくれる言葉を使おうっていうときもあれば、逆もある。「青年かまってちゃん」の最初の1行とか自分ですら何言ってんだかワケわかってないですから(笑)。
──まさにそこについて聞きたくて作詞術の話を振ったのに(笑)。「死神がパンクしたチャリのチューブをあさる」ってどういう意味なんだろう?って。
なんかこういう画が浮かんだんですよ(笑)。で「気味悪っ!」と思ったから書いた。だからそのあと「それはそれだとしても」って歌ってるんです。
──「とりあえず死神の件とチャリのチューブの件は置いといて」と。
そうそうそう(笑)。だって自分でも全然意味わかんないから。この詞を書いてた頃「DEATH NOTE」を読んでたから、それの影響なのかなあ。
──その「DEATH NOTE」の話が象徴的な気がするんですけど、柴田さんってそれこそ「クソ野郎!」ってガナっちゃう熱い人である半面、どこかノンキというか、いい意味で普通の人ですよね。それはQUATTROのライブ中のMCを聞いたときにも思っていて(参照:忘れらんねえよ、初ワンマンであの人を卒業!新境地目指す)。
あのBUMP OF CHICKENさんについてのMCですか? 「BUMPがスタジアムでライブをやってるこの日に、なんであんたらはオレらのライブに来てんだよ!」っていう、あの感動的な(笑)。
──もちろん違います(笑)。「そこそこ勉強もできたし、そこそこ足も速かったけど、オレには音楽しかないんだ」っていうアレです。ロックにはそれこそ不良のための音楽、反抗のための音楽っていう機能もあるんだけど、あのMCでは、不良でも反抗的でもない、日々普通に暮らしている人にだってギターを握ってガナりたくなる瞬間があるんだよって言っている気がして。それがすごく印象的だったんです。
うん。確かにロックンローラーっていうと女の子にヒドいことをして、部屋もロクに片付けない、みたいなイメージがあると思うんですけど、オレ、女の子にヒドいことをしないどころか、今、彼女いないし、テーブルの上のティッシュの箱の位置とかスゲー直しますからね(笑)。
- ニューアルバム「空を見上げても空しかねえよ」 / 2013年10月16日発売 / VAP
- 完全限定生産盤 [CD+タオル] 3500円 / VPCC-81779
- 通常盤 [CD] 2500円 / VPCC-81780
- 通常盤 [CD] 2500円 / VPCC-81780
収録曲
- バンドワゴン
- 戦う時はひとりだ
- 夜間飛行
- 中年かまってちゃん
- 青年かまってちゃん
- この高鳴りをなんと呼ぶ
- そんなに大きな声で泣いてなんだか僕も悲しいじゃないか
- 美しいよ
- あなたの背後に立っていた
- アワナビーゼー
- 戦って勝ってこい
- 僕らパンクロックで生きていくんだ
忘れらんねえよ ワンマンツアー
『バンドワゴン』
2013年11月9日(土)
大阪府 心斎橋Music Club JANUS
2013年11月15日(金)
宮城県 仙台PARK SQUARE
2013年11月17日(日)
北海道 札幌DUCE
2013年12月1日(日)
広島県 広島BACK BEAT
2013年12月3日(火)
石川県 金沢vanvan V4
2013年12月4日(水)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER
2013年12月6日(金)
福岡県 福岡Queblick
2013年12月11日(水)
新潟県 新潟CLUB RIVERST
2013年12月13日(金)
東京都 LIQUIDROOM ebisu
忘れらんねえよ(わすれらんねえよ)
柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年結成。パンクロック由来のラウドなギターサウンドと、日々の暮らしの中にある喜怒哀楽をリリカルながらも熱量とテンション高く歌い上げる柴田の歌詞を武器に都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年4月に「CからはじまるABC」が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに起用され、同年8月にCD化。12月には2ndシングル「僕らチェンジザワールド」を発売し、同曲のPVに俳優の萩原聖人が出演したことでも話題を集める。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表し、2013年1月には會田茂一プロデュースの3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」を、6月には同じく會田プロデュースのシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」を発表。同年春から夏にかけて「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」「ARABAKI ROCK FEST.13」「ボロフェスタ2013」など、音楽フェスティバルに精力的に出演する。また同年発表の「夜間飛行」がアニメ「はじめの一歩Rising」オープニングテーマに採用され、「戦う時はひとりだ」がマイナビバイトCMソングに選ばれ話題を集める。そして10月にその2曲も収録した、2ndアルバム「空を見上げても空しかねえよ」をリリースする。