the band apart「Ninja of Four」特集|レコ発ツアーに発売が間に合わなかったニューアルバムの完成記念インタビュー

the band apartがレコ発ツアーの開催を発表したのは4月。通算9枚目となるアルバムのリリースを記念したツアーとなる予定だったが、レコーディングが大幅に遅延していることが同時にアナウンスされた。そして5月7日、東京・新代田FEVERでのツアー初日にアルバムは間に合わず、各ライブ会場では未発表曲「O.Bong」を収めたCDが販売されるということで、“レコ発ツアー”としての体裁を保った。この状況にバンアパファンは批判めいたことを言うことなく、「バンアパらしい」「バンアパだから許される」といった反応を示し、ニューアルバム収録曲を多数披露するツアーは各地で大盛況となった。

音楽ナタリーでは、ニューアルバム「Ninja of Four」が7月13日に発売されるという発表を受け、荒井岳史(Vo, G)と木暮栄一(Dr)へのインタビューを行った。今作はメンバーそれぞれが原曲を持ち寄り、4人のエッセンスがバランスよく詰まった全10曲入りのアルバムで、タイトルはイギリスのポストパンクバンド・Gang of Fourをもじった造語。“4人組”を意味するGang of FourのGangをNinjaに置き換えることで日本の4人組バンドといった意味合いを持つという。2人にはSNSをにぎわせたアルバム発売遅延の真相や、収録曲のレコーディング時のエピソードなどを語ってもらった。

取材・文・撮影 / 田中和宏ライブ写真撮影 / RUI HASHIMOTO

レコ発ツアーにアルバム完成が間に合わず

──「レコ発ツアーにアルバム間に合わず」という情報が出た際のSNSでの反響を、最初に回収していきたいと思います。アルバムの完成がツアーに間に合わないという情報が出たとき、「バンアパなら許される」という声がありました(参照:the band apart、リリースツアー開催決定するもアルバム完成が間に合うか微妙)。

荒井岳史(Vo, G) 許されていたかどうかはわかりませんけどね(笑)。わりとこれまでの作品でもギリギリまで時間はかかっていて、いつもはギリギリでなんとかなってたんです。「制作に時間がかかった」というエピソードを語る機会もこれまでもあったし、そのイメージも持っていただいてたかもしれないけど、こんなに制作が遅れたことはなかったです。

荒井岳史(Vo, G)、木暮栄一(Dr)。

荒井岳史(Vo, G)、木暮栄一(Dr)。

──レコ発ツアーをレコ発と言わずに対処するなど、回避する方法はあったと思うんですけど、実に正直な声明でしたね。

木暮栄一(Dr) あんまりそこまで考えてなかったよね(笑)。

荒井 そうね。ツアーのスケジュールをバラすことは大変じゃないですか。ただでさえライブハウスがコロナ禍で大変なので、ライブはやれる限りやろうよという。会場限定で「O.Bong」というシングルを出したので、リリースツアーと言えばリリースツアーという形には一応なってるんですよ。ホントいいように考えてやってる感じですけどね(参照:the band apart、アルバム未完成のままレコ発ツアー開幕「行ってきます!」)。

木暮 うちはメンバーそれぞれが曲を作るんですよね。延期した理由は、原(昌和 / B)の曲の制作が極端に遅れていて、「それを入れないで出す」という選択をしたくなかったから。それぞれの作曲と言っても原案みたいなもので、メンバー全員がアレンジで関わってるんだけど、進行が遅れる中、原による原案の曲もバランスよく入れたいってことを、原のいないところで話していました。あいつがけっこうキツそうで、いつ曲ができるかわからない時期にスケジュールを伸ばすことが確定して。予定を延長した分、荒井だったり、俺だったり、自分で元ネタを作った曲に関してアレンジを詰める時間が少なからず発生したので、いつも以上にいろんな面でアルバムについて話し合いながら作り上げられたという印象です。

アルバム遅延、そこに焦りはあったのか?

──具体的に原さんの原案曲はどれですか?

木暮 1曲目の「夏休みはもう終わりかい」で、これは最後にできた曲。あとは「酩酊花火」という曲です。

荒井 一度録り終わったものに関して精査する時間が「夏休みはもう終わりかい」以外はあったんで、歌を録り直したりしていましたね。「夕闇通り探検隊」「オーバー・ザ・トップ」が僕の作った曲なんですけど、自分原案の曲は、できたときにイメージをじっくり構築してる暇がなくて、「どうやって歌おう」とか、ほかのことを考えちゃうんですよね。別のメンバーが作った曲のほうがイメージを共有できるからうまく歌いやすいんですけど、自分で作るといつもすぐにはうまくいかない。エンジニアさんも忙しいからそんなに多くの時間はなかったけど、1回録った歌はやっぱりダメだなって判断をして、2時間くらいもらってやり直しました。そういう意味では、そこに対して詰められる時間ができたのはよかったですね。レコーディングっていつもは突貫で終わらせていく感じだけど、今回は精査する時間がありましたね。

木暮 もともとは3月の頭にレコーディングを始めて、3月いっぱいで録り切る予定だったしね。

荒井 そこから終わらなくて、ずっと飛び飛びで進めていったという。

木暮 飛び飛びになるのはいつものパターンなんですけど、俺と荒井が作った曲はすでにあって、3月の中盤くらいにはできることがなくなるみたいな感じでした。

──学生でも社会人でも「予定に遅れる」という状況はハラハラしますが、焦燥感はあったんですか?

荒井 それがですね、我々は20数年も「アルバム制作は遅れるもんだ」って思ってしまう節があって。感覚が麻痺しちゃってて、全然焦りがなかったんですよ(笑)。スケジュールが遅れていく中で、終盤のほうに「これ、大丈夫なのかな」とは思いましたけど。

木暮 ツアーに間に合わないことが確定したあたりでね。

荒井 それはまずいなと思ったけど、我々が鈍感になってしまって。周りのスタッフさんはめちゃくちゃ焦っていたと思いますよ(笑)。

木暮 「嘘でしょ!」みたいな反応だったな(笑)。

荒井 なのに、アルバムリリース日は3、4回仕切り直しました。本当に周りの人たちには足向けて寝られないですけど……我々は全然焦ってなかったです(笑)。スタジオで「本当にこれだ!」って思えるまで、アルバムは出さなくていいとメンバーとも制作開始のタイミングで話したんですよ。メンバーそれぞれで曲を書く以上、各々の原案曲がだいたい25%ずつのバランスで構成されていないと嫌だなと。完全に気持ちの問題ですけど、今回で9枚もアルバムを出させてもらうことになるので、そこを妥協してしまうのは中途半端に感じて。そんな作品に説得力も何もないだろうと思うので、そういう意味では開き直ってました。

──今回のツアーはリリース前の新曲をメインにした内容ということで、近年のツアーと違う感覚はありましたか?

荒井 新鮮な部分もありつつ、蓋を開けてみるといつもと同じ感覚ではありました。だけど誰も聴いたことのない新曲が9割のライブだったから、珍しく曲のタイトルを言ってから演奏しました。観に来てくれている人が新鮮味を感じてくれてるだろうなとも思いましたし、こちらもステージ上からフロアを見させてもらってると、すごく真剣に聴いてくれてる光景が新鮮でした。

the band apart

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アルバム単位でエキサイトできるギミックを

──1曲目にして最後に完成した曲「夏休みはもう終わりかい」から2曲目「The Ninja」に自然につながるようなアレンジになっていて、アルバム単位でも凝ったアレンジになってるなと思いました。

木暮 あのアレンジはマスタリングして曲順を決めているときに思い付いたんですよね。そもそも今の時代、アルバムを通して聴く人はどっちかっていうとコアな方だと思うので、聴いてくれたときにアルバム単位でエキサイトする感じが出たらいいなと思って、そういうギミックを取り入れました。

──「夏休みはもう終わりかい」はアウトロのアレンジもあってか、6分30分という長さになってますね。

木暮 長いのは原の最後の踏ん張りの結果ではあるんですけど、1曲目が長尺なのはチャレンジですね。今、ポップミュージックって尺が短くなってますよね、サビ始まりの曲も増えたし。そういう流れの中で、6分超えの曲を1曲目に用意して、次の曲にがっちりつなげるようなアレンジは我々のつかみになるのかなって。アルバムって流れが大切なんですよね。音楽的なところだけじゃなくて、6、7曲目の「SAQAVA」と「酩酊花火」が酒つながりになってるとかもそうです。

──「The Ninja」はリード曲的なバンアパらしいキャッチーな曲ですね。

木暮 キャリアが積み上がってくるとアレンジはすごく精密な方向に向かうと思うんですけど、これはあえてそうせずに“バカが秒で作ったようなイントロ”にしました。全体的に四つ打ちの骨組みがあるから、それを土台にハウスのミックスのようにAメロ、Bメロ、サビがつながっていくイメージ。歌詞はほかの曲に比べるとユニークな言葉選びを重視していて、自分たちとかバンドとしての態度の表明みたいな感じです。自分が普段音楽を聴いていて、もちろん精密なものもカッコいいけど、イントロのバカっぽい部分とか衝動的なものに鼓舞されることが多いから、衝動的な音楽の塊というか、自分なりのそういう感覚をまとめた曲です。

──ちなみにこの曲はライブだとタンバリンとカウベルを別の方が叩いてましたよね?

木暮 ローディーがステージ袖で叩いていますね(笑)。ライブでは基本的にうちのバンドは4人でしかやらないんですけど、「お前、カウベル叩けないの?」なんて言って、叩いてもらってます。