コロナ禍の影響で何もかもが停滞傾向にあった状況下においても、歩みを止めることなくクリエイティブな活動を続け、話題性の高いシングルを発表し続けてきたUVERworld。12月22日に発売された約2年ぶりのオリジナルアルバム「30」は、そうした昨今の時間の流れを総括するばかりではなく、このバンドを唯一無二の存在たらしめている理由が詰め込まれた1枚だ。
音楽ナタリーではそんなアルバムの正体を探るべく、TAKUYA∞(Vo)に話を聞いた。実のところ、アルバム制作に関する具体的な話はほとんど聞いていない。しかし、彼がいかなる人物であり、今現在の彼がどんな思考の持ち主であるかを理解することが、この作品を紐解くうえで何よりも役立つに違いない。
取材・文 / 増田勇一撮影 / 橋本優
自分たちの最高のライブをこの2年で更新できてる
──TAKUYA∞さんが周りの状況変化に左右されにくい人だということはよく知っているつもりなんですが、さすがにコロナ禍の影響をまったく受けずにいることは難しかったはずだと思うんです。
そうですね。例えば、友達や周りの人たちが落ち込んでる姿を見るのがつらかったというのはあります。だから確かに影響はあったんですけど、マイナスに働いた部分はなかった気がするし、むしろ全部プラスになったようなところもあって。
──例えば「ライブがろくにできない状況下だと曲を作る気にさえなれない」とか「これまでのようなライブの情景を想定しながら曲作りをしにくくなった」といった発言をするアーティストも少なくありません。そういった影響はありませんでしたか?
全然なかったですね。逆にそういう人たちもいるんだなと気付かされたことで、さらに自分たちに対して自信がついてしまったというか。もちろんファンのみんなあってのライブでありUVERworldというところで、ある意味、これまではいいライブを成立させるためにみんなに協力してもらってたところがめちゃくちゃあったと思うんですよ。そこにいろんな制約が出てきた中、自分たちとしては今まで通りというより今まで以上のものを求めようとしてきたから、そこでメンバー同士の結束力がさらに強くなってライブ自体も一層よくなって、結果的にステージ上の熱量が以前よりも高まってるんです。だから僕らは、自分たちとして最高のライブをこの2年で更新できてると思う。
──窮地に追い込まれて結束が強まるというのは理解できます。しかし、それだけではベストを更新するのは難しいはずですよね?
うん。でも、例えば観に来てくれたみんなが声を出せないことにも不自由さは感じなかったし、そこでルールを守らずに声を出させてしまおうとも思わなかったし。できることが限られてる中でどうしようかと考えたとき、結局、自分たち自身が今まで以上にボルテージを上げて引っ張っていくことでしか補えないと思ったんですね。実際そうやって引っ張ってきたし、ここにきてホントに僕らにしかない強みというのを見つけてしまった気がしていて。それこそモッシュやダイブありきのライブというのは、そこに助けられてきた部分があったはずだし、僕らの場合もそういう要素が相乗効果につながってた部分はあったけど、それがない状況下で地力がさらに強くなったというか。だから以前のような状況が復活したときには、自分たちのライブがさらによくなる気しかしないんですよ。
──なるほど。とはいえ、ダイブやモッシュはともかく、オーディエンスの合唱というのもUVERworldのライブには欠かせないものだったはずです。それが皆無な状態というのもマイナスには働きませんでしたか?
正直、初めてその状態でやったときには「わかってたけど食らった」というのがありましたね。だけどその最初の1回で完全に振り切ることができた。僕がほかの誰かのライブを観に行ったときにも、こっちが何かできないことじゃなく、ステージ上から従来通りの熱量しか放たれてないところに問題を感じたし、そこに盛り上がりきれない理由があった気がしてたんです。そこで通常以上の、限界値を超えたぐらいのものを放てていたなら、観る側にとっては忘れることのできひんものになるはずやな、と僕は他人のライブを観に行って気付かされたわけです。そのことをメンバーにも話して、その考えを共有してきたんです。そこさえクリアできれば、今まで以上のライブができるんじゃないかと思えたし。
──要するに観客側に制限が課されているならば、ステージに立つ側が通常以上のものを与えなければならない、ということ。そういう意識を持てるかどうかの差は大きいですよね。
うん。しかもそこでメンバー全員の姿勢がポジティブなんですよね。UVERworldであれることのありがたみを各々が感じてるというか。自分1人だけでここまで来れたやつなんて1人もいないし、すべてはUVERworldがあったからこそ。ここにいられる感謝というのがあるからこそ、世の中の状況変化に同調するんじゃなくて、逆にもっと研ぎ澄ませていきたいっていう話もしてきたし、具体的なところで言えば、また全員が走るようになったりもしてるし。それぞれ自分のベストタイムとベスト体重を設定して、それをクリアしたうえでライブに挑む。そういうことを自分たちに課してるんです。それをクリアできないってことはUVERworldに甘えてる、自分たちの足を引っ張ってしまっているということだから。
今愛してくれてる人たちだけに響けばいいって本気で思えている
──相変わらずストイックですね。UVERworldであれることへの感謝というのは、今作の収録曲でいえば「OUR ALWAYS」の歌詞にもかなりストレートに書かれていますよね。状況が変化する中で、作りたいものが変わってくるようなことはありましたか?
確かに少し変わったかもしれないですね。例えば、ブログでも以前書いてたことなんですけど、ファンクラブの会員募集をもう打ち止めにして、今いる人たちだけにしたいなと思う瞬間がたびたびあるんです。これ以上広げる必要はないな、これ以上を求める必要はないな、と思うわけです。というのも、この状況下でもしっかり支えられて活動できている、なんの不安もなくライブができているという現実があるからで。昨今はどんなアーティストでも集客が減ったりとか、思うようにリリースができなかったりとか、いろいろあるはずだと思うんですね。そんな中、僕らが今まで通りというかそれ以上のペースでやれているのは、信頼関係のあるコアなファンがたくさんいてくれるからこそだし、その人たちだけいてくれればいいと思っちゃうことがあるんですよ。それ以外の人たちにとやかく言われるのも嫌だし(笑)。実際、ライト層を広げようとしてた時期もめっちゃありましたよ。やっぱ売れたかったし、結果が欲しかったし。だけどそればかり求めようとすると、自分たちの発する言葉とかって変わってくるじゃないですか。
──より広い層に伝わりやすくするために、ということですか?
うん。そこを意識して曲を作ろうと思うと変わってくる部分がある。だけどそういう気持ちが、この2年間ぐらいで一気になくなって。自分たちのことを愛してくれてる人たちを増やそうとするんじゃなく、今愛してくれる人たちがもっと深く愛せるようなものを作るだけでいい。もっと言えば、自分がUVERworldをもっと好きになれるようなものを作ればいい、と思うようになったんです。で、その次の瞬間に気付いたのは、それを本当にやりきれたなら、それこそ今まで見向きもしてくれなかった人たちまで僕らのことを好きになってしまうんじゃないかな、ということで。
──それはまさに「One stroke for freedom」の歌詞に書かれていることですよね?
そうです。こういうことを言えるアーティストっていないと思うんですよね。僕自身も何年か前だったらここまできっぱりとは言えなかったはずで。みんな本来はこういう気持ちで楽曲を作ってきたはずなんだけど、絶対にライト層や自分たちのことを知らないグレーゾーンに響き渡らせたいっていう気持ちでやっていくしかないところもある。だけど今は自分に響けば、今愛してくれてる人たちだけに響けばいいって本気で思えてるから。
──ライト層に広げなければ、みたいな意識ではないからこそここまで言い切れたし、こうした表現をすることに迷いがなかったわけですね?
そうですね。僕ならそういうバンドを好きになってしまう。それは、これから入ってくる人をシャットアウトするっていう愚かな姿勢ではなくて、「あ、これはひょっとしたらもっと売れてしまう」という気付きなんです。自分たちを愛してくれている人たちに誇りに思ってもらえるような、自分自身が誇りに思えるようなバンドのあり方というのが、それなんだと思う。こうしてメジャーの会社と契約していて、こんなにたくさんのファンがいてくれることを考えれば、変な話、もっといろんな商売ができるはずなんですよ(笑)。だけど、それを僕らはやってこなかった。そういうこともできるけどやらない、というところでの美学を貫きたかったから。
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なんでこんなに歌うの楽しいんやろ?