世界中のDJがプレイする現場で使われ続けるTechnicsのターンテーブル「SL-1200MK」シリーズの最新モデル「SL-1200MK7」。新開発されたダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシ、アップデートされたモーターのトルク制御など新たな特徴もある一方で、トーンアームや操作スイッチなどの配置は従来のモデルのレイアウトと操作感が踏襲されており、“継承と進化”が感じられるモデルとなっている。
この連載企画では無類のレコード好きとして知られるカクバリズム社長の角張渉をホストに迎え、所属アーティストとの対談を通して「SL-1200MK7」の魅力やレコードで音楽を聴く楽しみを紹介している。第2回となる今回のゲストは、今年でCDデビュー10周年を迎えたポップバンド・スカートの澤部渡。これまで多くのアナログ作品を発表してきた澤部が思う「SL-1200MK7」の魅力、そしてレコード愛について熱く語ってもらった。
構成 / 下原研二 撮影 / 須田卓馬 動画撮影 / OUNCE
レコードは一生付き合える
「カクバリズムのレコ話」第2回はスカートの澤部渡くんに来ていただきました。今回は澤部くんとレコード愛についてとことん話していきたいと思います。
澤部渡 よろしくお願いします。
前回と同じく、澤部くんには「SL-1200MK7」で聴きたいレコードをいろいろと選んできてもらいました。
澤部 1、2枚って話だったんですけど、絞り切れなくて現場で考えようと思って何枚も持って来ちゃいました。
わかります(笑)。それでは澤部くん、1枚ずつ紹介してもらえますか?
澤部 1枚目はPrefab Sproutの「Jordan: The Comeback」です。最近ずっと聴いちゃってます。
読者に説明しておくと、澤部くんの音楽遍歴はすごく詳しい部分と、めっちゃ抜け落ちてる部分があって、勉強で言うと理科だけやってないみたいな感じなんだよね。にしても、プリファブの中でこのアルバムを紹介する人ってあまりいないよね(笑)。
澤部 もっと有名な作品がありますもんね(笑)。去年プリファブのアナログ盤が再発されたんですけど、その少し前からベスト盤を聴いていたんです。それでうちのバンドの佐藤優介(Key)に「プリファブ聴くなら次は何がいい?」と聞いたら「新しい作品からさかのぼっていくのがいいんじゃないか」って。それを守ろうと思ったんだけど、今までアナログ化されていないタイトルやアナログ化されてたけど数が多く出回っていないものまで発売されると知って、まずはそれを先に潰していこうかなと。
潰す(笑)。
澤部 それでこのレコードを買って家で聴いたら、ベスト盤とはまるで違う曲に聞こえるくらい音がよかったんですよ。これを最新のターンテーブルで聴いてみたいなと思いまして。もう1枚はうちにある一番古いレコードで、ブロッサム・ディアリーの「Once Upon a Summertime」を持ってきました。発売年は1958年かな。去年再発された「Jordan: The Comeback」と、うちにある一番古いレコードの「Once Upon a Summertime」、この2枚を特に「MK7」で聴いてみたいです。
澤部くんの「音がいい」という感覚は世間一般的な音がいいとはちょっと違う感じがするけど、プリファブの場合はどうよかったの?
澤部 なんだろう、これまではレンジが広い音って苦手だったんですよ。全方位にビンと張っているような音像があまり得意ではなかったんですけど、このアルバムはそこが逆にすごくいいんですよね。
これは何年の作品なんですか?
澤部 1990年です。しかも、トーマス・ドルビーのプロデュースでキラッとした音になっている。
それは聴くのが楽しみですね。僕もいろいろと持ってきたんですけど、まずは澤部くんが好きなThey Might Be Giantsの12inchシングル「Don't Let's Start」。これは45回転で、私の自宅にある「MK3」で聴くのとどれくらい音が違うのか試してみたい。もう1枚は澤部くんやキセルの2人が大好きなYoung Marble Giantsの「Colossal Youth」。
澤部 「Colossal Youth」、僕が持ってるのは国内盤だけど帯付きじゃないんですよ。
帯付きのレコードって手に取ったときに「国内盤かあ……」って思うときもあるじゃない? 国内盤じゃないと思って買ったら中のライナーが日本語だったりしてね(笑)。
澤部 僕はあまりプレスとかにはこだわったことがないですね。
この間マコイチ(思い出野郎Aチームの高橋一)くんともその話になったんだけど、我々そんなにお金がないから、オリジナル盤は欲しいやつの一点豪華主義にみたいになっていて、あとは聴けたらいいやってくらいなんだよね。
澤部 そうそう。僕がそもそもレコードを聴き始めたきっかけは母親がたくさんレコードを持っていたからなんです。レコードが家に100枚以上あって。
身近にあったから聴いてたってこと?
澤部 作品自体に興味はあったんですけど、例えばそれが全部CDだったらCDで聴いていたと思うんです。そういう環境で育ったので、自分にとってレコードはそこまで特別なものではなかったんですよ。だから今みたいにレコードブームで「欲しいレコードは何万出してでも買わなきゃ!」という感じよりも、学生の頃は1000円以下のレコードをひたすら聴いて「これは当たりだ!」「これはハズレだ……」みたいになる感じでしたね。
わかる。レコードが800円とか600円ってすごくうれしいよね。あと600円で買ってたものが、ほかのレコード屋で1800円とかで売ってると超うれしいみたいなね(笑)。
澤部 そうそうそう(笑)。そのくらいの値段で「一生付き合えるな」みたいなレコードを見つけたときは本当にうれしいです。
寝る前に1枚だけ
澤部くんは風呂上りにレコードを聴くとか、ごはんを食べる前にレコードを聴くみたいなルーティンはある?
澤部 ルーティンはないですね。(カクバリズムの事務所を眺めながら)こんなふうに作業部屋の真後ろにレコード棚があるので、調べものをしながら聴くときもあれば、「あのレコード聴きたいなあ」と思って針を落として「はあ……最高だな!」みたいなときもある。僕、昔はTechnicsの「SL-1400」を使ってたんですよ。そのモデルにはオートリターン機能が付いていて、レコードを聴きながら寝ても朝起きたら針が戻ってるみたいな。
俺も学生時代は「SL-1400」使ってた。今思うとあれ便利だよね。オートリターン機能がないとずっと回ってるもん。まあ、「SL-1200MK7」にオートリターンが付いてると邪魔だけど(笑)。
澤部 ちなみに社長はどんなときにレコードを聴くんですか?
家に子供が2人いるじゃない? それに猫も飼ってるからターンテーブルの上に乗っちゃうんだよね。だから蓋をしなきゃいけない。そうすると徐々にレコードを聴くハードルが上がってくるわけですよ。茶の間に置いていた時期もあるんだけど、家族はテレビを観たりするじゃない? それに僕はレコードを聴くときにある一定の音量以上じゃないとちょっと気持ちよくないというか、でもそれに合わせて調整すると、案外うるさい音量になるんだよね。だからレコードを聴くのは集中できるときかな。曽我部(恵一)さんが以前「レコードは寝る前に1枚だけめちゃくちゃ集中して聴くんだよ」とおっしゃっていて、最近はその感覚で聴いてる。
澤部 いいですねえ。
針を下ろせばバシッといい音が鳴る
澤部くんは「SL-1200MK7」にどんな印象を持ってた?
澤部 「SL-1200」が生産されていない時期もあったわけじゃないですか。その後、「MK7」が発表されて、華麗なる復活みたいな感じで見てましたね。
ちなみに澤部くんにとってTechnicsはどんな存在なの?
澤部 Technicsのターンテーブルは憧れでしたね。
そうだよね。俺とマコイチもそうで「一生モノを買っちゃった」みたいな。だから「MK3」を手に入れたときに、その一生モノ感を味わっちゃったんだよね。でも、よくも悪くもそこは更新しなきゃいけないと思って、周りの同世代に「生命保険に入る前に」「家のローンとか入る前に」とか言って「MK7」を薦めてる(笑)。
澤部 その憧れの機種が、こうやって新品で市場にある状態というのは本当にありがたいですよね。
確かに。僕が中学生の頃は「ギター・マガジン」や「サウンド&レコーディング・マガジン」を読むと後ろのページに広告があって、メーカーによってはターンテーブルとミキサーがセットになって5万円とかで売ってたの。でもTechnicsは最上級のモデルだから手が届かなかった。だから物心ついた頃にはすでに素敵なものというイメージでした。
澤部 僕が曲がりなりにもDJをやらせてもらうようになって思ったのは、どこの現場にも「SL-1200」が置いてあるということ。現場からの信頼が厚いんだなと。
だよね。では持ってきてもらったレコードを聴きましょうか。
(試聴を終えて)さてTechnics「SL-1200MK7」を試していただきましたけども、いかがでした?
澤部 安心安定の操作感ですよね。ポンとボタンを押して針を下ろせばバシッといい音が鳴るというか。手持ちのレコードではこれがほぼ最新と最古っていう話をしたと思うんですけど、それがとてもいい形で並列になるんですよね。これらのレコードが素晴らしいから、っていう前提はもちろんだし、針やスピーカーもあるんだけど、それらを縁の下の力持ち的な立ち位置で支えてくれているんでしょうね。
安心安定ってぴったりだね。すごく音楽がシンプルに出ている感じ。「Once Upon a Summertime」のさ、この当時の空気感みたいものも録音されているわけじゃない? それが、最新の技術で邪魔されないで伝わる感じ。「Jordan: The Comeback」なんて90年代初頭のまばゆい感じと本来の渋さみたいなのもしっかりにじみ聞こえるよ(笑)。野球で言うと、この選手に任せておけば、その試合は完成するみたいなね(笑)。野球に例えるというオッサンの悪い癖が出てしまいましたけど、本当にそうなんですよね。「SL-1200」ばかり使っているとわからなくなってきますけど、一切不安定さがない。それにずっしりとした重さがあって、その安定感がいい音を支えてくれている気がします。
澤部 普段安いポータブルプレイヤーを使ってる人が「MK7」でレコードを聴いたらびっくりすると思う。回転も抜群だし、ムラとかもまったくない。TechnicsのターンテーブルってDJの人が使うものみたいなイメージがありますけど、リスニング用としても抜群の機能性だと思います。
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自粛期間は空っぽ
2020年9月3日更新