坂本真綾×佐野康夫×千ヶ崎学|ライブを支えるリズム隊と振り返る25周年横アリ公演

坂本真綾が3月20、21日に神奈川・横浜アリーナで行ったデビュー25周年記念ライブ「約束はいらない」の模様を収めたライブBlu-ray / DVD「坂本真綾 25周年記念LIVE『約束はいらない』 at 横浜アリーナ」が10月27日にリリースされた。

強力なバンドメンバーをバックに、堂島孝平、内村友美(la la larks)、原昌和(the band apart)、土岐麻子という4人のゲストボーカルを迎えて盛大に行われたこのアニバーサリーライブ。坂本はコロナ禍での有観客ライブとなったこの2日間のステージに、25年間の歩みと今現在の思いを詰め込んだ。この特集ではライブの屋台骨を支えたリズム隊、佐野康夫(Dr)と千ヶ崎学(B)の2人を交えた鼎談形式で横アリのステージを振り返ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃撮影 / 曽我美芽衣装協力 / UNDECORATED(ワンピース)、CERRY BROWN(イヤリング)

今回ほど真剣に「お客さんを楽しませたい」と思ったことはなかった

佐野康夫 もう半年以上も前なんだね。

千ヶ崎学 そんなに経つんだっけ?

坂本真綾 それぞれ別の現場でお話しすることはありましたけど……今は打ち上げができないから、ライブのあとにみんなでお話しする機会もなくて。節目のライブだったし、本当だったら「いいライブだったな」というテンションのままみんなで乾杯したかったんですけど。でも、ライブができただけでもよかったです。

左から佐野康夫、坂本真綾、千ヶ崎学。

──首都圏の緊急事態宣言が延長されたりといろいろ大変な時期でした。

佐野 やれてよかったですね。

千ヶ崎 去年からずっとですけど、ライブは軒並み中止になってますからね。

──観ているほうも演奏している方々も、やはり特別な思いがあったと思いますが、Blu-rayに収められているドキュメンタリー内のインタビューでは坂本さんが冒頭から涙を流していて、珍しい姿を見せたなと驚きました。

坂本 あはははは。

千ヶ崎 そうなんだ。

坂本 珍しいですよね(笑)。いろんな意味で緊張感があったというか……本当に2日間全部無事に終われるのかな、という緊張の糸が切れた瞬間のインタビューだったので、つい。

千ヶ崎 いや、本当におつかれさまでしたよ。あの規模のコンサートで主役を務める重圧たるや。

坂本真綾

坂本 リハのとき、あまり喉の調子がよくなくて、自分に対する不安もあったし。でも、普段からライブが終わった瞬間には「イエーイ!」という感じはあまりないですよ。「イエーイ!」という気持ちと、ライブを振り返る怒涛の反省会が入り混じって、「本当にみんな楽しめたんだろうか」と考えてしまうので。今回は特に、いろんな決断を乗り越えて会場に来た人たちを絶対後悔させたくなかったし……普段のライブもお客さんのためにやってきたつもりだけど、今回ほど真剣に「お客さんを楽しませたい」と思ったことはなかったです。それよりも「うまくやりたい」「よく見せたい」という気持ちのほうが今までは勝っていたのかもしれない。

少女時代から見守ってきた佐野康夫による坂本真綾の印象

──横浜アリーナの文字通りド真ん中で、坂本さんはいつも通り堂々として見えたし、笑顔でステージを去る姿を観ていたから、ドキュメンリーで見せた涙が意外に感じたんですよね。アリーナ中央に組まれたセンターステージで坂本さんを囲むように演奏していたバンドメンバーの皆さんは、その姿をどう見ていたのかなと。佐野さんは長いお付き合いだと思いますが、最初はどのタイミングなんですか?

佐野 デビューシングル(1996年4月発売「約束はいらない」)のシンバルは僕が叩いてますね。なんのレコーディングかわからないまま進んでいた現場だったんですよ(笑)。

坂本 佐野さんが金髪の頃ですね。

佐野 懐かしい(笑)。

──10代の坂本さんを見ているわけですね。

坂本 覚えてます?

佐野 覚えてるよ。普通の少女でしたよ(笑)。でもお仕事のときはすごくしっかりしていて、その印象はずっと変わらないですね。でもリハのときとか普段の姿を見ていると、普通のかわいらしい女の子で。

──坂本さん、ライブに関してはしばらく消極的な印象があったのですが、それも活動を重ねるうちにだんだん変わってきましたよね。ステージ上での変化は佐野さんにはどう映っていたのでしょうか。

坂本 最初の頃は心もとない感じでしたよね。

佐野康夫

佐野 1つひとつが初めて体験することなんだろうな、という不安は見ていて感じましたけど、僕は僕で……菅野よう子さんが作る真綾ちゃんの曲は難易度がすごく高いから(笑)、やりこなすのに必死でした。だから成長を見守るゆとりもなく、一緒にがんばっている感じだったんですよね。

坂本 菅野さんがバンマスで、菅野さんといつも一緒にやっている大ベテランに囲まれてのライブだったから、周りは年齢的にすごく大人だし、おいそれと話しかけにも行けなかったです。ちゃんとお話しできないくらいの人見知りだったし。いつも端っこのほうでお弁当を食べてたら、菅野さんから「もうちょっとメンバーと話したら?」って注意されて(笑)。そう言われても、いきなり大人の人と何を話していいのかわからなくて……佐野さんとはそのくらいの頃から一緒ですからね。

佐野 でもね、あるときガラッと変わったんですよ。グッと大人になった、というのがわかりやすい表現かなと思いますけど、視野が広がったなという印象があって、それからどんどんいろんな意味でレベルアップしていったというか。

坂本 ……いろんなこと思い出しちゃう。佐野さんが言うそれっていつだろう?とか(笑)。

──自分ではどこかでパキッと変わった実感はない?

坂本 武道館のライブ(2010年3月31日に開催されたデビュー15周年記念ライブ「Gift」)とか、その前の「かぜよみ」ツアー(2009年1月に行われたツアー「坂本真綾 LIVE TOUR 2009『かぜよみ』」)も大きかったですけど、「You can't catch me」(2011年1月発売の7thアルバム)のツアーかなあ。

佐野 そのへんは確かに大きかったけど、その前からどんどんどんどんレベルが上がっている感じがあったよ。

坂本 うれしい。

出会って10年、千ヶ崎学が感じる坂本真綾の印象

千ヶ崎 僕はその「You can't catch me」のツアーが最初ですね。東日本大震災のとき。そのときはもう変わったあとなのか、僕からしたらすでに貫禄がありましたよ。

坂本 あはは。貫禄あったかなあ(笑)。

佐野 千ヶ崎くん、ツアーはあれが最初なんだ。

坂本 北川バンド(ROUND TABLEの北川勝利がバンマスを担当)かあ。ライブのメンバーとしては新しい顔ぶれで回ったツアーだったから、佐野さんや北川さん以外は初めての方が多かった。ツアーが始まった直後に震災があって(2011年3月5日にスタート。3月11日に2カ所目の福岡・Zepp Fukuoka公演が行われた)、そこからどう続けていくべきかを考えている中で、すごく絆が深まった。

千ヶ崎学

千ヶ崎 かつてライブに苦手意識があったなんて全然知らなかったし、まったくそうは思えない堂々としたライブをそのときはすでにやっていたので、あとからそんな話を聞くとびっくりしますね。

坂本 「You can't catch me」は1曲1曲違う方に自分から楽曲をお願いしたりして(参照:坂本真綾の話題作「You can't catch me」全曲試聴開始)、1人で隅っこでお弁当を食べていた頃から比べたらずいぶん大人になっていたと思います(笑)。

──あの頃からもすでに10年が経過しましたが、千ヶ崎さんから見た印象は変わりましたか?

千ヶ崎 それはもう、すさまじく変わりましたよ。どんどん頼もしくなってる。真綾ちゃんを見ながら、真綾ちゃんの声を聴きながら演奏するのは最高に楽しい時間で。勝手に手が動いて、ベースがどんどん歌に引き寄せられる。

坂本 リズム隊2人のコンビネーションはどうなんですか? いい感じ?

佐野 ここ?(千ヶ崎を指して)いい感じですよね?

千ヶ崎 かなりいい感じですよ。

佐野 千ヶ崎くんとは「You can't catch me」が最初なんだっけ? 共通の知り合いはいたけど、確かあのツアーが初めてだよね。

千ヶ崎 そうですね。そこからはだいぶ濃ゆい関係で。