“無自覚なエゴ”だけで十分
──話が前後しますが、アルバム前半のハイライトは「咆哮」かなと思います。テレビアニメ「キングダム」第6期のエンディングテーマとして書かれたものですが、タイアップ曲として100点でありつつ、アーティスト性も損なわれていない。ご自身としてもかなり手応えのある1曲なのでは?
そうですね。タイアップに際して絶対としているのは“作品第一”ということで、ある意味それだけで作っているんです。その作品の風景を音で表現することだけを考えた結果、作品とマッチする曲になったなと思っています。そこに自分のエゴを出しちゃいけないという気持ちはあるんですが、自分が作っている以上は意識しなくても出ちゃうものだとも思っていて。タイアップにおけるエゴというのは、その“無自覚なエゴ”だけで十分なんじゃないかなと。
──その“無自覚なエゴ”が、無自覚なわりに色濃いですよね(笑)。それだけ友成さんの核にあるものが強固であることの証明になっているように感じます。
自分でもそんな感じはしますね。制御不能というか(笑)。たぶん、意識的に自分とかけ離れたものを作ろうとしても出てしまうものだと思うので、せめて意識下ではちゃんと謙虚に臨んでおこうという気持ちでやっています。
──アルバムの折り返し地点にはインストナンバーの「East West」が挟まれますが、これが個人的にこのアルバムで一番好きな曲でして……。
あ、本当ですか。うれしいです。これは僕が一番童心に返って作れた曲かもしれないです。小学校時代からずっとインスト曲を作ってきたんですけど、その時代の思考回路がそのままよみがえってきた感覚があって、スラスラ作れちゃいました。
──8曲目にして初めて出てくる明確なメジャーキーの曲ということもあって、ここでちゃんと世界がガラッと変わるんですよね。
確かに、ここまでほぼマイナーキーの曲ばっかりですね。気付かなかった(笑)。自分で聴き返すと、「East West」はちょっとゲーム音楽みたいだなという印象があって。例えば「マリオカート」って、コースが切り替わるごとに音のコンセプトも変わるじゃないですか。あのゲームはまさにテーマパークだと思いますし、そういう「扉を開けたら別世界」みたいなものを表現したかったんですよ。それに加えて、僕のイースタンな部分、東洋的な部分に最近は注目してもらうことが多いんですけど、それだけじゃないよってことを言いたくて「East West」というタイトルにしました。「全部バランスだし、全部融合だから」ということを、この1曲で表現したくて。
「ベッドルーム」は「鬼ノ宴」と表裏一体
──そして「ベルガモット」以降に関してはすべてがハイライトのような曲ばかりで、しかもクライマックス度がどんどん上がっていきます。
後半の曲だと、アレンジでやりたいことができた「メトロ・ブルー」がけっこう気に入っています。学生時代によく激混みの東西線に乗っていて、そのときに感じた憂鬱な気持ちを曲にしたいなと思ったんですけど、しんみりした曲になっちゃうのは悔しいので、ちょっと冷笑するような雰囲気で作りたかったんです。ある意味ではすごく日本的で泥臭い内容なのに、アレンジめちゃめちゃかっけえじゃん!みたいな感じにしたくて。箸休め的な曲にしたかったんですよね。
──箸はあんまり休まらないですけどね。楽しすぎて(笑)。
まあ、テーマパークなんで(笑)。
──箸休めで言うと、「ベッドルーム」がまさにそういう立ち位置の曲かなと。
そうですね。ただ、この曲って実は「鬼ノ宴」と表裏一体になっていて。聴きようによっては一番怖い曲かもしれない。人生の有限性みたいなものを「鬼ノ宴」ではおどけて表現しているけど、「ベッドルーム」では一切おどけずストレートに書いているんですよ。それをあまりグサッとやってしまうとそれこそ暴力的になっちゃうから、夢から覚めた瞬間のような置き方をしました。
──なるほど。「East West」で世界が変わる前にひと息つける一旦のエピローグのように感じていましたが、実は「鬼ノ宴」からの追撃だったんですね。
もちろん今の話は「自分としてはこういうつもりで作りました」というだけの話なので、必ずしもそのまま受け取ってほしいというわけではないですけど。箸休め的に聞こえるように作っているというのも事実ですし(笑)。
──あとは「月のカーニバル」も個人的にはかなり好きな曲で……というか、友成さんってサンバ好きですよね?
あ、気付かれましたね(笑)。母がボサノバ好きで、小さい頃にずっと家で流れてたんですよ。僕自身も大学では中南米の音楽をやるサークルに入っていましたし、ずっと南米の音楽が身近にあったんです。
──和メロと同じくらい、南米リズムも実は“友成空節”を担う重要な要素ではないかと感じます。
ありがとうございます。あともう1個触れておきたいことがあって、この「月のカーニバル」と「ウイスキー、ロックでひとつ。」「アリババ」の3曲は、高校から一緒に曲を作ってきた尊敬すべき仲間である荻原蓮(BLACK BERRY TIMES)という子とラリーを繰り返して作り上げたアレンジなんです。その子と一緒に「友成空」名義で曲を出すということが1つの目標だったんですけど、それも今回のアルバムで叶えることができてうれしかった。めちゃくちゃ個人的な話ですけど(笑)。
いい宇宙になったなと
──そうして積み上げてきたアルバムのストーリーが、「宵祭り」で大団円を迎えます。「鬼ノ宴」などで提示したアーティスト像を引き受けつつ、「それだけじゃないんだよ」の部分も一手に引き受ける1曲で、とにかく集大成感がすごい。
まさにそういう気持ちで作って、そういう位置に置いた曲ですね。もともとアルバムに収録することを念頭に置いてはいなかったけど、結果的にそこを担ってくれる曲になったというか。自分の内側にある日本人としての原風景みたいなものが、この「宵祭り」には込められていて、そういう個人的なミクロの世界に回帰することって、実はすごくマクロな、宇宙的な行為でもあるなと感じたんです。そういう意味では一番スケールの大きな曲になったなと、いい宇宙になったなという気はしています。
──「いい宇宙になった」は素晴らしい表現ですね。
あははは、ありがとうございます(笑)。
──構造的なことで言うと、「鬼ノ宴」などで印象的に使われてきた五音音階が、「宵祭り」では初めてメジャーキーで使われていますよね。それが“全部乗せ”感につながっている部分もあるのかなと。
ああ、なるほど。実はあまりメジャーかマイナーかを意識せずに作っていたんですけど、確かにこの曲って、聴きようによっては一番悲しい曲でもあって。ほかの曲では“どうにかなる”ということを歌っているのに対して、この曲では“どうしようもないこと”を歌っている。その“どうしようもないこと”をいかに愛して生きていくかというマインドを、明るく表現するからこその悲しみがあるというか。「鬼ノ宴」や「睨めっ娘」よりも「宵祭り」がずっしりくるのは、メジャーキーだからなのかもしれないですね。
──日本の原風景としてのお祭りというものが、そもそもそういうものですしね。表面的にはすごく華やかで明るいものだけど、やっていることは死者への鎮魂だったりするわけで。
確かに。そういうことですね。
──そうやって全部を引き受けるラストナンバーのあとにまだ「white out」が控えているというのが、いかにも友成流ですよね。
そうなんですよね(笑)。
──これがあることで“箱庭感”が増しているように思います。ちゃんとエンドロールが流れる感じといいますか。
やっぱり、「あくまでシーズン1のエンディングだよ」ということにしたくて。映画「インセプション」のラストで、コマが回り続ける演出がありましたよね。「現実なの? 夢なの? どっちなの?」みたいな。ああいうイメージで、続きがありそうなループする感じにしたかったんです。映画のラストって、それまでどれだけ一人称で語られていても最後は引きで終わるものじゃないですか。その神の視点みたいなものがここで表せるなと思って、そういう位置付けの曲に作り直しました。
──総じて、聴けば聴くほど謎が深まるというか(笑)、底が知れない感じが楽しい作品だと思いました。
ありがとうございます(笑)。このアルバムを作っている期間が、この4年間で一番楽しかったかもしれない。やっぱり作ることに勝るものはないんだなと。締切に追われてヒーヒー言ってましたけど、振り返ってみると全部がめっちゃ楽しかったです。
ずっと残っていくものを作りたい
──作ることに大きな喜びを感じるタイプなのは間違いないと思うんですけど、たぶんライブもお好きですよね?
そこがですね……ライブはあまり得意なタイプではなくて(笑)。僕は元来すごく文化系というか、スポーツが嫌いなんですよ。ライブって、僕にとってはスポーツなんで。巻き戻せないし、こだわれないし、一発勝負じゃないですか。
──試合ですよね。
そう、試合なので。競うのも好きじゃないし、1回きりで判断されるのも嫌で……っていうわがままな人間なんで(笑)、ライブはそんなに好きじゃなかったんです。ただ、最近になってちょっとその意識が変わった部分もあって。先日シンガポールでライブをする機会があったんですけど、シンガポールのお客さんって日本と違って全然周りを見ていないんですよ。めちゃくちゃアーティストと1対1で向き合うんです。そういう観客と直面したときに、「ライブって、1対1だったらめっちゃ楽しいのかも」と初めて思えました。それと、今度のツアーに関しては、実はめちゃめちゃ楽しみにしていて(笑)。
──11月に行われる初の東名阪ワンマンツアーですね。
アルバムって、出しちゃったらもう自分の手を離れて「あとはあなたの思うように聴いてください」としか言えないじゃないですか。でもライブだと、もうちょっと押し売りができるというか(笑)。1曲1曲を「こういうふうに聴いてほしい」と自分の理想を押し付けることができる場だと思うんですよ。アルバムを引っさげたワンマンツアーだからこそ、作り込んだ作品としてライブを提示できるのはすごく楽しみです。
──さらにツアーであることで、“箱庭”としての追求もできますよね。1つひとつの公演が別々のものとして存在しつつ、全体で1つのストーリーを紡ぐみたいな。
ああ、なるほど。僕はツアーをするのが初めてなのでその発想はなかったですけど、言われてみれば確かにそうですね。「そういう楽しみもあるのか」と思いました(笑)。
──さらに未来の話も聞かせてください。「こういう音楽家になっていきたい」という理想像は何かありますか?
建築家になりたかった頃から一貫して思っているのは、「ずっと残っていくものを作りたい」ということです。例えば教科書に載るような、歌い継がれて残り続ける曲を作りたいとは常に思っています。残そうとして残らせるのではなく、残るべくして残るような普遍性のあるものを作ることが理想です。
──それはまた壮大な野望ですね。何をどうしたらそうなるというものでもないですし……。
そうなんですよね。だから、それを目指すというよりも「いつかそうなってもおかしくないと思えるだけのものを好きなように作り続けよう」と思っています。なんなら民謡みたいに、作者不詳のまま残っていくのでもいいので。
公演情報
友成空 1st ONEMAN TOUR
- 2025年11月23日(日・祝)大阪府 梅田Zeela
- 2025年11月24日(月・振休)愛知県 新栄シャングリラ
- 2025年11月27日(木)東京都 WWW X
プロフィール
友成空(トモナリソラ)
2002年生まれのシンガーソングライター。小学4年生で作曲を始め、それ以降独学で楽曲制作を続ける。高校2年生のときに事務所へ送ったデモテープをきっかけにシンガーソングライターとしてのデビューが決定。2021年3月の高校生活最後の日に5曲入り音源「18」を発表しデビューを果たした。2024年発表の楽曲「鬼ノ宴」がストリーミング再生1億回を突破し、同年5月発表の「睨めっ娘」もバイラルヒットを記録。2025年11月に1stアルバム「文明開化 - East West」を配信リリースし、同月より初の東名阪ツアーを行う。
友成空(TOMONARI SORA) Official Web Site




