ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ

ティッシュ箱を直す男たちの“会心の一撃”

刺激とスリルと面白さを求めて孤独になる

──今お話を聞いていて気になったんですけど「みんなに振り向いてもらいたい」「一緒だよ」とは言うものの「空を見上げても空しかねえよ」の中の柴田さんってことごとく孤独な気もするんです。

それね、みんなに言われるんですよ(笑)。

──だと思いますよ。「戦う時はひとりだ」し、「バンドワゴン」に出てくる「まぶしかった君」はもう過去の人になってるし、「アワナビーゼー」では「さよなら」してるし、「青年かまってちゃん」こと柴田さんは「君」のために死のうとしてるし(笑)。でも歌って演奏している忘れらんねえよは不思議とすごく楽しそうなんですよ。

おっしゃる通りで、オレ自身、孤独であることが寂しいだなんて全然思ってなくて。むしろ気持ちがいい。曲もそうだし、ジャケットやブックレットの中の写真もそうなんですけど、バンドとして世の中に出すものすべてに対してバンド自身で責任を負える。自分たちだけで面倒見るっていう意味では孤独なのかもしれないけど、でもそれって刺激的だし、面白いし、スリルもあるんですよ。あとアルバムに対する自信もあるし。

──自ら全責任を負う重荷やプレッシャーは?

いや、気持ちいいだけですね。あと今はもうホントにバンドというか表現活動が面白くてしかたがなくて。ほかにやりたいことや必要としていることが本当に1つもないんですよ。恋愛したいって気持ちも1ミリもないし、友達とみんなで飲みに行って騒ぎたいっていう気持ちもない。だから傍目にはいろんなものを捨てた孤独な人に見えるかもしれないけど、普通に一番面白いことをやってたら自然とこうなっちゃってただけなんです。

柴田隆浩、神になる

──さらに面白いのが柴田さん自身は孤独であることに積極的なんだけど、8月の渋谷CLUB QUATTROでのライブは超満員だったし、年末にはLIQUIDROOM ebisuでのライブも待っている。たくさんの人を巻き込んでますよね。

柴田隆浩

孤独なはずなのに(笑)。ただそれはそれでオレの中では矛盾はなくて。多くのお客さんに振り向いてもらいたいわけだし、それになんか今は、すべてを捨ててでもみんなが求めてくれるオレという存在になりたいっていう感覚が強いんですよ。

──みんなが求める存在であり、しかも孤独って、言ってしまえば神様ですよ(笑)。

あはははは(笑)。もちろんそんな大層なものにはなれません。普段は「セックス、セックス」って言ってるだけのヘンなオッサンなわけですから。

──ヘンなオッサンだからこそ大変な気がします(笑)。盆暮れ正月みたいなイベントがあるたびに、みんなが自分のもとに大挙して押し寄せてきて、あれこれ願いごとをしていって。それをできる限り聞き入れて1人で叶えていくなんてことは神様だからこそできるんじゃないか、って。

でも音楽を鳴らすことを誰かに求められたり、鳴らした音楽のことをわかってもらったりするのってすごいうれしいじゃないですか。そりゃ肩を揉まれればもちろん気持ちいいし、オナニーもすると気持ちいいけど、それとは全然別の、しかも強烈な快感なんですよね、表現することを求められることって。だから今のオレにはほかにやりたいことが1つもない。もうオナニーとすらお別れしようとしてますから(笑)。

──それはそれでちょっとヤバいと思います(笑)。

うん、我がことながらかなりレッドゾーンに突入してるなとは思います(笑)。ちょっとした仙人みたいになってますね。

仙人になりたいのは「ただただ楽しいから」

──その神様というか、仙人というか、利他的な自分になろうと思った転機って具体的に思い浮かびます?

カッコつけじゃなく本心から思ってるんですけど、同じことを繰り返してると飽きちゃうんですよ。1stアルバムで自分がスッキリするための言葉や、誰かに言い放ちたい言葉を吐き出しまくったらなんかもう「言い切った!」みたいな感覚になっちゃって。で、ちょうどその頃、デカいフェスに呼んでもらえるようになって。そういうところだとお客さんのテンションが全然違うんですよ。「忘れらんねえよ、オレらを救ってくれ!」って感じで観てくれてるファンの人ももちろんいるけど、それ以上にオレらのファンではないけど「オレを盛り上げろ!」って期待してくれてるヤツらがいっぱいいて。そういうお客さんを前に「実はさ、こんないい音楽があるんですよ」って自分たちの曲をやったら「うおーっ!」って言ってもらえた。その「いいでしょ?」「いいねっ!」っていうやり取りがメッチャ面白くて。だから転機はたぶんそこらへんなんだけど、深い理由や思惑があって変わったわけじゃないのかもしれない。ただただ楽しいから、ライブで機能する歌やメロディやグルーヴを作りたいっていうだけで。今回のアルバムにはそんな気持ちが、まんま反映されてる気はします。

──その気持ちの高揚ってどうやったらきちんと音に反映されるものなんですか?

柴田隆浩

ちゃんと音に反映された理由には大きく2つがあって、1つはアイゴンさん。今回は8曲プロデュースしてもらってて、3曲はセルフプロデュースで、1曲はおとぎ話の有馬(和樹)くんとの共同プロデュースなんですけど、オレらがやった3曲についても、以前話したアイゴンさんの判断基準っていうものをちゃんと守れたっていう感覚があって(参照:忘れらんねえよ「この高鳴りをなんと呼ぶ」インタビュー)。OKテイクっていうのはきちっとテンポ通りに演奏できたものやミスのないものじゃなくて、いい音楽を鳴らせたものだっていう判断基準を。このアルバムに入ってる曲すべて「なんか明るい感じがするよね」とか「なんかこれキラキラしてるね」とか「なんか相当落ち込んでる感じが出てるよね」とか、そういう理由でOKテイクを選べたんですよ。「この高鳴りをなんと呼ぶ」のレコーディングのときにアイゴンさんに教わったことを素直に吸収できたから、1stアルバムとはグルーヴが全然違うんでしょうね。

──もう1つの理由は?

やっぱり夏フェスとかイベントに出させてもらったことですね。お客さんって残酷だからつまんないライブをするとつまんない顔をするし、イマイチなグルーヴでは踊ってくれないし。そこで何度も弾かれて負けながら、たまには勝ってっていうことを繰り返しているうちに「あっ、こういうこと?」って気付けた瞬間があって。そこで生まれたグルーヴやフィーリングもアルバムには確実に盛り込まれてます。

ニューアルバム「空を見上げても空しかねえよ」 / 2013年10月16日発売 / VAP
完全限定生産盤 [CD+タオル] 3500円 / VPCC-81779
通常盤 [CD] 2500円 / VPCC-81780
通常盤 [CD] 2500円 / VPCC-81780
収録曲
  1. バンドワゴン
  2. 戦う時はひとりだ
  3. 夜間飛行
  4. 中年かまってちゃん
  5. 青年かまってちゃん
  6. この高鳴りをなんと呼ぶ
  7. そんなに大きな声で泣いてなんだか僕も悲しいじゃないか
  8. 美しいよ
  9. あなたの背後に立っていた
  10. アワナビーゼー
  11. 戦って勝ってこい
  12. 僕らパンクロックで生きていくんだ
忘れらんねえよ ワンマンツアー
『バンドワゴン』

2013年11月9日(土)
大阪府 心斎橋Music Club JANUS

2013年11月15日(金)
宮城県 仙台PARK SQUARE

2013年11月17日(日)
北海道 札幌DUCE

2013年12月1日(日)
広島県 広島BACK BEAT

2013年12月3日(火)
石川県 金沢vanvan V4

2013年12月4日(水)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER

2013年12月6日(金)
福岡県 福岡Queblick

2013年12月11日(水)
新潟県 新潟CLUB RIVERST

2013年12月13日(金)
東京都 LIQUIDROOM ebisu

忘れらんねえよ(わすれらんねえよ)
忘れらんねえよ

柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年結成。パンクロック由来のラウドなギターサウンドと、日々の暮らしの中にある喜怒哀楽をリリカルながらも熱量とテンション高く歌い上げる柴田の歌詞を武器に都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年4月に「CからはじまるABC」が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに起用され、同年8月にCD化。12月には2ndシングル「僕らチェンジザワールド」を発売し、同曲のPVに俳優の萩原聖人が出演したことでも話題を集める。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表し、2013年1月には會田茂一プロデュースの3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」を、6月には同じく會田プロデュースのシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」を発表。同年春から夏にかけて「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」「ARABAKI ROCK FEST.13」「ボロフェスタ2013」など、音楽フェスティバルに精力的に出演する。また同年発表の「夜間飛行」がアニメ「はじめの一歩Rising」オープニングテーマに採用され、「戦う時はひとりだ」がマイナビバイトCMソングに選ばれ話題を集める。そして10月にその2曲も収録した、2ndアルバム「空を見上げても空しかねえよ」をリリースする。