ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ

自称クソバンドが目指す「デカい世界」

忘れらんねえよがニューシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」をリリースした。プロデューサーに會田茂一を迎えた本作では、これまで同様、バンド一流のヒネた愛の言葉をパンク由来のラウドなロックンロールに乗せるスタイルを踏襲しつつも、その射程範囲を拡大。かつてはバンドにとってルサンチマンの対象だったであろう “リア充”的な人々にすら、自らが信じた音楽を届けようとしている。

なぜ、自称「クソバンド」はすべてを許しきれたのか。ボーカリスト・柴田隆浩に話を聞いた。

取材・文 / 成松哲 インタビュー撮影 / 佐藤類

 
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デカい世界に届く純粋にいい音楽を作りたい

──2012年ってどんな1年でした?

柴田隆浩(Vo, G)

3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を出した時点では、世の中的にもロックシーン的にも忘れらんねえよなんて全然知られていなかった。知ってる人がいたとしても「『カイジ』(テレビアニメ『逆境無頼カイジ 破戒録篇』)のエンディングのイロモノバンドでしょ」みたいな、そういう現実があったんですね。それがスッゲー悔しくて、とにかくやれることは全部やろう、と。そんな1年でした。

──「全部」って?

ライブをアホみたいにやって基礎体力をつけるのはもちろん、これはいまだにやってるんですけど、ほかのバンドのライブ終わりにライブハウスの前で自分たちのチラシを配ったりとか。そうやった結果、12月に「COUNTDOWN JAPAN 12/13」に出させてもらったら「なにくそ! 覚えてろよ! ナメやがって!」みたいな気分がなんかスッキリしちゃって。まだ全然これからなんだけど、今は「がんばれ」って応援してくれる仲間がすごく増えたことを実感してますね。

──今回の「この高鳴りをなんと呼ぶ」って、そのスッキリ感がモロに反映されていますよね。というのも、これまでの柴田さんの詞には明確な敵がいたと思うんです。

いました!

──あの娘をスノボに連れ出す彼氏候補の男(「CからはじまるABC」)とか、柴田さんを渋谷の飲み屋でボコボコにするヤツ(「ドストエフスキーを読んだと嘘をついた」)とか。そしてボコられた柴田さんは女の子のブログを覗き見つつ(「ブログを覗き見る」)、オナニーばっか(「僕らチェンジザワールド」)していた。

ゲスいなあ、オレ(笑)。

──でもこの曲では、ルサンチマンはさておいて、なんならそいつらにすら「この星に生まれ」「世界を変え」るための「名曲」を真摯に届けようとしています。

「広い世界に行きたいな」って思ったんですよ。自分の中にあるちっちゃいモヤモヤがなんとなくスッキリして、スノボに行くヤツらが怒りの対象じゃなくなったら、実は目の前にめちゃくちゃデカい世界が広がっていたことに気付いたので。今はそこにスゲー行きたいなっていう。

──「デカい世界」?

まあ言ってしまえばオリコンチャートなんですけど、そこに届く純粋にいい音楽を作りたいっていうモードになったときにできたのが、このメロディなんです。だから歌詞も今までの「なにくそ!」というところからはちょっと抜けたもの、「みんなで一緒にデカい世界に行ったら、多分見たことのない景色を見れるっぽくない?」「だから一緒に行こうよ」っていうものにしたんです。

こいつらをカッコよくできるのはオレしかいねえ

──実際「この高鳴りをなんと呼ぶ」って、スノボに行くヤツも住むデカい世界にアクセスできる1曲になっていると思うんですけど、その背景にはプロデューサー・會田茂一さんの力もあるわけですよね。

もちろん。

──會田さんを選んだ理由は?

柴田隆浩(Vo, G)

ある日、1人でスカイツリーを観に行ったんですよ。友達いないんで(笑)。そして「デケえなあ」なんて思ってたら「おおっ、来たっ!」って感じで「この高鳴りをなんと呼ぶ」のメロディと音像がパッと浮かんだんですね。あの曲のギターなり、ベースなり、キックなり、金物なりが、(手の平を顔の前にかざしながら)ものすごい手前でラウドに鳴ってるイメージが。で、「これなら絶対に勝てる!」「これは見たことのない景色に飛んでいける曲なんじゃねえか」とは思ったんですけど、その音像を自分たちの持ってる録音技術で具現化できるかっていったら「わかんねえな」と。「じゃあ誰かの力を借りるしかない」ってなったときに、真っ先に思い浮かんだのがアイゴンさん。というか「世界で唯一アイゴンさんにしか形にできない」って確信したんです。

──それはなぜ?

「事実、音が違うから」としか言いようがないんですよね。EL-MALOはちょっとジャンルが違うけど、木村カエラさんの「リルラ リルハ」やFOEなんかを聴いているとほかのバンドとは明らかに音が違うので。ただ、接点なんて全然なかったから「どうしよう」って考えに考えて「ここはラブレターでしょう」と。

──「CからはじまるABC」の詞の中でもチャットモンチーにファンレターを書いていることだし(笑)。

ブログを覗き見たりするくらいのストーカー体質ですから(笑)。しつこくアプローチし続けてだんだん断りにくい空気を作って、最終的にOKをもらうのは得意なので。で、直筆だったら相手は余計に断りにくいんじゃないかなって。

──このご時世にあえて手書きする意味って大きいですよね。

「ガチだ」「断ると面倒くさそうだなあ」って思ってもらえる(笑)。だから「バンドに対する自己評価と世の中の評価にギャップがあって悔しい思いもしたけど、今ようやくそれがイーブンになろうとしている」「『この高鳴りをなんと呼ぶ』はそんなときにできた、オレたちがもっと広い世界に行くための勝負曲なんです」「尊敬している人と一緒にマジでガチで人生を賭けて集中して作りたい曲なんです」「だから力を貸してください。アイゴンさん以外にプロデュースできる人はいないんです」みたいなことをメッチャ長々と書いたら、アイゴンさんが「いいよー」って。

──やたらと軽いノリで(笑)。

こっちとしては「あれっ!? ラッキー」みたいな(笑)。ただ、打ち上げのときにおっしゃっていたのが「直筆の手紙を送ってきたヤツは初めてだ」と。それで「面白そうだな」って思ってもらえたのは事実らしいんです。あとは、物理的にアイゴンさんにしかできないということをちゃんと説明してお願いできたから、アイゴンさんにしてみてもそこにプロデュースする意味を見つけたんじゃないかな、と。「こいつらをカッコよくできるのはオレしかいねえ」みたいな感じで。

ニューシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」 / 2013年1月30日発売 / 1200円 / バップ / VPCC-82308
ニューシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」
収録曲
  1. この高鳴りをなんと呼ぶ
  2. 中年かまってちゃん
  3. だんだんどんどん
  4. [スタジオライブ]CからはじまるABC~この街には君がいない~北極星(「オールナイトニッポン ぶっとおしライブ」より)
忘れらんねえよ (わすれらんねえよ)

柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年に結成され、都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年4月に「CからはじまるABC」が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに起用され、着うたなどのデジタル配信を経て同年8月にCD化。同年12月には2ndシングル「僕らチェンジザワールド」を発売し、同曲のPVに俳優の萩原聖人が出演したことで話題を集める。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表。柴田の卓越したメロディセンスや下ネタを織り交ぜた独特な歌詞で、着実に人気を高めている。2013年1月、ニューシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」をリリース。