THE BACK HORNが10月17日に企画アルバム「ALL INDIES THE BACK HORN」を発売した。
このアルバムはバンドの結成20周年を記念して制作されたもので、インディーズ時代にリリースされ現在は廃盤となっている1stミニアルバム「何処へ行く」、1stシングル「風船」、2ndアルバム「甦る陽」の収録曲全21曲が収められる。これまでに再録され発表済みの「冬のミルク」「ザクロ」「桜雪」「無限の荒野」「泣いている人」を除く16曲は本作のために新たにレコーディングが行われた。
音楽ナタリーでは山田将司(Vo)と菅波栄純(G)の2人にインタビューを実施。装いも新たに生まれ変わった楽曲の話を中心に、結成20周年を迎えた今の心境などを聞いた。
取材・文 / 丸澤嘉明 撮影 / Shin Ishikawa(Sketch)
クリアなサウンドで楽曲のよさを届けたい
──昨年リリースした「BEST THE BACK HORN II」にもインディーズ時代の楽曲である「無限の荒野」と「泣いている人」の再録音源が収録されています。そのときの手応えがあったからインディーズ時代の全楽曲を録り直したいという思いにつながったのでしょうか?
菅波栄純(G) 去年のベスト盤以外にも、初めてのベスト盤(2008年1月リリースの「BEST THE BACK HORN」)のときに「冬のミルク」、B面集(2013年9月リリースの「B-SIDE THE BACK HORN」)のときに「桜雪」と「ザクロ」を再録しているんですけど、手応えは毎回ありますね。(岡峰)光舟はインディーズ時代はまだTHE BACK HORNのメンバーじゃなかったから、光舟を含めた今のメンバーで楽曲を録り直していくことで心残りがだんだん減っていく感じもあって。
山田将司(Vo) その中で、インディーズ時代の3枚が廃盤になってお客さんの手元に届きにくくなってるし、20周年を迎えた今のタイミングで音源を録り直すのがいいんじゃないかっていう話が自然と出てきて。
──「ALL INDIES THE BACK HORN」はメロディやリフなど原曲のイメージを大事にしつつ、いろいろと新しいアプローチを取り入れている印象を受けました。再録するにあたってどういうイメージで制作に臨んだのでしょうか?
山田 昔の盤より聴きやすい、いい音って言うのかな。楽曲のよさをちゃんと届けたいって意識はありましたね。そのために音質だったりプレイの一体感だったり、そういうところはこだわったかな。
──確かに作品全体の音像が本当にクリアになってますよね。例えば「怪しき雲ゆき」はインディーズ盤と比べてギターのブリッジミュートの粒立ちがすごくあって、こんなにメタルっぽい曲だったんだと思いました。
菅波 昔は16分音符の細かい刻みがちゃんと弾けなくて曖昧になってるんですよ。今は完璧に弾けるのでそこにメタル感はあると思います。タイトでスピード感もあるし。そういうのがはっきりとわかるようなクリアなサウンドにしようっていうのが基本のコンセプトとしてありましたね。ドラムのサウンドも今回相当こだわっていて。
──タム回しの音が右から左に流れていく感じは、松田(晋二)さんが叩いている絵が浮かぶようなサウンドでした。
菅波 目の前で演奏してるんじゃないかっていうくらいクリアな音像になったと思います。20年前は1つの場所に集まって演奏するのが“生々しいロック”だと思ってたんですけど。
──当時は楽器隊が1つのレコーディングブースに入って演奏してたんですか?
菅波 そうそう、だから音も潰れてた(笑)。昔はそういうガレージロックっぽさがカッコいいと思っていて、「ピンクソーダ」「カラス」「魚雷」あたりは特にその雰囲気が出てたと思うんですよ。それに対して今回は音のクリアさをしっかり出そうと思って。一方で「あの頃と同じ魂を持って臨んでいるぞ」「キレイにまとめ上げただけじゃねーぞ」っていうのは大事にしたくて。それで、今言った3曲は後奏でギターソロを弾いたんですけど、ブースに入って暴れながら弾きました(笑)。暴れまくるからヘッドフォンが吹っ飛んでいったけど、「そんなの関係ねえ!」って感じで最後まで弾く、みたいな。
山田 なんにも聞こえてないのに(笑)。
──普通はヘッドフォンでほかのパートを聴きながら演奏しますもんね。
菅波 だから自分のギターの音しか聞こえてないんだけど、なんとなく弾くっていう(笑)。でも後から聴き返したんだけど、リズムとかもわりと合ってて。「ギコギコ……キュキュ」みたいな、「これどうやって弾いてるんだろう?」ってプレイなんですけど、暴れてギターを振り回しながら弾いたんですよね。そうやって勢いでガーッと録れたのはすごい楽しかったですね。
──ちなみに結成当初のバンド名は「魚雷」だったんですよね。
山田 そうですね、アルファベットで「GYORAI」。専門学校のスタジオで、上半身裸になってやってましたね。
菅波 それでバンド名が変わったから曲名で残そうってなって。もしそのままだったら違う感じになってたかもね。
山田 もっとハードコアなバンドになってたかもしれない。
謎の宇宙感が出た「雨乞い」
──「魚雷」に続く「雨乞い」は、インディーズ盤と比べて相当雰囲気が変わっていますね。
菅波 「雨乞い」はヤバいですね。曲の出だしで将司ん家にある楽器を使ったんですけど。
山田 シンギングボールっていう寺の鐘みたいなやつで、縁をこすると「ブオーオオオオン」ってめっちゃ倍音が出る楽器があって。
菅波 それを「雨乞い」のレコーディングのときに将司が持ってきたんですよ。「これ入れたいんだけど」って。「何これ、どうやって入れんの?」って話になったんだけど、とりあえずiPhoneで録音して。それであとでちゃんと録り直して、その音とiPhoneで録った音を合成させてみて。
──倍音に倍音を重ねたってことですか?
菅波 そう、だからもう宇宙状態って言うか。ガレージロック感全開の「魚雷」のあと急に宇宙状態に突入するっていう(笑)。すごい謎さが出てよかったですね。
山田 「雨乞い」はほかにも虫の鳴き声っぽいのとか、鳥の鳴き声っぽい音とかいろいろ入れてて。
──どんな楽器を使ったんですか?
菅波 カスタネットみたいなパーカッションを使って将司とマツ(松田)がそう聞こえるように演奏しました。バイノーラルマイクっていう人間の頭の形をしたマイクを使ったんですけど、耳元で演奏すれば耳元で音が鳴ってるように聞こえるし、後頭部で演奏すれば後頭部のところで鳴ってるように聞こえるらしくて。
山田 あれすごかったよな。「鳥、もうちょっと奥のほうがいいな」って言ってスタジオの2階に行って「カカカカカン……カンカン」って鳴らしたり。
菅波 移動しながら録ったり。そうやっていろいろ試しましたね。
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今のリアルな感情で歌う
- THE BACK HORN
「ALL INDIES THE BACK HORN」 - 2018年10月17日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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[2CD]
3564円 / VICL-65060~1
- DISC 1 収録曲
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- ピンクソーダ
- カラス
- 冬のミルク
- 魚雷
- 雨乞い
- 怪しき雲ゆき
- 晩秋
- 何処へ行く
- 風船
- ザクロ
- 桜雪
- DISC 2 収録曲
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- サーカス
- 走る丘
- 新世界
- リムジンドライブ
- 無限の荒野
- 甦る陽
- 茜空
- ひとり言
- さらば、あの日
- 泣いている人
- THE BACK HORN「ハナレバナレ」
- 2018年9月13日配信開始 / SPEEDSTAR RECORDS
-
250円
- THE BACK HORN(バックホーン)
- 1998年に結成された4人組バンド。2001年にメジャー1stシングル「サニー」をリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開している。2014年には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 -THE BACK HORN Film-」が公開された。2017年2月にかねてより親交のあった宇多田ヒカルとの共同プロデュース曲「あなたが待ってる」をシングルとして、10月に2枚目のベスト盤となる「BEST THE BACK HORN II」を発表した。2018年9月に住野よるとのコラボプロジェクトを始動。コラボ楽曲第1弾として「ハナレバナレ」を配信リリースした。10月にはインディーズ時代の楽曲を再録した「ALL INDIES THE BACK HORN」を発売。同月より2019年2月にかけて全国ツアー「THE BACK HORN 20th Anniversary『ALL TIME BESTワンマンツアー』~KYO-MEI祭り~」を実施している。