「カクバリズムのレコ話 supported by Technics」第2回 角張渉×澤部渡(スカート) |憧れのターンテーブルで鳴らす一生モノのレコード

自粛期間は空っぽ

角張 澤部くんはコロナ禍の自粛期間中に自宅で「在宅・月光密造の夜」という弾き語りの配信ライブをやっていたわけですけども(参照:スカート、本日弾き語りライブ「在宅・月光密造の夜」をYouTube配信)、そんな“おうち時間”はほかに何をして過ごしていたんですか?

澤部 何してただろう……なんか空っぽでしたね(笑)。

角張 空洞でしたか(笑)。

角張渉

澤部 なんだか身になることはできなくて。

角張 そう言えば米津玄師さんが、とあるインタビューで「音楽を作ることだけに集中していた」と言っていて。

澤部 それは本当にうらやましい! 僕は作れない側になっちゃった。すごく食らっちゃって……これまでそういうことがあっても制作環境を変えたり、ギターを持てば曲の片鱗が出たりすることがあって、そういうところから膨らませていこうと思ったんですけど、それもできなかった。音楽は聴けるんですけど、最初の1カ月くらいは大好きなマンガも全然読めなくて。けっこうしんどかったですね。

角張 俺も4月、5月のことを思い出したら頭の中真っ暗闇だもん。なんか「覚えてねえや」みたいなさ。

澤部 あのとき物作りをできていた人は本当にうらやましいです。

角張 でも、家でレコードだけは聴いてたわけだ?

澤部 はい。レコードに関しては京都でやってるラジオ(α-STATION エフエム京都にて毎週金曜20:00より放送中のレギュラー番組「NICE POP RADIO」)があるので、むしろそっちの選曲はここ数カ月間異常に濃いですよ(笑)。

角張 それは面白いね。五感のうち1つの調子が悪くなると、別のどこかが伸びるみたいな。

世界のスタンダード「SL-1200」

角張 澤部くんはこれまで作品をリリースするたびにアナログ盤を作ってるよね。

澤部渡

澤部 シングル以外は今のところ全部作ってます。

角張 単純に好きっていうのもあると思うんだけど、音楽をCDとレコードで聴くのは違いますか?

澤部 音も変わるので、やっぱり違いますね。例えば昔のレコードだったらプレスを海外の工場に依頼していたので、向こうのカッティング技師さんの感じになっていたりして。最近は日本でもカッティングしてもらったり、いろいろ試してみたのですが、小鐵徹さんのカッティングはすごいですね。

角張 ビクターのマスタリングエンジニアの小鐵さんという大御所の方ですね。今回のアナログ盤では、澤部くんのリクエストでマスタリングも小鐵さんにお願いしたんです。カッティングというのはマスタリングと本来同義なので、CD版からアナログ用にカッティングし直したんだよね。小鐵さんにお願いして安くしていただいて(笑)。

澤部 すみません(笑)。

左から角張渉、澤部渡。

角張 これがまた当たり前ですがお金がとてもかかりますからね(笑)。でも、すごくよくなったよね。

澤部 本当によくなりました。これまでは先にCDをリリースしてるっていうのもあるけど、どうしてもCDの延長にならざるを得なかったんですよね。でも今回は独立したものになったというか、「最初からこういうものだったんじゃん」みたいな、そういう仕上がりになりました。

角張 カクバリズムも創立20年近く経ちますが、やっぱりレコードを作るのにはスキルが必要なんですよ。カッティング1つで音は変わるし、プレイヤーによっても変わる。でもこの連載の読者はみんな「SL-1200MK7」を買ってくれると思ってる(笑)。「SL-1200」は世界のスタンダードと言ってもいい機種ですから、このモデルでスカートの作品を聴いてもらえたら澤部くんのマスタリングとカッティングへの気合い、こだわりも伝わると思うんですよね。

“一生モノのレコード”には“一生モノのターンテーブル”

角張 澤部くんは9月5日にCDデビュー10周年記念公演「新説・月光密造の夜」の開催を控えています。昼夜2公演になるので、噂では体力作りに励んでいるとか。

澤部 夜中に自転車に乗ってます(笑)。自粛期間明けなので、最初から飛ばすと体を“いわすな”と思って(笑)。

角張 それは大事。運動始めたての頃にプールで歩くみたいなものだよね。でもさ、SNSでは走ってるふうだったよ?(笑)

澤部 本当に? 見栄を張ろうとしたんですかね(笑)。

角張 「新説・月光密造の夜」について私から説明すると、安全に安全を重ねて我々のできる限りの感染症対策をさせていただきます。夜の部のみ生配信ライブをやろうと思いますので、私みたく子育てをしてる世代や地方の方々は無理せず配信で楽しんでもらえたらと思います。澤部くんはCDデビュー10周年を迎えて、これから11周年に突入するわけですけど今の心境はどうですか?

澤部 コロナ禍でのいろんな分断があって、未来は思い描いてた通りにはならないんだっていう当たり前のことに改めて気付かされましたね。それに僕、今大スランプ中でまったく曲を書けてないんですよ。

角張 でもスランプというのは、創作活動をしていれば当たり前かもしれないですね……。

澤部 今までは調子悪いなと思ってもなんだかんだで曲が書けて、しかもわりといい作品を残せてきたのに、ここまで手が動かないのは初めてなんです。

角張 なるほど……じゃあ、今は自宅では何してるの?

澤部 何もしてないんですよ。自分でもびっくりしちゃって。たまに「今日は30分ギターを触ろう」とか決めてやるんですけど、人の曲を歌っちゃったり、自分の昔の曲を手癖で弾いたりで新しいものがまったく出てこないんです。

角張 でもこのタイミングでよかったかもしれないね。今はインプットのためにいいレコードをたくさん聴かなきゃ。今日は帰りに中古レコード店に寄って、家電販売店で「MK7」を買ってください。

澤部 (笑)。でも本当にそれくらい興奮しないとダメかもしれない。「MK7」にはその興奮がありますから。

角張 “一生付き合っていくレコード”っていう表現があったじゃない? そのレコードを楽しむためにも一生付き合っていくターンテーブルを用意するのは我々音楽人にとって命題であり、作ってくれた人への敬意でもあります。いいレコードをいい機材で聴く、これは我々に課せられた義務です(笑)。

澤部 義務ってことはないですよ(笑)。でも例えば1万円くらいのプレイヤーから始めて「いつか『MK7』を手に入れてやるんだ!」という気持ちになってくれたら。

角張 だね。さて、絶賛スランプ中の澤部くんですが、僕の過去の経験から言うと、澤部くんは自分の作った曲で未来を切り開いてくれている人だから大丈夫。

澤部 確かに「駆ける」のときは時間がない中でいい作品を作ることができましたし。

角張 あれは大変だったね。でも2020年は「駆ける」がサッポロビールの「第96回箱根駅伝用オリジナルCM」に使用されて、幸先よくスタートしたんだよね。

澤部 そう! だからコロナさえなければ、めちゃくちゃ順調な1年だったんですよ(笑)。

角張 冬には素敵なお知らせができるだろうから、今はがんばるしかないね。

澤部 やるしかないです!

左から角張渉、澤部渡。

ライブ情報

スカート10周年記念公演 “真説・月光密造の夜”(※振替公演)
  • 2020年9月5日(土) 東京都 日本橋三井ホール [第1部]OPEN 14:30 / START 15:30 / END 17:30 [第2部]OPEN 18:30 / START 19:30 / END 21:30
配信情報

配信日時:2020年9月5日(土)19:30〜
アーカイブ期間 : 9月8日(火)23:59まで
チケット販売期間:9月8日(火)19:00まで


2020年9月3日更新