入門に打って付けの作品

和楽器バンドという音楽集団の魅力をひと言で説明するのは難しい。和楽器と洋楽器を巧みに織り交ぜた独特のサウンドコンセプト、卓越した演奏技術に裏打ちされた見事なアンサンブル、詩吟独特の歌い回しを駆使する鈴華ゆう子（Vo）の圧倒的な歌唱力、まるでマンガやアニメの登場人物のように個性豊かなメンバー、そして和を軸とした妖艶で独特なビジュアルなど、さまざまな要素が幾重にも折り重なっているからだ。

普段、新しいアーティストの音楽に触れるとき、まず音源から入ることが多いだろう。しかしこのバンドに関しては、現時点での国内最新ライブの模様を収めた本作品が入門盤として打って付けだ。和楽器バンドはメンバー8人全員が主役であり、ライブを観ているとあちこち目移りしてしまうほどド派手なパフォーマンスが特徴。今作では、ステージのあらゆる場所で存在感をアピールするメンバーの姿を台数豊富なカメラでさまざまな角度から捉え、丁寧な編集で各メンバーの名演を余すところなく映し出す。特に楽器の特性上、客席から視認しづらい箏や太鼓隊のプレイをじっくり味わえるのがうれしい。

静と動の見事なメリハリ

神永大輔（尺八）が「尺八という楽器を吹いてて、まさかロックバンドのメンバーとして武道館に立つ日が来るとは思ってもみませんでした。本当に最高です！」、蜷川べに（津軽三味線）が「幸せと、ワクワクと、ドキドキで胸がいっぱい」などと胸を弾ませながらMCで話していることからも伝わるように、メンバーのパフォーマンスは最初から最後までテンションが高い。しかし、バンドとしての初の武道館公演とはいえ、和楽器隊は過去に和楽器奏者としてこのステージに立った経験があるためか、浮足立った様子はまったくなく、いい具合の集中力を保っているのが頼もしい。

バンド史上最大となるステージを存分に駆け回ったかと思えば、凛とした立ち姿で落ち着いたステージングを見せるなど、静と動のメリハリの付け方も実に見事。全国ツアーを経て得た自信がバンド全体にポジティブな影響を与えていることが伝わってくる。本公演にかけるバンドの意気込みは、アルバム「八奏絵巻」の全曲披露や各メンバーのソロコーナーといったてんこ盛りの内容にも現れている。この公演をよりベストなものにすべく、さまざまなアイデアを注入しているのだ。

細部にわたるビジュアル面のこだわり

各メンバーの美しい衣装にも注目したい。着物をモチーフに、鈴華は赤、ほかの7人は青を基調とした衣装になっているのだが、これは赤と青が混ざるとバンドのイメージカラーの紫になるという発想から生まれたのだという。8つの音が渾然一体となって新しい形を生み出す彼ららしいデザインだ。ほかにも、メンバーのボディペイントや各楽器の意匠など、改めて発見できる部分も多い。サウンドだけでなくビジュアル面にも強いこだわりを持つ彼らの世界観を細部にわたって味わってほしい。

このライブがいかに充実したものだったかは、満面の笑みを浮かべながらステージを後にするメンバーの姿からもわかる。アメリカ・ニューヨークでの単独公演やテキサスで行われる大型イベント「SXSW」への出演など、海外進出も活発になってきた彼らの活動が新たなステージへと突入する様子を収めた今作の価値はとても高い。

アンコールで再びステージに現れた鈴華は、メンバーに向けて呼びかけながら、このように自らの思いを語っている。

皆さんの愛に応えることができるように、たくさんたくさん皆さんに会えるように、これからもずっと、おじいちゃんおばあちゃんになるまで……がんばろうね（笑）。ここに集う皆さんの夢は私たちの夢であり、私たちの夢は皆さんの夢。2016年はここ日本武道館からスタートを切ることができましたけども、もちろん私たちは日本の中でもっともっと知られたいと思ってますが、日本のこのパワーを世界へ届けませんか!?

なお、Amazon限定盤には10月に行われた東京・日比谷野外大音楽堂公演の全演目を収めた映像が付属する。初の全国ツアー最終日ということで、武道館公演とはまた違った充実感にあふれた内容となっている。この3カ月違いの公演を見比べてみるのも面白いだろう。