スカート「Extended Vol.1」インタビュー|村上基、adieu、スペアザ、井上花月、パ音のコメントも掲載

スカートの新作EP「Extended Vol.1」が配信リリースされた。

「Extended Vol.1」は、スカート初のフィーチャリングEP。レーベルメイトである在日ファンクの村上基(Trumpet)が参加した先行配信曲「地下鉄の揺れるリズムで」をはじめ、ゲストボーカルにadieu(上白石萌歌)を迎えた映画「水深ゼロメートルから」主題歌の「波のない夏」、SPECIAL OTHERSとのコラボという意外な組み合わせから生まれた「ブランクスペース」、マンガ「ひらやすみ」とのコラボPVに使用された楽曲で井上花月(Laura day romance)がメインボーカルを務める「君に会いに行こう」、代表曲「ストーリー」のパソコン音楽クラブによるリミックスバージョンというサウンド的にも振り幅の広い計5曲が収められている。タイトルが示すように、スカートの音楽性の拡張を表現した1枚だ。

2021年にヒットを記録したPUNPEEとのコラボ曲「ODDTAXI」は例外として、これまで積極的にコラボをするタイプではなかったスカートが、なぜこのタイミングでフィーチャリングEPを発表したのか? 音楽ナタリーではその背景を探るべく澤部渡に話を聞いた。

また特集の後半には、EPのゲストである村上、adieu、SPECIAL OTHERS、井上、パソコン音楽クラブのコメントを掲載。それぞれに参加楽曲の制作エピソードや、スカートの音楽の魅力をつづってもらった。

取材・文 / 下原研二撮影 / kokoro

村上基とサバンナバンド歌謡を

──スカートのまとまった音源がリリースされるのは、2022年発売のメジャー4thアルバム「SONGS」以来1年9カ月ぶりです。「SONGS」にはスカートのコロナ禍の記録的な側面もあったかと思うのですが、全曲フィーチャリングとなる「Extended Vol.1」はどういった経緯で制作がスタートしたのでしょう?

きっかけとしては、「SONGS」のあとに出した「期待と予感」での挫折が大きいです。いい曲ができた手応えがあって、これまでスカートの音楽を聴いてこなかった人にも届くといいなと思っていたけど、世間の反応はまったくの凪だった(笑)。スカートをやるうえで「最低限のバンドの設備でどれだけやれるのか?」という1つのテーマがあって、「ストーリー」(2011年発表の2ndアルバム)から「SONGS」までほとんどバンドサウンドでしか曲を作ってこなかったんです。悪く言えばこのスタイルだと広がりという意味では限界を感じたってことになるのかな。音楽的な意味合いだとまだまだやれると思ってるけど、PUNPEEさんとやった「ODDTAXI」のこともあったから、広がりを求めるのであれば普段一緒にやらない人と曲を作ってみるのもいいんじゃないかなと。それに、EPの制作で得たものを普段のバンドにもフィードバックできたら最高だなという狙いはありました。

──EPの1曲目は在日ファンクの村上基さんがサウンドプロデュースおよび編曲で参加した「地下鉄の揺れるリズムで」です。村上さんはこれまでにもスカートの楽曲やライブに参加されていますよね。

古くは「ひみつ」(2013年3月発表の3rdアルバム)でトランペットを吹いてもらっているから、もう10年以上の付き合いになりますね。

──村上さんにオファーしたのには何か理由があったんですか?

スカートではこれまで「今こういう音楽が好きだから新曲に取り入れよう」というのをあえて避けてきたんですけど、個人的に今、サバンナバンド(Dr.Buzzard's Original Savannah Band)にハマっていまして。サバンナバンドは1920~30年代の、今で言うところのオールドタイミーなスウィングジャズをディスコに持ち込んだバンドで、今回のEPならそういう要素を試してもいいんじゃないかなと思ったんです。それで過去に「忘却のサチコ」や「アナザー・ストーリー」(2020年12月発表)というアルバムの「返信」って曲のホーンアレンジをしてくれている基さんなら僕の「サバンナバンド歌謡がやりたい」という希望も汲んでくれるんじゃないかと。

澤部渡

──村上さんとの制作はどのように進めていったんですか?

僕が作ったドラムとベース、ギターだけのデモをお渡ししました。やりとりを重ねる中で基さんから送られてくるデモが本当にどれも素晴らしくて、今振り返るとそのたびに「めっちゃいいです」としか言ってなかったかもしれない(笑)。

──演奏はホーンセクションが入った豪華なビッグバンド編成です。

メンバーについては基さんが集めてくださって、僕からは人選について特に意見しなかったんですよ。借りてきた猫のような状態で、自分がギターを弾かないレコーディングというのも初めてだったから新鮮でした。最初は緊張で戸惑いもあったけど、基さんが集めてくれた方々ということで安心して身を委ねることができました。

アステアみたいにステップは踏めない、でも口に出さずにはいられない

──歌詞の「『アステアみたいにステップ』が踏めたらいいのに!」というフレーズは、PIZZICATO FIVEの「陽の当たる大通り」からの引用ですよね?

そうそう。最近……世界や社会と折り合いがつかないというか。みんなも同じ気持ちであってほしいけど、僕はそう感じることが本当に多くて。そんなときに思い浮かぶのが「陽の当たる大通り」の「アステアみたいにステップ踏んで」というあの一節なんです。フレッド・アステアはド派手にステップを踏むけど、僕たちは踏めないし、きっと踏まない。ピチカートの歌詞を引用することに対して申し訳ない気持ちもあるけど、そう言わずにはいられなかったんです。

──その社会との折り合いのつかなさや、居場所のなさみたいな感情は年々増していますか?

若い頃と総量は同じなんだけど、年々違う場面、違う側面で感じる機会が増えてきたかもしれないです。学生の頃は単純に「友達がいない。どうしよう?」というような居場所のなさだったけど、今は社会的な意味合いでの居場所のなさを感じますね。

澤部渡

adieuの歌声と表現力

──2曲目の「波のない夏」は、山下敦弘監督の映画「水深ゼロメートルから」の主題歌として書き下ろされた楽曲です。澤部さんはこの作品のどういった部分にフォーカスして曲を書き始めたのでしょう?

映画のラストのカットがとにかく印象的なんですよ。あまりに素晴らしくて、「これに対してどんな音楽を乗せるのがベストなんだろう?」と考えるところから曲作りが始まりました。そのラストのカットを観ながら延々とギターを弾いて、「どの音を鳴らすのが正解なんだろう?」といろんなコードを当てているうちに「この響きだ!」というのが見つかって。それからは雪だるま式に曲ができあがっていきました。普段はしない作り方で不思議な気分でした。

──この曲にはゲストボーカルとしてadieuさんが参加されていますが、どの段階から彼女へのオファーを考えていたんですか?

確かもうラッシュができていたのかな? 映像を観て、制作に取りかかる頃には、(上白石)萌歌さんにぜひ歌ってほしいと思っていました。なぜかと言うと「水深ゼロメートルから」は女子高校生4人の物語なので、そのエンディングを自分1人で歌うのはなんだか作品に対して申し訳ない気持ちがあったんです。

──レコーディングでは澤部さんがボーカルのディレクションをされたんですか?

いろいろと必死にディレクションしたことは覚えているんですけど、緊張で内容をまったく覚えてないですよ(笑)。ただ、萌歌さんの歌声は素晴らしいし、彼女は役者でもあるから表現力が豊かなんですよね。それは萌歌さんのアルバムを聴くだけもわかると思います。楽曲ごとに表情の違いが歌にあるといいますか、そんな彼女であれば「波のない夏」も素晴らしく歌ってくれるに違いないと確信していました。

金剛地武志のノイジーなギターに求めたもの

──「波のない夏」のクレジットを見ると、yes, mama ok?の金剛地武志さんがギターで参加されていますね。

この曲にはアンコントローラブルな要素が必要で、金剛地さんのギターでフィードバックのノイズを入れてもらうことになりました。もともとは自分で弾く予定だったんですけど、金剛地さんに頼むべきだと直感的に思って。自分は中学生や高校生の頃、金剛地さんのギターのノイジーな部分にも惹かれていたんです。それでレコーディングの前日に急に思いついて、「金剛地さん、本当に急で申し訳ないんですけど」と連絡をしたら快諾してくださって(笑)。

──澤部さんが中学校の頃からyes, mama ok?のライブに通っていたという話は有名で、今ではバンドのサポートも務めていますよね。いちファンとして、自分の作品に金剛地さんに参加してもらうことについて、特別な思いがあったのでは?

本当にそうですよ。金剛地さんは「オータムリーヴス」(2017年発表のメジャーデビューアルバム「20 / 20」収録)という曲でベースを弾いてくれたことがあるんです。そのときも感じたことなんですけど、今回の「波のない夏」は自分の中でかなりガッツポーズした曲だったから、さらに飛距離を求めたときに金剛地さんなら何かを入れてくれるんじゃないかって。結果的にまさにその通りの仕上がりになったと思いますね。

澤部渡
澤部渡

“少し変なスペアザ”とのコラボで生まれた「ブランクスペース」

──個人的に3曲目「ブランクスペース」のゲストであるSPECIAL OTHERSとのコラボに一番驚きました。スペアザの皆さんとはもともと接点はあったんですか?

2016年の「STARS ON」でご一緒して、そのときに芹澤(優真)さんが優しく接してくれたんです。当時は「こんな弱小バンドにも気さくに声をかけてくれてうれしい」なんて思っていて。今年の「坂ノ上音楽祭」でひさしぶりにお会いしたら、社交辞令だとは思うけど「今度一緒に何かやれたらいいよね」と言ってくれたんですよ。それがまたうれしくて、その言葉を真に受けてオファーさせていただきました(笑)。

──スペアザとのコラボにはどんな刺激を求めていたのでしょう?

フィーチャリングEPを作るなら極端なこともしたいと思っていたんです。なうてのセッションミュージシャンを集めてもらって作ったのが「地下鉄の揺れるリズムで」だとしたら、まったくタイプの違うバンドに1人で飛び込んで行ったのが「ブランクスペース」。スカートでは珍しい5拍子の曲なんですけど、スペアザもときどき変拍子の少し変わった曲をやるじゃないですか。その“少し変なスペアザ”とご一緒したかったというか。演奏がめちゃうまいのはもちろんだけど、ロックでガッツのあるバンドなので、そういう意味で変なことが起こったらいいなと思ってお願いしたところはありますね。

澤部渡

違和感を曲にしたかったのかもしれない

──「ブランクスペース」を制作するうえで何か意識していたことはありますか?

冒頭で話したように、自信のあった「期待と予感」がいつも通りの横ばいで、「もうダメだ。売れる曲を書こう」と思ったんです。例えば80年経ってもみんなが口ずさめて、誰にでもわかるような言葉で、特別なコードも使わない大きな曲を……。

──でも、それだと話が違ってきますよね(笑)。

ね(笑)。そんな曲が書けたらいいなあと思ってギターを弾いていたら5拍子の曲になってしまって、自分でも「俺は世の中をナメているのか?」と落ち込みました(笑)。でも、「ブランクスペース」はすごく気に入ってるんですよ。いつものメンバーで録ってもカッコよくなっただろうけど、違う目線を持ったスペアザの皆さんと演奏したことで面白い曲になったと思います。あと、僕がお渡ししたデモに肉付けされているってことだけでも新鮮なんですけど、自分では絶対にやらないようなことがアレンジ面でたくさんあるんですよね。この曲は柳下(“DAYO”武史)さんのギターが肝で、フレーズの感じがめちゃカッコよかった。自分だと歌の人間性のようなものに頼ってしまうから、楽器の個性だけで世界観を構築していく様は頼もしかったです。

──EPの中でこの曲だけ歌詞が独特というか、どこかSFのような世界観が印象的でした。

曲が変な感じなので、歌詞も普通のポップスではあまり使われないような言葉を乗せたいとは考えていました。それがなぜかスプーンという言葉にたどり着いて。「覗くスプーンに映り込んだ 木が揺れています」と丁寧語で言ってる感じもなんだか怖いですよね(笑)。だから何か違和感のようなものを曲にしたかったのかもしれない。ちなみにタイトルは熊倉献先生のマンガ「ブランクスペース」からの引用で、歌詞の冒頭の「木々がしげり、荒れて、ひと気がない」は少しいじってますけど「赤毛のアン」から引用しました。