東京スカパラダイスオーケストラ|「まだまだ面白いことがあるかもしれない」未知数なスカパラの30年と向かう先

東京スカパラダイスオーケストラ(NARGO、谷中敦、茂木欣一)インタビュー

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 斎藤大嗣

バロック音楽の高揚感を狙った

──まず「リボン feat. 桜井和寿(Mr.Children)」の話から聞かせてください。桜井さんとはどういう経緯で一緒にやることになったんですか?

NARGO(Tp) 「歌ってもらいたいね」という話はずいぶん前から出てたんですけど、なかなか接点がなくて。去年の「ap bank fes」で共演したのが最初ですね(参照:「ap bank fes」前日祭含む3日間で8万人動員)。

茂木欣一(Dr) そうだね、7月か。

NARGO そのとき、桜井さんもピンクのスーツを着てくれて「美しく燃える森」をセッションしたんです。すごく楽しく演奏できたんで「いつか一緒に曲を作れたら」なんて言ってたらそれが実現したという。

──この曲はNARGOさんが作曲を担当していますね。

NARGO とにかく明るく前向きな、弾けた曲にしようと思って作りました。メンバーみんなで書いて何曲か候補はあったんですけど、最終的に僕の曲が選ばれてこういう形に。

谷中敦(Baritone Sax) 「スカパラっぽい曲で来てもらおう」って話してたんだよね。候補にはMr.Childrenをイメージして作ったような曲もあって、それはそれですごくよかったんですけど、それよりも「これこそスカパラだ」って曲を桜井くんに歌ってもらうほうがいいだろうと。

──サビのメロディの音符が多いのが特徴ですね。

NARGO(Tp)

NARGO 僕も作ってるとき「これは楽器のメロディであって、歌のメロディじゃないな」とは思ったんですよ(笑)。「でも桜井さんだったら歌える!」って信じて。

谷中 実際吹くのも大変だよね(笑)。

NARGO うん、まったく余裕がない。吹いてみたらめっちゃキツかった(笑)。

茂木 俺、このサビの高揚感すごいなって考えてて、あるとき「あ、これはバロック音楽だな」と思ったの。「パッヘルベルのカノン」みたいだなと思って。

NARGO あ、わかりました?(笑)

茂木 メロディが繰り返しながら、呼応して絡み合っていく感じというか。ホーンアレンジもコール&レスポンスの関係性なんだよね。この高揚感はそういう構造から生まれてるのかなって。

──なるほど。NARGOさんはそのあたり意識しながら作ったんですか?

NARGO 骨組みはまさにそれです。クラシック音楽をベースに、延々ループして高揚していくように作りました。

リボンが幸せをつないでいく

──谷中さんの歌詞はどうですか。スッと出てきました?

谷中 いや、全然出てこない(笑)。最初はスポーツとか恋愛とかファンタジーとかいろんなテーマでたくさん書いてみたんですけど、どれもなんだか違う気がして。でもその中で「リボン」ってモチーフだけずっと残ってたんで、「これがいいのかもな」って。

──なぜ「リボン」だったんですか?

谷中敦(Baritone Sax)

谷中 自分でもわからないんですけど「リボン」って言葉をふと思い付いて、そこからどういう意味なんだろう、なぜこの言葉が出てきたんだろうっていろいろ考えるんです。人から贈り物をされたらリボンを解いて幸せを受け取る。そのあと自分もリボンを結んで人に幸せを渡せるような人間になりたい。そういうことを世代の交代みたいなことも含めて書けたらいいなと思ったんです。

茂木 谷中さんの歌詞の中でも最高傑作だと思うし、この曲がスカの魅力そのものを表してるのかも。明るく人と人をつなげるってことだよね。

谷中 歌詞を書いてるときに桜井くんとやりとりしながら「スカパラらしいですね」って言ってもらった部分があって。「祈るように待つのはもうやめた 哀しみはデタラメに塗り潰せ そのために来たんだ 大騒ぎしよう」のところ。やっぱりライブをやったときにお客さんに直に伝わる言葉、お客さんに向かって話しかけるみたいな言葉がいいのかなって。

──確かにスカパラらしいフレーズですね。

谷中 こういうのは僕らが無意識に持ってた宝物なのかなと思って。誰かと一緒にやることでいつも気付かされるんです。

──スカパラにとって普通だと思ってたことが、ほかの人にとってはすごく価値のあることだったりする?

谷中 メンバーみんなでワチャワチャしてると「仲いいですね」って驚かれたりするしね。この人数がもう普通じゃないから。

NARGO そう、人に言われて「これ、普通じゃないの?」って思うときがありますね。30年やっててもうわかんなくなってるんですよ(笑)。

ラララじゃない仮歌

──桜井さんはレコーディングのときどんな様子でした?

茂木欣一(Dr)

茂木 まず僕らがオケを録るときにスタジオで一緒に歌ってくれて、まだ歌詞は決まってなかったんだけど。

谷中 仮の歌詞を書いてくれてね。

──あ、「ラララ」とかじゃないんですね。

NARGO いや、普通は「ラララ」です。だけど桜井さんは「ラララ」で歌うと気持ちが入らないからって言って、頭から最後まで自分で仮の歌詞を書いたんですよ。

谷中 「スカパラの皆さんに『ラララ』で歌った仮歌は聴かせられない」って。

茂木 あれはびっくりした。そんな人初めてだよね!

──その仮の歌詞はどういうものだったんですか?

谷中 いろんなところから持ってきた言葉がスクラップ帳みたいになってて、「♪川の流れのように」とかね。俺そのバージョンもけっこう好きでした。桜井くんらしさが満載で。

茂木 「ラララ」じゃない言葉が乗るだけでグッと演奏しやすくなるんですよね。今も歌詞が頭に残ってます、「♪羞恥心」とか。

NARGO 桜井さんもバリバリ作詞作曲される方だから、仮でワーって書いた歌詞でも、やっぱり言葉が強いんですよ。ぶっ飛んでました。

──ファンとしてはそれも聴いてみたいですね。

NARGO あとね、普通は仮歌を歌ったら帰るんですよ。忙しいし、皆さんだいたい帰ると思うんですよ。だけど桜井さんは「ちょっと見学していっていいですか?」って最後まで。

茂木 ずっといてくれたね。

NARGO 僕らがオケを修正したり、細かい作業をやってる間もずっと隅っこでニコニコしてた。パイプ椅子みたいなのに座って。

谷中 全然真ん中行ってくれないの。

NARGO ああいうところなんだなって思いましたね。謙虚さというか、1つひとつの所作に感じるものがありました。人間として素晴らしいなって。

──楽曲の内容についても話し合ったりしたんですか?

NARGO リハーサルのとき「ここはこうしたほうがいいんじゃないでしょうか」って3つくらいアイデアを出してくれました。で、それを試したらちゃんとMr.Childrenっぽくなるんですよ、魔法のように(笑)。

──例えばどんなことを?

NARGO サビの2周目のコード進行をちょっといじったりとか、ほんとにちょっとしたことなんですけどね。急激にミスチルっぽくなって「おおー!」って思いましたね。

次のページ »
歌モノ誕生の経緯


2019年8月14日更新