どんどん6人の世界に没入していけばいいと思っている
──「ENIGMASIS」というアルバムタイトルについて聞かせてください。UVERworldのタイトルには過去にも造語が少なくありませんでしたが、これも辞書には載っていない言葉です。「enigma」には“謎”というような意味がありますが、「ENIGMASIS」という言葉はどんなところから出てきたんでしょうか?
TAKUYA∞ 暗号を解読するように、自分たちの謎めいている部分を解く、というような意味合いです。こうしてできあがったものを提示することによって、自分たちが何を作りたかったのか、という答えが見えてくる。アルバムを作っている最中にも「どんなものを作っているのか?」と人に聞かれる機会があったんですけど、自分でもそこは謎だったし、どんなものになるのかが想像できなかった。作曲段階でも、「こういう曲を作ろう」と考えて作ってみたところで、全然違うものになることのほうが多いんですよ。作りたい曲にならない、という傾向があるんです。それもまた謎で。そういったことをタイトルにしたいな、と思ってたどり着いたのがこの言葉だったんです。
──自分たちのメカニズムの謎、というわけですね。決して「こういう曲を作りたい」という意向とともに過去のデータを詰め込んでみたところで、その通りにはならないというか。
TAKUYA∞ 狙ってそこに投げるというよりも、とにかく力いっぱい投げてみてどこまで届くか、みたいなやり方なんです。だから謎なんですよね、結果的にそこに届いた理由というのが。
克哉 それこそAIみたいなことにはならないんですよ。「バラードを作って」と言えばAIにはそれっぽいものを作れるかもしれないけど、自分たちの場合、バラードを作ろうと思っても違うものができたりするし。そのときの心境次第なんでしょうかね。気分がそっちに向かわないときには違うものを作るし。
──実際、「THEORY」の歌詞にもAIの話が出てきます。例えばそういったものにUVERworldのこれまでのデータを突っ込んでそれらしい新曲を作らせようとしても、今作のようにはならなかったと思いますか?
克哉 それっぽい感じにはなるのかもしれないですね。でも、自分たちが計算で作ってないから、機械にもそれは真似できない、という部分はあるはずだと思います。
TAKUYA∞ 実際そういうのって、少し前までのデータしか反映されないじゃないですか。僕の場合、半年前の自分と言ってることが全然違ってたりしますから、そこまで予測できたら大したもんだなと思いますけど(笑)。例えば2019年までの僕のデータに基づいて考えてみても、今の僕が何をやっているかなんて自分でさえわかってなかったわけで。自分がずっと同じところにい続けることは、まずないから。
──実際そうやって常に変わり続けているはずなのに、面白いなと思うのは、歌詞のテーマというか、そこへの向き合い方が不変であることです。今回はラブソングが多めだとも思いましたが、音楽を続けていく動機についての記述も目につきます。言いたいことのど真ん中にあるものが変わっていない、ということなのかもしれません。
TAKUYA∞ むしろラブソングはあんまり書かないほうだったんですよね、以前は。書きづらかったというか、けっこう苦手意識がありました。基本的にパーソナルなことを書くことが多いので、ラブソングを書くといろんなことを想像されがちになってくるし、それが嫌だなと以前は思ってたんですよ。ある意味、そういうことによって表現の幅を狭められてたところもあったと思うんです。それに対して今は、周りからどう受け止められるかをより気にせずに書けるようになったというか。どんどん6人の世界に没入していけばいいと思っているし。周りのバンドのことをまったく気にせずに、いわゆる“バンド村”のことも“ロック村”のこともシカトして(笑)。
克哉 まあでも実際、好き勝手にやれてますよね。
──確かにそこで臆病にならずに書けるというのは、強味になると思います。
TAKUYA∞ 例えばアイドルの人たちの中には「自分で歌詞を書きなさい」と言われたら書きにくい人もいると思うんです。それが自分のことだと受け止められてしまいがちだから。でも、僕は自分が思ったことを曲の中で言いたい。例えば「Don't Think.Sing」はラブソングではないですけど、「これを歌ってもいいものかな?」とけっこうためらいながら書いたんです。20年以上歌詞を書いてきて、こういうことを書いたのは初めてだった。これまではいわゆる世間の目が気になって言えなかったことだと思う。とはいえ、そんなに深くは捉えずにおいてほしいんですけど。
──周りの目を気にしないで書けるからこそ、タイムレスな歌詞になるという部分もあるように思います。
TAKUYA∞ そういう周りの目から逃れてきたことで、どんどん6人だけの世界観ができてるんじゃないかなと思うんですよね。周りのことを気にしてばかりいると、いろんな表現の幅が狭まりますからね。ほかのバンドと足並みをそろえるとか、そことしのぎを削り合うとかいうような発想であれば、こういう歌詞は書かなかっただろうと思うんですよ。だけど、もう何も関係ないから。ロックであるかどうかも関係ないところにいるし、男だけで7万2000人集めてライブをやるバンドなんてほかにどこにもいないし、「自分たちの戦うべき相手は自分たち」ということが、やっとここにきて感じられるようになってきた。そういう呪縛から逃れられた以上は、もっと自分の好きなことを書きたい。例えば1曲目の「ビタースウィート」は、ラブソングのようでいてちょっと違うんです。最近ファンクラブを通じてみんなとコミュニケーションをめちゃくちゃ取ってるんですけど、僕自身、言ったらあかんことなんてほとんどないと思ってるんですね。これから先の展望とか、例えば「アルバムは何月に出ますよ」みたいなこととかも含めて。もちろんそこに情報解禁の都合とかがあるのはわかります。でも「言ってもいいやん」と思っているから、けっこうポロリしちゃうんです。しかもファンもそれを聞きたがる。ところが実際に何か言うと、聞きたくなかったふりをしたりするんですよ(笑)。そこで「いっつもそれやな」みたいに思わされる。なんかそういう愛おしさを書いたんです。
──そういった日常を、恋愛に置き換えて書いている部分もあるわけですね。
TAKUYA∞ もちろん自分の経験から持ってくる部分というのもありますし、1つの出来事だけで書けることって、実はそんなになくて。1つの出来事を5分にまとめることって僕の中ではすごく難しいし、いろんなものを混ぜながら作っていくんです。僕自身、めちゃくちゃ気に入ってるんですよ、この曲。
限界が来て「もうお手上げ」と思ってからが勝負
──ところで今回、ほかのアーティストがフィーチャーされた楽曲が2曲含まれています。「ENCORE AGAIN」でBE:FIRSTのSHUNTOさんとコラボレーションすることになったのは、どのような流れがあったんでしょうか?
TAKUYA∞ お互いのファンから彼の存在を知らされていて。SHUNTOはオーディション番組からデビューしてるんですけど、「好きなアーティストは?」と聞かれて「UVERworld」と答えていたそうなんです。それを聞いていたんで「ああ、そういう子がいるんだ」というのは知っていたんですけど、フェスの現場でCDを持って挨拶しに来てくれて。そこで初めて会って、ライブも観に行かせてもらって……想像していた以上に歌唱もパフォーマンスもすごかったので、僕のほうから「一緒に曲を作ろう」と提案しました。
──彼はまだ19歳という若さで、TAKUYA∞さんとは年齢差がありますが、そうした世代差は感じませんでしたか?
TAKUYA∞ まったくないですね。もう普通の友達という感じ。彼は早くにお母さんを亡くしていて、そのときにずっと僕らの「在るべき形」を聴いてたと言っていて……そのことも含めて僕らが経験したことのないようなことも経てきているし、すごくしっかりしてるんです。まあ、彼からすれば僕のことはだいぶ年上に思えるのかもしれないけど(笑)、僕は全然、普通に対等に話をしてますね。
──「ENCORE AGAIN」の歌詞に出てくる「もうこれ以上進めないや からが本番」という言葉はすごく真理を突いていると思います。この言葉は、普段からTAKUYA∞さんが思っていることでもあるんでしょうか?
TAKUYA∞ これは、自分の中ではまったく新しい切り口で。最後に1回だけがんばろうと思ってやめるなら、その最後の1回なんてもうやる必要ないと思うんですよ。今すぐそれをやめて新しいことを始めたほうがいいと僕は思う。やめられるぐらいの覚悟があるならば。そこで僕が言おうとしたのは、最後の1回がダメやったとして、そこのもうひとつ先には未来にしかない景色がある、ということで。限界が来て「もうお手上げ」と思ってからが勝負、ということなんですよね。
克哉 UVERworldを象徴してる感じもしますよ。
TAKUYA∞ 曲作りなんか、毎回そうやもんな(笑)。
──毎回、自分たちの限界を更新している。だからこそ次の作品に気持ちを向けられるわけですもんね。
克哉 まあとにかく「最後までやり切る」みたいな考え方は「これぞUVERworld」だと思いますね。