今のリアルな感情で歌う
──今作は山田さんのボーカルが聴きどころの1つだと思います。インディーズ盤では感じなかったんですが、歌詞の主人公として歌う一人称的な歌い方と、ストーリーテラー的な歌い方の2通りがあるような印象を受けました。例えば「僕は一人じゃない」と叫ぶ「ひとり言」は前者、「赤い砂漠をゆく 月の旅人よ」で始まる「サーカス」は後者といったように。
菅波 確かに。
山田 インディーズのときもたぶんそういうのを目指してはいたんでしょうけど、“個”が強く出すぎていたのかもしれないですね。
──今回「こういう歌い方にしよう」と意識したことはありますか?
山田 歌い方に関しては意識するっていうより感覚ですね。メロディとバックのアレンジに引っ張られる部分が大きいので。
──ご自身の昔のボーカルを聴いて気付いたことはありましたか?
山田 今だったらちょっと大げさかなって思う部分もあるんだけど、感情があふれ出てしまっているということに偽りは何もなくて。そのまっすぐさみたいなものは、自分から教えられた気がしますね。
──“魂の叫び”とでも言うようなボーカルですよね。20年前のそのボーカルを歌い直すことの難しさもあったと思うのですが。
山田 それはありますね、やっぱり。過去の歌の印象がすげえ強烈だから、向き合うときに考え方を変えないと。あえて狙いにいっても嘘くさくなるし、今のリアルな感情で歌わないと自分自身が納得しないし。ライブもそうだけど、常に今の自分が感じてることが曲に表れるはずだから。
──菅波さんから見て、今回の山田さんの歌い方はどう映りました?
菅波 将司はインディーズ盤のときの切迫感、ヒリヒリ感をあんま変えないで歌おうとしたのかなという印象を受けました。でも今はニュアンスを付ける方法をたくさん持ってるじゃないですか。だから大きなところでは切迫感とか激しさが伝わる歌い方にしたんだけど、でも細かく聴くと繊細な技もわかるっていう、そういう二層で楽しめる歌い方にしたのかなって思いましたね。
山田 まあ、そのあたりは無意識かな。曲と対峙すると結果的にそうなるっていう。曲の世界観をどんなタッチで歌うのか……殴る感じがいいのか、撫でたほうがいいのか、それともつつくくらいがいいのか。20年やってきたからこそ表現の引き出しは増えたし、自然と使い分けができるようになったんだと思いますね。
近年いよいよハモ好き
──再録盤ではいろんな曲にコーラスが入っていて、それが楽曲に彩りを加えていると思います。
菅波 「さらば、あの日」のサビに将司がハモを入れてきて「だよね!」って思いましたね。曲全体は激しいんだけどサビだけ歌モノに寄るって言うか。
山田 ハマったよな。
菅波 俺、エンジニアさんと「曲調は違うんだけど、この曲は夏が終わっていく切なさを歌ったサザンオールスターズっぽいんだよね」って話をしていて。
山田 サビの7thコードの哀愁感が……。
菅波 そう! そこに俺はサザンっぽさを感じたんだよ。
──メジャーともマイナーとも、どっちとも付かない響きですね。
山田 その哀愁感を俺もコーラスで出したいと思って。下ハモで7thを重ねているんですけど、それでコード感がちょっと強まって、サビの哀愁を支えられた感じはありましたね。
菅波 この曲はアコースティックギターをうっすら入れたり、もともとの音源より少し叙情的な表現にしていて。曲の持ってるポテンシャルを引き出せた手応えがあった曲ですね。あとさ、「甦る陽」のコーラスもいいよ。
山田 あのハモは「1人じゃない」って言うか、誰か友達と一緒にいる感じがするよな。
──「新世界」でも重ねてますし、「走る丘」のサイケなコーラスも面白かったです。
山田 メインの歌を録り終わったあとにだいたいコーラスを考えるんですけど、いろんなやり方があるんですよね。3度や5度で重ねるベタハモじゃない、柔軟なアプローチができたと思います。
菅波 近年のTHE BACK HORNはいよいよハモ好きっていうかさ。うちらの曲をいつもやってくれるエンジニアさんがすごいハモ好きで「ちょっとハモにトライしてみようよ」って提案してくれるんですよ。それで将司はハモをすごい勉強して、自分のパートとして着々と技術を身に付けていて。
山田 ハモにも流れやドラマがあるんですよね。今思い出したんですけど、「With You」(2016年10月リリースのシングル)のサビのハモって歌メロと1音で当たってるんですよ。でもハモの流れを考えたら絶対そのままがいいと思ったから生かして。
──音楽理論を超えたところの話ですね。本来であれば音がぶつかるはずなのに。
山田 そうそう。
菅波 やっぱ重要なのは聞こえ方なんですよね。聞こえ方がカッコよければよくて。ハモは近年のTHE BACK HORNならではの要素だから、それがすごく効果的にこのアルバムに入ってると思いますね。
山田 しかも入れようと思ったらどこまででも入れられるけど、あんまり入れすぎてもっていう気持ちもあって。そこは最小限に抑えるジャッジができたと思います。
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頼れるベーシスト
- THE BACK HORN
「ALL INDIES THE BACK HORN」 - 2018年10月17日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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[2CD]
3564円 / VICL-65060~1
- DISC 1 収録曲
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- ピンクソーダ
- カラス
- 冬のミルク
- 魚雷
- 雨乞い
- 怪しき雲ゆき
- 晩秋
- 何処へ行く
- 風船
- ザクロ
- 桜雪
- DISC 2 収録曲
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- サーカス
- 走る丘
- 新世界
- リムジンドライブ
- 無限の荒野
- 甦る陽
- 茜空
- ひとり言
- さらば、あの日
- 泣いている人
- THE BACK HORN「ハナレバナレ」
- 2018年9月13日配信開始 / SPEEDSTAR RECORDS
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250円
- THE BACK HORN(バックホーン)
- 1998年に結成された4人組バンド。2001年にメジャー1stシングル「サニー」をリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開している。2014年には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 -THE BACK HORN Film-」が公開された。2017年2月にかねてより親交のあった宇多田ヒカルとの共同プロデュース曲「あなたが待ってる」をシングルとして、10月に2枚目のベスト盤となる「BEST THE BACK HORN II」を発表した。2018年9月に住野よるとのコラボプロジェクトを始動。コラボ楽曲第1弾として「ハナレバナレ」を配信リリースした。10月にはインディーズ時代の楽曲を再録した「ALL INDIES THE BACK HORN」を発売。同月より2019年2月にかけて全国ツアー「THE BACK HORN 20th Anniversary『ALL TIME BESTワンマンツアー』~KYO-MEI祭り~」を実施している。