The Novembersは結成20周年 素敵な日々を経て、いい未来を迎えるための「Your November」 (2/2)

カッコいい音楽を作りたいんだったら、カッコよく生きなきゃダメだ

──「Rhapsody in beauty」は最高にノイジーでヘビーな1枚でした。ただ、次のEP「Elegance」(2015年)から聴きやすさが大きく変わります。土屋昌巳さんプロデュースの作品。

小林 そうです。ROMEO's blood(小林、浅井健一、有松益男の3名からなるバンド)をやってる時期に、BLANKEY JET CITYの昔の話をベンジー(浅井)さんがしてくれて。「土屋昌巳さんってどんなプロデューサーでした? 僕大好きなんです」と言ったら「祐介、昌巳さん合うと思うわ。プロデュースしてもらったら?」「いや、できるんだったら夢のようです」「じゃあ電話しとくわ」って紹介してくれました。土屋さんはホント、僕にとって人生の師匠の1人ですね。重層的な学びが一番あった作品が「Elegance」だと思う。

──どんな言葉を覚えていますか?

小林 端的に言うと「生き様が音に出る」ということ。どんなことを考えてどんな発言をしてどんなことをやるかによって、その人は形作られるわけで。「やってることだけカッコいい人なんていない」って言うんですよ。カッコいい人は思ってることもカッコいいし、口を開けばカッコいいことを言う。どれか1個だけ、なんてことはなくて、全部イコール。もしそれに気付かないんだとしたら審美眼がないだけ。だから「カッコいい音楽を作りたいんだったらカッコよく生きなきゃダメだ」って言われました。

──その土屋さんの言葉って、要約すると「きちんとしなさい」ですよね。まっとうなことを、恥ずかしくない態度でやりなさい、と。

ケンゴ そうそう。まさに。

ケンゴマツモト(G)

ケンゴマツモト(G)

小林 ここは本当にターニングポイントだった気がします。あらゆる出会い、その価値とか意味を噛み締めるようになったのもこの時期だし。他人をリスペクトすること、あとはリスペクトせざるを得ない存在っていうのも知って。MONOの(Takaakira 'Taka')Gotoさんとか、チバさんももちろんそうですし。

──2016年に毎月のように開催した自主企画「首」シリーズですね。畑の違う先輩たちとがっつり向き合っていった。

小林 それまで、もちろんART-SCHOOLをはじめとする憧れの存在はいたけど、直接的に先輩って呼べるバンドはあんまりいなくて。そういうのを求めてもいなかったし。敬わないっていうか。

──敬わない(笑)。

小林 年上としか思ってなかった。でも、背中を正してくれる存在への感謝っていうのを、ようやく持てた時期かもしれない。

──共演したMONOもBorisもThe Birthdayも、確固たる世界観を持って、全国のファンと、もしくは世界と対峙している。そういうスターのありよう、みたいなものに直接触れることができたんじゃないかと思います。

吉木 土屋さんの話に通じるよね。その人のカッコよさがそのまま出る。チバさんとか特にそんな感じするもん。生き方とか全部出てる。

小林 その人がステージで何かすることによって、目の前の人は人生が変わっちゃうくらいの体験をするわけじゃないですか。そこで「自分のやってることは、それと比べてどうなんだ?」って思うわけですよ。圧倒的に眩しい存在がいて、みんなが目を輝かせてそれを見て、ときには泣いたりもする。この一瞬のために何カ月も仕事をがんばってきて、今まさに報われてるのかもしれない。それを見てると胸がいっぱいになるし。で、僕たちも同じテーブルに乗ってるわけですよ。同じステージで同じことをやってるんだけど、起こしてることが全然違う。それは一緒にやればやるほど気付かされるわけで、そのことがコンプレックスになると同時に、希望にもなりました。

──希望?

小林 「自分はこれからここまで行けるかもしれないんだ」って。「あの人たちは特別だから」と神棚に置いといて、「俺は趣味のいい音楽をやっていればいいんだ」って自分をなぐさめることもできたと思うんですけど、それが虚しくてたまらない。このままだと人生が面白くない。そういう直感があったんですね。だから、「生き方を変えなくては」と思ったことが、次の作品「Hallelujah」(2016年発表の6thアルバム)とか、STUDIO COASTでの結成11周年ワンマンに直結していった気がしますね。

「NEO TOKYO」で手に入れた、自由に振る舞える万能感

──この頃からライブでも、ノベンバここにあり、という風格を感じるようになりましたね。明らかに今までとは違う空気があった。

小林 ああ。ありがとうございます。

──そして2019年、The Novembersの傑作の1つ「ANGELS」(7thアルバム)が出ます。大きいのはシーケンスの導入、生バンドとの両立というテーマです。

小林 うん。打ち込み自体はもう「Misstopia」の頃から導入していたけど、ここまで全面的にやったのは初めてで。

高松 そうだね。シンセベースとか初めて入れて。音像はここでだいぶ変わったよね。

小林 ただ、構想自体はもっと前、2013年とか14年くらいからありました。2019年って映画「ブレードランナー」、あとは「AKIRA」の舞台でもあって。ディストピアもの、サイバーパンクの約束の年みたいな。その年の11月に「NEO TOKYO -20191111-」というワンマンライブをやるんですけど、そこで「KANEDA」(映画版「AKIRA」で芸能山城組が提供した楽曲)をオマージュした作品を出したいっていう構想がもともとあったんですよ。

──目指す世界が先にあったから、音像が変わることにも躊躇がなかった。

小林 うん。世界観ありきでアルバムを作っていったのは「ANGELS」が初めて。あと打ち込みがあることで、メンバーそれぞれの個性がより明らかになったところがあって。要は「どんな人なんだろう」っていうのが見えてくるんですよ。ケンゴくんのサウンドだったり、吉木くんが出すうねりだったり。メンバー4人だけでやってるときより人間性がクリアに見えてくる。

高松 自分がどういうプレイヤーなのかが浮き彫りになる感じ。

高松浩史(B)

高松浩史(B)

ケンゴ あとは、より自分が何でも屋になっていける。そこにワクワクするし。

──バンドマンには打ち込みを嫌う人も多いですけど。

吉木 まあ、打ち込みを是とするか非とするか、絶対そこに縛られるから、良し悪しはあるんですけど。ただ「絶対無理っしょ」とは思ってないので。

小林 僕は単純に、キャンバスに対する絵筆の1つ、くらいに考えてます。Nine Inch Nailsはマシンを使ってるから人ではないのか?なんて思わないですよね。今、世間ではAIで「人間はどうなるんだ」みたいな論争が起こってますけど、料理で言うと「ミキサーとかフードプロセッサーを使ったら、それは手料理ではないのか」という疑問とまったく同じことだと思うんですね。

──ああ、すごくわかりやすい。

小林 それを使うことで口当たりがよくなる。もちろん手料理ならではの味わいが減ることもありますけど、大きな意味では料理であるし。それと同じく、大きな意味で音楽、大きな意味で文化そのものって考えたら、なんの葛藤もなかったですね。

──機械が入ることで、あなたがあなたである意味がより強くなる。それを感じたのが「NEO TOKYO -20191111-」でした(参照:2019年11月11日、THE NOVEMBERSの“NEO TOKYO”へようこそ)。小林さんがハンドマイクでステージを跳ね回るようになって。衝撃でした。

ケンゴ あー、そっか、ここだ。

吉木 それまで「絶対に嫌だ」って言ってたのに(笑)。

──なぜ、できたんでしょう?

小林 できる、とも思ってなかったんですけど、「KANEDA」を演奏しているときに初めて解放されて、憑き物がスーッと落ちていったような感覚があった。この音楽があると自分はここまで自由に振る舞えるんだ、という万能感があって。そうなってみて、それまで手持ち無沙汰だからなんとなくギターを持ってたところがあるなって気付いたんです。それって、やりたくてやってること、見せたくて見せてる表現じゃないから、ちょっと誠実じゃないなと思ったり。ハンドマイクはこの直前のツアーからやり始めたんだけど、その答えが見えたのが「NEO TOKYO -20191111-」だったかもしれない。

残りの人生で僕らが残していきたい音楽

──そのあとリリースされた「At The Beginning」(2020年発表の8thアルバム)はコロナ禍の混乱と記憶が混ざってしまうんですが、同時期に進んでいたのが小林さんのTHE SPELLBOUNDです。結果的に、The Novembersのライブの完成度が一気に底上げされる出来事になって。

小林 うん。よくも悪くも、当時はものすごいことが起こってましたね。ネガティブなことも含めて。

──ネガティブなことって、例えば?

小林 僕はBOOM BOOM SATELLITESが大好きだったし、最初はシンプルに中野(雅之)さんと一緒にやりたいってところで直情的にボーカルに立候補したんですけど、そこで僕を待ち構えていたのは中野さんの「小林くんはなんで音楽をやっているんだ?」というような本質的な問いかけで。もちろんそんな言い方はされないですけど、曲を作るより、どんな人間で、どんなものに価値を見出して、この世の中をどうしたいと思っているのか。そういうことが世間話も含めた会話の中で問われるんですね。中野さんは、心の中に土足で踏み込んでくるようなこともするんですよ。ただしその靴が超カッコいいから許せる、みたいな(笑)。あそこまで使命感を持って生きてる人って会ったことがなかった。

──そうですよね。

小林 そこにジョインする、巻き込まれていくって言い方でもいいんですけど、僕はこれまでとは別次元のハードルを目の当たりにするんです。スペックという意味でも、自分の耳や感性はここまでしか感知できてなかったのかと気付いたり、そうなると過去に作ってきたものがすごく未熟でつまんないものに感じられたり。だから、それまでの土台が急にグラグラしてきて、何も信じられなくなったんですね。もうステージに立つのも怖くなってきたし、ギターを持つ手が震えたり、中野さんからLINEで連絡が来るだけで汗が止まらなくなったり。

吉木 やられてましたねえ。「お前ほんとヤバいな!」みたいな。

ケンゴ メチャクチャだった、あの時期。

──よく続けられましたね。もう無理だと思うことはなかった?

小林 なんだろう……もう逃げ出すこともできないくらいのメンタルになってたと思う。それはTHE SPELLBOUNDの初ライブを終えるまで続いて、当日終わったときは人目もはばからずステージ上で泣いてしまったんですけど、死に物狂いで何かやったら、こんな景色が見られるんだっていう実感がありました。目の前には間違いなく幸せになってくれたであろうファンの人たちがいて。僕は僕自身のことをあきらめそうになったけど、中野さんだけはあきらめなかった。それはすごく大事な体験で。誰かと誰かが一緒にいて何かを起こすってこういうことなんだ、というのを肌で感じたんですね。お互いに傷付かない心地よい態度って社会を回すために必要な潤滑油だけど、僕は、ロックバンドをやっていくなら、それとは逆のことしかやりたくないって強く思ったんですよ。

──つまり、The Novembersでも強烈な何かを起こしたい。

小林 はい。この4人で集まった甲斐があった、自分が生まれてきて音楽をやった甲斐があったと思える瞬間を、残りの人生でちゃんと残していきたくて。

──それが「The Novembers」(2023年)というアルバムになった。曲の明るさや歌詞の内容も、今の言葉につながるものです。

ケンゴ 最高傑作なんじゃないですか? 一番ロックバンドっぽいですよ。打ち込みが入ってようがなんだろうが、関係ない。

高松 いい作品だし、ちゃんと今までの歩みが見えるアルバムでもあって。だからセルフタイトルも納得でしたね。

──気付けばアルバムは9枚で、バンドは20周年。いよいよ迎えるのが11月のLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)公演です。これは何年も前から考えていたことなんですか?

ケンゴ なんかメモリアル的なことは考えてて、どこでやるかをずっと揉んでた。どこなら一番いいんだろう、って。

小林 ただ大きいハコでやりたいとか、そういうことじゃないんですよね。渋谷公会堂はありとあらゆる憧れが通過してきた聖地であって。僕のバイブルの1つである「TO-Y」ってマンガでも、見開きで出てくる伝説の場所なんです。これまで20年バンドをやってきたけど、ここで何かを成功させることが、その後20年やっていくことの、何かベンチマークのようなものになるんじゃないかって。この日何か素敵なことが起こって、みんなでそれを大事にして、いい人生、いい日々をここから歩んでいく。そのイメージがすごく晴れやかなものに思えたんです。11月の20日っていう覚えやすい日にちが取れたことも含めて。俺たちこれでよかったよね、って言える日になると思いますね。

吉木 うん、個人的にはターニングポイントだと思ってるし、何かを変えるんだって気持ちもあって。今、自信ありますよ、ライブ。

The Novembers

The Novembers

公演情報

The Novembers 結成20周年記念公演「Your November」

2025年11月20日(木)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
OPEN 18:00 / START 19:00

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プロフィール

The Novembers(ノーベンバーズ)

小林祐介(Vo, G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2005年に活動を開始し、2007年11月に1st EP「THE NOVEMBERS」でデビュー。2013年10月に自主レーベル「MERZ」を設立した。結成11周年を迎えた2016年の11月11日に東京・新木場STUDIO COASTでワンマンライブ「Hallelujah」を開催し、翌2017年9月には初のベストアルバム「Before Today」を発表。2023年12月に9枚目のフルアルバム「The Novembers」をリリースした。2025年11月には東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて結成20周年記念公演「Your November」を行う。