もう1回驚いてほしい
──岡峰さん作詞作曲の「SUN GOES DOWN」はスカアレンジがとても新鮮ですね。
岡峰 栄純から「自分では自覚してないかもしれないけど、光舟から自然と出てくるメロディっていいよ。歌メロを無視して一旦メロディを作ってみたら?」というアドバイスをもらったんですよ。それで自由に作り始めたら最初にトランペットのメロディが出てきて。
──歌メロは山田さんのキーを踏まえて作ることになりますもんね。曲がある程度できあがったあとにホーンセクションのアレンジをお願いしたわけではなく、最初からホーンありきだったと。
岡峰 そうなんです。トランペットのメロディは自分がこれまで作曲する際に設定していた枠を一旦外して作っていて。でも山田が歌うメロディは少し抑えめで差別化ができた気がします。メロディの感じでアレンジを考えたら、ゆったりとしたオーセンティックな雰囲気がハマるだろうなと思ってスカに振りました。
──歌詞についてはどういうイメージで?
岡峰 うれしいときでも悲しいときでも、いつ見ても夕陽って惹かれるよねというところから始まって、その感覚は時代も超えるというか。友達や恋人との思い出作りで見ている人もいれば、1人でつらい気持ちで見ている人もいるだろうし、もしかしたら夕陽を見るのが最後の人もいるかもしれない。日本は平和ですけど、今も海外では戦争が起きていて、ほんの数十年前までは日本も戦争していたし。そういういろいろな思いが入っている曲です。
──この曲のべースは若干重心が後ろですよね。「光とシナジー」しかりこの曲しかり、岡峰さんの新しい一面を感じました。
岡峰 まさしくこの曲も「光とシナジー」も自分にはあまりないグルーヴで。「甦る陽」(※インディーズ時代の2001年リリース)もスカ風味ではあるんですけど、若い頃に感じていたノリと今のノリはやっぱり違うので。
──もうちょっと大人のゆったりした感じですね。
岡峰 それをがんばってやるのではなく、自然にできるようになったのかもしれないですね。自分からスカの曲が出てくると思っていなかったので、作り始めてからいろんな曲を聴いてスカを研究しました。マツもスカの研究をしていたよね?
松田 うん。どういうサウンドでどういうフレーズやフィルを入れるのかなって。この曲はディストーションのギターがなくて隙間のあるサウンドになると思ったので、特にハットがずっと鳴っているところは意識してレコーディングしました。
菅波 「光とシナジー」も新鮮な曲調で、「次に何がくるのかな?」と思ったらこの「SUN GOES DOWN」が始まって、もう1回驚いてほしいところだよね。「うわ! こんな曲もやるのか」って。
──さらにそのあとのピアノバラード「月夜のブルース」も今までのTHE BACK HORNの曲にはない印象を受けました。この曲は山田さん作曲、松田さん作詞ですが、どうやって制作したのでしょう?
山田 きっかけは栄純から「バラードを作ろう。だけどいかにも泣かせにきたバラードではなく、かつ俺ら世代よりも若い子に響くような歌詞を書いてくれないか」と言われて。最初トライしていたんですけど、リアリティが何も出なくて、いよいよどこに向かっているかわからなくなっちゃって、マツにバトンを渡したという(笑)。
松田 「タイムラプス」の歌詞はみんなの力を借りて完成したところもあるから、もう1曲自分の力で書きたい気持ちがあったんですよ。そのタイミングでこの曲の歌詞の話が将司からあったので、「お、じゃあ俺やるよ」ということで。
──「タイムラプス」のリベンジを果たすときが来たわけですね。
松田 そうですね。曲を聴きながら、主人公が今はもう誰もいない暗い部屋でお酒を飲みながら後悔しているイメージが湧いてきて。この曲では一人称の語り口調だけで状況説明するというのが自分なりのテーマとしてありました。あとはメロディに対する言葉の譜割りがすごく難しくて、自分でも歌ってみながら作っていったんですけど、将司から「もっと言葉数を増やしてもいいよ」という話があり。
山田 そうそう。1、2文字は全然こぼれてもいいから、もっと自由に作ってほしいっていう話をしたよね。ゆったりとしたテンポ感で語り口調っぽい感じで歌ってるから、あまり言葉をガチガチに固定したくなくて。歌詞先行でできたように聴かせたかったから。
松田 でも正直、「もっと自由でいいよ」って言われて戸惑いもあったんだけどね。
──言葉数を増やしたのは例えばどのあたりですか?
松田 「恋しくなるよ」の「なるよ」の部分は、2人で相談しながら決めていきましたね。
菅波 俺もできあがったものを聴いて、そのこぼれてる感じが今までのTHE BACK HORNになくて面白かったな。
岡峰 それがよりタイトルのブルースっていう言葉にもハマっているよね。本当に気持ちを歌っている感じになっているし。
──インタビュー冒頭で、山田さんが新しい感じが欲しいと言ってアルバム制作に入ったという話がありましたが、“光と影”シリーズの楽曲はもちろん、「SUN GOES DOWN」や「月夜のブルース」はまさに新機軸だと思います。やはりどんなジャンルの曲をやってもTHE BACK HORNのサウンドになるという自信はありますか?
菅波 俺はありますね。将司はちゃんと軸に自分がある歌い手だから、将司が歌えばTHE BACK HORNになるし、まあちょっとぐらいムチャぶりしても大丈夫だろうなって(笑)。
山田 だいぶムチャぶりしてるよ、今回のアルバム(笑)。今までのアルバムの中で一番ジャンル的なアプローチの振り幅は広かったですね。
松田 それはテーマとしてあったところだよね。ジャンルや譜割りも含めて、いかに新しいTHE BACK HORNを見せられるかっていう。
岡峰 “光と影”シリーズの楽曲はすでにライブでもやっていますけど反響も大きくて。「音源で聴いたときは新しくてびっくりしたけど、ライブで聴いたらやっぱりTHE BACK HORNだった」という話もよく聞きますし、その感じはわかりますね。
明日世界が終わるとしてももう1曲作りたい
──アルバムを締めくくるのは、菅波さん作詞作曲の「明日世界が終るとしても」というまばゆい光を感じさせる曲です。「明日世界が終わるとしても」というのは、SF映画でよくある「明日地球が爆発します」とか「人類が滅亡します」みたいな話ではなくて、人としての一生が終わってしまうイメージですよね。
菅波 そうです。明日死ぬとわかっていても、1%でも希望があれば前を向いて生きたいということを歌詞にしようと思って。それで1番を書いていたときに、俺らがインディーのときからお世話になっていたスタッフの方が体調を崩されて、最終的には亡くなってしまったんです。歌詞にはその人のお見舞いに行った経験とかが混ざっていて。自分としてはアルバムの中で一番ドキュメンタリー感のある歌詞になりました。
──そんな状況でも「俺は希望の種を蒔くだろう」と言えるのはなぜでしょう?
菅波 それはそんなに高尚な話じゃなくて、けっこう好みの話に近いかもしれないです。それこそ「人生最後の日に何をして過ごしますか?」みたいな質問ってよくあるじゃないですか? 自分だったら「まだもう1曲ぐらい名曲を作るんじゃないか」と考える気がするんですよ。もしかしたらメンバーに電話するかもしれない。「今からスタジオに入ってもう1曲作らない?」って(笑)。それが自分の欲望であり、エゴでもあり希望でもあるんですよね。あとはスタッフの人のお見舞いに行って帰るときに、「また来ますね」って言ったんですよ。やっぱりそこは「またね」と言いたかったというか、そんな気持ちも入っています。
──曲調はストレートな8ビートのロックですが、こだわった点はありますか?
菅波 新しく手に入れたグレッチのギターを使用したところですかね。AメロやBメロで鳴っているのが新しいG6620TFM Players Edition Nashvilleなんですよ。ギターが2本同時に鳴ってるときは右で鳴ってるほう。高校生のときからベンジー(浅井健一)さんに憧れていましたけど、いやあ、改めてグレッチの音はエロいなって思いました。
岡峰 そういう生々しさがあるもんね。
菅波 ある! やっぱグレッチでしか出せない生々しさがあるんだよね。
松田 独特な鳴りをするっていう。
菅波 そうなのよ。独特な響きで。やっぱりストラトとかとは違う音がする。
──なるほど。この曲は最後に「光の中で幸せになれ」と歌っていて、1曲目の「親愛なるあなたへ」も「生きている 音がする 光の中で」と出てきますよね。最初から最後まで世界観が一貫していると感じました。
菅波 「親愛なるあなたへ」の光は俺らで言うとライブのステージの光や“生(せい)の光”で、「明日世界が終わるとしても」のほうはある意味“死の穏やかな光”なんですけど、そういう意味で光と影のテーマで挟まるようにしましたね。
──今はサブスクリプションサービスで単曲やプレイリストで聴かれることも多い中で、今作は1曲目から順に最後まで聴くべき作品だと思います。皆さんアルバムが完成しての手応えはいかがですか?
一同 ありますね。
松田 すでに世の中に出ている曲がここまでアルバムの中で多いのは、今までにあまりなかったと思う。そういう意味での新鮮さもありますね。
岡峰 今回のアルバムはめっちゃエモいと思いました。40代になって独特のエモさが出てきたなと。20代の頃と比べて感情を表現することに対してよりフラットになってきたというか。等身大の気持ちが皆さんに伝わってくれたらうれしいなと思います。
──内面から自然と出てくるような、取り繕ってない感情というか。
岡峰 はい。光と影というコンセプトはありつつ、歌詞の言葉がよりリアルになっているんじゃないかなと。若い頃に一生懸命考えて伝えようとした熱い思いや言葉がより自然に出るようになったし、それが音でも表現できていると思います。
山田 俺らは聴いてくれる人を意識しながら曲を作ってきたんだなというのを改めて感じましたね。25年以上やっているバンドが「親愛なるあなたへ」というアルバムを出すのはだいぶエモいなと。
菅波 横で見たい感じありますね、初聴きの人のリアクションを。
岡峰 いや、集中できないでしょ(笑)。
菅波 確かに。なんか言わなきゃって意識しちゃうもんね(笑)。じゃあライブで観たいですね、みんなの表情を。
山田 2月から始まるツアーでは“光と影”シリーズの曲たちが過去のどの曲と交わってくるのか、だいぶ明暗がはっきりしそうな気がしますね。グラデーションも味わい深くなると思うし、すごいセットリストになりそうなので楽しみにしていてください。
公演情報
THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」~Dear Moment~
- 2025年2月15日(土)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2025年2月22日(土)京都府 磔磔
- 2025年2月24日(月・祝)和歌山県 和歌山CLUB GATE
- 2025年3月1日(土)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2025年3月7日(金)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2025年3月9日(日)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2025年3月16日(日)東京都 恵比寿LIQUIDROOM
- 2025年3月20日(木・祝)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2025年3月22日(土)鳥取県 米子AZTiC laughs
- 2025年3月29日(土)石川県 Kanazawa AZ
- 2025年4月6日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2025年4月11日(金)香川県 DIME
- 2025年4月13日(日)高知県 X-pt.
- 2025年4月18日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK UTSUNOMIYA VJ-2
- 2025年4月20日(日)愛知県 DIAMOND HALL
- 2025年5月9日(金)長崎県 DRUM Be-7
- 2025年5月11日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2025年5月17日(土)大阪府 BIGCAT
- 2025年5月24日(土)宮城県 Rensa
- 2025年6月8日(日)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
プロフィール
THE BACK HORN(バックホーン)
1998年に結成された4人組バンド。2001年にシングル「サニー」でメジャーデビューを果たす。オリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、アニメ「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開している。結成10周年時にベスト盤「BEST THE BACK HORN」、15周年でB面集「B-SIDE THE BACK HORN」、20周年で新録アルバム「ALL INDIES THE BACK HORN」を発表しており、25周年を迎えた2023年6月にリアレンジアルバム「REARRANGE THE BACK HORN」をリリースした。2024年、“光と影”シリーズと銘打ってシングル「修羅場」「ジャンクワーカー」「タイムラプス」「光とシナジー」を配信リリース。2025年1月にそれらを収録したニューアルバム「親愛なるあなたへ」を発表した。