ナタリー PowerPush - 忘れらんねえよ

ティッシュ箱を直す男たちの“会心の一撃”

「スゲー! 2つのティッシュの角度が一緒じゃん!」

──思わずティッシュ箱のポジションを直しちゃう人がロックンロールし続けるための秘訣ってあります?

柴田隆浩

ロックのいいところって、どんなことであれ異常なまでに追求していくと、ある瞬間、その分野でロックな存在にならせてくれるんですよ。「お前のティッシュの直し方、それロックだよ」って言ってもらえる。ついティッシュを直してしまうオレを救ってくれるんです。それにライブハウスみたいな現場に行くと楽屋にはいろんなヤツがいますから。いわゆるロックンローラータイプのハチャメチャなヤツもいれば、スゲー暗い奴もいるし、メッチャしゃべりの立つ明るいヤツもいる。でも、みんな出す音はカッコいい。だからオレらもカッコいい音さえ出していればロックの現場にいることができる。で、ティッシュを直しちゃうタイプのお客さんがオレらを観て「あっ、こんな調子でいいんだ」って思ってもらえるんなら、それはそれでうれしいですよね。

──いわゆるロックンローラータイプへの憧れは?

あるにはありますけど、やっぱり通用しないですから、自分にないものを出しても。そういうタイプのバンドマンとかに会うと「同じ土俵で戦っても勝てるわけないな」ってわかるし。じゃあオレらが持ってる武器はなんだ?っていうと、ティッシュを直すところ(笑)。その代わりもう徹底的にきちっと直す。速く直せるようにもなるし、誰にも気付かれずそっと直せるようにもなる。

──そのティッシュ箱の直し方のバリエーションが最初に言っていた変化球の球種っていうこと?

そうそう(笑)。パッと見だとズレてるみたいなんだけど、実はその角度がすごく美しいとか、実はテーブルの上に乗ってるもう1つのティッシュとまったく同じ角度で傾いてるとか。そういうことを突き詰めていくと「スゲー! 2つのティッシュの角度が一緒じゃん!」って言ってもらえるんじゃないかとは思ってます。

日本語で歌う以上、1億2000枚売りたい

──今のお話で「空を見上げても空しかねえよ」がすごいアルバムになった理由の一端がつかめた気がしました。

マジっスか!? ティッシュでいいんだ(笑)。

──むしろティッシュオチでお願いします(笑)。

忘れらんねえよ

でもね、ティッシュはあくまで手段であって、その手段が世の中で通用してくれなきゃ意味はない。やっぱり売れないとダメなんですよね。

──でも、このアルバムって「音楽ファン」だったら絶対に無視できない1枚だと思いますよ。

確かに多くの人に知ってもらえる気はしてます。で「好きだ」って言ってくれる人が増えればもちろんうれしいし、「ダメだ」って言われてもそれはそれでもう仕方ねえな、とは思えてるんですよ。

──ええ。拒否されるにしてもあくまで「こういう音は苦手なんだよね」っていう好き嫌いの話をされるだけ。「大したことねえな」って言わることはまずないと思います。

でもやっぱりね、どうやったって欲をかいちゃいますよね。特に会心の一撃だっていう自信があるから。たぶんバンドやってるヤツは全員、こういう気持ちになるんじゃないですか。みんなどこかで「オレはまだ認められてない」って思ってるんじゃないかな。だって1枚のアルバムを1億2000万枚売った人ってどこにもいないんだから。

──そうか。日本語で歌っている以上、日本の総人口に……。

売りたいですけどね。だからサザンオールスターズさんですら「クソッ!」って思ってるんじゃないですかね。もっと言うなら明日生まれてくる子は桑田(佳祐)さんの作った曲がどんだけスゲーのか、知らないわけだし。それに対して「こんなスゲーの作ってるのに、お前知らねえの!?」って思ってるんじゃないかな。なんかそんな気がする。

どんなにやめたくなっても音楽だけはやめられない

──前回のインタビュー(参照: 忘れらんねえよ「僕らパンクロックで生きていくんだ」インタビュー)でも聞いたことなんですけど、柴田さんはどこに行けば、何をすれば幸せになれるんですかね?

これも前回言った気がするんですけど(笑)、たぶんなれないんじゃないですかね。でもね、なれなくていいやっていう。だって永遠に幸せっていうのはムリだけど、例えばこのアルバムがみんなに評価されたらその瞬間はメチャクチャ幸せになれる。「やったー!」ってなるわけですし。で、まあそのあとすぐに「クソッ、でもまだB'zのほうが全然売れてる」とか思うんだと思うんですよ。

──年がら年中幸せだなんてことはまずあり得ないですよね。

うん。オレを含めて、たいていの人にとって毎日ってそれなりにシンドイものだし、それなりに幸せなものなんだと思うんですよ。だったらオレは音楽を続けていくんだと思います。だってそれがオレには一番幸せなことだから。それにQUATTROのMCでも言った通り、オレには音楽しかないし。これがなくなったらまた昔の自分に戻っちゃう。すべてを人のせいにしようとする、世の中とちゃんと対峙できないジメジメした自分に。そんな中、なぜ今音楽を自由に作れているかっていうとメンバーもそうだし、アイゴンさんもそうだし、スタッフもそうだし、それから聴いてくれる人たちももちろんそうなんだけど、そういうみんなの協力があるからであって。そこそこ勉強ができた身としては、そのくらいのことはわかってるつもりなんで(笑)。オレらが世の中と対峙するため、そしてみんなの協力に応えるためにも、どんなにやめたくなってもやめられないんですよ、音楽だけは。

忘れらんねえよ
ニューアルバム「空を見上げても空しかねえよ」 / 2013年10月16日発売 / VAP
完全限定生産盤 [CD+タオル] 3500円 / VPCC-81779
通常盤 [CD] 2500円 / VPCC-81780
通常盤 [CD] 2500円 / VPCC-81780
収録曲
  1. バンドワゴン
  2. 戦う時はひとりだ
  3. 夜間飛行
  4. 中年かまってちゃん
  5. 青年かまってちゃん
  6. この高鳴りをなんと呼ぶ
  7. そんなに大きな声で泣いてなんだか僕も悲しいじゃないか
  8. 美しいよ
  9. あなたの背後に立っていた
  10. アワナビーゼー
  11. 戦って勝ってこい
  12. 僕らパンクロックで生きていくんだ
忘れらんねえよ ワンマンツアー
『バンドワゴン』

2013年11月9日(土)
大阪府 心斎橋Music Club JANUS

2013年11月15日(金)
宮城県 仙台PARK SQUARE

2013年11月17日(日)
北海道 札幌DUCE

2013年12月1日(日)
広島県 広島BACK BEAT

2013年12月3日(火)
石川県 金沢vanvan V4

2013年12月4日(水)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER

2013年12月6日(金)
福岡県 福岡Queblick

2013年12月11日(水)
新潟県 新潟CLUB RIVERST

2013年12月13日(金)
東京都 LIQUIDROOM ebisu

忘れらんねえよ(わすれらんねえよ)
忘れらんねえよ

柴田隆浩(Vo, G)、梅津拓也(B)、酒田耕慈(Dr)からなるロックバンド。2008年結成。パンクロック由来のラウドなギターサウンドと、日々の暮らしの中にある喜怒哀楽をリリカルながらも熱量とテンション高く歌い上げる柴田の歌詞を武器に都内を中心に精力的なライブ活動を続ける。2011年4月に「CからはじまるABC」が日本テレビ系アニメ「逆境無頼カイジ 破戒録篇」のエンディングテーマに起用され、同年8月にCD化。12月には2ndシングル「僕らチェンジザワールド」を発売し、同曲のPVに俳優の萩原聖人が出演したことでも話題を集める。翌2012年3月に1stアルバム「忘れらんねえよ」を発表し、2013年1月には會田茂一プロデュースの3rdシングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」を、6月には同じく會田プロデュースのシングル「僕らパンクロックで生きていくんだ」を発表。同年春から夏にかけて「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」「ARABAKI ROCK FEST.13」「ボロフェスタ2013」など、音楽フェスティバルに精力的に出演する。また同年発表の「夜間飛行」がアニメ「はじめの一歩Rising」オープニングテーマに採用され、「戦う時はひとりだ」がマイナビバイトCMソングに選ばれ話題を集める。そして10月にその2曲も収録した、2ndアルバム「空を見上げても空しかねえよ」をリリースする。