the band apart「Ninja of Four」特集|レコ発ツアーに発売が間に合わなかったニューアルバムの完成記念インタビュー (2/3)

もうひと練りが加わった今作のアレンジ作業

──アレンジは一度出たアイデアをまとめて、俯瞰的にチェックするんですか?

荒井 そういう頭かもしれないですね。DTMである程度作るから、何度でもトライアンドエラー的な感じで作れるので。編集も昔に比べると簡単になったので自然と。うちのバンドは「せーの」でレコーディングしてると思ってる人がたまにいるんですけど、実は曲が完成するまで4人で弾くことはないんですよね。

──確かに4人でスタジオに入ってレコーディングしてそうな雰囲気はありましたが違うんですね。では順番は?

荒井 最近はドラムのあとに僕のギターを録ることが多いから、ドラム、ベース、ギターの順番で録ったのは少ないですけど、慣れましたね。むしろドラムの次にギターだと、精密なリズムで録れるんですよ。ドラムは最初、クリックに合わせるから大変ですよね。でもほかの音がなければないほど、繊細な録音ができる。いきなりこの方法でレコーディングするのはたぶん難しいと思うけど、僕はもう出したい音が決まってるし、ベースがどういう音で来るかもわかってるから。

──これまでの制作から変化はありましたか?

木暮 個人的に印象に残ってるのが、今、荒井が言ったみたいに曲を作った人が現場監督になって、次の作業に来る人とすり合わせして音を重ねていったことですね。原の曲の制作が伸びたからいろんなことをする時間があって、例えば荒井の曲で、荒井が仮歌を入れてるときに歌詞もできていくんです。歌詞を眺めながら歌を聴くと、「こういうことを言いたいんだろうな」って理解できた。でも歌詞を見ずに聴いたときに、言いたいことが譜割りの関係で変わってきちゃう部分があったから、「ここはこういうふうに聞こえるけど、こういうことが本当は言いたいんじゃないの?」と話すこともあって。これまでよりも、ほかの人が作った曲に一歩踏み込む場面がミキシングの最中でも多かったです。パンチラインにしたいところはあえて残すみたいなこともありつつ。

the band apart

the band apart

テイク数はできるだけ少なく

──「アイスピック」は荒井さんの歌声が優しい印象がありました。ちなみにボーカルレコーディングはどういう感じで進めていくんですか?

荒井 僕はそんなに根詰めるほうじゃないですね。うちのバンドはずっと昔から、決め打ちで録っていくことが多いです。なるべく修正ソフトを使わないで、いいテイクを録れるように。僕の経験上ですけど、この録り方だと時間をかければかけるほどよくなくなっちゃう。最初に仮歌を覚えて、なるべく少ないテイクで録るのがベストだと思っているから、歌入れは1曲あたり2時間かかんないぐらいです。Aメロ、Bメロ、サビとセクションごとに録るから通しでは歌わないんですけど、どのセクションも1、2テイクくらいでうまくやれたやつはやっぱりいいんですよね。何回も繰り返してやると、そこに宿る何かが取れていっちゃうようで(笑)。

──歌詞、メロディ、曲全体のイメージのまとまりがなくなるというか。

荒井 そうですね。歌入れを繰り返すことによって、言霊的な何かがなくなって、ただの作業になってしまう。そうなる前に録り終えるのがベスト。僕は抜群の歌唱力があるタイプじゃないけど、事前に練習してからスピード感を持ってやるのでやり切れる。とは言え、変にハマって何回も歌ったところもありますけどね。絶対にテイクは少なければ少ないほどいいですね。みんなそうだと思う。楽器でもそんな感じ。すごい人は1、2テイクしか録らないでしょうから。

──今回は時間があったから、ベストなやり方をしたうえで録り直すという判断もできたんですね。

荒井 録り終わってから1週間、朝起きて聴くとか寝る前に聴くとか、いろんな気分のときに聴いたら、やっぱりこれじゃダメだなということがあって。うすうす気付いてはいたんですが(笑)。ほかの人が聴いたらわからないと思いますけど、自分に嘘はつけないので。

普通にいい曲をすごく面白い曲にするアイデア

──続く「オーバー・ザ・トップ」のタイトルはシルベスター・スタローンの映画タイトルが元ネタですか?

荒井 そうですね。歌詞を書いているといろんなことを考えて、昔のことを思い出すことがあって、そういう記憶の断片から浮かび上がってきたワードです(笑)。内容的にそこまで乖離してないし、タイトル付けはいい意味で軽い気持ちでやってます。タイトルって記号化していくものなので、バンド名と同じようにキャッチーなほうがいいと思っていて。だからタイトルに願いを込めるようなことは、よっぽどのことがなければしないですね(笑)。そのライトな感じがいいという判断が僕の中に存在するので、わりと思い切りのよいタイトルを付けてます。

──この曲の後半、なんというテクニックなのか存じ上げないのですが、曲のリズムは一定なのに、BPMが変わったようなテンポのドラムフレーズが入るというリズムトリックが入ってますよね。

木暮 あれはメトリックモジュレーションと言って、ポリリズムの一種ですね。それこそあのフレーズは録り直したからドラムの音が変わっちゃってるんですが、普通にいい曲なのが遊びを入れたらすごく面白い曲になると思って採用しました。以前だったら録り直すという選択肢はなかったけど、今のバンド的にはエディット感があるのもありなので。音質が一部のドラムだけ変わっちゃうから、ちょっと違和感があるんだけど、それが間奏としてもすごくフックになった。荒井が作った曲だから、「間奏をちょっと録り直していいですかね?」「いいよ」みたいなやり取りを経て(笑)。そういう許容力がうちのバンドメンバーの特徴なのかなと思います。

荒井 あの曲のアレンジは“抜いて、抜いて”で考えてたから、むしろ足す要素があるならやっちゃおうと。ライブで遊べることも増えるし、アイデアがあるなら取り入れたほうがよりいいものになるという確信はありました。

──「キエル」はライブでも反応がよかった曲ですね。

木暮 これは川崎(亘一 / G)が作りました。川崎の曲が今回ガラッと変わったんですよ。昔は展開の忙しい曲が多くて、言ってみればうちのバンドっぽいガチャガチャした感じ。それが最近は別のバンドをやってることもあって、彼自身、曲を作るときに100%趣味に振り切るようになった。過去の自分たちがやってきた典型的な構造を取っ払って、「俺の好きな感じはこう」っていう潔く、シンプルな仕上がりになっていますね。

the band apart

the band apart

よく聴くと入っている音の正体

──シンプルな分、最初に聴いた人の印象に残りやすいとライブでも記憶に残りやすいというのはありそうですね。続いて「SAQAVA」(サカバ)はひと癖あるタイトルですね。

荒井 「酒場」って漢字で書くより、「SAQAVA」で、「あっ、酒場ね」と思われたほうが面白いよねってことで。ちょっと前に「avecobe」(あべこべ)って曲を作ったんですけど、そのときもスペルを変えて、おしゃれっぽく見えるように。実は全然おしゃれではないけど(笑)、その流れを汲むタイトル。ちょっと遊びたくなるんですよね。

──「酩酊花火」も最初、漢字が違いましたよね? ツアー初日にいただいたセットリストでは「迷亭花火」になってたかなと。

木暮 それは勝手に俺が変えていただけです(笑)。最終的に原から「普通の表記でいいよ」って言われて(笑)。夏目漱石の「吾輩は猫である」に出てくる僕の好きな登場人物なんですけど、ちょっと違うかなと(笑)。

──この曲はジャンル的にAOR感があるというか。原さんらしい感じがしました。

木暮 まーちゃん(原)が作る曲って、AORみたいなコード進行のいいムードがある。やっぱりあいつは曲を作るのが年々遅くなってるけど、その理由がわかるくらい、各楽器の絡みが考え抜かれてるなって。

──よく聴くと「ピンポーン」みたいな効果音とかが入ってるんですよね。

木暮 淡々とした曲だから、ギミックを入れてるんです。歌詞に合わせてエレベーターの音というところで、そのエレベーターの到着音とか、あとは「本を読む」ってくだりで、ページをめくる音が入っていて。「最後、花火の音をアウトロで流したい」というアイデアがあったんですけど、花火の音が録れなくてあきらめたと言ってました。

──原さんがフィールドレコーディングしたということですか?

木暮 俺らの共通の友達がいるんですけど、なぜかそいつが録って送ってくるっていう。お願いする先のチョイスが謎ですね(笑)。花火の音とか、港にいるカモメの鳴き声をお願いして、ダメだったと言ってました。

次のページ »
あざす!